伊豆・稲取「雛のつるし飾りまつり」。素朴で愛らしい雛人形に癒される

2017.02.10 更新

伊豆稲取温泉で毎年1月下旬~3月末に開催されている「雛のつるし飾りまつり」。本州にいち早く春を呼ぶイベントとして、賀茂郡河津町の「河津桜まつり」と並ぶ人気を呼んでいます。各会場では、色とりどりの布で作られた愛らしい人形が付いた「つるし飾り」と、稲取に古くから伝わる貴重な雛人形の数々がお出迎え。圧倒的な数の人形たちが、訪れた人を幻想的な空間へと誘います。

古から伝わる愛娘への思いが詰まった贈り物

静岡県賀茂郡東伊豆町の稲取地区に伝わる「雛のつるし飾り」は、娘の健やかな成長や良縁を願い、雛まつりには母親や祖母が「つるし飾り」を手作りして飾るという江戸時代から伝わる風習です。

桃の節句には、布の切れ端を縫い合わせて作った人形を竹ひごの輪から下がる赤い糸に縫いつけ、雛段飾りの両端へ吊るします。輪に下げる糸の本数や、糸に縫い付ける人形の個数は自由ですが、その数を「奇数」にするという決まりがあります。

一度は廃れかけた風習でしたが、稲取の「雛の会」の努力と地元の方々の協力により復活。1998年から毎年「雛のつるし飾りまつり」として、地区全体を会場に開催されています。
この稲取独特の雛飾りは全国でも珍しい風習で、福岡県柳川の「さげもん」と山形県酒田の「傘福」とともに「日本三大つるし飾り」のひとつとして知られています。

「花」「桃」「うさぎ」「きんちゃく」「とうがらし」など、人形の一つひとつに願い事が込められていて、その数は30種類以上。例えば、女性の象徴でもある「桃」は、厄払いや多産、長寿延命。「とうがらし」は娘に悪い虫(悪い男性)が付かないようにとの願い。
あらゆる厄災から大切な娘を守りたい。理想に描いた人と結ばれ、幸せになって欲しい……という、親の切なる願いが詰まっているのです。

一般庶民の家庭ではまだ、立派な雛段飾りが買えなかった時代。せめて手作りの人形で桃の節句を祝ってやりたい、という思いもあったことでしょう。願う事柄を具体的な形にして祈りを捧げるという形が、この「つるし飾り」の大きな特徴になっています。

圧倒的数の展示
メイン会場「雛の館」

伊豆急行線伊豆稲取駅から徒歩約15分。文化公園の敷地内にある「雛の館」は2つあるメイン会場のうちのひとつで、約100対(約11,000個)のつるし飾りが展示されています。
入り口正面では6,409個の人形が付いた「ジャンボつるし飾り」がお出迎え。屋根の梁から下げられた「つるし飾り」の長さは、一番大きいもので約6m。下から見ると、まるでお雛様のシャワーのようで、迫力たっぷりです。
▲迫力あるジャンボつるし飾り

館内には年代物の雛人形がたくさん並んでいます。なかには、おとぎ話をモチーフにしたユニークな人形も。表情豊かで、どれも精巧に出来ています。
▲おとぎ話「浦島太郎」の登場人物をかたどった雛人形は海辺の街ならでは
数えきれないほどの雛人形が並んでいますが、顔をよく見ると一体一体、表情が違っています。作られた時代によって、人形の顔立ちが違うのだそうです。その時代ごとの「美しい顔」を見比べてみるのも面白いですね。

稲取は金目鯛の漁獲量が県内一位ということもあって、ブランド魚「稲取キンメ」の産地ならではのユニークなつるし飾り、「金目鯛の“鯛の鯛”つるし飾り」も展示されています。
▲「稲取キンメ」で有名なご当地ならではのユニークなつるし飾り
“鯛の鯛”とは、硬骨魚類である鯛の胸鱗の付け根の骨の一部のことで、金目鯛一匹から、二枚の“鯛の鯛”が取れます。地元では古くから幸運と金運の縁起物として、お財布に入れる方が多いそうです。小さな鯛のように見えますが、遠くから見ると金魚のようにも見えますね。

また、約43,200個のスワロフスキー・エレメントでデコレーションされた、世界でたったひとつの「雛のデコつるし飾り」は、ジュエリー好きには見逃せません。制作からデコレーションまで100時間以上かけて、すべて手作業で作り上げたそうです。
▲スワロフスキーの輝きがまぶしい「雛のデコつるし飾り」

ちなみに、文化公園の敷地内には無料の足湯「雛の足湯」があります。屋根がついているので、天気が悪い日も快適。ほかの会場へ行く前や散策の途中、疲れた足を休めるのにオススメです。文化公園内は夜間ライトアップもあるので、陽が落ちてからもゆっくり散策を楽しめますよ。

海岸沿いにあるもうひとつのメイン会場
眺望抜群の「むかい庵」

文化公園から車で5~6分ほどの場所にある、もうひとつのメイン会場「雛の館 むかい庵」。この会場には江戸時代の雛人形と、その脇を飾る現代のつるし飾りが約70対(約7,700個)展示されています。
ひときわ目を引く江戸時代の古今雛(こきんびな)は、とても雅な表情をしています。

その古今雛の名品「田町 新宿(あらしゅく)・鈴木家(荒店酒店)のお雛様」は、長崎・旧平戸藩主・松浦家の寿免(すめ)姫が鳥羽藩主・稲垣家に輿入れした際に持参したものと伝えられています。人形の冠の細工や着物の細やかな作りは必見です。
人形の前に飾られている「お道具」の金蒔絵には、松浦家の家紋「梶葉紋」が施されていて、その美しい意匠と優雅なフォルムに、思わず見入ってしまいます。
▲田町 新宿・鈴木家(荒店酒店)のお雛様

また館内には、珍しい「端午の節句のつるし飾り」も展示されています。

稲取に残る昭和2(1927)年の絵幟(えのぼり:絵が描かれたのぼり旗のこと)には、尚武(しょうぶ:武事を重んずること)を願う武者絵などが描かれ、その裾に綿入りの「猿っこ」「桃」「三角」「のし目」などの人形が縫い付けられていたそうです。
桃の節句と同じように、端午の節句にもつるし飾りが作られていたんですね。子どもに向ける親の深い愛情は、いつの時代も平等なんです。
▲端午の節句のつるし飾り

現代のつるし飾りの展示では、地元の小学生たちが作ったかわいらしい作品が注目を集めていました。今年はどんな展示があるのか楽しみですね。
▲稲取地区の小学生が制作した、海の中がテーマのつるし飾り(写真は2016年度)
▲イソギンチャクや海藻、魚をモチーフにした人形がとてもかわいらしい

「むかい庵」は海に面していて、とても景色の良い会場として人気です。駐車場からは稲取港が一望。
窓の外には樹齢220余年の立派な「海防(かいぼう)の松」を見ることができます。寛政5(1793)年、老中・松平定信が伊豆半島沖に出没し始めた外国船を警戒して、伊豆や相模の海岸に植えさせたといういわれがあります。天気が良ければ、遠くに伊豆七島も望めますよ。

つるし飾り鑑賞以外の楽しみ方もできる協賛会場

稲取地区内にある協賛会場には、「つるし飾り」の鑑賞といっしょに、みかんの収穫体験もできる場所があるんですよ。

「収穫体験農園 ふたつぼり」は、文化公園から徒歩約10分(車で約2分)の場所にあります。温暖な気候で年間を通して様々な種類が収穫できる「稲取のみかん」が、完熟の状態で収穫できるんです。しかも、みかんは全種類食べ放題!収穫したみかんを、その場で搾ってジュースにしたりジャム作り体験ができるというのも楽しいですね。

この会場では、稲取の一般民家の座敷に飾りつけられたつるし雛と雛段飾りを、広い庭から鑑賞することができます。
展示物とは違い、一般家庭での飾り方を再現しているので、雛のつるし飾りをより身近に感じることができるのではないでしょうか。
▲鳳凰の松

庭にある樹齢約200年の「鳳凰の松」は、東伊豆町天然記念物に指定されています。大きな鳳凰が羽を休めているような、じつに堂々とした姿をしていますね。
▲高台にある、みかん畑からの眺望。まつり期間中もみかん狩りができます
もうひとつの協賛会場「金目処なぶらとと」でも、つるし飾りの展示を見ることができます。この会場は普段、金目鯛料理が看板の和食処として人気の店です。もちろん、まつりの期間中でも食事ができますよ。
また、2017年2月23日(木)~3月5日(日)まで、「むかい庵」から徒歩約10分の素盞嗚神社(すさのおじんじゃ)では、階段を利用した雛段飾りが展示されます(雨天中止)。最下段から最上段まで、長~い石段に並べられた雛段飾りは圧巻。階段を上った先の神社側から見る絶景は、一見の価値ありですよ! 
2017年は文化公園から徒歩5~6分の場所にある三嶋神社でも階段を利用した雛段飾りの展示がありますので、こちらにもぜひ立ち寄ってくださいね。
▲素盞嗚神社の雛段飾り

期間中はほかにも、楽しいイベントが盛りだくさん。稲取地区内では、つるし飾りの制作体験教室も開催されています。詳しくは、「稲取温泉旅館協同組合こらっしぇ」のホームページをご覧ください。

小さな港町・稲取地区の街を散策し、ファンタスティックな雛のつるし飾りに囲まれると、ほっこり温かい気分になれますよ。ひと足早い春を見つけに、「雛のつるし飾りまつり」を訪れてみませんか?
小林ノリコ

小林ノリコ

移動文筆家/伊豆在住フリーランス・ライター。東京・南青山の編集プロダクション勤務を経て2005年からフリーランスとなり、2015年より静岡県熱海市を拠点に執筆活動を開始。「ふらりと出かける、ゆる伊豆」をテーマに、地域の宝を再発見する取材活動と、伊豆地域を拠点に活動するフリーランス・クリエイターのネットワーク作りを行っている。

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