沖縄「ぜんざい」を食べ尽くすかき氷旅・その2/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.14

2016.12.21 更新

日本中のかき氷を追いかけて食べ歩いていると、かき氷と共に日本の夏が終わってゆく様子を肌で感じる事が出来る。北海道の夏はお盆とともに終わると聞くが、東北は夏休みと一緒に終わってしまう。東京ではお彼岸が区切りで、関西では9月一杯というところが多かった。四国や九州ではちょっと長くて10月一杯。11月となると、日本中で氷旗を見かける事はほとんど無くなった。さて沖縄はどうだろう?

▲「米八そば」のぜんざい(コウノトリ)300円(税込)

11月、旅に出る前に心配になってお店に確認をとってみると、「ぜんざいは一年中やってますよ~」とのんびりした沖縄弁がかえってきた。沖縄中部~北部を「ぜんざい」を求め、旅してみよう。

地球上ここでしか食べられないオブジェぜんざい「米八そば」

沖縄の中部に位置する泡瀬という町には、変わったビジュアルのぜんざいを出す店がある。インターネットで見つけたこの店のぜんざいの写真に衝撃を受け、どんな食感なのだろうかとこの氷を口にする日を楽しみにしていた。

「米八そば」を訪れたのは休日の昼時だった。この店はかき氷専門店ではなく沖縄そばが美味しいと有名で、休日の昼となると沖縄そば目当てで訪れる客で店内は満席。店内に溢れる鰹節の香りに、堪らずソーキそばを注文した。
▲ソーキそば(大)700円

ツルツルと食べやすい麺が自分好みで、上品なカツオ出汁が鼻腔をくすぐる。舌の上でホロっと崩れてしまうほど軟らかな三枚肉、これは美味い!こんな美味いそばを出している店だ、これは期待できるぞ、と思うと笑みが抑えきれない。店内の喧騒が一段落するのを待って「ぜんざい」(300円・税込)を注文をすると、なんとも楽しいかき氷のオブジェが運ばれてきた。
▲馬

コウノトリ、馬……、かき氷でかたどられたオブジェのレパートリーは約10種類前後。店主らが遊び心で作っているうちに評判となり、今ではこのスタイルの「ぜんざい」に定着したのだという。果たしてその食感はどうなのだろう?

スプーンで軽く押すと氷のオブジェはほろほろと崩れ、金時豆の煮汁の中に沈めると真っ白なオブジェに黒糖の色が染み込んだ。この店の「ぜんざい」には押し麦が入っていて、煮汁にとろりとした粘度がある。このとろみがとてもいい舌触りで、ちょっと固めの氷と混ぜて食べると「トロトロ、シャクシャク」と楽しい食感。かき氷をたくさん食べてきたが、こんなかき氷は初めてだ!
沖縄でもあまり見かけない「田芋(たいも)入りぜんざい」(350円・税込)と言うメニューもあり、沖縄ぜんざいを食べ尽くすならこのぜんざいは絶対に食べて欲しい。もともと田芋は沖縄のお祝い事などの席で食べられるもので、レシピを考えた店主の母がぜんざいの中に加えたという。

「子供の頃はあんまり好きじゃなかったのに、最近は美味いなぁ~と思うよね」と目を細める店主。家の味を大切にしている店なのだなぁと思うと、ますます美味しく感じられた。
▲小鳥

余談だが、小鳥のかき氷は2羽の小鳥がキスをしているのでカップル専用。そしてコウノトリのかき氷(冒頭の写真)を食べた人の中で数人から「赤ちゃんができました!」と報告されたこともあるらしい。リクエストを言えば希望のかたちをつくってくれるが、どんなかき氷がやってくるかワクワクと待つのもまた楽しいではないか。

見て楽しく、食べて美味しいこの素晴らしいかき氷は、久しぶりに子供の頃のように僕を楽しませてくれた。

沖縄で一番観光客リピーターが多いと言われる「ひがし食堂」

▲ミルクぜんざい380円(税込)

名護市に行く機会があるのに、この店を通り過ぎてしまうかき氷好きはきっといないだろう。もし通り過ぎてしまったとしても、引き返してきてこの店の「ミルクぜんざい」をひとさじだけでもいいから食べてみて欲しい。

口に含んだ瞬間に消えてしまう口どけの良さ。金時豆の美味しさを損なわないように程よい甘さに調節したミルクが口の中でとろけ、ふっくらとした豆のうまさも申し分ない。
「引き返してきてよかった!」と心から思うに違いない。
「ひがし食堂」は名護市の町なかにある小さな食堂だが、かき氷の美味しい店として全国的に知られるほどの名店だ。気取らない沖縄料理と絶品のぜんざいを求めて多くの観光客がこの店に立ち寄り、夏場には地元の客と観光客の割合はだいたい半々くらいになるという。

店主が心がけているのは、ふわふわで口どけの良い削りを安定して提供すること。そのために、氷削機の刃のメンテナンスには手を抜かないという。その言葉通り、「ひがし食堂」のぜんざいの口どけは想像以上に素晴らしい。この口どけに魅了され、沖縄に来るたびにかき氷を食べにやってくる観光客のリピーターが非常に多い。
▲イチゴミルク金時430円(税込)

一番人気はミルクぜんざい。二番目はイチゴミルク(350円・税込)。もし初めて食べるなら、イチゴミルクにぜんざいを組み合わせたイチゴミルク金時もおすすめだ。
ぜんざいを食べ終わった後にふと気付くと、ちょうど昼時の店内には美味しそうな沖縄料理の匂いが充満していた。一番人気はトーフチャンプルー、と壁の張り紙に書かれている。一つ注文しようとすると、「チャンポンどうですか?うちのは変わってますよ」と勧めてくれた。

器は長崎ちゃんぽんと同じような赤い丼なのだが、麺ではなくご飯の上に野菜とスパムの卵とじがかけられている。これが美味いのなんの!程よいソースの香りにとろりとした半熟卵とじ、なんなんだこの美味しさは…。
▲チャンポン(沖縄風)600円(税込)

空腹が満たされて、気づくと先ほど定食を食べていた人々は食後に美味しそうにぜんざいを食べている。美味い昼飯に最高のぜんざい。無理だと思いながらも「ひがし食堂、うちの近くに出来たら良いのになぁ」とついつい呟いてしまう、そんなとっびきりの食堂だ。

昔ながらの「パーラー」を楽しむ「パーラーマルミット」

▲ぜんざい250円(税込)

昔雑誌で見たことのあるこの店は、僕の思う「沖縄のパーラー」をそのまま形にしたような建物で、青い空の下、この店の前でぜんざいを食べることを楽しみにしていた。
小さな道を曲がるとふいに現れる店を目の前にして、あぁ、やっとここへ来たなぁと実感がわいてきた。
「パーラーマルミット」はテラスのような客席で食事やぜんざいを提供する、昔ながらのパーラーの色を濃く残した沖縄らしい軽食屋だ。店の前に行くと店主らが窓ガラスを開けてにこやかに注文を取ってくれた。

ぜんざいの他にはお好み焼きのような「ポーポー」や、地元の人がよく食べるチャンプルーなどの定食もあり、馴染みの客がやってきては店主らと楽しそうに世間話をしている。
▲コーヒーミルク氷300円(税込)

心地よい沖縄弁に耳を傾けていると「出来たよー」と呼ばれて取りに行く。結構ボリュームのあるぜんざいだ。

他の店では見かけない「コーヒーミルク氷」はぜんざいの上にコーヒーミルクシロップがかかったもので、初めて食べた人でも懐かしいと感じるようなやさしい味。金時豆とコーヒーも意外と合うもんだな、と感心しながらのんびりと味わう。

駆け足で沖縄を旅してきたけれど、ちょっとゆっくりしなさいよ、とこの店が言っているような気がした。

「ぜんざい」ひとすじ、専門店の金時豆を味わう「新垣ぜんざい屋」

▲ぜんざい250円(税込)

沖縄の旅の最後に向かったのは、創業50年を超える沖縄ぜんざいの老舗「新垣ぜんざい屋」だ。沖縄にはぜんざいを提供する店は数え切れないほどあるが、メニューはぜんざいただひとつだけ、という専門店はほかに見たことがない。
壁面に大きく店名が書かれただけの素朴な外観。店内には大きなテーブルにずらりと並んだ椅子が見える。那覇空港からは車で2時間ほどかかるロケーションだが、毎日多くの観光客がこの店を目指してやってくる。

実は本部(もとぶ)町は那覇方面から「美ら海水族館」へ向かう途中にある町で、水族館の前に美味しいぜんざいを食べていこうという観光客も多く訪れる。
お客さんの半分くらいは観光客だというが、もちろん地元の人たちからもここのぜんざいは長く変わらず愛されている。

近所の人たちは小学校や地域の寄り合いなどの集まりに持っていくために大量に持ち帰りすることもあり、自動券売機のボタンは20個までのまとめ買いに対応できるよう設定されている。
たった一つのメニューなのにボタンがずらり。きっとこの町に住む人たちにとって新垣のぜんざいは、一年中楽しめる慣れ親しんだおやつであるに違いない。
「新垣ぜんざい屋」の魅力を一言で言うなら、金時豆とその煮汁の味の良さだろう。

厨房の中を覗かせてもらうと、かまどからごうごうと火が噴き出しているのが見えた。なんと今でも薪を使って8時間もかけて炊き上げているのだという。一定の火力を保つガスの火とは違い、薪とかまどの火加減は刻々と変化していく。その火力の絶妙な変化で「新垣ぜんざい屋」の金時豆はふっくらつやつやと炊き上がるのだ。

秋も深まり始めたこの季節でも厨房の中はサウナのような暑さ。手間をかけて作られたものは、どうしてこうも美味いのだろう。
ひと鍋で150人分のぜんざいを作る事が出来る大鍋で作っても、夏になるとオープンから2~3時間ほどで完売することもあるという。沖縄ぜんざいを語るにはこの店を外すわけにはいかないだろう、創業当時と変わらぬ味を伝える王道「ぜんざい」であった。
沖縄を旅して感じた事は、「ぜんざい」の自然な在り方だ。自然で素朴な沖縄の味は、昔から変わる事なく受け継がれている。流行り廃りの多い町の生活とは対照的な沖縄の生活を「ぜんざい」を通して感じる事が出来た。冬の間もぜんざいは提供されているので、いろいろな店で楽しんでみては如何だろう。
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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