秘境に佇む古民家「桃源郷祖谷の山里」で、一棟貸し切りの贅沢ステイ

2017.08.07 更新

大歩危(おおぼけ)小歩危(こぼけ)で有名な険しい渓谷で知られる、山深く緑に包まれた徳島県の祖谷(いや)地方。日本三大秘境にも数えられるこの場所に、まるまる1棟貸切って宿泊できる、築100年以上の茅葺きの古民家があるんです。今では海外からの宿泊客も増えているという話題のお宿に泊まってみました。

失われつつある日本の原風景を今に残す落合集落

徳島県西部に位置する三好市東祖谷。祖谷のかずら橋や剣山など、全国的にも知られた観光名所のさらに奥深く、井川池田ICから車で1時間半のところに落合(おちあい)という集落があります。
▲祖谷川を見下ろす南向きの切り立った崖地にあり、高低差は約390mにも及ぶ落合集落

落合集落には、江戸時代中期から後期に建造された古い民家が、今も山の急斜面に張り付くように点在しています。山村集落特有の構造と間取りを持つ古民家、そして集落内をうねるように伸びる里道、周囲に広がる石垣や耕作地が相まった独特の景観は、日本広しといえどここでしか見られないのではないでしょうか。
このような歴史的景観の希少性が評価され、2005年には集落全体が重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されています。

その集落にあった民家を改修し、1棟貸切の茅葺民家宿として2012年に誕生したのが「桃源郷祖谷の山里」です。

伝統と快適さを兼ね備えた茅葺民家の宿泊棟

山深い集落に佇む「桃源郷祖谷の里」の宿泊棟は現在(2017年7月)全部で8棟。
雲の上にいるような気分になる棟、隠れ家のような棟、古き良き趣を感じさせる棟など、それぞれの棟が特長を持っていて、非日常感を味わえるんです。

全棟を簡単にご紹介します!
▲落合集落の最上部に建つ「浮生(ふしょう)」。「桃源郷祖谷の山里」の茅葺民家宿第一号物件。定員4名
▲囲炉裏を大胆にリメイクしたテーブルの周りにコの字型のソファを配したラグジュアリーな雰囲気の「天一方(てんいっぽう)」。定員8名
▲「談山(たんざん)」。棟内の中央の階段を上ると、屋根裏や梁を間近に見ることができるロフトがあります。定員8名
▲地域の人からは「お宮さん」の愛称で親しまれる三所(さんしょ)神社すぐ隣にある「雲外(うんがい)」。定員5名
▲「雲外」と同時に誕生した「蒼天(そうてん)」。リビングと寝室から出入り可能なウッドテラスがあります。定員4名

「雲外」と「蒼天」は2014年に同時オープン。元々母屋だった建物が「雲外」、隠居屋として使われていたのが「蒼天」で、二棟横並びに建っています。
▲集落の脇道に入り、森の奥に進むと見えてくる2014年5月オープンの「悠居(ゆうきょ)」。山の中にひっそりと佇むその姿は、隠れ家のよう!定員8名
▲落合集落の中腹にある「晴耕(せいこう)」。南向きの広い縁側からは急斜面に広がる集落の全景が見渡せます。定員4名
▲「雨読(うどく)」。別棟には広いお風呂を完備しています。定員3名

こちらも元々母屋だった「晴耕」と隠居屋だった「雨読」が二棟横並びに建っています。

どれも魅力的なお宿!

建物の外には、急な斜面に平坦な土地を作るための青石の石垣や外壁を強化するひしゃぎ竹など、この地域ならではの工夫が今に残り、室内は囲炉裏で薪を焚いたことによって黒光りしている柱や梁を残し、昔から息づいてきた暮らしを今に伝えてくれます。

どの建物も、かつてそこで営まれてきた生活を感じさせる造形や素材感を残して改修されていて、そこにいるだけで不思議と落ち着きます。

古き良き茅葺民家の雰囲気が味わえるだけでなく、現代的な快適さとセンスを加えた新しいスタイルの宿泊施設であるというのが特徴。

特にキッチン・バス・トイレなどの水回りは、清潔さと使いやすさの観点から最新の設備に改良されています。シャンプー類やタオル、歯ブラシも用意されています。また、全棟床暖房を完備するなど暖房設備を充実させることで、寒冷地である祖谷の冬でも暖かく過ごすことができます。
▲深い山間の秘境とは思えないほどキレイな最先端のお風呂

徳島県の大谷焼や藍染のものなどに、建物のディテールを際立たせる照明などの要素を加えることで独特の空間に仕上がっているんです。
見た目や雰囲気に反した快適さやスタイリッシュさに、扉を開けた瞬間歓声をあげる人も少なくないそうですよ。

周りを気にせずに自分たちだけの空間でゆっくり過ごせる一棟まるごと貸し切りプラン(1人1泊1万円~)は、旅館とも民宿とも違う独自の宿泊スタイル。大学のサークル仲間や親子三世代など、大人数での宿泊利用も多いそうです。

茅葺民家で過ごす、ゆったりのんびり里山時間

では早速、茅葺民家ステイを体験したいと思います!
まずは廃園になった保育所をリノベーションした事務所でチェックイン。
料金は前払い制です。

宿までは道が狭かったり分かりづらいので、スタッフの方が車で先導しながら案内してくれます。

本日は「天一方」に宿泊します。
▲月への羨望を詠った漢詩から名づけられた「天一方」。和と洋の様式を巧みに取り入れた空間です

宿に入れば、もうそこは自分たちだけのスペース!
快適な空間で周りを気にすることなく、のんびり流れる時間のスタートです。
▲時間とともに移ろいゆく景色を窓の向こうに見ながら過ごしていると、日頃の疲れも自然と癒されていきます
▲落合集落の上部に位置する宿なので、昼の渓谷、夜の月や星など180度のパノラマで楽しむことができます。外のライトアップもロマンチック…

風の音、緑のざわめきを感じながら大きく深呼吸すると、なんだかなつかしい気分に…。

部屋の窓から、時間によって刻々と表情を変えていく景色を見ていると心が落ち着きます。

日が暮れたら、夕食の時間。

宿には調理器具一式に塩、こしょう、醤油、サラダ油、みりん、砂糖など基本調味料類がひととおり備わっているので調理が可能。食材を持ち込んで自炊することができます。宿の近くにはスーパーなどはないので、事前に購入しておくことをおすすめします。
▲「天一方」のダイニングキッチン。オシャレな食器や調理器具が揃っています。こんな素敵なスペースなら、料理のやる気も沸いてくるというもんです!

希望があれば、別途料金でさまざまなスタイルの食事を楽しむこともできるんです。

ひとつは地元のお母さんたちと作る祖谷の郷土料理を味わうスタイル。

祖谷地方で昔から親しまれてきた郷土料理を、宿を訪れてくれた地元のお母さんの手ほどきを受け、おしゃべりしつつ楽しみながら作っていくことができます。
▲地域の食材を使った料理の作り方を地元のお母さんに教わりながら、楽しくクッキング

メニューは、祖谷では日常的に食卓に並ぶものが中心。
▲祖谷名産のごうしいもの煮物や刺身こんにゃくなど、素朴だけど滋味深い味わいの料理ばかり。食べると、なんだか心もじんわり温まります

祖谷のおふくろの味は、お腹も心もほっこりと温めてくれます(1グループ2~5名15,000円・税込)。

ふたつめは、落合集落の一般家庭で普段着の夕食を楽しむスタイル。

宿から程近い落合集落内の一般家庭にお邪魔して、住民の皆さんと夕食を作るところからともに楽しめます。
▲親戚のおうちに遊びに行ったような和やかな雰囲気でいただきます

メニューは庭先の畑でとれた野菜のサラダや天ぷら、自家製の手打ちそばなど、そのご家庭ならではの味。出来上がった食事を囲み、語らいながらのんびり過ごせます(1グループ2~5名17,000円・税込)。

最後は地元飲食店の「茅葺民家ステイ特別メニュー」をケータリングするスタイル。

古くから祖谷を訪れる人に食事を提供している近辺の店から、「桃源郷祖谷の山里」宿泊客のために特別に作られた料理が届けられます(1名3,200円・税込)。
▲ケータリングしたメニューの一例。どれも祖谷の恵みをたっぷり味わえます

また、夏はグリルなどのセットを借りて宿の庭でワイワイBBQを楽しむこともできます。予約時に相談してみてくださいね(機材セットの貸し出しは3,200円・税込)。

祖谷のご飯を堪能した後は、火をつけた囲炉裏を囲みながらお酒を飲んだり、家族や仲間と語り合ったり。
普段よりじっくり深い話をして、ますます絆が深まっていく。それも、この古民家ステイならではかもしれません。

のんびりと湯船につかりながら心豊かに1日を振り返りつつ、あたたかな布団に包まれてぐっすり「おやすみなさい」…。

目覚めて外を見れば、季節によっては雲海が広がる里山の景色が目に飛び込んできます。

普段はできない山里の茅葺民家での生活を思い思いのスタイルで楽しめ、終始リラックスできる時間でした!

祖谷ならではの体験プランも充実

事前に予約をすれば、祖谷そのものを体験できるオリジナルプログラムを楽しむこともできます。

例えば祖谷そば打ち体験。
打つ際に小麦粉などの“つなぎ”をほとんど使わないため、一本一本が太くて短いのが特徴の名物・祖谷そば。落合集落でも、自分の畑でそばの実を育て、自分でそばを打つ文化が根付いています。
地元のお母さんに教わりながらそば打ちにチャレンジ!
▲粉から練って、打って、切って…と一連のそば打ちができます。料理の腕に自信がない人でも大丈夫ですよ

本物の祖谷のそば打ちを体験できるだけでなく、打ちたてをその場で食べることもできます。所要時間は約1時間半。体験料金は1組15,000円(税込、チェックイン時に宿泊代と一緒に支払い)。

また、落合集落内を落合在住の重伝建保存会の方と一緒に散策する「落合集落重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)ガイドツアー」も実施しています。所要時間は約1時間。ガイド料金は1組4,000円(税込、チェックイン時に宿泊代と一緒に支払い)。

どちらも祖谷地域ならではの文化に触れられる貴重な内容。思い出作りに申し込んでみてはいかが?

宿泊から持続可能な地域再生活動を目指して

「桃源郷祖谷の山里」は、祖谷の空き家を利用したステイ事業を柱としたプロジェクトとして立ち上がりました。プロデューサーはアメリカ出身のAlex Kerr(アレックス・カー)さん。東洋文化研究者、著述家として活躍されています。
▲アレックス・カーさん。少年期に体験した日本の美しさと失われゆく現状を、文化芸術活動の推進や講演、執筆を通して守り伝えています

40年ほど前に祖谷を訪れたアレックスさんは、斜面に形成された集落という珍しい景観に衝撃を受けたそうです。しかし、その後は過疎化や高齢化によって集落の人口は年々減り続け、それにともなう空き家問題が大きな課題となっていました。

そこでアレックスさんにプロデューサーとして白羽の矢がたち、はじまったのが「桃源郷祖谷の山里」プロジェクト。落合集落の伝統的な景観の保護、そして集落の活性化を目的に茅葺民家を改修・再生し、落合集落の新たなシンボルとして宿泊施設を誕生させたのです。
失われゆく日本の山里の美しさや伝統を今にあった形で、持続可能なものとして残していこう。そんなアレックスさんの想いがこもったお宿なのです。

天気、季節によってまったく違う景色が楽しめるのでリピーターの人も多いのだそうです。

「なにもない」からこそ生まれてくるなにかを感じさせてくれるような、そんな気持ちになりますよ。

古き良き祖谷の風土を楽しみながら過ごせる「桃源郷祖谷の山里」。
日常から解き放たれた、まさに“桃源郷”での時間を体験してみませんか?
野々村まり

野々村まり

大学卒業後に徳島のタウン誌「あわわ」に入社。営業部・編集部を経験したのち4誌の編集長を務め、現在は編集統括マネージャーに。管理職になるも未だに月30件の取材をこなす現役バリバリアラフォー編集者。

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