ヤマタノオロチ神話の郷を走る水とグルメの路線、木次線の旅!/古谷あつみの鉄道旅Vol.18

2017.04.06

みなさん、こんにちは!古谷あつみです。今回の旅はJR木次(きすき)線の旅!日本最古の歴史書といわれる『古事記』に書かれた1300もの神話のうち、およそ3分の1が出雲神話です。そんな出雲神話の多くは、木次線が通る奥出雲の山々が舞台になっています!

アドバイザーの土屋武之さんと、撮影担当のカメラマン久保田敦さんと一緒に、自然豊かな木次線を人気のトロッコ列車で楽しんできました。

今回の見どころはここ!

1.トロッコ列車「奥出雲おろち号」に乗る!
2.ヤマタノオロチ伝説の地を走る
3.亀嵩(かめだけ)のそば屋と出雲坂根の「延命の水」!
4.ループ橋を眺めながら終点へ

1.トロッコ列車「奥出雲おろち号」に乗る!

▲JR木次線木次駅からスタート

旅の始まりはここ、木次駅。
木次線は島根県松江市の宍道(しんじ)駅と広島県庄原市の備後落合駅を結ぶ路線で、かつては広島と松江・米子を結ぶ急行「ちどり」が運転されるなど、山陰地方と山陽地方を結ぶ重要な路線でした。
伯備線の電化や高速道路の整備とともにその賑わいも消え静かになりましたが、現在は中国山地の大自然を存分に楽しむことの出来る路線として人気があります!
▲人気トロッコ列車「奥出雲おろち号」。取材時は、木次線開業100周年記念ヘッドマークを装着

今回の旅は、木次線で大人気のトロッコ列車「奥出雲おろち号」に乗ります。出雲神話のなかでも、特に有名なヤマタノオロチ伝説をモチーフにした列車です。

ヤマタノオロチ伝説は、高天原(たかまがはら)から追放されたスサノオノミコトが、斐伊川(ひいがわ)の上流にある鳥髪(とりがみ、現在の船通山)にやってくるところから物語が始まり、斐伊川の周囲で物語が展開されます。
木次線は、その斐伊川に沿って走る路線。まさにヤマタノオロチ伝説の地なのです。
▲備後落合行きの先頭に連結されたトロッコ車

まずは島根県の景観賞を受賞した、カッコイイこのトロッコ列車に乗り込みます。

斐伊川は水質の良さでも知られている川です。水が美味しい土地は、食べ物も美味しいはず!
出発地の雲南市木次町は、健康の町と言われているほど、良質な土や水、そして豊かな自然があります。これは期待できますね!
▲それでは出発!駅員さんも笑顔で手を振ってくれた

列車が走り出すと、風を感じられて気持ちが良いです。ふつうの列車にはない旅の雰囲気が味わえ、ワクワクしてきます。

そして、私がワクワクしていることがもうひとつ。
▲車内販売など、グルメが「奥出雲おろち号」の大きな楽しみ

そうです!車内販売です(笑)
今回は沿線のグルメも存分に楽しみたいと思います。

車内販売も色々とあるのですが、まず来たのが木次乳業。プリンと牛乳をいただきましょう。
▲木次乳業のプリン(250円)とパスチャライズ牛乳(100円)

土屋「木次乳業は、自然豊かな木次の町で牛を育てているんだ。パスチャライズ牛乳といって、日本で初めて低温殺菌の牛乳を1978(昭和53)年に生み出したんだよ。」
古谷「本当に美味しい牛乳ですね!コクがあります。」
土屋「低温殺菌の良いところは、牛乳本来のうま味やコクを損なわずに殺菌できるところなんだ。このプリンにも、その牛乳が使われている。本当にまろやかで美味しいね。」
古谷「自然な牛乳の風味が生きている感じがします。」

2.ヤマタノオロチ伝説の地を走る

▲自然の風を浴びて走る

古谷「山間を走る列車は、マイナスイオンを浴びるようで気持ちいいですよね!」
土屋「あぁ、でもこんなに静かだけど斐伊川はその昔、よく氾濫していたんだ。すごく暴れる川で、ヤマタノオロチとは下流の村々を襲った洪水のことを大蛇(オロチ)に例えたという説もあるよ。」
▲斐伊川に沿って走るところもある

車窓からは、ダイナミックな斐伊川の姿が望めます。

スサノオノミコトは、この斐伊川の上流で美しい娘と出会います。その娘が、クシイナダヒメだったのです。しかし、ヤマタノオロチがやってきては、毎年娘たちを一人ずつ食べていき、最後の一人がクシイナダヒメなのだと知るのです。
そしてまた、ヤマタノオロチがやってくる季節がきたのだとクシイナダヒメの両親は言い、スサノオノミコトに助けを求めます。
▲トンネルに入ると何が起こる?!

土屋「木次線はトンネルが多いんだけれど、トンネルではヤマタノオロチが見えるんだよ。」
古谷「トンネルの中にヤマタノオロチがいるんですか?」

ヤマタノオロチは、一つの胴体に8つの頭、8つの尾を持ち、目はホオズキのように真っ赤であり、体にはコケやヒノキ、スギが生え、8つの谷と8つの丘にまたがるほど巨大で、その腹は、いつも血でただれている恐ろしい風貌なのです。
そんな恐ろしいヤマタノオロチがトンネルの中にいるのでしょうか?
▲トロッコの車内にヤマタノオロチが!

なんと!トンネルに入った瞬間、天井にヤマタノオロチが現れたのです。ピンクやグリーン、イエローにキラキラと変化し、とても美しい姿での登場です。
そして、トンネルでのヤマタノオロチの登場にはもう一つ仕掛けが。
▲轟音を立ててトンネルを走る

トンネルの中を、トロッコは物凄いスピードで走ります。トンネルには走行音が鳴り響きます。

土屋「この走行音を、ヤマタノオロチの鳴き声に見立てて聞いてごらん。」
古谷「わぁ。本当に鳴いているような音です。なんだか、神話を身近に感じますね。」
▲先頭部分の運転台横では、前面の展望が自由に楽しめる

車窓は、どこまでも緑が続きますが、見ていて飽きません。空気も美味しく、身体いっぱいに自然を感じます。同じ列車に乗り合わせた子供たちも車窓に夢中です。

スサノオノミコトは、クシイナダヒメとの結婚を条件に、ヤマタノオロチ退治を名乗り出ます。とんでもなく恐ろしいヤマタノオロチへの対抗策が、ヤマタノオロチを酒で酔わせ、その隙に退治することでした。
▲緑の中を走る木次線の普通列車

古谷「このあたりの水で造ったお酒なんて、さぞ美味しいんでしょうね。」
土屋「ヤマタノオロチが酔っぱらうほどだからね(笑)。造り酒屋が木次線沿線にはいくつもある。それに、このあたりの水が美味しいことがよくわかるお店が亀嵩にあるんだ!」
古谷「亀嵩といえば、そばですね!」

3.亀嵩のそば屋と出雲坂根の「延命の水」!

▲亀嵩駅と言えばそば屋だが…

亀嵩は、松本清張の小説『砂の器』の舞台となったところ。
レトロな駅舎が印象的です。かつて駅事務室として使われていた駅舎内のスペースには現在、手打ちそばの「扇屋そば」の店舗が入っています。

扇屋そばの手打ちそばは美味しいことで有名で、遠方から駆けつけるファンが多くいるほど。
また、あらかじめ電話予約し、乗車している列車を伝えれば、ホームまで出雲そばの弁当(500円)を届けてくれます。列車から降りることなく弁当を購入できることもあって、大変な人気を呼んでいます。

今回は、ぜひお店で美味しいそばを味わいたい!という訳で亀嵩で下車。どんなそばが味わえるのでしょうか。
▲なんと…

と、思ったのですがトラブル発生です。なんとアポイントが上手くできておらず、定休日…。
これは私の痛恨のミス!皆さま、本当にごめんなさい。

今回は、美味しいそばをお見せすることはできませんが、味は土屋さんもお墨付きのとっても美味しいそばなんです。木次線に来たら、ぜひ味わっていただきたい逸品です。

せっかくなので、その味を味わったことのある土屋さんに感想を伺いたいと思います。
土屋「僕は、ここには何回も来ているよ。駅が無人化されて乗車券の販売委託を引き受けた先代のご主人が、1973(昭和48)年に始めた店なんだけれど、丁寧に作られた手打ちの出雲そばは、すぐに評判になったんだ。腰があって、素朴ないい香りのそばが楽しめるから次回の楽しみにね。」
今回は、申し訳ありませんでした。
しかし、安心してください!木次線の美味しい水が楽しめるのは、亀嵩駅だけではありません。三段式スイッチバックの停車場としても有名な、出雲坂根駅です!
▲三段式スイッチバックを表した看板

木次線は、日本では数少なくなってしまったスイッチバックがある路線です。勾配区間に駅を設けるための設備だけあって、ここ出雲坂根駅の標高は564ⅿ!
随分高いところまで来ました。
▲出雲坂根駅の名物「延命の水」

出雲坂根といえば、有名なのがこのタヌキ!…ではなく、延命の水。島根県名水百選のひとつでもあるこの水は、冬は暖かく、夏には冷たい水が湧きます。
言い伝えによると、このあたりにはその昔、タヌキやキツネが多く住み着いていました。しかも、寿命100年を超えたと思われる古だぬきが好んで飲んでいたのが、この水でした。地元の人からも長寿の霊水として愛された水は、「延命の水」と名付けられたのです。
▲名水を汲む容器を用意したい

その場で飲むのもよし、水を汲み持ち帰って家族に飲んでもらうもよし、やわらかく美味しい水が楽しめます。この日も多くの人々が水を汲んでいました。
▲出雲坂根駅もグルメスポット

そして、出雲坂根駅でのお楽しみがもう一つ。駅の隣で開かれている売店です。
こちらは、「奥出雲おろち号」の運転日のみ開かれる「延命の里」という売店です。美味しそうな食べ物の香りが、ホームまで漂います。最近流行の駅マルシェのようですね。
▲奥出雲のグルメが一同に!

地元産の農産物はもちろんのこと、おでんや、焼き鳥、そして地元産の仁多米のおにぎりなど、木次線沿線グルメが一挙に並びます。どれをとっても美味しそう。選ぶのにも迷ってしまうほどです。
▲木次線に乗ったらぜひ味わいたい品々

私は、その場で焼かれる焼き鳥(1本120円)をゲット。土屋さんは仁多米のおにぎり(2個入り250円)を購入しました。

古谷「ん~!程よい甘さのタレが効いていておいしい!ニンニクの風味がパンチのある味です。」
土屋「仁多米は奥出雲の棚田で作られるお米だ。豊かな水と昼夜の寒暖差が大きな気候から、甘みが強くなるんだよ。『西の仁多米、東の魚沼コシヒカリ』と言われるほど、その美味しさには定評がある。わが家で毎日食べているお米も、この仁多米さ。」

奥出雲おろち号ならではの楽しみということで、ぜひ味わってみてくださいね。

4.ループ橋を眺めながら終点へ

▲さらに急勾配を登って終点へ

さて、車窓は出雲坂根を過ぎると、さらに山深くなります。秋は美しい紅葉を見ることができ、「奥出雲おろち号」のトップシーズンとも言える季節になります。
▲「奥出雲おろち号」の地元グルメは絶品ぞろい!車内販売の他、予約すれば列車まで届けてくれる商品も多い(写真は出雲三成駅)

今回紹介したものの他に、「奥出雲おろち号」では、仁多牛弁当やアイスクリームなどの車内販売もあり、事前に予約することもできます。そして、販売されるものはすべて、地元で取れた産品や地元の会社が作った製品ばかり!奥出雲の味覚が、お腹いっぱい楽しめるのです。
▲国道314号の「奥出雲おろちループ」

さらに、木次線の車窓から眺められる珍しいスポットといえばコチラ!「奥出雲おろちループ」です。
列車はスイッチバックで山を登りますが、並行する国道はループラインを通って、高度をかせぎます。
この「奥出雲おろちループ」は、日本最大級の二重ループ橋。長さ2,360ⅿ、区間標高差は約105ⅿという巨大なもので、実にダイナミック!まるで、とぐろを巻いたヤマタノオロチのようです。
▲峠を越えるともう備後落合は近い

さて、「奥出雲おろち号」の旅も終盤。
ヤマタノオロチを無事退治し、この出雲の地が気に入ったスサノオノミコトは、ここにクシイナダヒメと住むための宮殿を造ることにしました。

古谷「でもなんだかなぁ…スサノオノミコトも、結婚を条件にクシイナダヒメを助けるんじゃなく、男らしくヤマタノオロチを倒してからプロポーズしに来れば良いのに。クシイナダヒメもイチコロで惚れちゃいますよ。」
土屋「ははは。面白いことを言うね。でもそう簡単に倒せるものじゃなかったと思うよ。」
▲備後落合に到着

終点、備後落合に到着です。神話の故郷を巡り、なんだかとっても神秘的な気分です。

土屋「スサノオノミコトもロマンチックな一面があるんだよ。宮殿を作る最中に雲が立ち上がった様子を見て、歌を詠んだんだ。その歌は、日本で初めて詠まれた和歌として神話に残っているんだよ。」
古谷「どんな歌なんですか?」
土屋「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠(ご)みに 八重垣つくる その八重垣を」
古谷「ん~。イマイチわかりませんが、スサノオノミコトがロマンチストだということはわかりました。」
▲帰りも「奥出雲おろち号」に乗る

土屋「君に話したのが間違いだった…。」
古谷「そんなこと言わないでくださいよ!神話を巡る旅、面白かったですよ!ヤマタノオロチが呑んだお酒も気になります。」
土屋「また酒の話か…。もう一つ神話の話だけど、スサノオノミコトとクシイナダヒメの間には多くの子どもが誕生するんだ。因幡(いなば)の白兎でも有名なオオクニヌシノミコトも、スサノオノミコトの子孫とされているんだ。」
古谷「出雲神話を他にもたくさん知りたくなってきました!」

みなさんも、「奥出雲おろち号」に乗って、出雲神話を巡る旅をしてみてはいかがでしょうか?お気に入りの神話がきっと見つかるはずです。

次回、古谷あつみの鉄道旅Vol.19は、千葉県の「銚子電鉄」へ!
※記事内の価格表記は全て税込です。

土屋武之(鉄道ライター)

鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道の未来予想図」(実業之日本社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「鉄道員になるには」(ぺりかん社)、「誰かに話したくなる大人の鉄道雑学」(SBクリエイティブ)など。

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道旅行雑誌「旅と鉄道」等で執筆活動中。

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