屋久島ナイトツアーで夜の森を探検&ウミガメの命の営みに触れる

2017.07.26

世界自然遺産の島・屋久島。九州最高峰の「宮之浦岳」や樹齢数千年ともいわれる「縄文杉」など魅力はつきません。そんな屋久島を違った視点で楽しむプランがあるのをご存知でしょうか?漆黒の森を歩き、海辺で繰り広げられるウミガメの命の営みに触れる「ナイトツアー」をご紹介します!

▲運がよければ、アカウミガメの産卵や子ガメの孵化に遭遇することも

屋久島の神秘に遭遇する、闇夜の森歩き

参加したのは、闇夜の森歩きとウミガメの観察がセットになった「屋久島メッセンジャー」主催のナイトツアー(中学生以上1人7,000円・税込)。屋久島在住のガイドがナビゲートしてくれる夏季限定(5月中旬~9月中旬)のスピリチュアルなプランです。取材時は代表でありフォトライターでもあるベテランガイドの菊池淑廣(よしひろ)さんが担当してくれました。
▲屋久島でさまざまなエコツアーを主催する菊池さん

菊池さんのモットーは「すべては、お客様と私たち自身、そして屋久島のために」。
豊富な経験と知識をもとに、多岐にわたるアプローチから屋久島の魅力を伝えてくれます。

ツアーの集合は夜間(19:20~)になるため、ガイドが宿泊先までガイド車で迎えにきてくれます(※永田地区~志戸子地区は除きます。また、宿泊地域により集合時間が異なりますが、ツアー前日に電話連絡が入ります)。ナイトツアーは天候やウミガメの状況にもよりますが、だいたい20:30~24:00の間。帰りも宿まで送ってもらえるので安心です。

屋久島は周囲約130kmの円形の島。海に沿って集落が点在するため、島の形をそのまま時計の文字盤に見立てると、フェリーや高速船が発着する宮之浦港は1時、屋久島空港は2時すぎ、筆者が泊まった宿がある安房(あんぼう)は3時すぎの位置にあります。めざす栗生(くりお)は、さらにぐるりと島を南下してだいたい8時の位置。8時から10時の位置の間は、集落も民家もない「西部林道」と呼ばれる区域です。
▲昼間の西部林道。豊かな森に育まれたサルとシカの楽園

照葉樹の森が広がる西部林道は、亜熱帯から冷温帯までの植物が海から山へ連なって分布する貴重な生態系(垂直分布)を保っています。ヤクシマザル(ヤクザル)やヤクシカに出会える確率も高く、ときにはシカの上に乗って遊ぶサルの姿を見ることも。島で昔から言い伝えられている「ヒト2万、サル2万、シカ2万」という言葉は、サルやシカと共生してきた屋久島の人々の暮らしぶりを物語っています。
▲ヤクザルは昼行性のため、夜間は寝床でおやすみ中

闇の中に浮かび上がる、大瀑布の清冽な流れ

栗生を目指して夜の道をひた走る車中では、菊池さんからナイトハイクやウミガメ観察の注意点などが伝えられます。同時に屋久島の自然や歴史、人の営みなど、ざっくばらんな島トークを交わしながらひとときのナイトドライブ。参加者は筆者を含めて4名。暗い車内ではお互いの表情は見えませんが、ワクワクと高揚した気分の中に「まだ見ぬ島の夜」に対する不安も入り混じっている様子が、おのおのの声の調子から伝わってきます。

21:00。絶え間なく動いていたワイパーが止まると、「着きました」と菊池さん。いよいよ雨のナイトツアーが始まります。レインウェアのファスナーを首元まで締め、ヘッドライトを装着。車を降りると、そこは漆黒の闇の中でした。
▲突如現れたヤクシカ。ライトなしでは何も見えない暗闇に五感が研ぎ澄まされます

当日は月の出も遅く、闇に目が慣れるまでに時間がかかります(天気が良ければ月明りor星明りの下でライトを消しても十分に歩けるとのこと)。あまりにも深い闇に圧倒されながらも、ヘッドライトの灯りを頼りに身を寄せ合って歩き始めるツアー参加者たち。

しばらく歩くと、雨と風の音に混じって聞こえていた水の流れる音が、どんどん大きくなってきました。そうです、我々は川沿いの道を上流へ向かって歩き、滝を目指していたのです!
▲目の前に突如現れた大川(おおこ)の滝。落差はなんと88m!

滝つぼに近い場所で、菊池さんの合図で一斉にライトを消してみます。一瞬何も見えない状態になりますが、しばらくゴーッという瀑布の音が聞こえる方を見ていると、次第に(ぼんやりとですが)確かに白い滝の流れが確認できました。落差88mの岩肌を一気に流れ落ちる大川の滝は、日本の滝100選にも名を連ねる名瀑です。

縄文杉をはじめとする樹齢数千年の屋久杉が育つ森に降った雨が、やがて川となり、滝となり、そして海へ還る自然の壮大な営みの中にしばし身を浸します。滝のしぶきは見えませんが、レインウェアから出した顔とメガネがしっかりと濡れるほどにマイナスイオンをたっぷり浴びました。
▲闇に目が慣れるとぼんやりと見えてくる、どこまでも清冽な滝の流れ

ろうそく1本の灯りで、夜の森を散策

続いて、滝からUターンすると今度は川の下流へと歩を進めます。そこで菊池さんがザックから取り出したのはキャンドルランタン。なんとここから先はライトを消して、ろうそく1本の灯りだけを頼りに森を歩くのだとか。
▲ろうそくを1本だけ灯し、スピリチュアルな趣きでナイトハイクのスタート
▲ヘッドライトとともにカメラのスイッチもOFF。はい、ここで撮影を諦めました

はじめは心もとなく感じたろうそくの灯りですが、慣れてくると周りの風景までボンヤリと目に映るようになってきました。ヘッドライトは明暗のコントラストが強烈なため照らされた部分以外はまったく見えませんが、光と影の境目をゆらゆらと揺れるキャンドルのおかげで、先ほどよりも歩きやすいような気がします。

時折、森の中でキラリと光る2つのガラスのような玉は、ヤクシカの瞳。夜の森には夜行性のヤクシカがたくさん。目には見えなくとも、森のそこかしこにケモノが息づいている様子がありありと実感できます(きっと人間の五感も研ぎ澄まされているからでしょう)。
▲川に沿って歩いていると、いつの間にか海へでました!山、川、海が繋がっているという当たり前のことをあらためて実感
▲スダジイの木に群生するシイノトモシビタケ。梅雨時期限定のほのかな灯火が美しい

雨降る幻想的な雰囲気の中、いよいよウミガメの産卵に遭遇

1時間ほどのナイトハイクを終えると、いよいよウミガメの産卵を観察へ。再び車に乗り込んで集落の中にある栗生浜へ向かいます。屋久島は日本一のウミガメの産卵地。毎年5月~7月にかけて多くのウミガメが浜辺へ上陸します。

子ガメの孵化は7月~9月頃まで。ウミガメの産卵や孵化に立ち会えるかどうかは、天候やウミガメの状態次第ですが、太古の昔から営まれてきた神秘的な命の風景が、暮らしのすぐそばにあることに驚きます。
▲ウミガメの保護活動のために、1人200円の協力金をおさめます

外敵を避けて、日没から明け方にかけて上陸と産卵を繰り返すウミガメ。音には比較的鈍感ですが、光にはとっても敏感。待機中も産卵中も原則的にライトの使用は不可。カメラのフラッシュはもちろん、デジカメや携帯電話の液晶画面の明りにも細心の注意を払いながら観察します。
▲浜辺を望む待機場所で、静かにウミガメの上陸を待ちます。ウミガメの上陸・産卵の有無にかかわらず、ツアーは24:00をめどに撤収となります
▲ん!?なにやら砂浜にノソノソとうごめく影が。どうやら数頭のウミガメが上陸して産卵準備をはじめたようです

ウミガメが浜に上陸し、産卵場所を決め、穴を掘り、卵を産み始めるまでは浜辺に下りることができません。待機場所からモゾモゾと動く影を静かに見守りながら、産卵の時を静かに待ちます。ウミガメの表情や動きははっきりとは見えませんが、ときおり聞こえてくるブフォッという息づかいが聞こえるたびに、心の中でそっと「頑張れ」と声援をおくります。

23:00。どうやら1頭のアカウミガメが産卵を始めたようです。菊池さんの後について、いよいよ私たちもウミガメのもとへ大きく回りこみながら近づいていきます。
▲こちらが産み落とされた卵。見た目も大きさもピンポン玉のよう。殻はペコペコと柔らかく、50cmほどの高さから産み落とされても割れることはありません

1度の産卵で産み落とされる卵は約100~150個。1シーズンに3~5回程度上陸して産卵します。原則、参加者はライトを持ち込むことはできませんが、産卵の様子は、ガイドのみ照らすことが許されるライトによって間近で観察することができます。

音はなく一定のリズムでポロンポロンと産み落とされる卵。60日から70日後には、子ガメたちがいっせいに殻を割って這い出し、海を目指します。
▲言葉もなく、ただただ静かに見守るひととき

ナイトツアーを終え、宿に帰りついたのは25:00。熱いシャワーを浴びて布団に潜り込んだものの、感動と興奮のあまりなかなか眠れません。なにげなく開いたスマートフォンの画面も、今夜の私には眩しすぎるようです。

屋久島の夜は暗く、深く、濃密で、とても美しい。町やヒトが寝静まった夜も、滝や川はとうとうと流れ、ヤクシカの鳴き声は森に響き、ウミガメたちは必死に生の営みを全うしているのです。屋久島の知られざる夜をめぐるナイトツアーで、ぜひ神秘の世界を体感してみて!
高比良有城

高比良有城

1978年、長崎市生まれ(現在は鹿児島市在住)。写真学生時代に屋久島をテーマに撮影をはじめ、20歳で移住。島の情報誌制作に携わりながら丸4年を過ごす。のちに鹿児島市に拠点を移し、フリーランスのフォトグラファー、ライターとして活動。屋久島はもちろん、種子島、奄美群島、トカラ列島、甑島列島など鹿児島の個性あふれる島々にカメラを向ける。

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