1年に10日しか食べられない「寒晒しそば」。将軍家にも献上された幻のそばを求め八ヶ岳西麓へ
そばといえば信州。中でも「幻のそば」として知られるのが、八ヶ岳西麓に伝わる「献上寒晒し(かんざらし)そば」です。厳寒期に手間ひまをかけて作られ、夏に食べられる最高位のそばとして、江戸時代には徳川家に献上されました。現在、食べられるのは長野県茅野市の限られた店で、7月のわずか10日間ほど。そんな貴重なそばのルーツを辿りました。

「寒晒しそば」って?
中でも標高800m以上で夏でも涼しく、日照時間が長いことに加え、昼夜の温度差がある八ヶ岳西麓は、そばの栽培が盛ん。その北半分を占める茅野市は、そばの作付面積が県内トップクラスです。しかも、減農薬栽培や、養蜂家と連携したミツバチ受粉などを用いた、体と自然にやさしいそばが作られているのです。

また、茅野市は湿度が低く、冬は氷点下10度を下回る日もある寒さが厳しい地でもあります。この気候風土を生かし、古くから寒天や凍り豆腐などの保存食作りが行われてきました。

こうした伝統技術を生かした食文化のひとつが「寒晒しそば」です。秋に収穫された上質なそばの実を、殻がついた状態のまま、気温と水温が最も低くなる大寒の時期に清流に1週間から10日ほど浸し、その後、寒風にさらしながら1カ月から1カ月半かけて乾燥させます。つまり、そばの実も保存食として“寒晒し”にしたのです。

こうして寒晒ししたそば粉で打ったそばは、新そばに比べて舌触りがよく、もちもちとした食感だと言います。江戸時代は夏の土用に食べられる貴重なそばであったことから、「暑中寒晒し蕎麦」として将軍家に献上されました。

幻の味わいを求めて夏の茅野市へ

2017年の開催期間は7月14日(金)~30日(日)。そこで、そんな「幻のそば」を求め、茅野市にある「勝山そば店」に足を運んでみました。


「(寒晒しそばは)そば屋が食べても普通のそばとは食感や香りがまったく異なり、固定観念を覆す味わいです。特に2017年の出来栄えは良好で、十分に自信を持って提供できる味わいですよ」と宮坂さん。
では、早速いただきます!


一口食べると、想像以上のもちもち感にびっくり!本当に、こんな食感のそばは食べたことがありません。さらに、雑味のないふんわりとした上品な甘みが感じられました。取材中、4年前から岩手県で寒晒しそばづくりに取り組んでいるという組合の方々も視察で食べにきていたのですが、「自分たちのそばと食感が全く違い、おいしさに驚いた」と話していました。同業者も唸るほどの味わいだったのです!
極寒の中で行われる寒晒しの作業

寒晒しの作業は、大寒の時期、八ヶ岳から流れ出る清流に1週間ほど玄そばを浸すところから始まります。浸っているのは、秋に収穫した180kgの玄そばです。

清流に浸している間は毎日気温と水温を確認しながら、玄そばの入った袋をひっくり返す作業(手返し)を行います。

水に浸す期間は1週間前後ですが、この際に大切なのは水温だそう。厳密にはどれだけの雪代(雪がとけて川に流れ込む水)があるかが重要だと言います。仕込み前の11月から12月にかけ、八ヶ岳の降雪が多ければ清流の水温は一定の低温が保てるものの、降雪が少ないと水温が高くなってしまいます。その頃合いも鑑みながら引き上げ時期を考えているそうです。



こうして清流から引き上げられた玄そばは各店で分け、それぞれの店舗ごとに寒風で1カ月から1カ月半かけて乾燥させます。

少しずつ水分を抜いて乾燥させた後は、夏まで土蔵で熟成させ、玄そばの中心層のみを取り出して製粉し、つなぎを使わない「十割そば」として提供されます。
一筋縄ではいかない!「寒晒しそば」ができるまで
それを復活させたのが、茅野市産そばのブランド化を目指していた農家の小林一茶(ひとし)さんとその有志です。小林さんは地元に残る古文書などを頼りに、その製造方法を数年かけて研究。そして、平成18(2006)年から茅野商工会議所が中心となり、地域と行政、大学が一丸となって「寒晒しそば」を復活させました。

現在は「八ヶ岳蕎麦切りの会」主導で製造を行っていますが、当初は失敗の連続でした。冷たい流水に浸され続ける過酷な環境に耐えられなかった玄そばは使い物にならなくなったり、乾燥させすぎて割れてしまったり。それを防ぐためには上質な玄そばを選別しなければいけないことや、乾燥時は昼夜を問わず常に確認し、目を離してはいけないことに気付いたと言います。

また、販売のためにはマーケティングが必要と考え、地元の諏訪東京理科大学の山腰光樹(やまこしみつき)教授に相談。「八ヶ岳蕎麦切りの会」のメンバーで大学に通って勉強もしました。そして、将軍家に献上した歴史的背景から「献上寒晒しそば」というブランドを確立しました。

なお、以前は生産者から購入していた玄そばも、2016年からは自分たちで畑を借りて栽培を始めています。この年は全国的に農作物が不作の年でしたが、そうした中でも「八ヶ岳蕎麦切りの会」はなんとか寒晒しに向く上質な玄そばを厳選し、180kgを確保しました。

こうした努力の結晶である「献上寒晒しそば」。毎年7月の土用の頃だけの数量限定で、例年1週間から10日ほどで完売してしまうため、確実に食べたい方は予約必須です。
そのおいしさの真髄を知った上で、今まで体感したことのない極上の味わいをぜひ堪能してください。

八ヶ岳蕎麦切りの会
長野県茅野市金沢2332勝山そば店
[営業時間] 各店舗による
0266-82-3556(勝山そば店)
信州蓼科高原献上寒晒しそば祭
長野県茅野市内のそば店
[開催期間] 2017年7月14日(金)~30日(日)
0266-72-2800(茅野商工会議所)

島田浩美
編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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