東福寺 アートな庭と自然を眺めて、 深呼吸しながら日常をリセット

2017.01.01 更新

京都の代表的な名所は、実は禅寺であることが多い。金閣寺、銀閣寺、高台寺に南禅寺、そして東福寺も。建物や庭の歴史・文化的価値はもとより、訪れる人の心にも作用する、そんな東福寺の魅力を探ってみよう。

▲朝日を浴びて荘厳な雰囲気を醸し出す法堂(仏殿)

身近になってきている「禅」の世界

ここのところ「禅」という言葉がますます身近になっている。
禅の教えをまとめた実用書や雑誌、サイトの特集などで、触れる機会も多いのではないだろうか。
海外では新しい「ZEN」がブームになっているらしい。
坐禅修行というストイックなイメージを超え、禅の教えを生活に取り入れたり、ライフスタイルのひとつと捉える人が増えているのだ。
▲マインドフルネス(瞑想法)などと融合し、「禅」が新しい「ZEN」へと変容している
確かに、仕事や日々の雑事に忙殺されている現代人に、シンプルな自分自身に帰る「禅」が必要とされるのも不思議ではない。
そんなことを考えながら、今回の取材先・東福寺へと向かった。
時は11月下旬。まさに紅葉がピークを迎える頃である。

「禅」ビギナーにも優しい寺

開門前から行列ができるほどの行楽シーズン真っ只中。

私たち取材班は、空にうっすらと月が残る早朝、まだ誰も拝観者のいない境内に入らせていただいた。
▲日下門から入ると、すぐ禅堂が見える
▲東福寺の境内図。25の塔頭を有する大伽藍(地図提供/東福寺)
東福寺の見どころと言えば、「通天橋」と「本坊庭園」。
2,000本以上の紅葉と楓が真っ赤に埋め尽くす通天橋からの景色と、作庭家・重森三玲(しげもりみれい)が手がけた庭園はあまりに有名だ。
ちなみに本坊庭園は、方丈(ほうじょう)という、元は僧侶の住居だった建物の中にある。

せっかく禅寺を訪れるのであれば、少し「禅」を意識しながら拝観してみたい。
と言っても、東福寺は、仏教や歴史・文化に詳しくなくても楽しめる寺。スマートフォンをしばらく横に置いて、目の前の美しい景色をまっすぐ見る、それだけでOKだ。

アートとして鑑賞する
重森三玲の枯山水

「通天橋に光が差し込む時間帯はもう少し後ですよ」と、東福寺広報主事の永井秀嶺(しゅうれい)さんにアドバイスされ、まずは本坊庭園を訪れることにした。

明治14(1881)年の火災で伽藍の大部分を焼失した東福寺が、再建の際に方丈の庭を三玲に託したそうだ。全国300の庭園実測調査を終えたばかりの三玲は、御年43歳にして作庭家としてのデビューを飾ることになった。

東西南北に配された4つの庭から成る本坊庭園。
庫裏(くり)から渡り廊下へ進むと、すぐに目に飛び込んでくるのが南庭だ。
どどんと横たわった巨石や、ごつごつした石のダイナミックな配置に驚く。
まさに、この石組こそが三玲の真骨頂。これまでにない手法を用い、静謐な禅庭に力強い生命力をもたらしたのだそう。

禅宗寺院の方丈の南庭は、かつては白砂を敷き詰めただけの「無塵の庭」だった。
しかし、この210坪というスペースを前に、三玲の腕が鳴ったのだろうと言われている。

渦巻く砂紋で八つの海を、そして大胆な石組で、大海の東の彼方にあるとされた仙人が住む島を表現。ちなみにこの砂紋、本来は青海波(せいがいは)という日本の伝統文様なのだが、複雑すぎるため滅多に描かれないという。(2014年、75年ぶりに再現された)

東が石なら、西方には苔山が見える。
▲今までは自然の山を意味していた苔山に新しい解釈を与え、京都五山になぞらえた

「三玲さんは石をバランスよく組み立てるのが得意だったようです」
しょっぱなから斬新な庭に見入っていた私に、永井主事が声をかけてくださった。

「通常禅寺の庭は、縁側で坐禅するためのものですが、三玲さんの場合は禅的というよりデザインの素晴らしさを感じる庭ですね。もっとも、一切の無駄をしてはならないという禅の教えから、作庭にあたって余材のリサイクルをしているので、禅の精神が反映されていると言えますが」

そのリサイクルされた余材というのが、東庭・西庭・北庭に使われたこれらの石。
▲「東庭」。東司(お手洗い)の解体修理の際に余った礎石を使って北斗七星を表現。三玲のインスピレーションが光る
▲「西庭」。さつきの刈り込みと砂地との区切りに直線の葛石をうまく再利用。市松が斜線状に組んであるのは、北庭との連続性を意図してのこと
▲「北庭」。西庭と同様、四角い敷石という通常の庭造りには使われない材料を再利用することで、斬新な市松模様の庭が生まれた

手前から奥に向かって市松模様が消えていくという構図も印象的だ。
こちらも、学生時代は画家を目指していたという三玲らしいアイデア。

鎌倉時代の高僧・夢窓疎石(むそうそせき)や安土桃山時代の茶人・小堀遠州(こぼりえんしゅう)など、優れた作庭家が手がけた禅の庭は他にもたくさんあるが、「永遠のモダン」を追求した三玲の庭は、アートを観るような感覚で鑑賞できるはず。

「皆さんそれぞれに背負っているものがあると思いますが、その荷物を一旦置いて、ゆっくり座って庭を眺めていただけたらと思います」と、永井主事。

「庭を見る」ということを純粋に楽しめそうだ。

通天橋から見渡す
みずみずしい自然

本坊庭園を後にし、続いては通天橋へ。

東福寺の境内には東西を横切る渓谷・洗玉澗(せんぎょくかん)があり、川の上を跨ぐ、臥雲橋(がうんきょう)、通天橋、偃月橋(えんげつきょう)の3つの橋が架けられている。
▲通天橋からの眺め。まるで紅葉の海のような独特の風景に思わず息をのむ
通天橋は本堂(仏殿)と開山堂をつなぐ橋で、そもそもは行き来する僧侶が渓谷に下りずにすむように架けられたのだが、今では紅葉のベストスポットとして有名だ。
▲橋の下をのぞくと、これまた夢のような色彩の世界が
かつて、画僧・明兆(みんちょう)が、花見に興ずる人々が僧たちの修行の妨げになるのを恐れ、境内から桜の木を無くすことを望んだ。その代わりに紅葉と楓が植えられたのが始まりなのだとか。
▲向こうに見える臥雲橋から通天橋を望むこともできる。臥雲橋は門の外に位置するため、時間に左右されず無料で通行できる人気スポット
ちなみに、新緑の季節も根強い人気。
▲生き生きとしたエネルギーに溢れ、紅葉よりも好きという人も多い(写真提供/東福寺)

「紅葉も若葉も木造建築にとても良く映えます。柱と柱でフレームを作って、伽藍と一緒に鑑賞してみてください。この木々の鮮やかな発色は、境内を流れる川のおかげなんですよ。境内の杉苔が良く育つのも、湿度の高い盆地の気候あってのこと」と永井主事。

自然のパワーを凝縮したような通天橋からの景色。
深呼吸しながら眺めていると、心にスペースが生まれた気がした。
「禅」の基本は坐禅だが、じっと座って悟りを目指すことだけが禅ではないのだという。
心を整え、執着や妄想から離れて今に集中すること。

禅寺に赴き、目の前の景色に夢中になっているうちに、いつの間にか日常がリセットされていた、そんな体験も「禅」の第一歩かもしれない。

付け加えておきたい、その他の見どころ 
1.開山堂の庭

通天橋を渡ったところにある開山堂の庭も見逃せない。
普門院の縁側に腰掛けると、手前に平坦な枯山水、奥に立体的な池泉(ちせん)庭園が広がるという構図。

ゆっくり時間を取って、心静かに眺めてみて欲しい。
▲三玲がオマージュを捧げたとも言われる市松砂紋

2.偃月橋

伽藍の中で明治の大火を逃れた建造物のひとつで、桃山時代の木造橋廊である「偃月橋」。
豊臣秀吉が正室ねねのために架けた橋と聞き、思わず想像が膨らむ。
橋の先には、年2回の特別公開時だけ拝観できる龍吟庵(りょうぎんあん)があり、本坊庭園とはまったく趣向の違う三玲の庭も。絵画の素養を持つ彼ならでは斬新な発想が見どころ。

3.三門・法堂(仏殿)・禅堂

三門と法堂(仏殿)は非公開だが、毎年3月14~16日の涅槃会の時に特別公開され、明兆による三門の極彩画や、法堂の涅槃図が見られる。このタイミングでもぜひ訪れてみたい。
▲現存する最大最古の三門(国宝)は室町初期の再建
また、禅堂では、毎週日曜の6:30~7:30に参加自由の坐禅会を実施。もう少し「禅」を深めたいと思ったら、1時間静かに座ることから始めてみてはいかがだろう。
▲わが国最大最古、中世から遺る唯一の坐禅道場。ここでの坐禅は貴重な経験になるはず
禅の世界は奥深い。でも、すぐに日常に取り入れることもできる。忙しい毎日を小休止して、東福寺で静かなひとときを過ごしてみて欲しい。
※写真は2016年以前のものです。
宮本貴美

宮本貴美

京都在住のフリーディレクター/ライター。旅にまつわる取材、執筆、編集をおこなう。 最近はスポーツトラベルに注目中。

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