元日本料理人が作る福井「本道坊」のカレーは、隠し味に秘密があった!

2017.02.04

日本料理で磨き上げた料理センスから、新しいカレーの世界を創り上げた男がいた。炒め玉ねぎを使わず、甘みとコクをスパイスで醸し出す。都内や大阪にあれば予約の取れない店になること必至のカレー店のヒミツを、おそらく全国で初めて紹介する!(by カレー調査隊隊長・井上岳久)

どうも、こんにちは!
カレーの第一人者である井上岳久先生と、一番弟子りかです。私たち2人は「カレー調査隊」として、ぐるたび編集部に届いた耳寄りカレー情報をもとに全国津々浦々を旅しています。

今回は、北陸の福井県にある、知る人ぞ知るカレー店のうわさを調査してきました。

繊細な辛さが魅力的なカレー「Sニック'S BAR 本道坊」

▲やってきました福井県!JR福井駅前には、さまざまな恐竜のオブジェがあります

りか「ぐるたび編集部宛てに、こんな調査依頼のメールが届きました」

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福井県には、全国的に有名なカレー店は少ないと言われていますが、2009年の北陸カレー選手権で行列ができた人気店があります。アピール力が弱いため、福井のカレー通にしか知られていない“知る人ぞ知る店”です。カレーの常識を覆す独創的なメニューを提供しているので、ぜひ訪問し、全国に通用する店かどうか評価をお願いします。
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井上先生「北陸といえば金沢カレーが有名だけれども、福井県か!たしかにカレーの情報は少ないな。調査しに行ってみよう」

りか「はい!福井県のカレーを食べたことがないので楽しみです!」
ということで、やってきたのはJR福井駅から車で5分ほどの「Sニック'S BAR 本道坊(ホンドヴォー)」。一軒家風の建物です。

井上先生「福井駅から少し離れているし、外観だけ見ると、たしかにこだわりのカレーを出す感じがするなぁ」

りか「店名といい外観といい、個性的な店主がやっていそうですね(笑)。中に入ってみましょう!」
「いらっしゃいませ!」
入店すると、出迎えてくれたのは店主の本多弘さん。
店内は至るところに雑貨が飾ってあったり、壁がカラフルにペイントしてあったりと、カレー店らしからぬカフェのような雰囲気。東京の高円寺や下北沢にあってもおかしくないお店です。
さっそくカレーをオーダー!
こちらは、カレー2種とドリンク、ミニナン、ミニライス、サラダがセットになった「女性限定せっと」(税込890円)。カレーは常時8種類から選べ、今回は「5種の野菜ペースト入りキーマカリー」と「ほうれん草で仕上げる香りポークカリー」をチョイスしました。井上先生は同じ種類のカレー、ナン、ライスが大盛りになった「よくばりせっと」(税込1,550円)を注文。
▲5種の野菜ペースト入りキーマカリー
▲ほうれん草で仕上げる香りポークカリー

りか「盛り付け方もフォトジェニックで、インスタ映えしそう!」
井上先生&りか「では、いっただきまーす!」
井上先生「どれどれ、まずはキーマカリーから。お、最初は野菜の甘みでやさしい味わいなのに、奥からかき分けてくるように、スパイスのチリペッパーの辛さがやってくるな」
りか「どーんと来る辛さではなく、繊細な辛さですね。香辛料の香りもとってもいいです!」
りか「…あれ?大根が入っていますよ!」

井上先生「大根はカレーの具材としてはポピュラーではないけれど、入れることはあるよ。おでんのように味がしみ込んで、噛むとじわ~っとスパイスの辛さがやってくるんだよ」
本多さん「その大根は、福井県産の赤根大根というものを使っているんですよ。あえて皮つきにすることで大根の風味が増して、エスニック感を醸し出すんです」
りか「ポークカリーの方はサラサラで、コクがあります。豚肉はとってもやわらかいです。麦飯のライスは、カレーソースにつけるとお米が水分を吸って、雑炊のような食感になります。これも美味ですね!」

本多さん「福井県は米どころのため、外国産のインディカ米は受け入れられにくいんですよね。それで白米よりも水分の少ない麦飯を使っているんです」
井上先生「ナンも独特だよ。ふんわりしっとりだけど、少しもちっとしていて甘い。どことなくハワイで人気のパンケーキに似ているな。このナンは、おやつとしても食べたいね!」

本多さん「ナンはカレーの辛さを引き立てるために、はちみつや砂糖などで少し甘みを加えているんです」
▲夢中になって食べ続ける2人

りか「なるほど~(モグモグ)」
井上先生「なるほどじゃないよ、もっとしっかり取材して!」
りか「あ、はい…!」

独創的なワケは、日本料理で学んだ技をカレーに生かしていたから!

つい夢中になって食べてしまった「Sニック'S BAR 本道坊」のカレー。随所にこだわりをみせていますが、一体どうやって作っているのでしょうか。本多さんに聞いてみました!
本多さん「キーマカリーは、ローリエ、シナモンスティックなどのホールスパイスをゴマ油で炒めたところに、玉ねぎやナスなど5種類の野菜をペースト状にして投入します。そこに隠し味として、赤味噌を入れるんです。香りがたったら、ひよこ豆やカシューナッツ、挽き肉などを投入し、乾燥バジル、ブラックペッパーなどのスパイスで味付け。仕上げに自家製ガラムマサラなどで整えます」

りか「カレーに赤味噌やゴマ油ですか!?」

本多さん「実は私、以前は京都の高級日本料理店で10年以上働いていたんです。それもあり、日本料理の技をカレーにも生かしています」

本多さんによれば、独立を考えていたとき、金沢で食べたカレーのおいしさに衝撃を受けてしまったそう。それで日本料理店ではなく当店をオープンすることに。福井県を選んだ理由は、カレー店の少ない地域にお店を出すことで、自分の腕を試してみたいと思ったから。あまりカレーと親和性のない福井県ですが、カレー通に支持され、2017年で創業14年目に突入するといいます。
井上先生「でも日本料理には、スパイスを使う文化はありませんよね?」

本多さん「たしかにスパイスは使いませんが、醤油や酢などの基本調味料の味を覚えるところから始めます。それと同じで、スパイスも味を1つ1つ覚え、自分の舌で組み合わせを研究していきました。だから独学ですね」

井上先生「独学であるゆえに定番の作り方をせず、スターター、味づけ、香りづけと複数のスパイスを多段階に分けて使いこなしているんですね。自家製ガラムマサラを使っているのも見事だ」
▲約20種類のスパイスが並べられている

りか「もう一つのポークカリーはどうやって作っているのでしょうか?」

本多さんによると、まずは穀物や有機野菜を食べて育ったもちぶたのバラ肉を、醤油漬けしたニンニク、ショウガ、クミン、梅酒、黒ゴマでマリネして一晩漬けるそう。翌日焼き上げてから、唐辛子と一緒に水から煮込んでいきます。沸騰したらクローブ、クミン、オールスパイスなど全15種類のパウダースパイスでコクをプラス。ポイントは、煮込むとえぐみが出て、スパイスの香りが飛んでしまうため、あまり長時間は煮込まないこと。塩と乾燥バジルで味を調えて完成です。ちなみに、キーマカリーにもポークカリーにも炒め玉ねぎは使いません。
▲カレーに玉ねぎを入れない代わりに、玉ねぎのサラダが付いてくる

本多さん「玉ねぎの甘みがスパイスの辛さを邪魔するので、基本的に使いません。甘みやコクなどは、すべてスパイスで出しています。それにカレーソースを継ぎ足して作ることで、落ち着いたコクが出るんですよ」
ここまでお話を聞いただけでもさまざまなこだわりがありますが、中でも一番のこだわりは塩だといいます。一般的に、カレーはスパイスが命で塩に注力しません。しかし、本多さんは塩もスパイスの1つだと考えていて、世界中の塩とカレーの相性を確かめた結果、塩気が少なくてコクが出るというフランス産の岩塩を使っているそうです。もう何から何まで独創的!

では井上先生、カレーの評価をお願いします。
井上先生「本道坊のカレーチャートはこちら!」
井上先生「玉ねぎを使わず、コクをスパイスで出しているのがすごいよね。また長時間煮込まない、塩にこだわるなど、カレー作りの固定観念にとらわれることなく、オリジナリティに溢れた調理法だった。何か一つのジャンルを究めると、他にも応用が利くということを学んだよ。素晴らしい!もっと多くの人に味わってもらいたいね」

りか「塩にこだわるとは盲点でした!おかげで、カレーの奥深さも学べました」
▲最後は、3人でパシャリ!

福井県に来たら、ぜひ「Sニック'S BAR 本道坊」でお腹を満たしましょう!
ご協力ありがとうございました。

井上岳久(カレー大學学長/株式会社カレー総合研究所代表)

カレー業界を牽引する、業界の第一人者。横濱カレーミュージアム責任者を経て現職に至る。カレーの文化や歴史、栄養学、地域的特色、レトルトカレーなど、カレー全般に精通。レトルトカレーは全国から2,000種類を収集し試食している。著書に『一億人の大好物 カレーの作り方』『国民食カレーに学ぶもっともわかりやすいマーケティング入門』など多数。

名久井梨香

名久井梨香

フリーライター。毎日カレーを食べるカレー愛好家で、現在はカレーパンも研究している。カレー大學、カレー大学院卒。趣味はカレーとJリーグ。

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