別府・鉄輪温泉でしか味わえない地獄イタリアン、味は天国だった!

2017.06.13 更新

九州を代表する温泉地・別府。多彩な湯と共に楽しみたいのが、激しい温泉蒸気を利用した「地獄蒸し料理」。お芋や卵を地獄釜に入れてしばし待ち、出来立てアツアツをフーフーと。そんな庶民派グルメのゴージャス版「地獄イタリアン」なるものがあるらしい。食べてビックリ、地獄から一気に昇天です。

目指すは地獄集中エリア、鉄輪温泉の湯治宿

「地獄イタリアン」があるのは別府市のほぼ中央に位置する鉄輪(かんなわ)温泉。鉄輪と言えば、激しい温泉の噴出口「地獄」が多いエリア。まずは、石畳の坂を下って、昭和の雰囲気を残す路地裏にひっそり佇む湯治宿「湯治 柳屋(やなぎや)」へ。
▲漆喰の建物にえんじの暖簾、白文字で大きく「柳屋」の文字

明治の建物を今も引き継ぐこの本館には5つの湯治部屋が設けられ、昔ながらの湯治ステイが楽しめます。地獄イタリアンはこの極楽の湯治宿の中にあるレストラン「Otto e Sette Oita(オット エ セッテ オオイタ)」で味わえます。宿泊客はもちろん、一般の方もランチとディナーが楽しめます。
▲「湯治 柳屋」本館の左手が地獄イタリアンへの入口
▲通路の先の引き戸を開けると、歴史を感じる太い梁の下、趣のある空間が広がります

左手のオープンキッチンから「いらっしゃいませ」の声。地獄イタリアンを生み出すシェフとのご対面です。「地獄」の料理を生み出すだけに、まさに料理の鬼といった雰囲気、またはそんな形相の方なのか?
あれま、まるでホトケさま!まさに地獄にホトケ!なシェフ梯(かけはし)さんは、湯布院温泉の名旅館「山荘 無量塔(むらた)」のイタリアン部門をはじめ、数々のレストランで腕を振るってきた御仁。まずはホトケシェフの梯さん、そもそも地獄イタリアンってなんですか?

「地獄イタリアンの地獄は、別府、特に鉄輪地区で江戸中期から使われている調理器具“地獄釜”のことです。この地獄釜を利用しながら、大分特有の食材や料理を再構成。今だけ、そして別府の地でしか作れない、味わえない、唯一無二のイタリアン、ということで地獄イタリアンって言っています」と梯シェフ。

具体的には地獄釜はどう使っているのですか?
「地獄釜は主に料理の下拵えに使っています。例えば、タケノコだと、普通は皮をむいて、米ぬか入りの水で炊いてアクを抜きます。でも、地獄釜なら皮付きのまんま、ドーンと放り込むだけでOK。温泉成分がアクをスッキリ抜いてくれます。タケノコ本来の風味も旨みも損なわず、栗のようなホクホク食感になりますよ」と梯シェフ。

「でも、食材によって向き不向きがあって、例えばムール貝はフライパンで酒蒸しした方がいい仕上がりになるんです。また、温泉は生き物ですから、蒸気の勢いや温度も日によってまちまち。ときどき厨房が蒸気で真っ白になることもあって、実はなかなか手強い。でも、こんな地球相手のマニュアル的なの、けっこうおもしろいんですよね」

ランチで実食!シェフ厳選の大分食材、さらに器にも注目

では、さっそく地獄イタリアンをいただくことに。今回は前菜、パスタ、メイン、デザートの4品に自家製パン(2個)、ドリンク(エスプレッソ、コーヒー、紅茶から選択)が付いた人気のランチコース「Pranzo」2,700円(税込)をチョイス。料理はもちろん、それを飾る器にもご注目を。素材同様、こちらも梯シェフがセレクトした大分の陶芸家による作品の数々です。
▲本日の前菜「鱸(すずき)のカルパッチョ プッタレッレのサラダ」

別府湾で揚がった鱸を皮付きのままさっと炙って、すぐに氷にとり、焼き霜に。これをイタリア野菜・プッタレッレ、そしてトマトと共にサラダ仕立てに。粉状のものはパウダー化したオリーブオイル。口に入れた瞬間に溶け出すふんわり感、やがて訪れる軽やかなオイルの香りが、鱸と野菜の存在感を一層引き立てます。

「最近、プッタレッレのようなイタリア野菜を作る農家さんも増えてきて、ありがたい限りです」と梯シェフ。また、食材を鮮やかに浮かび上がらせる漆黒の板皿は、大分在住の陶芸家・橋本尚美さんの作品。
▲2種類の中から選べる本日のパスタ。今回いただいたのは「自家製パンチェッタとネギのカルボナーラ」

続くパスタは大分を代表する小鹿田(おんた)焼の中でも特に力強い「坂本工(たくみ)窯」の平皿で登場。
鮮やかなグリーンソースの正体は、別府の南西部に位置する豊後大野市清川町の無農薬ネギ。これを塩化物泉の鉄輪の湯でボイルし、その茹で汁を加えながらピュレ状に。まろやかな甘さのこのネギソースに、自家製パンチェッタがコクと風味をプラス。ちなみにこのパンチェッタは、あの鹿児島黒豚を凌駕すると言われる中津市山国町産のレアポーク「吾一の黒豚」で仕込んだもの。まったりとしたソースの中にときどき現れるネギソテーのシャキシャキ食感も、実に楽しい。

続くメインは魚、肉料理から1つチョイス。取材日の魚は別府湾で揚がった天然鯛。それを菜の花などの春野菜、きのこと共に地獄釜に投入。
▲地獄釜で蒸すこと約3分

ほんのり塩気のある温泉蒸気が、天然鯛の甘みと身のプリプリさを一段と強調。そのままでも十分満足の行く魚料理ですが、さらに鯛の旨みたっぷりの蒸し汁を加えて仕込んだ菜の花ソースとからめれば、クリーミーさと春らしさをまとった新たな一品に。また、春の海を思わせるターコイズブルーの深皿も素敵ですね。こちらは前菜の時と同様、橋本尚美さんの作品。
▲メインディッシュ(魚) 天然鯛の地獄蒸し

取材日の肉料理は3種類。大分特産の地鶏である「豊のしゃものロースト」、「山下牧場の黒毛和牛サーロイン(+1,500円・税込)」がある中、今回は黒豚料理をいただきました。先ほどいただいた本日のパスタにも使われていたレアポーク「吾一の黒豚」のバラブロックを、塩麹にまぶし、地獄釜の中で約3時間。仕上げに加えた焼き目で表面はカリッ。それに相反して中の赤身はホロホロ、脂はトロントロンの食感。
▲メインディッシュ(肉)「吾一の黒豚の地獄釜コンフィ」

付け合せの野菜たちも黒豚に負けぬ存在感。タケノコソテーは先のシェフの言葉通り、食感ホクホク。黒豚の下に敷かれているのは、クロダマルという黒大豆。
「こちらも吾一の黒豚が作られる中津市の特産。丹波の黒豆より大きく、甘いんです」と梯シェフ。吾一の黒豚からの旨みを吸って、さらにコクのある味わいに。タケノコの下には、本日のパスタでも登場した清川村産のネギが、今度は香ばしさをプラスしたグリルで登場。
▲デザート「地獄蒸しプリン」。伝統的な飛び鉋(かんな)模様の器も、坂本工窯のもの

4品目のデザートは別府名物の1つ「地獄蒸しプリン」。その要となる卵は、杵築(きつき)市の山間で丁寧に育てられた烏骨鶏の濃厚卵を使用。柑橘の産地でもある杵築市の甘夏やデコポンで、カラメルソースに程よい酸味をプラス。プリンのなめらかさに柑橘のツブツブ感。異なる食感の共演が実にユニークで、もちろん美味。

「大分食材の美味しさ、素晴らしさを実感してほしい!」

さて、食べ終わってふと、気づきました。イタリアンと言えば、オリーブオイルがつきものですよね。でもいただいた品々からは、その存在をあまり感じられなかったような…。
「はい、そうなんです」と梯シェフ。
「これだけいい食材があるんだから、オイルはかえって邪魔かな~って。使うにしても必要最小限って感じで。地獄釜を使うからまあ、“地獄イタリアン”って言っていますけど、本当はさほどイタリアンの形にこだわっていないんです。それよりもお客様にいかに大分食材の美味しさ、素晴らしさを実感していただくか。そっちのほうが大事ですから」と、再び満面のホトケスマイル。
「これ、さっき杵築市の契約農家さんから届いたスナップエンドウです。生でもイケますよ。どうぞ」
お言葉に甘えてガブッとかじってみると、歯応えシャコッ!その後にさわやかな香り、そしてなにより甘い!次回はぜひ、このスナップエンドウも味わいたい!

最後にもう一つ質問です。店名にある「Otto e Sette」ってなんですか?
「Otto e Setteはイタリア語で『8と7』という意味。大分県は江戸時代、小藩分立制度により中津藩、杵築藩などの8藩、天領日田などの7領に治められていて、その数字をとって名づけました。領地毎に独自の文化があったためか、育つ食材、特産もさまざまのようです。それらを大事に育てている生産者さんのところへ直に行って、生産現場を見させてもらい、お話をじっくり聞いて、″これはホントにすごい!”というものを料理に使わせていただいています。いつかは15領の食材で構成するコース料理なんかも作ってみたいですね」

梯シェフが厳選した大分食材と器で作り出す世界は、まさにテーブルという小さな会場で開かれる「大分物産見本市」。ただしこのおいしい見本市は、残念ながら他のエリアに出張しませんし、できません。でも、地獄釜を持つ鉄輪温泉のこの湯治宿なら、ほぼ毎日開催しています。別府へお越しの際には、ぜひ、どうぞ。

お宿に泊まってじっくりゆったり地獄イタリアン

もっといろんな地獄イタリアンを味わいたい!という方は、ぜひ、「湯治 柳屋」に泊まって、ディナーでたっぷり楽しんではいかが?本館の湯治部屋の他、隣接する新館には1室ごとに趣が異なる7室も用意されています。
▲新館のお部屋の一例。和室は6つ(3室にベッドあり)、和洋室が1つ
▲ゆったりとした浴槽と高い天井で開放感あふれる大浴場

敷地内に源泉を持つ「湯治 柳屋」。その源泉のすぐ隣に大浴場があり、常に新鮮な湯がかけ流しで楽しめます。泉質はナトリウム塩化物泉。しかも美肌成分と言われるメタケイ酸を大量に含んでいます。
敷地内には湯治客用に地獄蒸し付きの自炊場もあります。壁には食材毎の蒸し時間の目安も。英語表記があるということは、海外からのゲストも多いようですね。
宿泊者は自ら購入してきた食材をこんな感じでザルに入れ、地獄釜の中へ。半熟たまごなら約5分でできあがり。好きな時に温泉に浸かり、お腹が空いたら地獄蒸し料理を食べ、そしてお部屋でご~ろごろ、そして寝起きにまた温泉。そんな自由気ままな湯治ステイも楽しめます。
さらにお宿絡みで追加情報。「湯治 柳屋」はOtto e Sette Oitaの他、おしゃれなカフェ&ギャラリー「アルテノイエ」も併設しています。
▲お宿の右隣りにあり
店内には美術家、染色家、造形作家、ブック デザイナーとしてマルチに活躍する望月通陽(みちあき)氏の作品が展示。写真奥のカフェスペースでは自家製のシフォンケーキが味わえるほか、手前のショップスペースではオーナーセレクトの雑貨やジャム、器なども販売。Otto e Sette Oitaで使用している器の一部もありましたよ。地獄イタリアンの後に、こちらもぜひどうぞ。
山田誠

山田誠

新潟県十日町市生まれ、現在は福岡県福岡市在住のフリー編集者・ライター。九州の宿や温泉、飲食、雑貨系のショップ、さらに漁村、農村、道の駅など、暮らしと休日に関わるスポットをほぼ毎月、年間150軒以上を取材。取材後は必ず近隣の直売所で地元食材を買って帰る。1児の父。

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