庄内の冬の味覚・真鱈。白子を贅沢に使った「どんがら汁」

2017.01.30

日本海の荒波の中で産卵期を迎える「真鱈(まだら)」は、山形県庄内地方を代表する冬の味覚です。この地域では昔から、寒(かん)の入りから立春までの「寒」の時期に旬を迎える「真鱈」を「寒鱈」と呼び、身以外の「アラ」を鍋に入れて作る熱々の「どんがら汁」を味わいながら、寒い冬をしのいできました。本場の「どんがら汁」を味わおうと、鶴岡市三瀬(さんぜ)の料理宿「坂本屋(さかもとや)」にやってきました。

こだわりの食文化が根付く町で受け継がれる郷土料理

2015年に、日本で初めてユネスコ「創造都市ネットワーク」の食文化部門への加盟が認められた鶴岡市。この町は食文化創造都市として、世界に向けた様々な取り組みを行っています。

その原点にあるのが、海と山に囲まれ、寒暖の差の大きい気候風土で育った食材の数々。日本海で獲れた新鮮な魚と継承されてきた多くの在来作物で作る郷土料理は、時代を超えて受け継がれてきました。
▲荒波が押し寄せる冬の日本海

お殿様が食べた料理と、藤沢文学に登場する料理を再現

その昔、鶴岡から江戸に行くときの一日目の宿泊地としての役目を担っていた三瀬地区。
享保年間(1716~1735年)に創業した「坂本屋」は、庄内藩主・酒井忠器(さかいただかた)が約420人もの家来を引き連れて領内を巡行した際に昼食をとったと記録に残る由緒ある宿屋です。
▲江戸時代、三瀬地区には何軒もの商人宿があったそう
▲木造の落ち着いた佇まいの建物

9代目当主の石塚亮(りょう)さんは、魚食文化を伝える山形県で唯一の水産庁任命の「お魚かたりべ」として、県認定の「庄内浜文化伝道師マイスター」として、庄内の「食」を守り続けています。
▲「料理で季節を感じてほしい」と石塚さん

この店に来たらぜひ味わって欲しい料理があります。その名も「海坂膳(うなさかぜん)」。

「海坂膳」は鶴岡市出身の作家、藤沢周平の本の中に出てくる料理を具現化したもので、「海坂」という名は、彼の時代小説に登場する架空の藩「海坂藩」から取ったもの。

藤沢文学の中には庄内の食材を使った料理が度々登場します。石塚さんは、藤沢周平が亡くなってからほどなくして「文藝春秋」の当時の編集長と一緒に数多くの本の中から料理を拾い出し紐解きながら、料理を再現していきました。

なお、藤沢周平の短編時代小説「三年目」の中には「坂本屋才吉」という名で「坂本屋」が描かれています。

こうしてできた「海坂膳」は、旬の食材を使った料理を提供するためメニューを固定させず、季節ごとに内容を変えています。冬は「鱈の子炒り煮」「鱈の醤油焼き」「タツ(鱈の白子)の天ぷら」「どんがら汁」といった寒鱈料理の数々が並びます。
▲海坂藩のまぼろしの料理「海坂膳」3,850円(税別)※写真はイメージです。季節によって内容が変わります

白子がたっぷり、庄内地方に伝わる「どんがら汁」

今回は、冬バージョンの「海坂膳」で食べられる寒鱈料理「どんがら汁」をご紹介します。
身を除いた、頭から尾までをほとんど余すことなく鍋に入れ、今や高級食材の白子をたっぷりと入れた「どんがら汁」。庄内地方で「どんがら汁」が食べられるようになったいわれを、石塚さんにお聞きしました。

「昔、漁師たちは魚の身の部分は切り身にして販売し、残ったアラを汁に入れて食べていました。このアラ汁の美味しさが広まり、いつしか一般家庭でも作るようになりました。こうして、庄内地方を代表する郷土料理として受け継がれてきたんです。当時はオス鱈の白子は汁に入れるしかなかった。卵を抱くメス鱈のほうが価値のあるものとされていたんです。でも、昭和50年頃から白子の美味しさが知れ渡るようになり、オス鱈の価値が上がりました」

1月中旬から立春頃の最も寒い時期に最盛期を迎える寒鱈は格別なおいしさ。ポッコリ膨らんだお腹には白子がたっぷり詰まっています。
▲どのくらい白子が入っているかは割いてからのお楽しみ!

「メス鱈は子を抱き始めると栄養をとられてしまうので、オス鱈のほうがおいしいんです。2月の産卵期に近づくほど味の違いは顕著になってきます」と石塚さん。

新鮮な魚を使う、これが「どんがら汁」の鉄則。あっという間に味が落ちてしまう寒鱈にとって、この当たり前のことが実はとても難しいことなんだそうです。

今回手に入ったのは5kg程の大きさのもの。これで10人分の「どんがら汁」の材料になるそう。最盛期には10kgもある寒鱈が手に入ることもあるとか。
▲エラの色で新鮮さをチェック

新鮮さの見分け方のポイントは、エラが赤く、表面が黒光りしてぬめりがあり、持った時に尻尾が硬いままかどうか。
▲肛門のほうから包丁を入れていきます

「お―!」
おもしろいほど白子があふれ出てきます!もちろん魚の成長によって違いますが、5kgの寒鱈に入っている白子の量は約1kgくらいだそう。

「庄内浜に揚がる寒鱈は中身が豊富で、しっかりとした白子が入っていると言われています」と教えられ白子をよく見てみると、確かに血管がしっかりと入り、形がはっきりしていて新鮮そのもの。
▲白子は今や押しも押されぬ高級食材です

近くには県内有数の寒鱈の水揚げ量を誇る由良(ゆら)漁港と鼠ヶ関(ねずがせき)漁港があり、三瀬地区から最も近い由良では産卵のために岸に寄ってくる魚の休憩地となる、沖合15~20kmの場所で漁を行います。魚を傷つけないように丁寧に扱い、料理人が調理しやすいように考えながら漁をする地元の漁師たち。漁は毎年1月15日頃から本格的に始まります。
▲食通のわがままを喜んで受け入れてくれそうな(笑)石塚さん

アラと身に素早く切り分けます。捨てるのはエラと胸びれと尾びれ、そして胃袋の中身だけ。白子、肝(アブラワタ)、胃袋を取ったら頭を外します。「どんがら汁」は白子だけでなく、肝が美味しさの決め手!

「どんがら汁」の作り方はいたってシンプル。お湯の中に肝、胃袋などの内臓とアラを入れて、アクを丁寧に取りながら10分程煮込みます。身は入れません。身の部分は焼いたり、煮つけにして食べます。
▲丁寧にアクを取るのがポイント
▲味見をする女将の久美子さん
▲味噌だけのシンプルな味付け

味付けは味噌のみ。魚の旨みが出るので出汁は必要なし!
以前食べた「どんがら汁」に酒粕が入っていたことを思い出し、質問すると、

「庄内地方と言っても広いので地域性があるんですが、本来、鶴岡の『どんがら汁』には酒粕を入れません。ただ、2月になると新粕が出るので入れるところもあります。鶴岡の“食”の特徴は獲れた時期や素材の特性を生かした料理法なので、素材の状況を見ながらその時々で料理人が考えて調理しています」との返答が。

近くで獲れた新鮮な素材を生かす、素材の個性を大切にするのが庄内地方の料理の基本なんですね。
▲最後に白子をさっと湯通しして

新鮮な魚は生臭さを消す必要がないので、「坂本屋」の「どんがら汁」には葱も入れません。
▲盛り付けるときに岩のりをのせるのが庄内風
▲盛り付けながら、鶴岡の「食」の話をしてくださる石塚さん
▲出来上がり!山形産のセリで彩りもよい

ふわとろの白子に感動が止まらない!

「さっそくいただきます~」

口に入れた瞬間、ふわふわ~っとした歯応えの後に、とろっと溶ける濃密な白子。味わうというよりは食感を愉しむという感じ。生臭さは全くありません。シンプルな味噌仕立ての味付けに、素材の新鮮さが際立ちます。

出汁を入れなくても、寒鱈そのものの甘さ、そして肝と白子が溶け合うことで、十分な旨みが出ています。岩のりを入れることで、ほのかに磯の香りも。どちらかというと鱈は卵(たらこ)派だった私も、今日からは白子派になってしまいそう(笑)

「坂本屋に行ったらどんな魚が食べられるかな?そんなふうに楽しみにしてもらえるよう、その時期のおいしい魚に合わせた食べ方があることをお伝えしていきたいです」

良い素材をどう生かすか、どれだけあっさり煮るか、後味の良さをどう大事にするか、魚料理の美味さの条件を追求し続ける石塚さん。

海山両方の豊富な食材と、素材を大切にする石塚さんのような料理人たちが鶴岡の「食文化」を守っているんですね。
▲今度は、宿泊してゆっくり食事を楽しみたいと思うお店でした

この時期にしか味わえない、野趣あふれる庄内の郷土料理をぜひ食べにきてください!
撮影:佐藤友美
佐藤昌子

佐藤昌子

エディター&ライター。山形県知事認可法人アトリエ・ミューズ企業組合専務理事。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。

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