大井川鐵道の絶景列車は、まるでアトラクション!/古谷あつみの鉄道旅Vol.22

2017.06.27

みなさんこんにちは!古谷あつみの鉄道旅も、もう22回目。これまで、数々の鉄道路線を巡ってきましたが、今回はアトラクション気分で楽しめる、静岡県の大井川鐵道をご紹介します。今回もアドバイザーの土屋武之さん、カメラマンの久保田敦さんとその魅力に迫ります。

今回の見どころはここ!

1.大井川沿いを電車でさかのぼる
2.トロッコのような井川線!
3.奥大井湖上駅で恋愛成就祈願!
4.大井川鐵道の看板列車・SL急行!

1.大井川沿いを電車でさかのぼる

▲JR東海道本線と接続する金谷駅から、まず普通電車でスタート

旅の始まりは、ここ金谷駅。
静岡駅からJR東海道本線で30分ほどのところです。

大井川鐵道は、金谷駅から千頭(せんず)駅までの大井川本線と、中部電力から運営を委託されている千頭駅から井川駅までの井川線(南アルプスあぷとライン)を持つ鉄道路線です。

大井川本線には「SL急行」と呼ばれているSL列車が走り、井川線は途中に日本唯一のアプト式鉄道を採用している区間があることで知られています。
大井川鐵道のSL急行は年間300日以上、営業運転しています。年間走行日数はもちろんのこと、SLの総走行キロや現役運行台数でも指折りの存在です!
▲まず乗車したのは、元南海の電車

今日はこちら、通称“ズームカー”に乗って出発。かつて南海電鉄で走っていた車両です!

これは1958(昭和33)年から、大阪の難波~高野山を走る南海高野線の急行用として製造された電車。高野山への急勾配を登り、河内平野を110km/hで走行するという抜群の高性能車です。
現在では、大井川鐵道で爽快に走っています。
大阪府出身の私にとっては、なんとも嬉しい車両に出会えました!
▲「ズームカー」の車内は、レトロな感じの赤い座席

赤い座席が可愛い車内です。車内は南海時代のまま。ほとんど手が加えられることなく、歴史が感じられます。背が高い私と土屋さんが座ると、ちょっと狭いです…。それがまた、長年使われてきた車両の味です。
▲大井川鐵道と大井川は切っても切り離せない

出発してしばらくすると、大井川が見えてきました。
大井川鐵道はその名の通り、大井川に沿って走る路線で、川沿いの景色を楽しめます。以前紹介した、わたらせ渓谷鉄道とも雰囲気が似ていますが、また違った景色が楽しめそうです。

天気は晴れ!取材日和ですね。
▲金谷から5駅目の神尾駅に飾られている、たぬきの置物

最初に出迎えてくれたのは、神尾駅のホームに面した山の斜面にたたずむ、信楽焼のたぬきさんたち。手を振ると、笑ってくれるような気がします。
▲静岡県らしい、茶畑の風景も見られる。沿線で作られるお茶は「川根茶」として知られる

抜里(ぬくり)駅周辺には一面の茶畑も広がります。特に5月上旬が見ごろで、新茶の緑が眩しく輝きます。窓を開ければ、風に混じって甘いお茶の香りが漂ってくるかも…?
▲大井川に渡された鯉のぼり!

おっと、鯉のぼりが沢山!
取材した4月下旬には 島田市川根町家山の大井川上空に、鯉のぼり約100匹が泳いでいました!まるで大井川をさかのぼってゆくかのようです。地元の有志団体の方が設置しているそうですよ。
▲大井川を眺めながら、上流へ

大井川は、南アルプスの険しい山岳地帯から流れ出る川。上流の平均年降水量は3,000mmと非常に多く、水量が豊富な河川として知られています。

大井川鐵道を語る上で欠かすことができない歴史に、水力発電があります。沿線には、日本初の中空重力式コンクリートダムである井川ダムがあり、さらに大井川の上流には、中空重力式コンクリートダムとしては堤の高さが世界一である畑薙第一ダムなどもあります。
▲大井川の川幅は広い

古谷「それにしても、川の幅が広いですね!」
土屋「井川線の成り立ちは、黒部峡谷鉄道とも似ているね。ダムを作るための資材を運ぶために敷かれたのさ。」
古谷「たしかに、人の力だけでは到底運ぶことができないですもんね。」
土屋「今見えている大井川は穏やかだけど、この先は急流なんだ。上流には接岨峡(せっそきょう)や寸又峡(すまたきょう)のような峡谷がある。線路を敷くのにも、苦労しただろうね。」

2.トロッコのような井川線!

▲大井川本線の終点は千頭。井川線はここで乗り換え

普通列車は、70分ほどで千頭駅に到着しました。大井川本線の旅は終了ですが、井川線に乗り換えます。 ここで旅を終わって折り返す人もいるそうですが、本当にもったいない!ぜひ、井川線にも乗ってください!
▲井川線の小さな列車で、さらに上流へ!

ここから先は、この赤地に白のラインが映える可愛らしい客車で井川を目指します。大井川本線と井川線はレールの幅が一緒ですが、急カーブが続く井川線では小さな車両しか使えないので、サイズ感がまた可愛らしいです。
▲井川線は客車も小型

おもちゃのような可愛らしさのある列車ですが、侮ることなかれ。
井川線の機関車たちは凄いパワーを持っているんですよ!
途中の長島ダム駅まではDD20という、1982(昭和57)年から導入された井川線の主力ディーゼル機関車が、いちばん後ろから押していきます。
▲井川線も大井川に沿って走る

古谷「わぁ!結構なスピードが出るんですね!」
土屋「ここからが車窓のクライマックスさ。窓を開けてごらん!」
古谷「風が気持ち良いです!」
▲何回も川を渡る

走行中は、車掌さんが車内放送で井川線沿線の見どころを案内してくれます。四季折々の沿線の景色や名所を紹介してくださるので、耳を澄ませて聞いてみましょう。
▲井川線には登山列車のような雰囲気もある

列車は勾配をぐんぐん登ってゆきます。グリーンに光る川の色が美しいです。川の色も、日によって違うそうで、何回来ても違った雰囲気が楽しめます。
▲川風が気持ちいい

山々の間を軽快に走り抜け、新緑に染まる車窓に癒されながら、なんだかトロッコ列車に乗っているような気分。車体が大きくない分、窓の外に広がる景色が近く感じます。
そんな列車に揺られながら到着したのは、千頭から6駅目にあるアプトいちしろ駅です。ここで行われていたのは…。
▲急勾配区間に備えて、アプト式電気機関車ED90が登場!

ででーん!と大きい、ED90の連結作業です。
アプトいちしろ駅と長島ダム駅の間にある、さらなる急勾配を走るため1989(平成元)年に日立製作所で製造された機関車で、坂を上り下りするためのラックホイール(歯車)を装備しています。
日本で唯一の、現役アプト式電気機関車なのです!
▲これがラックレール

アプト式とは、碓氷峠としなの鉄道の旅でご紹介しました。2本の線路の内側に、もう1本歯車付きのレール(ラックレール)を敷き、機関車の歯車とレールを噛み合わせ、急勾配を滑らずに上り下りできるように考えられた方式です。
ここから、これでぐいぐい急勾配を登っていきますよ!
▲日本一の急勾配を登ってゆく

写真で見ると、そこまで急勾配には見えませんが…私の表情を見てください!急勾配過ぎて、少しビビっております(笑)
それもそのはず。この区間は、90パーミルという、一般的な鉄道では日本一の急勾配区間なのです。
90パーミルとは、1,000m走る間に90ⅿも登ってゆくということ!

ED90は進行方向の一番後ろに連結されましたが、それも安全を考慮したもの。坂道の下で、滑り落ちないよう踏ん張る役目なのです。
▲みるみる高度が上がってゆく

古谷「体感でもわかるぐらい、ぐいぐい登っていきますね。なんだかドキドキします!」
土屋「後ろを振りかえってごらんよ。」
古谷「ぎゃあ!目で見ると一層凄いですね!ケーブルカーみたい!」

急勾配は、体感でもわかるほど。それもそのはずです。カメラを水平にして見てみると…
▲ダムは水平。ということは…

窓がこういう角度になってしまうのです!思わず、声に出して驚いてしまいます。
絶景と急勾配の組み合わせは、遊園地の乗り物よりも迫力満点?

車窓から見えるのは長島ダム。大井川水系で唯一、水力発電を行わない多目的ダムです。堤の高さは109.0m。そのダムをこの角度から眺めているということは…もうそんなに登ってきたのですね。
▲坂の上にある長島ダム駅で、後押しの機関車の役目は終了

長島ダム駅ではED90を切り離します。こんな可愛らしい客車と一緒に、この急勾配を登って来たなんて本当に信じられません。大井川鐵道のドキドキスポットでしたね。
▲接岨湖(せっそこ)の湖面は美しい

再び走り出すと見えてくるのは、ダム湖である接岨湖の美しい風景です。ドキドキしたり、ウットリしたり忙しいです(笑)

アプト式はここで終わりですが、この先も急勾配は続きます。それにしても、こんな場所に鉄道を敷くなんて本当にどれだけ凄いことか…。

3.奥大井湖上駅で恋愛成就祈願!

▲駅名の通り、湖上にある奥大井湖上駅!

さて、奥大井湖上駅に到着です。
奥大井湖上駅はホームの一部が橋梁上にせりだしており、駅名通り湖上に浮かぶような駅なのです。
▲ホームの一部も湖の上にある

ホームに降り立った瞬間から絶景が広がります。隣の接岨峡温泉駅へも、歩道と階段、山道を歩けば、たどり着くことが出来ますよ。展望の良い丘や橋を通ること自体が人気のウォーキングコースで、ハイキング客などで賑わっています。
▲奥大井湖上駅は恋がかなう駅

奥大井湖上駅は「奥大井恋錠(こじょう)駅」とのニックネームがあり、ホーム上に幸せを呼ぶ鐘「Happy Happy Bell 風の忘れもの」、その脇には「愛の鍵箱」と呼ばれるオブジェが設置されています。
「愛の鍵箱」は恋人が愛を誓って錠前をかけるところです。
▲「Happy Happy Bell 風の忘れもの」を鳴らしてみる

古谷「恋人はいませんが、とりあえず鳴らしてみます…。」
土屋「君は、鐘があればどこでも鳴らしているね。寂しくないのかい?」
古谷「鳴らせば、恋人が…。カーン…」
▲奥大井湖上から次の見どころへ

奥大井湖上駅から再び列車に乗り、山あいの景色を抜けると到着するのが、次なるスポット!
▲秘境駅と呼ばれる尾盛(おもり)。周囲には人の気配すらない

尾盛駅です!

秘境駅と呼ばれ、駅周辺に民家はなく、そのうえ駅に通じる公道もありません。
かつては、ダム建設関係者などが住む集落があり、小学校もあって医師も常駐していたそうですが、今ではその面影もまったくなし。
駅近辺に熊が出没したため下車禁止となったこともあるそうで、どれだけ「秘境」なのかわかりますね。眺めるだけでも秘境駅気分を味わえます。

なお、今は自由に乗り降りできますが、次の列車が来るまで、誰もいない駅で長い時間を過ごせるか。覚悟?が必要かも…
▲続いて、日本一高い「関の沢橋梁」へ

尾盛駅を過ぎ、閑蔵(かんぞう)駅までのあいだに、日本一高い鉄道橋である関の沢橋梁があります!
川底からの高さはなんと70.8m!1959(昭和34)年8月1日から井川線の列車が走っている、歴史ある鉄道橋なのです。
▲高所恐怖症の人にはおすすめできません…

古谷「うぉぉ…。なんだか、見下ろすと怖くなってくるくらい高い橋ですね。」
土屋「見ごたえがあるだろう!井川行きの一部の列車では、観光客のために、この橋の上で徐行するそうだよ。」
古谷「見ごたえ…ありすぎます。でも、景色が綺麗で思わず叫びたくなりますね!」
土屋「また…?」
▲井川ダムが見えてくると、終点は近い

騒いでいる間に、井川ダムが見えてきました。1957(昭和32)年に完成した、日本で最初の中空重力式コンクリートダムです。堤の高さは約103mあります。
▲大井川鐵道の終点、井川に到着

終点の井川駅に到着しました!この駅の標高は686mで、静岡県の鉄道駅では最も標高が高い駅です。
ハラハラ、ドキドキ、そして絶景にウットリな長旅でした。

井川は南アルプスの麓の深い谷間にある、ダム湖畔の小さな町。駅と町とは少し離れていますが、豊かな自然を楽しみに、多くの観光客が訪れています。
▲井川駅は山あいの静かな駅

古谷「いやぁ、沿線の景色に本当に感動しました。あと、急勾配にも。」
土屋「ここで終わりじゃない。まだまだ、大井川鐵道には面白い列車があるよ。」
古谷「大井川鐵道と言えば…あの列車ですね!」
土屋「さぁ、千頭駅に戻るよ。」

4.大井川鐵道の看板列車・SL急行!

▲千頭駅で待っていたのは…

さて、再び千頭駅に戻ってきた私たち。

古谷「千頭は、やはり観光客で賑わっていますね!」
土屋「みなさん、あれに乗るために集まってきたのさ。」
▲運転台に上がらせてもらった!

古谷「SL列車!」
土屋「そう。大井川鐵道といえばSL列車だね。急行料金が必要なので『SL急行』と呼ばれている。」
古谷「うーん!やっぱりSLを見るとテンションが上がりますね!」

ニッコリ笑顔で記念撮影です。
▲C11 227は、1976(昭和51)年から大井川鐵道でSL急行を牽引している

この日、SL急行を牽引したのはC11形227号機。大井川鐵道の「看板」で、1942(昭和17)年9月に製造された機関車です。

C11形は、大井川鐵道にもいるC10形の改良型として生まれた国鉄のタンク式機関車で、主にローカル線で活躍しました。
▲客車も元国鉄の旧型客車

大井川鐵道のSL急行は、こうした戦前から戦後にかけて製造された旧国鉄の客車を牽引し運転しています。
旧型客車にはいろいろなタイプの車両があり、レトロな雰囲気を楽しむことができます。

では、SL急行の旅に出発です!
▲客車の車内にはさまざまなタイプがある。これはいちばん古い内装を保っているもの

扇風機や栓抜き、木製の内装など、昭和30年代頃まで、国鉄の長距離列車として走っていた当時のままの空間を楽しむことが出来ます。

古谷「なんだかタイムスリップした気分です。」
土屋「こうした旧型客車と、沿線ののどかな風景も非常にマッチするんだ。戦前・戦時中に時代設定されているドラマや映画のロケでは、よく使われているよ。」
古谷「SLで育った世代じゃないけど、なんだか懐かしさを感じますね。」
▲車掌さんの観光案内もある!

この、優しそうな車掌さんは「SLおじさん」です!
おじさんなんて口が悪いって?いや、本当にSLおじさんやSLおばさんの愛称で親しまれる、男女の専務車掌さんが乗っているのですよ!車窓からの見どころやSL急行についての解説、ハーモニカ演奏などで、私たちを楽しませてくださいます。
はにかんだような笑顔が、とっても素敵ですね!
▲窓を開けると煙の匂いもただよってくる

往路と同じルートなのに、SL急行に乗っているというだけで、全然違って見えます。
車窓から見える煙や、旧型客車独特な乗り心地がワクワクさせてくれます。
▲「三等車」は今の普通車に当たる

こちらの扉は、昭和30年代以前の姿を復元したものだそうです。これを開けたのは、私で何人目なのでしょうか?みんな旅への想いでいっぱいだったことでしょう。
▲昔はこんな客車で長い旅をしていた

沿線の風景と非常にマッチした、昭和感あふれるSL急行の旅でした。
やはり、大井川鐵道に来たら、SL急行に乗らずして帰れませんね!
▲大井川鐵道の本社がある新金谷駅では、盛大なお出迎えがあった!

終着、新金谷駅ではたくさんの駅員さんが出迎えてくれました。何だかほっこりするおもてなしに、感動です。

そして、ここ新金谷駅では、最後のお楽しみが!
▲新金谷の車庫では、休んでいるSLやその他の車両を間近に見ることができる

転車台と、今日出会えなかった、車庫で休むSLたちに会えました!

こちらはC12形。 C11が走る路線よりもっとローカルな路線用として、1937(昭和12)年から15年間で293両が製造されました。
こんな車両たちとも会える場所なんです!
▲新金谷にある転車台前で1枚

最後にここで記念撮影!
一日たっぷり楽しめました。みなさんも是非、大井川鐵道を満喫してみてはどうでしょうか?

次回、古谷あつみの鉄道旅Vol.23は、神奈川県の江ノ島電鉄へ!

※記事内の価格表記は全て税込です。

土屋武之(鉄道ライター)

鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道員になるには」(ぺりかん社)、「誰かに話したくなる大人の鉄道雑学」(SBクリエイティブ)、「新きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)など。

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道旅行雑誌「旅と鉄道」等で執筆活動中。

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