蘇った伝統技術。「磯工芸館」で薩摩切子の繊細な美しさを体感

2016.12.09 更新

ガラスに施された繊細な文様が美しい「薩摩切子(さつまきりこ)」は、鹿児島の伝統工芸品の一つで、篤姫の嫁入り道具として徳川家に献上されたことでも有名です。そんな薩摩切子の製造工程を見学できる「磯(いそ)工芸館」を訪れました。

斉彬が開発した薩摩切子とは?

「磯工芸館」があるのは、世界文化遺産に登録されている「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の1つ「仙巌園(せんがんえん)」や「尚古集成館(しょうこしゅうせいかん)」がある鹿児島市・磯地区。幕末から明治時代初期にかけて日本を代表する工業地帯が築かれた地域です。
▲「磯工芸館」のギャラリー。裏手に薩摩切子の製造工場がある

薩摩切子とは、透明ガラスに紅や藍などの色ガラスを被せ、これをカットして文様を施したガラス細工のこと。

日本近代化の立役者となった島津家28代・斉彬(なりあきら)は豊かな国づくりを目指し、薩摩切子を海外に輸出して外貨を得ようと考えていました。つまり薩摩切子は、藩主が明確な目的を持って開発させた工芸品なのです。

薩摩切子の製造工程を見学

薩摩切子の製造工場は生地作りをするエリアと加工(カット)をするエリアに分かれていて、どちらも無料で見学することができます(予約不要、休憩時間あり)。
▲「たね巻き」の作業風景

生地作りはまず溶融した色ガラスと透明ガラスを別々の竿に巻き取る「たね巻き」という工程から始まります。

次に色ガラスを型に吹き込み、その中に透明ガラスを流し込んで2層の色ガラスを作った後、成型、口元仕上げ等の作業を行います。そして、約16時間かけてゆっくりと冷ますと生地の完成です。このあと、生地検査をして合格した生地は加工の工程に進みます。
▲口元を仕上げる「口仕上げ」

生地作りには非常に高度な技術を要するため、規定の色や形に揃えるのは難しく、中には検査で不合格になる生地もあります。でも、薩摩切子は色ガラスと透明ガラスを重ねて作るため、不合格になった生地を再び溶かしてリサイクルすることはできません。失敗が許されないからこそ、職人の高い技術力と集中力が必要なのです。
▲青桐でできた円盤を回転させ、磨き粉を付けながら線や面を磨く「木盤磨き」

加工作業は、油性ペンでカットの柄に合わせて分割線を引く「当り」という作業から始まります。その後、ダイヤモンドホイールを高速回転させ、表面を削って模様を作る「荒ずり」、人口の砥石を回転させて細かい柄を仕上げる「石掛け」という作業を経て、薩摩切子独特の美しい模様をつけます。そして、「木盤磨き」「ブラシ磨き」「バフ仕上げ」とひたすら磨く作業を繰り返し、製品検査を経てようやく薩摩切子は完成するのです。

技術の発達した現在でも、薩摩切子が完成するまでにはこれだけ多くの工程と膨大な時間を要します。当時はすべての工程を手作業で行っていたことを考えると、完成するまでには想像を絶するほどの手間暇がかかっていたことがわかりますね。
▲ギャラリー内に設えられた薩摩切子のランプシェード

幻の薩摩切子を復元

薩摩切子の特徴は、厚い生地を深く削ることで生まれる「ぼかし」にあります。光にかざすと宝石のような輝きの中に繊細な文様が浮かび上がり、眺めているだけでうっとりしてしまいます。
▲薩摩切子の中でも特に高度な技術を要する「ちろり」

そんな薩摩切子ですが、斉彬の時代からずっと作り続けられてきたわけではありません。実は明治時代初期に一度、薩摩切子の製造は途絶えてしまったのです。しかし、昭和60(1985)年に島津興業が復元事業に着手し、試行錯誤の末、薩摩切子を再び製造できるようになったのです。

具体的な製造方法が記載された資料は残っておらず、参考になるのは現存する百数十点の薩摩切子のみ。復元は困難を極めました。
▲鮮やかな色を出すのに試行錯誤を繰り返した「黄」の薩摩切子

薩摩切子の伝統色は紅、藍、紫、緑、金赤、黄の6色。中でも金赤と黄の2色は、現存する書物に「存在した」という記録はあったものの、実物が残っておらず、再現するのはとても難しかったそうです。しかし、苦労の甲斐あって平成元(1989)年、薩摩切子は鹿児島県伝統的工芸品に指定されました。

現在は、製造技術を受け継ぐ若手の職人も増え、この高度な製造技術を後世に伝える体制も着実に整ってきています。

伝統と革新を後世に伝える

▲ギャラリーには、様々な薩摩切子の商品が並ぶ

島津興業は伝統を守るとともに、新しい挑戦も続けています。2005年には伝統的な6色の中の「紫」に代わり、光がよく通り、ぼかしの美しさが一層映える「島津紫」を開発。さらに、従来の色ガラスと透明ガラスに加え、「中間色」と呼ばれる色ガラスをもう一層重ねた「二色被せ」の薩摩切子も誕生しています。
▲二色被せの薩摩切子(写真手前 「蒼黄緑二色冷酒盃」税込38,880円 )

こうした新たな取り組みは、常に時代の一歩先を行き、新しい技術や文化を取り入れてきた斉彬の姿勢に通じるものがあります。一度は途絶えたものの、再び輝きを取り戻した薩摩切子には、日本を豊かな国にしたいと願った斉彬をはじめとする薩摩の人々の強い情熱が込められているような気がします。

磯工芸館を訪れる際は、ぜひ工場見学をおすすめします。溶解炉や加熱炉の熱をもろともせずに生地を作ったり、繊細な文様を削り出したりする職人たちの熟練の技を実際に見ると、薩摩切子の芸術性の高さをより一層感じることができますよ。

また、磯工芸館では、カジュアルに薩摩切子を楽しめるキーホルダー(税込5,400円~)やペンダントトップ(税込10,800円~)などの雑貨も販売されているので、ぜひ手に取ってその美しさに触れてみてください。
さわだ悠伊

さわだ悠伊

鹿児島市出身・在住のフリーライター。グルメ、旅、コラム等ジャンルや媒体を問わず活動中。鹿児島県内の離島取材も豊富。

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