飛騨の匠と出会う。彼らがつくり出す家具に触れる。自らも職人になる。木工房をめぐる秋の旅へ出かけよう

2015.09.25

シンプルなスタイル、優美な曲線。気候風土が似ているからなのか、飛騨でつくられる家具はどこか北欧家具に通じるものがある。そのつくり手である18の工房が広く一般に開放され、モノづくり体験もできるイベントをご紹介しよう。

アートから普段遣いの家具・雑貨・知育玩具まで。行きたい工房ばかりで、体が3つくらい欲しくなる2日間

誰にとっても身近な家具や木工製品。しっくり手になじむその形は、誰のどんな思いが生みだすのか。平板な木材が暮らしに溶け込む一品へと、どのように姿を変えるのか。
そうした、つくり手たちと出会い、製作風景を間近に眺め、お気に入りの作品に出合うことのできるイベントが「飛騨の木工房めぐり」だ。
6回目となる今年は、若手を中心とした18の工房が参加。岐阜県の飛騨地方各地に点在する工房では、それぞれに趣向を凝らした展示だけでなく、一部工房ではワークショップも開催される。
日程は飛騨の紅葉シーズンでもある、2015年10月24日(土)、25日(日)の2日間(一部工房は26日もオープン。詳細は工房めぐり公式サイトにてご確認を)。
さっそく、工房のいくつかをご紹介しよう。
たしまねん
アート作品でありながら、普段遣いでもある。そんな家具づくりを目指しているのが「造形家 たしまねん」。工房めぐりの期間中は特別に、家具や木彫作品の野外展示が行われる。雄大な乗鞍岳を背景に、お気に入りの作品と記念写真を撮るのも、またとない経験。
コチ
「kochi(コチ)」の2階に併設されたカフェは期間中、イベントに参加する各工房が製作したイスを集めた「イスカフェ」に変身する。コーヒーを飲みながらここでお気に入りのイスを見つけ、その工房を訪れるのも、めぐり方の一つ。
またkochiでは、ワークショップも開催。こちらは昨年のテーマ、「かわいい小さな木のおうち」。今年のテーマや参加費用については、工房めぐり公式サイトにて発表されるので、ぜひチェックを。
キノ
木の家具は時を経るほど味わいが変わってゆく。購入する際、数年後の姿まで想像することはなかなか難しいが、それが可能なのが「kino workshop(キノ ワークショップ)」。工房は自宅を兼ねているから、展示されているのはすべて家族が毎日使い、時には子供が汚すこともある家具ばかり。家族の一員である3匹の猫も出迎えてくれる(彼らの気が向けば)。
noco
家具だけでなく、様々な雑貨も充実しているのが「ファニチャースタジオnoco(ノコ)」。針山の「はりねずみくん(税込2,592円~)」は、裁縫をしない人でも連れて帰りたくなる愛らしさ。名古屋方面からなら郡上八幡ICで東海北陸道を下り、「せせらぎ街道」をルートに選べば紅葉ドライブも満喫できる。
しらゆり
まるでアート作品のように積める玩具など、木工品を得意とする「白百合工房」。優良なおもちゃを選ぶ「グッド・トイ2013」に選定された「つみぼぼ(税込6,480円)」は飛騨の伝統的人形「さるぼぼ」がモチーフ。知育玩具として愛用する家庭も多い。工房ではこの「つみぼぼ」で自由に遊ぶことができる。

自分でつくってみたい、そんなあなたは本格的な家具づくりワークショップを

1時間程度のワークショップでは物足りない、そんなものづくりスピリット溢れる方にぜひお勧めしたいのが「ウォールナットファクトリー」だ。
ここでは、職人が実際に使用する工具を使って、本格的な家具や木工品の製作を体験することができる。
今回特別にプレ体験をさせていただくとともに、オーナー職人の福田和也さんにお話を伺うことができた。体験の様子をご覧いただく前に、その作品同様、静かでありながら破天荒な部分を持つ、福田さんという職人について知っていただきたい。

「何か」を探し、長崎の若者は旅に出る。そして見つけた「飛騨で家具をつくる仕事で生きる」こと

工房めぐりに参加する職人たちには、生粋の飛騨人もいれば、飛騨家具に魅せられこの地に移住した者もいる。福田さんもその一人、生まれは長崎県平戸市だ。

高校卒業後、長崎市の大学に進学した彼。文系だからと経済学を専攻したが、その正体は金融工学。つまり、数式づくめの世界だ。
そのギャップに苦しみつつも、3年間は我慢した。が、ついに「このまま就職するのは自分の人生、何か間違っている気がする」と、「何か」を探すための旅に出る。20歳のことだった。

主な移動手段は自転車とヒッチハイク。アメリカのロードムービーのような彼の旅は、1年に及んだ。
そんな旅の途中、車に乗せてくれた大学生の紹介で、長野県森林組合の仕事をしながら一冬を過ごしたことが、その後の人生を決定付ける。
石や鉄など他の素材と異なり、木は生きている。それだけ、人に近い。
旅を続ける中、見知らぬ人の優しさに幾度も助けられたからだろうか。人に似た温もりを持つ「木」を使って、人を温かい気持ちにさせる何かをつくりたい。それを仕事として生きていきたい。
そう思い始めた頃、高山市内に職人を養成する学校があると聞いた。
こうして彼は、家具職人としての第一歩を飛騨の地で踏み出すこととなった。

入学当初は、カンナに触ったこともない素人だった福田さん。しかし卒業後、希望通り無垢材を用いた家具工房に職を得ることができた。さらにそこで、自らの工房の名前にするほど愛着のある木「ウォールナット」と出会う。

他の木と比べ、ウォールナットは肌触りが柔らかく、人肌に似た不思議な温もりを持っている。使い込むうちに艶を帯び、独特の味わいも出てくる。
このウォールナットを使って、長く人と共に生きる家具をつくりたい。
「何か」を探す旅に出てから10年。2002年に独立し、2005年には現在の場所へ工房を移転。同じく家具職人を志し他県から移住してきた妻と共に、静かな山間で家具や木工品をつくっている。
▲「クレイジーな部分」を出す作風に目覚めた近年。たとえば、木の節をあえて出す、段差を意図的に残す。そうでありながらも、使い心地を守る最低限の加工はそっと施す。その代表作がこの、脚に大谷石を用いたテーブル。「他の人は絶対やらないから」と笑う福田さんは今も、ヒッチハイクで旅をしたクレイジーな若者だ

釘もまっすぐ打てない女のスプーンづくり。その結果やいかに…

ワークショップのテーマも、実に福田さんらしい。「参加する人の、つくりたいものをつくる」だ。
1週間ほど前にどんな物をつくりたいかメールで連絡すれば、必要な材料の準備から製作工程の段取りまで、事前に準備してもらえる。
そして今回、私がお願いしたのは「大口開けてもりもり食べる、ちょっと深めのスープスプーン」。素材はもちろん、ウォールナットである。
まずは木材に側面図と正面図を鉛筆で書き記す。鉛筆を握るのも久しぶりで、最初の工程からもう手つきがアヤシイ。
今回、大きさの目安としてサンプルとなるスプーンを持参したため、これをなぞる形でベースの線を引き、目指す形へと修正を加えた。小物類の場合、理想に近いサンプルがあれば持参すると便利。なくても当日、フリーハンドで思うままに描けばいい。
何ということのない作業に見えるが、木目の流れを読み、形状に合わせ最も加工しやすい部分を見極めることが重要。もちろん、こうした素人には難しい作業は福田さんがサポートしてくれる。
次に細かな作業がしやすいよう、電動の帯ノコを使い、余分な部分を大胆に切り落とす。曲線など難しい部分は福田さんが助けて下さるので、初心者もご安心を。
しかし電動工具なんて、中学校の技術の実習以来ウン十年触っていない私…。
モーターが高速で回転する音にも、刃が木材に当たる歯医者のドリルのような音にも正直、腰が引ける。
意を決し、凶暴なミシンのような帯ノコと対峙したが、最後までへっぴり腰だったのは言うまでもない。
粗削りだが、少しスプーンの形が見えてきた。あんなに福田さんに助けていただいているにもかかわらず、すでに何だか自信が出てきた私。
意気揚々と、余分な部分と一緒に削り落した正面図を再度引く。しかし、定規を使ってもまっすぐに線を引けない不器用モノゆえ、きれいな左右対称にならない…。結局、福田先生に手直しをいただく。
そしていよいよ、スプーンの皿の部分を彫り下げる。特に今回、「ちょっと深めのスープスプーン」であることを目指す私にとっては、重要な工程だ。
ここで登場するのが、電動彫刻刀。見慣れた彫刻刀を少しゴツくした感じだが、「押して削る」という基本は同じ。安全装置が機能するとはいえ、固定して下さる福田さんの指を削るんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしながら彫り進む。
「もっと攻めても大丈夫ですよ」と、さらなる深彫りを福田さんに促されても、そうは大胆になれない小心な私であった。
かなりの部分を福田さんに「攻めて」いただき、ついにスプーンらしい形状に。しかしまだ、皿の下部分が粗削りのまま残っている。
これを加工するのがベルトディスクサンダーという、プロレスの決め技のような機械。実態はシンプルな、電動化された巨大な紙やすりだ。この紙やすりにお尻を擦り付け、目指す厚さまで削ってゆく。
どういうわけかこの工程は性に合うようで、「いいですよー」と福田さんからも褒めていただく。
が、調子に乗って削りすぎれば、皿に穴があいてしまう。そこで時折、福田さんが熟練の指先センサーで厚みを感知し、削り足りない部分・もう削らなくてもいい部分を指摘して下さる。だけでなく、柄の付け根など繊細な部分は、職人の腕に頼りっぱなし。
製作も大詰め、サンドペーパーを用いて表面を滑らかにする。柄の部分は福田さんのクレイジー路線に倣い、製材されたままの質感を残すことに。しかし、「直角のままだと使いずらいので、ほんの少し削る」のが無作為の作為のコツだとか。
最後に亜麻仁(あまに)油で磨くと、ウォールナット特有の深い色合いが出現する。日常のお手入れは、オリーブオイルで磨けばよいそうだ。
こうした木工製品の扱い方を学ぶことができるのも、職人と触れ合うこのイベントならではのオマケ。
ついに、ボウルの縁に掛けることもできる「ちょっと深めのスープスプーン」の完成である。
ここまで仕上げるのに私が要したのは、約3時間。個人差はあるものの、5~8時間あれば、イスを作ることも可能とのこと。ただその場合、昼を挟んでのワークショップとなるので、あらかじめ昼食を準備してから訪問するのがベター。
当日の状況によっては飛び入り参加も可能だが、作業スペースに限りがあるため、作りたいものと合わせて事前に連絡することをお勧めする。

実際にワークショップを体験して気付いたのは、手元の一点を眺めて作業に集中していると、自然に人は無口になり、思考が内側に向くと言うこと。
このワークショップを体験することが、あなたの探していた何かを見つける旅になるかもしれない。
▲ワークショップの会場となる峠の上の古民家にて、福田さんご一家
船坂文子

船坂文子

農家・ライター。本籍地は生まれた時から飛騨。情報誌出版社にて15年間、人材・旅行領域の広告・編集記事作成に従事。若い頃から「田舎に帰って百姓になる」が口癖で、退職後は農業大学校での研修を経て就農。一畝の畑を耕し野菜を販売する傍ら、ライターとしても活動。「人」を通して物事を伝えることを心がけている。

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