ダム好き必見!古城のようにフォトジェニックな「豊稔池ダム」を堪能

2017.06.03

まるで、巨大なモニュメントか城壁のように重厚感のある佇まい。香川県にある「豊稔池(ほうねんいけ)ダム」が、ダムファンの間で熱い人気を集めています。文化財としても価値の高いこのダムの見どころやおすすめ撮影スポット、ダムカードのもらい方など、さまざまな楽しみ方をご紹介します。

日本に2基しかない、マルチプルアーチ式ダム

近年じわじわ高まっているダム人気。マニアックなファンだけでなく、一般の旅行客にも観光スポットとして浸透しつつあります。
なかでも、ダム好きの間で一度は訪れたい場所と言われているのが、香川県観音寺市にある「豊稔池ダム」。一度見たら忘れられない、唯一無二の佇まいです。

「ふだん目にするダムとは全く違う形状ですよね。マルチプルアーチ式ダムといって、日本に2例しかない貴重な形式です」
豊稔池ダムの歴史や見どころを教えてくれたのは、観音寺市役所文化振興課の丸本哲貴(まるもとひろき)さん。
▲ダムの説明をしてくれる丸本さん。「作られてから2017年で87年経ちますが、いまだに現役なんですよ」

水をせき止める止水壁(しすいへき)が、大きな弧を描いて川に架かるアーチ式ダムは、よく見かける形です。マルチプルアーチ式とは、そのアーチが複数連なり、間に扶壁(ふへき)と呼ばれる支柱を立てた構造形式。地盤が堅固でない場所に適した形で、大正15(1926)年の建設当時は、最先端の技術だったそう。ただし、現在の河川構造令では築造できないため、日本では他に宮城県の「大倉ダム」しか現存していません。
▲こんなダム、見たことない!マニアでなくても心奪われるような勇姿

大倉ダムのアーチは2連ですが、豊稔池ダムは5連。さらに、コンクリート造の外面の一部を石積みで仕上げていることから、重厚感あふれる独特の存在感を放っています。その景観の貴重さや学術的価値の高さから、平成18(2006)年に、国の重要文化財に指定されました。なお、指定上の正式名称は「豊稔池堰堤(ほうねんいけえんてい)」です。

「ダム建設の主力として携わったのは地元の農家さんで、無事故で完成したこともすごいと思います」と丸本さん。ダムがある大野原町は、昔から干ばつに悩まされる水不足の地域でした。そこで、農業用水を溜めておくための池とダムの建設が、県の事業として発足。3年8カ月の工事を経て、昭和5(1930)年に竣工式が行われました。
▲建設当時の工事中の写真。石は地元から切り出し、砂は観音寺市の海岸などから集めてきたそう(資料提供:豊稔池土地改良区)

こうして完成した豊稔池ダムは、現在も500ヘクタール余りの農地を潤し続けています。大野原は、「らりるれレタス」というブランド名で全国に出荷するほど、国内有数のレタス産地に成長しました。

真下から見上げたときの、迫力と威容は圧倒的!

「豊稔池は、どこから撮っても絵になります。上から見下ろしても、下から見上げても、迫力のある写真が撮れますよ」
丸本さんに勧められて、さっそく現地に向かいます。アクセスはやはり車が便利。JR観音寺駅からタクシーで向かう場合は、30分くらいで到着します。
▲県道9号線の橋のたもとにある、終点のバス停。向かいの歩道から、ダムを見下ろすことができる

観音寺駅からは「のりあいバス」も出ていますが、1日2便しかないので注意。五郷高室線の田野々行きに乗って、運転手さんに「豊稔池ダムまで」と告げたら、1時間くらいのバス旅となります。料金は、たったの100円!
▲バス停に提示されている時刻表。田野々まで行くのは、観音寺駅発8時52分と14時53分の1日2本のみ。すぐ近くに駐車場もある

山々に囲まれたこの辺りの景色は、のどかそのもの。耳を澄ませば、近くから水音が聞こえてきます。県道から近づいてみると、ありました!扶壁の部分から滝のように水が流れ落ちている、ダムの勇姿です。
▲山中に溶け込んだような姿が、古城っぽい雰囲気を盛り上げる

これは、洪水吐(こうずいばき)と呼ばれる、増水時の水を放水させる仕組み。ダムの頂上まで増水した時点ですべての水を一気に落下させるのではなく、サイフォン式の洪水吐を5カ所設けて、徐々に放水させるという工夫が凝らされています。
そういえば、前日は確か大雨。豊稔池の水位がかなり上がらないと、洪水吐からの放水は見られないので、この日はラッキーでした!

さらに、水が斜めの壁をつたって落ちることで、地盤にかかる水圧も分散できるという配慮も。こうした工夫と視覚的効果が、文化財としての価値をいっそう高めています。
▲さらに近づいてみると、池の水位がかなり上がっていることが判明。桜の時期だったので、眺めの美しさもひとしお

続いては、下からの眺めを堪能しに行きます。県道から坂道を下りていくと、「豊稔池遊水公園」の入り口に到着。駐車スペースもあり、レンガ造りの橋を渡ると、目の前にダムが現れました。
▲橋を渡ると、ダムに隣接した遊水公園。遠くからも、ものすごい存在感が伝わってくる

下から全体像を見上げると、城壁のような構造がもたらす力強さに圧倒されます。5つのアーチと、それらを支える6つの壁。壁に設けられた洪水吐から、勢いよく流れ落ちる水。年月を経て、黒く変色した表面の石積みが醸す風合いも格別です。
▲遊水公園からの眺め。撮影スポットとしてだけでなく、ピクニックスポットとしても人気

近くまでくると、かなりの大きさ。高さは30.4m、長さは145.5mとのことです。そしてこのダム、柵やフェンスらしきものがほとんどありません。つまり、普通では考えられないくらい、ダムの近くまで行けるのです!

あくまで自己責任でと言われたことを心に留めつつ、行けるところまで行ってみることに。洪水吐の水を受け止める「減勢工(げんせいこう)」と呼ばれる池の囲いをつたって、アーチのふもとに向かいます。
▲減勢工の白い囲いの上を歩いて、奥の階段を目指します
▲囲いの上からダムを見上げると、迫力満点!
▲壁に囲まれたアーチ部分のアップ。風化した石の質感にしびれます

洪水吐の水が流れ落ちるギリギリのところまで近づいて見上げると、思わず歓声が。水しぶきの勢いもさることながら、まぶしい陽光にくっきり浮かび上がったアーチの輪郭の雄々しいことといったら!
▲真下から見上げたダム。逆光がシルエットを引き立たせる

ダムマニアでも写真マニアでもないのに、撮影のスイッチが入ってアドレナリン全開!アングルを変えて、とにかく撮りまくります。
▲壁の真正面から煽ると、吸い込まれそうな気分に

洪水吐からの放水がないときは、さらに近づいて、壁と壁の間のアーチ部分に入り込むこともできるそう。そこまで接近できなかったのは残念ですが、放水を見られたことに大満足。
▲左側から回り込んでの一枚。こちらからのアングルも格好いい
▲左側は、放水が減勢工近くの階段に当たって、この日はこれ以上の接近は不可能。滑りやすいので、撮影時はスニーカーを履くなど注意を

遊水公園では、ダムの上部へもぜひ上ってみて。木々の茂みに囲まれた左手の階段を上ると、視界が開けて豊稔池が現れます。
▲公園内の左手にある緩やかな階段を、5分くらい上ります
▲広々とした豊稔池は、貯水量159万平方メートルを擁する

池のほとりには、ダム建設の経緯や功労者などを記した「豊稔池碑」や、水神を祀る「水神社」が建てられています。
▲五穀豊穣を表す稲や麦、鳥などのモチーフがあしらわれた豊稔池碑
▲こぢんまりした佇まいの水神社

ダムの方向を見やると、池の水面が頂点近くまでなみなみとしているのが見えました。さらに水位が上がる大雨になると、洪水吐の水の勢いが増すだけでなく、ダムの頂上からも水が流れ落ちるのだそう。きっとものすごい迫力なんでしょうね。
▲ダム側の豊稔池の水面。ここには柵があって進入禁止なので、くれぐれもダムの上には行かないこと!

ふたたび下に降りると、公園にはカメラを下げた人やお弁当を食べる人がちらほら。ダムファンの旅行者だけでなく、地元の人の憩いのスポットにもなっているようです。
▲公園の一角には東屋も。ここでダムを見ながらのんびりするのもおすすめ

訪れた日は桜が満開でとりわけ写真日和でしたが、「新緑や紅葉など、四季折々に違った表情を見せてくれるのも魅力」だと、丸本さんも言っていました。さらに、放水があったりなかったり、放水の勢いも緩やかだったり激しかったりと、いつ訪れても違った顔を見せてくれそうです。
▲桜越しのダムも風情たっぷり。涼しげな放水が、いっそう情緒を掻き立てます

とりわけ、毎年7月の下旬~8月頃に行われる「ゆる抜き」は、盛夏の到来を告げる風物詩として有名。ゆる抜きとは、雨量の少ない夏に下流の農地を潤すため、豊稔池の水を一気に放水する行事。毎秒4トンもの水が轟音と共に流れる様は壮観で、毎年たくさんの観光客を集めています。
▲ゆる抜きのときは、一番右の洪水吐からバルブが開かれて水が流れる(写真提供:観音寺市)

2016年は8月9日に行われましたが、その年の雨量によって日にちは変動します。地元の有志が情報発信する「豊稔池ダムファン倶楽部」のFacebookページで直前に発表されるので、この時期はぜひチェックを!

訪れた記念に、ぜひダムカードをもらおう

はるばる豊稔池ダムを訪れたら、ひと足伸ばしてぜひ手に入れたいのが、最近人気のダムカード。ダム見学の証としてもらえるこのカードは、表に写真、裏にダムのスペックが記載されています。長らく待望されていた豊稔池のダムカードですが、2016年、ついに配布が始まりました!
▲平日の配布場所は、豊稔池土地改良区事務所。大野原図書館に隣接している

配布場所は、平日は豊稔池ダムの維持管理をしている「豊稔池土地改良区」事務所で、休日や祝日は、道を挟んだ向かいにある「観音寺市大野原支所」。どちらも観音寺駅と豊稔池ダムの中間地点くらいにあるので、車かタクシーで行くのが便利です。

この日は平日だったので、土地改良区の事務所へ。カードを受け取るには、ダムと本人が一緒に移った写真や画像を見せるのがルールです。
ここでは、豊稔池ダムの歴史や研究をまとめた、貴重な資料を見せていただくことができました。冒頭近くに掲載した建設当時の写真や、台風の時に撮影されたという、洪水吐と頂上部の双方から放水されている大迫力の写真が載っていました。
▲台風時の写真。ここまでの大放水は、数年に1度あるかないかくらいだという(資料提供:豊稔池土地改良区)

そして、ダムカードも入手!俯瞰写真や詳細なスペックに「おお!」と歓声を上げていた私は、もういっぱしのダムファンかもしれません。
▲ダムカードの表面は、アーチと壁が連続する構造が一目瞭然。放水の様子から、ゆる抜きのときだと思われる
▲ダムカードの裏面。スペックやこだわりポイントが一覧になっていて分かりやすい
今までダムにあまり興味がなかった人も、きっとトリコにしてしまうはず。そう確信できるほど、豊稔池ダムのフォトジェニックな勇姿は圧巻で、いつまでも脳裏に残るものでした。
puffin

puffin

東京でのライター生活を経て、現在は縁あって香川県在住。四国のおおらかな魅力と豊かな食文化に触発される日々。取材で出会うモノ・コトの根幹に流れる、人々の思いを伝えたいと願っている。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP