湯けむり昇る別府・鉄輪温泉で行くべき極楽の蒸し湯と三ツ星温泉

2017.03.23

街のあちこちからもうもうと立ち昇る白い煙!大丈夫、火事じゃありません。全て100度に近い源泉からの湯けむりです。ここは別府市の鉄輪(かんなわ)温泉。今回は「地獄」と呼ばれる温泉噴出口が集中するこの地にある、2つの極楽湯をご紹介します。

極楽湯の前に、まず簡単に鉄輪温泉のご説明を。鉄輪温泉は別府に8つ点在する温泉地、いわゆる「別府八湯(はっとう)」の1つ。海と山に挟まれ、南北に長く広がる別府市のほぼ真ん中に位置する傾斜地にあります。
別府には約400本もの湯けむりが立ち上っていますが、そのほとんどが鉄輪温泉のものだそうです。

周囲には白池地獄や鬼石坊主地獄など、噴気や熱泥、熱湯が噴出する「地獄」を活かした観光スポットがあるほか、大型の温泉リゾートや和風旅館にまじり、昔ながらの湯治宿、貸間などの宿泊施設が点在しています。
▲温泉リゾート裏にある源泉。轟音と共に湯けむりがもくもく~
▲昭和の風情を残す路地裏があちこちに。道の真ん中からも湯けむりが湧く
▲大衆演芸付きの温泉宿もあり。泊まって湯に入ってお芝居を観て4,000円以下って激安!

鉄輪温泉のある鉄輪の歴史も古く、奈良時代に編まれた「豊後風土記」にも、千年以上も昔から「地獄」があることが書かれているそうです。そんな噴気に猛る地獄地帯を鎮め、鉄輪を温泉地として広めたのが、鎌倉中期の僧で時宗の開祖でもある一遍上人(いっぺんしょうにん)。さらに一遍上人は貧しい人や囚人などに浴室を開放する仏教行為の「施浴」として建治2(1276)年、「鉄輪むし湯」を作られたそうです。
では、さっそくこの歴史ある湯をご紹介しましょう。

香り高い薬草ベッドの上で温泉蒸気に包まれる「鉄輪むし湯」

蒸し湯とはいわゆる温泉蒸気を使ったサウナのこと。一遍上人の開湯以来、数々の移転や改築が行われ、2006年、左右に男女別の石室蒸し湯を設けた現在の形になりました。
▲鉄輪むし湯の前には一遍上人を祀る石像もあり
この像は「一遍湯かけ上人」とよばれ、自分の体で悪い部分や治したい部分があれば、上人様の同じ箇所に湯をかけて、治癒を願うそうです。

それでは、さっそく鉄輪むし湯に入りましょう。
一般的な蒸し湯やサウナは素っ裸で入りますが、鉄輪むし湯は着衣での入浴となります。受付でレンタル浴衣も用意していますが、Tシャツや短パンなど、持参したリラックスできる服装での入浴も可能です。タオルも必要ですので、お忘れなく。玄関を入って左が男湯、右が女湯。
男湯の場合、脱衣所に入って右手に浴場があります。蒸し湯に入る前にここで、身体にお湯をザバザバかけてキレイにしましょう。次に、持ってきた服や浴衣に着替え、脱衣所の奥の蒸し湯へ。
蒸し湯は高さ1mほどの低い扉を開けて入ります。温泉蒸気を漏らさぬように、入室の際は屈んで素早く入りましょう。中の天井もこの扉と同じ高さなので、入ってからも頭をぶつけないようにご注意を。中に入った瞬間、清々しい香り。

なんと床一面に草が敷かれています。これは清流沿いにしか育たないというショウブ科の石菖(せきしょう)という薬草。石菖は高温で蒸すと鎮静効果があると言われるテルペンを成分とする芳香を放出。それを皮膚や呼吸器を通じ、体内に吸収していきます。
▲床に敷かれた石菖。芝生の上で寝転んでいるような感触に

室内に置かれた平たい石にタオルを折りたたんで枕にしたら、ふかふかの石菖の上にゴロリ。ちなみに室内の広さは約8畳。この中に男湯は4名、女湯は5名の定員で入浴します。
写真は撮影用に明るくしていますが、実際には温泉蒸気が充満し、タングステン電球のオレンジがぼんやり灯る無音の世界。さわやかな香りの中、じんわり汗をかきながらぼーっとしていると「はい、8分たちました。まだいきます?」と受付のおばちゃんの声。

そう、蒸し湯の入浴は8~10分が目安。何も言わなくても、おばちゃんが入浴者毎にタイマーをセットしてくれて、時間が来たら声をかけてくれます。もちろん、熱さに耐えられなくなったり、気分が悪くなったら、時間前でも即、退室OK。
ゆっくり身を起こし、手足に着いた石菖を落として外に出ると、まさにリボーン!生まれ変わったかのような爽快感!汗びっちょりの浴衣を専用のボックスにいれたら、浴場直行!浴びるかけ湯がこれまた爽快、気持ちいい!さらにしっかり体を洗って、汗を流して湯船に入れば「あ~、極楽~」。一遍上人様に感謝です。ありがたや、あ~ありがたや。
鉄輪むし湯の玄関脇には、石室に敷き詰められていた石菖が栽培されていました。蒸し湯で使われる石菖は200~300kg。全て大分県内から集められ、毎月、第4木曜(祝日の場合は翌日)の休館日に総入れ替えます。つまり、翌日には刈りたてフレッシュ、香りも一段と高い石菖入りの蒸し湯が楽しめます。
また、敷地内には無料の足蒸し湯もあります。5つの椅子の前にある木の蓋を開けて、靴下を脱ぎ、ズボンのすそを膝までまくって、両足をいれます。さらに温泉蒸気が漏れないように専用の木製カバーを乗せます。
正直、この足蒸し湯は大勢で入ることをお勧めします。複数での利用なら、各人の腿の隙間から外気が入って、温泉蒸気の温度も低くなりますが、1人では外気も少なく足元はずーっと熱いまんま。足を入れて、5秒で脱出したくなります。お1人で利用される場合は、左右の席の木の蓋を開けながら、適温調整を。

あの有名ガイドブックに10年以上掲載。8つの湯が楽しめる「ひょうたん温泉」

鉄輪温泉でもう1湯お勧めしたいのが、大正11(1922)年から続く老舗、ひょうたん温泉。なんとここはフランスで最も権威のある観光ガイドブックの日本版にて、日本で唯一三ツ星評価を得ている温泉施設なのです。

「2005年に初めて掲載されまして、それから2年おきに改訂版が出ていますが、ありがたいことにずーっと三ツ星をいただいています」と社長の田中さん。
『滝湯や砂湯などがおすすめで、別府で最も美しい温泉』などと記載されている通り、こちらの湯の魅力は、一度にさまざまな湯が楽しめる、そのアミューズメントぶり。

それを支えるのが、毎分500リットルも湧き出る豊富な湯。豊富さはいいのですが、実はこの湯が熱すぎる!ひょうたん温泉の源泉温度は100度。常に沸騰しています。奇しくも例のガイドブックの初掲載と同じ、2005年登場したのが、こちら。
高さ約3m、幅約5m、ひょうたん温泉が誇る竹製温泉冷却装置「湯雨竹(ゆめたけ)」。昭和20~40年代、全国各地の塩作りで使われていた「流下式塩田の枝条架(しじょうか)」をヒントに開発されたもので、その冷却システムは実にシンプル。

まず源泉100度の湯を汲みあげ、桧の樋(とい)へ。さらにその下に設けられた末広がりの竹枝を伝って水滴状になり、数秒のうちに入浴に適した温度まで下がって、床の貯水池へ。それを全館へと配湯していきます。

また、短時間で湯の温度を下げることで、源泉の鮮度や泉質の劣化を最低限に食い止められるそうです。ちなみにひょうたん温泉の湯は「ナトリウム-塩化物泉」。神経痛、筋肉痛、関節痛、疲労回復などの効能への期待も高まります。

この「湯雨竹」は自由に見学できますが、ひょうたん温泉の建物の裏側にあり、ちょっとわかりにくいかも。でも、大丈夫。
玄関わきに「湯雨竹」のスモールタイプがあります。冷却システムの様子がわかるだけでなく、その新鮮な湯で足湯も楽しめます。

豊富かつ新鮮な湯を活かして、ひょうたん温泉では男女それぞれ8種類もの趣向を凝らした湯が用意されています。つまり、1ヵ所で8つの湯めぐりが楽しめるわけです。まさに別府八湯ならぬ「ひょうたん八湯」。しかも、お湯はすべて源泉100%かけ流しという贅沢さ。では男湯を例に、個性あふれる「ひょうたん八湯」をご紹介しましょう。
脱衣所からトントンと階段を下って大浴場へ。入った正面に登場するのが、一湯めの「岩風呂」。手前は浅く、奥に進むほどに深くなっています。一度に10~15人は入れるサイズ。これだけでも十分大きな湯船ですが、まだまだあります。
「岩風呂」の隣に二湯め、スクエア型の「桧風呂」。
「桧風呂」のすぐ横に三湯めの「ひょうたん風呂」。その名のとおりひょうたん形の湯船で、源泉が注がれる手前があつ湯、奥がぬる湯になっています。
湯の注ぎ口もひょうたん型。実は創業者が大の豊臣秀吉ファンだったそうで、「ひょうたん温泉」と言うネーミングも秀吉の旗印である「千成瓢箪」が由来だそうです。また、創業して最初に作った岩風呂もひょうたん型で、その岩風呂は今も女湯にあります。
四湯めの歩行湯。「PEBBLE(小石)BATH」の英文のとおり、底に丸い小石が敷き詰められ、足裏をほどよく刺激します。
五湯めの「滝湯」はいわゆる打たせ湯。昭和初期からこのスタイルだそうで、男湯はなんと19本、女湯は8本の打たせ湯がずらっと並んでいます。約4mの落差から生まれる湯の打突感はかなりのもの。通常は立って湯に打たれますが、写真のような座禅スタイルなら、さらに強い刺激が得られます。中には腹這いになって首、肩、背中、腰のツボを刺激する方も。
六湯めの露天風呂。男湯は岩湯ですが、女湯は湯が滝のように流れ落ちる庭園風。どちらも夜はライトアップされ、日中とはまた違う幻想的な雰囲気に。
露天風呂の横から階段を上ると七湯めの「むし湯」。左右に2室あり、左は室温44度の低温、右の高温は52度。泉源から引き込んだ蒸気が充満していて室内の撮影はできませんでしたが、ベンチがコの字に置かれていて、ちょっとした運動部のロッカールームのような感じです。
そして八湯めは男女混浴の「砂湯」。男湯の隣の棟となりますが、男湯の蒸し湯の横にある通路から直接行くこともできます。ただし、入浴には専用の浴衣と使い捨て下着(別料金)の着用が必要です。大浴場、またはこの砂湯の脱衣所で着替えて入りましょう。
さらにこちらの砂湯はセルフ式。砂をかけてくれるスタッフはいません。壁に貼ってある「砂湯の入り方」に従って、自ら穴を掘り、横になって、両脇の砂をかき集めて入ります。

別府にはいくつか砂湯があり、それらの砂は温泉を吸ったずっしり重いタイプ。一方、ひょうたん温泉では温泉蒸気で温めた砂を使用。サラッとしていて、体にかけてもあまり重さを感じません。しかもセルフ式なので、自分の好みの熱さ、体調に合わせてかける砂の量を調節できます。また、入浴時間の制限がないので、自分のペースで入浴できます

ざっと8つの湯を紹介しましたが、厳密に言えば、大浴場内の七湯+別棟の砂湯を合わせての「ひょうたん八湯」となります。もし一気に八湯を楽しむとしたら、最初に浴衣に着替えて砂湯を楽しみ、それから大浴場の七湯、と言う流れがいいでしょう。

湯上り後も楽しいおいしい。飲泉、吸入、地獄蒸しグルメ

湯上り後は、大きなテーブル席や広い縁台が用意された中庭で一息。ここでのくつろぎタイムもひょうたん温泉の魅力です。
▲中庭のほぼ中央にある飲泉「縁起の湯」。温泉蒸気で蒸した卵をここで保温

「縁起の湯」は慢性消化器系の病気に効果アリ、と言われています。鉄分を感じる味ですが、わりと飲みやすかったですよ。ただし、86度の湯なので、よくフーフーしてから飲みましょう。
▲蒸し卵1個70円(税込)

やや塩気のあるナトリウム-塩化物泉の湯で蒸しただけに、ほんのり塩味。黄身のホクホクさ、甘さも際立っていました。
女湯の前には温泉蒸気を利用した地獄釜もあります。食堂で購入した玉子を使っての地獄蒸し体験(税込350円)もできます。
この地獄釜はお食事処の調理にも使われているようで、取材時にはスタッフの方がバットに入れた鶏肉をセット。
「大分名物のとり天に使う胸肉です。下味をつけて、半生くらいになるまで蒸します。こうすることで、お肉がとても柔らかくなるんです」
地獄釜を使った料理はお食事処のほか、中庭にある売店メニューでも味わえます。人気はこの3つ!
右は「とり天カップ」400円。地獄釜で下処理した鶏の胸肉は実にジューシーで、サクサクの衣とのバランスも絶妙。左は温泉蒸気からの塩分もほんのり感じる「地獄蒸し豆腐」250円、奥の「温泉蒸しプリン」は300円。甘さ控えめで、とろりなめらか。

また、売店ではオリジナルソフト「湯楽(ゆら)ゆらソフト」350円も販売。濃厚なバニラソフトになんと、中庭の飲泉を使った温泉ゼリーをプラス。ゼリーのぷちぷち感、さらに飲泉の塩味が好アクセントの塩スイーツです。※いずれも税込。
さらに中庭の奥には温泉吸入スポットもあります。喉や呼吸器系の治療として、温泉吸入は別府では古くからおこなわれてきたそうですが、最近は美顔用に利用されているご婦人方も多いそうです。

ひょうたん温泉にはこのほかにも蒸し湯付きの貸切り風呂が14タイプ用意されています。そのうち10室は電話予約も可能なので、待ち時間なしで利用できます。誰にも邪魔されずに湯を独占したい方は、ぜひどうぞ。
「地獄」がいっぱいの鉄輪温泉でぜひ入ってほしい、2つの極楽湯を紹介してきましたが、他にも100円(税込)で入れる昔ながらのジモ泉(せん)をはじめ、鉄輪温泉には個性あふれる湯がたくさんあります。鉄輪名物「地獄蒸し料理」もぜひ味わってほしいですね。

さらにディープな鉄輪体験をしたい方は、ぜひ、まち歩きツアー「鉄輪温泉湯けむり散歩」にご参加を。地元のボランティアガイドが石畳やレトロな路地裏を案内しながら、一遍上人ゆかりの地やひょうたん温泉の「湯雨竹」をはじめ、鉄輪の穴場スポットをいろいろ見せてくれますよ。
山田誠

山田誠

新潟県十日町市生まれ、現在は福岡県福岡市在住のフリー編集者・ライター。九州の宿や温泉、飲食、雑貨系のショップ、さらに漁村、農村、道の駅など、暮らしと休日に関わるスポットをほぼ毎月、年間150軒以上を取材。取材後は必ず近隣の直売所で地元食材を買って帰る。1児の父。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP