世界遺産の温泉地、温泉津「薬師湯」で大正時代にタイムスリップ

2017.03.14

島根県大田市にある温泉津(ゆのつ)温泉は、世界遺産・石見銀山の一角に位置し、温泉地としては全国で初めて国の重要伝統的建造物群保存地区(町並み保存地区)に指定された温泉街です。レトロな洋風建築が魅力的な外湯「薬師湯(やくしゆ)」と、大正初期に建てられた旧館を利用した「震湯(しんゆ)カフェ内蔵丞(くらのじょう)」で、大正ロマンに浸るひと時を過ごしてきました。

▲温泉街の中心に位置し、観光客に人気の外湯「薬師湯」。その隣に建つのが「震湯カフェ内蔵丞」

薬師湯で最高評価「オール5」の天然温泉を堪能

温泉津温泉があるのは、島根県中部の大田(おおだ)市。市内には世界遺産「石見銀山」があります。戦国~江戸時代に銀を運び出す街道の一角だった温泉津も世界遺産登録地区の一部で、昔ながらの風情を残す町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
▲重要伝統的建造物群保存地区に指定されている温泉津温泉街。日が暮れるとオレンジ色の灯りに包まれる

そんな温泉津温泉街にある外湯2軒のうちの1軒が「薬師湯」です。JR温泉津駅から徒歩15分ほどの場所にあり、泉質はもちろん、素敵な建物とあたたかいおもてなしで観光客の人気を集めています。
▲2階の丸い出窓が印象的な「薬師湯」外観。男湯・女湯で入口が分かれており、中心に番台のある昔懐かしいスタイル

「薬師湯」は、日本温泉協会が実施する天然温泉審査において、全6項目で最高評価の「オール5」を取得した100%かけ流し温泉。温泉津温泉には約1,300年の歴史があり、昔から「万病に効果がある」と言われ、原爆治療にも活用された湯治場です。

さっそく入浴!自然湧出の源泉で体の芯までポカポカに

女湯の入口を入ると、そこにはレトロな空間が広がっていました。映画に出てきそうな味わいのある雰囲気です。
▲館内は木やステンドグラスがあたたかいレトロな空間。青い暖簾をくぐると女湯の脱衣所

お風呂に入ってまず驚いたのは、湯船の周りに結晶化した「湯の花」が幾重にも付いていること。湯の花とは、温泉成分が結晶化したもので、年月を経て蓄積した姿は芸術作品のようです。
▲幾重にもこびりついた湯の花が「薬師湯」の歴史を感じさせる

施設の真後ろにある自然湧出の源泉から、一切手を加えずに注ぎ込まれる褐色のお湯は、自然の恵みそのもの。温度は40~42度と少し熱めで、鉄の香りがします。泉質は強めの炭酸泉で、体がしびれるように温まり疲れが取れる感じがしました。

マネージャーの大中(おおなか)久美さんによると、2~3分浸かったら湯船から出て、椅子に腰掛けて2~3分休む。このように出たり入ったりを繰り返し、額に汗が出始めたら上がると良いそうです(だいたい4~5回が目安)。

また「薬師湯」には備え付けの石けんやシャンプー類はありません。湯に浸かるだけで体の脂分が取れる泉質なので、置いていないとのことでした(必要な人は番台にて税込100円~購入可)。

入浴後は館内の雰囲気を楽しみながらゆったり休憩を

お風呂から上がると体は芯までポカポカ。お肌は化粧水をつけた後のようにしっとりスベスベになっていました。「2階と屋上に休憩スペースがあるので、ゆっくりして行ってくださいね」と大中さんに促されるまま2階へ。外観を見て気になっていた丸い出窓の部分は休憩スペースでした。
▲2階の無料休憩スペースは優雅な雰囲気。大きな窓からは温泉津の町並みを見下ろすことができる

また、屋上階の踊り場にはコーヒーマシンが置いてあり、セルフサービスでコーヒー(無料)をいただくことができます。屋上はガーデンテラスになっており、天気の良い日はここでゆっくりと景色を眺めながらコーヒータイムを楽しめます。
▲屋上からは、石見地方特有の赤い石州瓦(せきしゅうがわら)屋根の町並みを楽しむことができる。この町並みは江戸時代からほとんど変わっていないそう

素敵な空間にあたたかいおもてなし、そして良質な温泉に身も心も癒されました。小さな温泉施設ですが、地元の常連客や観光客がひっきりなしに訪れ、番台からは「いらっしゃいませ!」という元気な声が絶えない素敵な温泉でした。

大正建築のカフェで江戸時代の奉行飯に舌鼓

「薬師湯」に隣接して建つ「震湯カフェ内蔵丞」。「薬師湯」の旧館を再利用したこの建物の建造は、大正8(1919)年。温泉施設として建てられた中では温泉津に現存する最古のものです。
▲写真奥のギャラリーは昔女湯で、手前のカフェ部分は男湯だったそうです

ここで石見銀山の歴史にまつわるランチがいただけるということで、さっそく注文してみました。その名も「温泉津の奉行飯(ぶぎょうめし)」(税込1,000円)です。
▲ほぐした鶏肉や錦糸卵など7種類の具材が乗った汁かけご飯(奉行飯)と、温泉津の源泉で蒸した季節の野菜、温泉卵がセットに

「奉行飯」の歴史は戦国時代に遡ります。代々「薬師湯」を経営する内藤家は、石見銀山が栄えた元亀1(1570)年に毛利元就によって温泉津の奉行に任命されました。それ以降、出陣時に食べるおばんざいとして受け継がれ、江戸時代に盛んに食べられた「奉行飯」だそうです。
▲ご飯と具材を混ぜながら、お出汁と一緒にいただく

昔の食べ物ということで薄味を想像していましたが、お出汁の旨みがしっかり効いていて、ついつい一気にかき込みたくなる美味しさでした。ヘルシーなので、湯治のために訪れた人にもぴったりですね。
▲ランチは奉行飯の他にこちらの自家製「内蔵丞カレー」(税込800円)もあります。お米は大田市産のコシヒカリを使用。スパイスが効いた本格派の味わい

アンティークに囲まれながらのカフェタイム

「震湯カフェ内蔵丞」の楽しみは食事だけではありません。大正8(1919)年に建造された建物をじっくりと鑑賞するのもおすすめです。見事な細工の組込式天井や、重厚な調度品の数々にうっとりしてしまいます。
▲店内も外の風景も大正時代と錯覚しそうな趣。大正ロマン気分に浸れます
▲釘が一本も使われていない組込式天井。現代の建築物ではまずお目にかかれない贅沢な造り

席ごとに趣が異なっており、その日の気分や好みによって座る席を選ぶのも楽しいです。
アンティークの葉巻やティーセット、蓄音機、ランプなど一昔前の調度品が飾られている店内はまるで美術館のようです。
▲革張りのソファ席も。豪華な書斎にいるような気分に浸れます

健康維持のために「薬師湯」を訪れる人を気遣い、カフェには砂糖不使用のオリジナルスイーツもあります。「雑穀プディング」(税込500円)は、アワ・発芽玄米・大麦など13種類の雑穀を使ったプディングの上に、小豆がたっぷり乗った和スイーツ。
▲「砂糖不使用だから」ではなく「美味しいから」という理由で次回も注文したいほど美味しかったです

クリーミーに仕上げられたプディングはコクのある美味しさ。蜂蜜を使って炊いた小豆と一緒に食べると優しい甘みが広がります。これなら糖尿病の方はもちろん、甘いものが苦手な方でも楽しめそうですね。

ちなみに「温泉カプチーノ」(税込500円)は、きめ細かいミルクの泡立ちとオリジナル温泉マークが自慢の一杯。ついつい写真を撮ってSNSにアップしたくなる可愛さです。
▲温泉マークと乙女チックなコーヒーカップが可愛い!

アンティークに囲まれながらのカフェタイムは、湯上がりのひとときを一層素敵なものにしてくれました。こちらで紹介したメニューの他にも、大田市産の無農薬の薔薇を使用したドリンクやアイスクリームなど、ここでしか味わえないメニューが豊富ですので、ぜひ訪れてみてください。
温泉津温泉「薬師湯」と「震湯カフェ内蔵丞」は、湯治場と憩いの場という、昔ながらの温泉の在り方を今に受け継ぐ貴重な温泉施設でした。大正~昭和初期の趣を残す建物は、若者には新鮮に、お年寄りには懐かしく感じられることでしょう。
▲「薬師湯」と「震湯カフェ内蔵丞」が並ぶ姿は温泉津温泉のシンボルと言えるほど素敵な景観

温泉津温泉街では、どこを切り取ってもレトロな昔ながらの風景を楽しめます。山の谷間にひっそりと佇む温泉津温泉で、大正時代にタイムスリップした気分に浸ってみませんか?
▲もう一つの外湯「温泉津温泉・元湯」。「薬師湯」の近所にあり、こちらも地元住民に愛されています(営業時間 平日8:00~20:00、土・日・祝日6:00~/料金 大人370円、小人200円※ともに税込)
小島有加里

小島有加里

島根県在住のグラフィックデザイナー。島根県の観光情報サイト、フリーペーパーなどでライターも務める。山陰のおいしいもの・楽しいこと・素敵な場所を発掘するのが趣味。(編集/株式会社くらしさ)

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