3,500匹の鯉のぼりと鍋ヶ滝の絶景を望む「杖立温泉」の旅

2017.04.27

熊本県と大分県の県境近く、小国(おぐに)町にある「杖立(つえたて)温泉」。川沿いに旅館が立ち並ぶ情緒ある景色が魅力の温泉街です。毎年4月上旬~5月6日には、川の上を数多くの鯉のぼりが舞う名物「鯉のぼり祭り」も開催されます。車で20分の場所にある、TVCMロケ地として使われた「鍋ヶ滝」と共に、この時期だけの美しく味わい深い景色を楽しんできました。

「九州の奥座敷」と呼ばれる、昭和の風情が残る秘境の温泉街

杖立温泉は、熊本県阿蘇地方の北部、大分県境と接する温泉街です。杖立川の美しい渓流沿いに旅館やホテルが立ち並び、あちこちから湯煙が昇る景色が、なんともいえない情緒を醸し出しています。
▲杖立川を挟んで温泉旅館が立ち並ぶ杖立温泉の景色(写真提供:杖立温泉観光協会)
▲通りに展示されている、昭和初期の杖立温泉の景色

杖立温泉の始まりは1800年以上前といわれ、平安初期に弘法大師が杖立温泉の効能を喜んだという歌も残っているそう。長く湯治場として愛されてきましたが、昭和時代には福岡の炭鉱夫や海苔業者、さらに農家が田植え後の余暇「さなぼり」を過ごす歓楽街として栄え、この頃から「九州の奥座敷」と呼ばれる存在になりました。
▲温泉街のあちこちに、湯煙漂うノスタルジックな景色が。今でも昭和のノスタルジーが残る味わいある街並みと名湯を目指して、多くの観光客が訪れます

杖立温泉には、自噴式の源泉が複数あります。しかも源泉の温度は98度と高温。そのため、温泉街のあちこちで湯煙が噴き上がる光景が見られます。この自然の力を使い、「蒸し場」で玉子や野菜などの蒸し調理ができたり、「蒸し湯」でミストサウナのような入浴法を楽しめたりするのも、杖立の魅力の一つ。泉質は弱アルカリ性の塩化物泉で、天然の保湿成分といわれる「メタケイ酸」を多く含み、美肌の湯としても愛されています。
▲街のあちこちに、湯煙が上がる蒸し場が多く見られます

暮らしの知恵から始まった、3,500匹の鯉のぼりの競演!

▲川と空、湯煙との競演が、大迫力!

杖立温泉の春の風物詩と言えば、杖立川の上で鯉のぼりが舞い踊る「鯉のぼり祭り」です(例年4月1日から5月6日まで開催)。ここ杖立温泉は鯉のぼり祭り発祥の地といわれており、温泉街の川を埋め尽くす鯉のぼりの姿は圧巻!橋の上から見れば川を泳ぐように、川沿いから見上げれば空を飛ぶようにゆらめく、色とりどりの鯉のぼりを楽しめます。
▲風があるときとないときで、景色も変わります。写真愛好家も多く訪れます

この「鯉のぼり祭り」が始まったのは1979(昭和54)年から。川沿いの狭い土地にお宿やお店などが建て込む温泉街には、男子が生まれても、大きな鯉のぼりを立てられるような広いお庭を持った家がほとんどありませんでした。「だったら、川の上に吊るそう!」と発案したのが始まり。地域に眠っていた鯉のぼりを集めて200匹を飾ったところ、その風景が話題となり、年々数が増えていきました。
2017年現在では約3,500匹もの鯉のぼりが泳ぎます。
▲川岸に立ち並ぶ趣深い建物との競演も素敵

最近は「マンションなどで自宅に大きな鯉のぼりを飾れない」と、熊本県内外から子どもの名前入りの鯉のぼり飾りを依頼されることも増えているそうです(有料)。また、2017年は、熊本地震の復興メッセージや支援感謝の言葉を綴った鯉のぼりも展示されています。
レトロな温泉街の中で、色とりどりの鯉のぼりが舞い踊る春だけの風景。ぜひカメラを持って出かけたいですね!
▲19時~22時はライトアップも行われます。宿泊してゆっくり楽しむのもオススメ!

「絵鯉」に蒸し場、背戸屋、プリン…。昭和レトロな街歩きを堪能

鯉のぼりの景色を楽しみながら、温泉街の北部にあるパワースポット「紅葉橋」へ。ここでは、絵馬ならぬ「絵鯉(えごい)」にお願い事をしましょう。
▲杖立川のもっとも下流側にかかる「紅葉橋」
▲橋の上には、所狭しと「絵鯉」やくまモンなどの願い札が!

橋のすぐ横にある「ふるや工房」前には、地元で採れた小国ヒノキで作られた「絵鯉」(小250円・大300円)をはじめ、「くまモン」(350円)、「ハート」(300円)など様々な願い札が用意されています(すべて税込)。「鯉=恋」とかけて恋愛成就を願うもよし、学業成就、商売繁盛…思い思いの願掛けをしましょう。
▲「絵鯉」ほか、願い札は全てハガキにもなります。お土産にもオススメ
▲鯉のぼりが見える場所に掛けてみました。願い事が叶いますように…!
▲「紅葉橋」近くには、チャボやカモの休憩所も。のどか~

さあ、お腹が空いてきたところで、蒸し場を利用してみましょう。自噴の温泉を活かして、無料で蒸し調理ができる公共の蒸し場が温泉街のあちこちにあります。地元の人が普段から活用している蒸し場は、観光客が利用しても、もちろんOK!野菜や食材を自由に持ち込めますが、500円(税込)で食材セットを買える販売機や、食材を売ってくれるお店も近くにあるので、手ぶらでも大丈夫です。
▲温泉街のいたるところにある蒸し場。高温の温泉蒸気が噴き出しています
▲観光駐車場の近くには、食材の販売機あり!塩もセットで嬉しい。食材を持ち込む場合は、ざるやカゴの持参を
▲蒸気の上に備え付けのせいろを置いて、その中に食材を入れます。玉子は30分以上蒸すと、ほんのり色づく温泉卵に

蒸し場の食材が蒸し上がるのを待つ間に、温泉街の散策を楽しみます。川沿いから路地裏エリアへ。迷路のように入り組んだ狭い路地裏は「背戸屋(せどや)」と呼ばれます。昭和の時代に各宿が増改築を繰り返したことからできたこの街並み。昭和時代にタイムトリップしたようで、フォトジェニック!
▲狭い路地が縦横無尽に走っています。昭和時代のテイストたっぷり
▲階段を上って、下って…。今どこにいるのか分からなくなりそう!

さあ、そろそろ蒸し場の食材は蒸し上がったでしょうか…?蒸し場へ戻ってみると、ちょうどホクホク蒸し上がり!今回使った「桜橋」たもとの蒸し場の近くにある屋根付きのイートスペースで、早速いただきます。温泉のミネラル分のおかげか、野菜はどれもホクホクに蒸し上がり、素材の味がとっても深い!素朴な調理法で頂く贅沢な味わい、やみつきになりそうです…。
▲ホクホクに蒸し上がりました~。おいしそう!
▲普通に蒸すよりも、より食材本来の味が濃く感じます。不思議!

蒸し料理を堪能したら、次はデザート!名物「杖立プリン」を頂きましょう。杖立温泉では昔から、茶わん蒸しを甘く味付けして温泉で蒸した「甘玉子」という甘味が食べられていました。それを地域の名物にしようと、宿やお店ごとに趣向を凝らした「杖立プリン」を作りだしたのです。

コクのある小国ジャージー牛乳を使うことが「杖立プリン」の条件。現在、17軒のお宿・お店が「杖立プリン」を提供しており、お宿やお店でイートインできるほか、持ち帰りできるところもあります。温泉巡りと一緒に、プリンの食べ歩きを楽しむ人も増えているとか。「杖立プリンあります」の看板を目印に!
▲「湯治旅館 新ひたや」のお座敷でいただく杖立プリン「からいもプリン」(税込300円)。小国いもを練り込んだ優しい甘さ!

その他、足湯やパワースポットも巡れる楽しみ所いっぱいの街歩き。心も体も解きほぐされていきました。
▲無料で利用できる足湯「御湯の駅」。歩きながら足ツボ押しができる浴槽も!
▲「賽銭洗い弁天」で銭を洗うと、お金が増える…!?お札洗い用のタッパーもあります

美肌の湯にゆったり浸かって、街歩きの疲れを癒しましょう

さあ、街巡りを楽しんだら締めの温泉です!杖立温泉には、地元の人も利用するレトロな共同湯や湯治宿の他、旅館、ホテルなど様々な温泉施設があります。今回訪れたのは、観光駐車場すぐ近くにある「純和風旅館 泉屋」です。
▲木造のレトロな佇まいが魅力のお宿
▲迎えてくれたのは、若女将の渡邊香さん。このお宿で生まれ育った、生粋の杖立っ子!4児のママでもあり、子育て世代へのサービスも万全のお宿です

明治5(1872)年創業で、今あるお宿の中でも最古参の旅館です。築70年ほどの木造旅館は、レトロな雰囲気が魅力的。昔ながらの狭めの浴槽が多い杖立温泉の中でも、広い大浴場を持つことから、宿泊だけでなく立ち寄り湯の利用客も多いそうです。
さあ、早速温泉へ!
▲「石庭の湯」(写真)と昔ながらのレトロな浴槽は、日替わりで男女が入れ替わります

お肌に優しい無色の湯は、お肌に吸い付いてすべすべに!そして、杖立温泉名物の蒸し湯にも入ります。蒸し湯とは、温泉の蒸気を浴びる入浴法のこと。通常のサウナよりも温度が低いため息苦しくなく、ミネラルたっぷりの蒸気が髪や肌に入り込むことにより、お肌ツヤツヤ、髪サラサラになるのだそう。地元では昔から「風邪をひいたらまず蒸し湯」と言われるほど、日々の健康維持に活用されています。
▲蒸し湯の入浴時間は15分くらいがベスト
▲温泉の蒸気に満ちた箱の中に入る箱形蒸し湯も。気持ちいい~

泉屋の蒸し湯は、通常のサウナ形式と箱に入るタイプの2種類があります。サウナ空間の暗さやミストの息苦しさが苦手な人、ゆっくり長湯したい人は、泉屋オリジナルの箱形の蒸し湯を。首から下を包む箱の中にはイスがあり、ゆったり座ってくつろげます。
▲湯上がりにはイートインスペースで、泉屋オリジナルの「ほうじ茶プリン(税込250円・立ち寄り入浴とセットで税込700円)」を。ほうじ茶の程よい苦みがたまらない大人味

ちなみに、「泉屋」はほぼ全室から杖立川が見えます。「鯉のぼり祭り」の季節には同じ目線で鯉のぼりを楽しめる部屋も。この時期を選んで宿泊する常連客もいるそうです。
▲2階の角部屋からの景色。鯉のぼりの風景を独り占めできます!

温かなおもてなしとおいしいプリンに、疲れも吹き飛びました。昭和のノスタルジックな景色と、故郷に帰ってきたかのような人々の雰囲気に、心が癒されっぱなしの杖立温泉の旅でした。

CMのロケ地にも選ばれた「鍋ヶ滝」。美しい水のカーテンを目の当たりに

杖立温泉から車で20分のところに、見逃せない美景スポット「鍋ヶ滝(なべがたき)」があります。せっかくなので足を運んでみましょう!
▲幅約20m、落差約10mの滝が、山奥にそっと姿を現します

水がカーテンのように薄く落ちる景色は、とても神秘的!有名清涼飲料水のTVCMのロケ地に選ばれたことから人気が出て、多くの観光客が訪れるスポットになりました。この奇跡的な景色は、約9万年前の阿蘇の巨大噴火をきっかけに出来上がったと言われています。
▲滝へは駐車場から山奥へ5分程歩きます。歩道は整備されていますが、傾斜も大きいので、歩きやすい靴で来るのがベター。杖のレンタルもあり
▲滝の裏側にも入れます!何だか不思議な景色です。雫などで濡れやすい場所もあるので気を付けて
▲滝を通って反対側に回れば、写真撮影のベストスポット!
▲毎年4月上旬には期間限定で、夜間ライトアップが行われます。一層神秘的な風景に!

四季折々に美しい景色を楽しめますが、春は特に新緑と滝の色が混ざり合って、最も神秘的な景色に。ぜひ杖立温泉の「鯉のぼり祭り」と一緒に楽しみたいスポットです。
中川千代美

中川千代美

長崎生まれ、熊本在住。地方出版社に勤めたのち、「チヨミ編集事務所」として独立。地域の子育て情報誌や生活情報紙をはじめ、幅広いジャンルの編集・ライティング・企画を手がける。食欲・物欲・お出かけ欲・温泉欲・ビール欲が赴くままに熊本・九州を駆け回る日々。趣味は二胡。(編集/株式会社くらしさ)

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