松山の港町に根付くソウルフード「三津浜焼き」を食べ比べ!

2017.07.03

日本人の大好物のひとつ“粉もん”。全国各地でコンテストやサミットが開催されることもある粉もんの代表格といえば、「関西風お好み焼き」や「広島風お好み焼き」が挙げられますが、実はここ愛媛県松山市にも、古くから地元で愛されてきた粉もんがあります。「三津浜焼き」と呼ばれ、一見広島風にも見えるそのお好み焼きには、実は独自のルールが存在しています。今回はその「三津浜焼き」を紹介するべく、2店の味を食べ比べてきました。

松山市の中心部から車、もしくは伊予鉄道の郊外電車で約20分ほどの位置にある、三津浜という漁業が盛んな港町。朝夕にはたくさんの漁船が停泊した港が、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。
この町で提供されている「三津浜焼き」は、大正時代に庶民に親しまれた、水で溶いた小麦粉を鉄板で焼いてソースをかけた“一銭洋食”が起源となったもの。一番多い時期では約70軒ほどがひしめき合って提供していたそうですが、時代の流れでだいぶ減ったものの今でも約30店舗ほどの店が営業中。地元の人たちは必ず行きつけの店を持っているという、いわゆるソウルフードです。

広島風とはここが違う!三津浜焼きの10カ条

一見した限りでは広島風に似ている三津浜焼きですが、実はいくつか異なる点が存在します。独自に発達してきた文化のため、「こうしなければならない」という決まりはなかったのですが、この三津浜焼き文化を守ろうと、「三津浜焼き推進プロジェクト」という任意団体が下記のような10カ条を制定しました。

1.三津浜で古くから親しまれている「ちくわ」を使っている
2.味つけをしたうどん、もしくはそばが入っている
3.店舗ごとで工夫されたオリジナルソースを使っている
4.隠し味として「魚のけずり粉」が入っている
5.トッピングは、肉や海産物、牛脂など各店で様々に工夫している
6.二つ折りの半月型で提供される
7.ソースは折る前と折った後との二度塗りである
8.通はコテを使って鉄板の上で食べる
9.生地の上に麺がのった三津浜焼きは「台付き」、焼きそば・焼きうどんは「バラ」、生地の上に野菜のみで焼いたものは「素焼き」と呼ぶ
10.大正の頃の「一銭洋食」が原点。三津浜の人々にとって古くから「洋食」として親しまれた伝統を受け継いだ物語がある

この10カ条の中で、最も特徴的なのが1、2、6です。

まず1のちくわ。漁師町ということもあり、小魚を使ったちくわは馴染み深い庶民の味。地元・三津浜で古くから親しまれている紅白のものを使用するのが一般的です。
食べた時の食感にアクセントを加えてくれるだけでなく、隠し味に加える魚粉と相まって味に深みを出してくれます。

2の麺ですが広島風との違いはここにもあります。大半の店で中華麺かうどんかが好みで選べ、その麺にあらかじめソースで味をつけてからお好み焼きに加えていきます。
ちなみにこの重ね順にも三津浜焼きの特徴が。広島風は、小麦粉の台の上にはキャベツをのせ、その他の具材を乗せてから麺と合わせるのが一般的ですが、三津浜焼きでは先に麺を乗せ、その上からたっぷりのキャベツ、そしてちくわや天かすなどの具材、そして最後に肉と牛脂という順番となります。

そして6の、半月型に折りたたむ提供スタイル。
今でも三津浜焼きが食べられるお店は、住宅街の入り組んだ場所や、見逃してしまいそうな小さなお店ばかりですが、もともと自宅の一部で細々と提供したり、本業のお店の一角で始まったりした店が多数。小さな鉄板を駆使して提供されていたため、「こっちで新しいのを焼くけん、こっちで食べよってや」と、半分に折ってお客さんに出していたからだと言われています。

その他にも、ボリュームを出すため、持ち帰りの容器に入れやすいためなど諸説あるのだとか。

それでは実際に食べに行ってみましょう。

1.地元民からも観光客からも愛される、老舗の名店「日の出」

1店舗目は、2017年で創業から約55年になるという「日の出」。港沿いを走る県道19号線沿いにあり、「三津浜焼きを知るにはまずここ」という人も多い名店です。週末ともなれば行列ができることも少なくありません。
店内は8席ほどしかないカウンターのみ。叔母さんから1997年に受け継いだという大将が一人で鉄板の前に立っています。
メニューはシンプル。「台付」と呼ばれるものが、いわゆる三津浜焼きです。今回は一番オーソドックスなスタイルで、「台付肉玉、油(牛脂)トッピング、そば」(700円・税込)にしました。
まずは熱した鉄板に生地を伸ばしていきます。これを台にして具材をのせていくため、三津浜焼きは“台付”と呼ばれます。お店ごとに出汁で伸ばしたものだったりと味付けも様々ですが、ここ「日の出」は卵なども使わずシンプルに小麦粉を水で伸ばしたもの(味付けは秘密とのこと)を使っています。
この隣で茹でた中華麺を炒め、ソースで味付けをしたら台の上に乗せていきます。
トッピングする肉は牛肉か豚肉かお店により異なりますが、「日の出」では牛脂との相性を考え、創業当初から牛肉を使用しています。
ひっくり返して具材の全てに火が通るまで焼いたら、割った卵を下に滑りこませます。まるで手品のような目にも止まらぬ早業で、写真も追いつかないほど(笑)。卵を焼いてその上に返して合わせる店も多いのですが、なぜこの焼き方なのかと大将に問うと「鉄板が小さくて、ひっくり返すスペースがないけんね」と笑いながら教えてくれたのでした。
最後にもう一度返すと、きちんと卵が具材を閉じ込めていました。立ち上る湯気はキャベツから出るもの。
卵側からソースを塗り、そこを内側にして二つ折りに。そして表面にもソースを塗ったら完成です。
焼きあがったら小さなヘラを渡されました。地元の方たちは鉄板から直接ヘラで食べるとのこと。少しハードルが高いなと思った方はお箸やお皿も貸してくれますので、ご安心を。
創業以来変わっていないというソースは、酸味と甘さのバランスが良く、見た目よりもスッキリとした後味。「日の出」の三津浜焼きは、押し付けるのではなく空気を入れながら焼き上げるので、ふわふわとした食感に。キャベツの甘みがソースとも良く合います。
カウンターで食べている間も、ひっきり無しに持ち帰り予約の電話が。現役のピンクの公衆電話が良い味を出しています。ちなみに長年の油でお金を入れる穴が埋まってしまったそうで、着信専用なのだそうです(笑)。
▲合わせる麺にうどんを選ぶ人も。男性は2玉のダブルなどを選ぶことも多いそうですが、最高で7玉をペロリと食べた人もいるとか!

あっという間に鉄板の上がいっぱいになってしまいました。平日でも1日に平均100枚以上、休日ともなれば200枚近く焼くことも多いのだそうです。「夢の中でも焼いていたことがある」と笑う大将。人気店ゆえ、休日は並ぶことも多いので時間に余裕を持って来店を。座席の予約はできませんが、電話での事前注文はできるので、できれば事前に電話をかけておくのがベターです。

2.三津浜焼きに欠かせない麺を知り尽くした「たな家」

2店舗目は三津浜で1952(昭和27)年より製麺業を営んできた「田中製麺所」が手がける三津浜焼き店「たな家(たなか)」です。実は現在営業している三津浜焼き店の半数以上がこの田中製麺所の中華麺やうどんを使用しているとのこと。量販店には一切卸していないので、飲食店でしか味わえない麺なのです。

「たな家」があるのは、三津浜エリアから20分ほど車で走った北条地区。長年、製麺所として関わってきた三津浜焼き文化を残したい、広めたいとの想いから、閉店する店を受け継ぐ形で2013年に三津浜焼きの専門店としてオープンしました。
ここでも一番ベーシックな三津浜焼き(600円・税込)を注文。
作り方の工程は基本的に「日の出」と同じですが、この店の味の特徴はやはり麺の美味しさにあります。さすが製麺のプロ!と唸る人も多いほど。最終的に焼きあがった時の食感を考え、絶妙な茹で加減で麺をあげるのだとか。
台の上に、ソースと魚粉で味付けをした麺、食感を残し大きめに切ったキャベツ、豚バラをトッピング。やはりたっぷりの牛脂が乗せられます。
火を通すことでこの牛脂がキャベツの甘みを引き出すのですが、塊が苦手な女性も多いとのことで、様子を見て食感があまり残らない細かなものを使うこともあるそうです。
一度豪快にひっくり返します。
この“台”がフタのような役割を果たし、間にある具材とキャベツが蒸し焼きのような状態に。きちんと野菜が蒸しあがるように考案された生地も、製麺所ならではの複数の小麦粉の配合で作られているそうで、他のお店とは一線を画しています。湯気の立ち具合で焼き上がりのタイミングを計るのだそうです。
割った卵の上に乗せて閉じ込めたら、再度返します。
内側になる卵の面にソースを塗り半分に折りたたんだら、もう一度ソースを塗って完成!
ジュウジュウと音を立てるソースの香りが、ますます食欲をそそります。最後に魚粉と青のりをふりかけたらいよいよ実食!
「たな家」のソースは甘みが強く、最後に酸味がくるタイプ。パリパリと焼けた部分と、もっちりと弾力のある部分、両方の食感が楽しめる麺との相性も抜群です。ソースと野菜の旨味が絡まった細麺は噛むほどに旨味が感じられ、オリジナルの台は薄いながらも弾力があり、三津浜焼きの美味しさを包み込むようにまとめあげています。
鉄板前の“アリーナ席”は3席ほどしかありませんが、店内は広いのでゆっくり食べたい人にもぴったり。15時以降は持ち帰りのみになります。
見た目はワイルドだけれどふんわりとした食感で素材の味を大切にした優しい味わいの「日の出」と、麺をしっかり味わえて上品でまとまった美味しさの「たな家」。2店周っただけでも、それぞれの個性を堪能することができ、こんなに違うのかとワクワクさせてくれました。
また三津浜には「三津浜焼き推進プロジェクト」という任意団体に登録された、三津浜焼きを提供するお店が松山市内でも37店舗(2017年6月現在)ほどあります。具材はシンプルですが、焼き方、ソースなど各店それぞれの違いがあり、三津浜焼きの奥深さが実感できます。ぜひいろいろな三津浜焼きを食べ歩いてみませんか?
渡邊麻子

渡邊麻子

高知&静岡育ち。東京の出版社を経て「タウン情報まつやま」に10年間勤めたのち、2014年に独立。フリーランスのエディター&ライターとしてグルメ取材記事の作成ほか、企業のコンセプトブックなどに携わる。また音楽ライターとしての経験を活かし、南海放送ラジオでも音楽番組パーソナリティとして活動中。

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