おいしいだけじゃない「八戸せんべい汁」。八戸の歴史や魅力も味わえる!

2017.09.20

「B-1グランプリ(R)」などで一躍話題となった青森県八戸地域のご当地グルメ「八戸せんべい汁」。その名を一度は耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。汁物にせんべいはミスマッチなイメージもありますが、実際おいしいのでしょうか?しかも、昔の八戸地方では実はせんべい自体が主食だったという噂も…。そんな八戸せんべい汁にまつわる疑問を、根掘り葉掘り探ってきました!

▲せんべいを鍋で煮込み、もちっとしたところをいただく八戸せんべい汁

八戸ではせんべいが主食だった!?南部せんべいとは?

八戸せんべい汁を読み解く前に、汁に入れるせんべいであり、八戸の住民には身近な食材でもある「南部せんべい」について触れる必要があります。そこで最初に八戸市の中心街で南部せんべいを探してみました。
▲八戸中心街のメインストリート

十三日町(じゅうさんにちまち)通りにある「NAKAGO中合 三春屋店」は、地元の人たちが日常的に利用する百貨店です。地下の食品フロアには南部せんべい専用のコーナーがありました。こんな景色を見ることができるのは、もしかしたら八戸だけかもしれません。
▲米菓・豆菓子と並んで、なんと南部せんべいコーナーが!
▲南部せんべいが70種類以上もあるという

南部せんべいがずらりと並ぶコーナーに目を疑ってしまいますが、その種類の多さにも驚きます。そもそも南部せんべいとは、主に小麦粉を水で練って焼いた円形の堅いせんべいのこと。
▲オーソドックスな南部せんべい

店内にはオーソドックスなものの他に、ゴマや落花生などが入ったものからリンゴやイカといったあまり想像できない組み合わせまで、さまざまな種類の南部せんべいが並んでいました。中には「せんべいのみみ」という、まるでパンの耳のような商品も。せんべい文化がこの土地に根付いていることを垣間見た気がします。
▲せんべいのみみ。そのまま食べてもおいしいですが、バターで炒めてビールのおつまみにする人もいるとか

ほかにも市内の大手コンビニには、どの店舗にもほぼ必ず南部せんべいが置かれていました。
地元住民の生活に、南部せんべいが欠かせないものであることが分かったところで、次に市内の繁華街へ向かい、八戸せんべい汁を実食してみることにします!

八戸の夜と言えば屋台村!ここで八戸せんべい汁に舌鼓

八戸の夜を語る上で「八戸屋台村みろく横丁」は欠かせません。全長約80mの路地に26店舗の固定式屋台が営業し、地元の食材を使った料理やお酒を気軽に楽しむことができます。
▲八戸屋台村みろく横丁の入り口

今回、お邪魔したのは「むつみなとのマンキ食堂」。カウンター席8席程度の小さなお店で、若い店主が切り盛りするアットホームな居酒屋です。
▲「むつみなとのマンキ食堂」
▲店主・河村司さんが手に持っているのは南部せんべい

さっそく八戸せんべい汁を注文。八戸せんべい汁は八戸地域では昔から食べられており、各家庭によってさまざまな味付けがある家庭料理。マンキ食堂で提供しているものも、河村さん自身のご家庭で食べられていた八戸せんべい汁だとのこと。
▲マンキ食堂の「河村家の八戸せんべい汁」(600円・税別)

硬い南部せんべいをパスタでいうところの「アルデンテ」状態まで煮込んでいるため、出汁の旨みがしみこみ、程よい噛み応え。せんべいのパリっとした硬さではなく、パスタやうどんに近い食感です。もちもち・シコシコとして、思わずひと口ふた口と食べ進みたくなります。
▲柔らかすぎず堅すぎず、まさに「アルデンテ」が理想の八戸せんべい汁

汁は鶏だしに醤油で味付けしたポピュラーな「鶏と醤油系」。他にも海の幸を使った「魚と塩系」や、馬の産地でもある八戸地方らしく「馬肉と味噌系」などの味付けがあるようで、地元で採れた旬の野菜や魚・肉などを合わせることが多いようです。

ピザに天ぷら?南部せんべいを使った料理はまだまだある!

八戸せんべい汁のほかに、河村さんからおすすめいただいた南部せんべいの料理がありました。その一つがせんべいピザです。
▲やわらかい南部せんべいを使った「もちせんべいピザ」(400円・税別)

南部せんべいの上にチーズとケチャップ、そして刻まれたベーコンなどがトッピングされていて、見た目も味もマルゲリータといった感じです。南部せんべいはピザの生地と同じく小麦粉で作られているということを考えれば、違和感はありません。正直、せんべいだということは、言われないとわからないくらい、まさにピザでした。

さらに出てきたのは南部せんべいの天ぷらです。
▲一見すると何の天ぷらなのかわからない「南部せんべいの天ぷら」(300円・税別)

形からはせんべいには見えませんが、絶妙な塩味とやはりアルデンテのような食感がおいしく、いつの間にか完食してしまいました。ほかにも南部せんべいの創作料理は紹介しきれないほどまだたくさんあります。八戸せんべい汁とは別に、南部せんべいの可能性を探ってみるのもおもしろいかもしれません。
▲おでんのメニューにも南部せんべい。冬にはいいかも

なぜ八戸に八戸せんべい汁が生まれたのか?

八戸せんべい汁を紐解くにあたり、「八戸せんべい汁研究所(通称、汁〝研(じるけん)」の木村聡さんにお話を伺ってみました。
▲八戸せんべい研究所の木村さん

この研究所は2002年12月の東北新幹線の八戸駅開業に合わせて、2003年11月に設立した市民ボランティア団体。木村さんによると「当時、『八戸』の地名を『はちのへ』と読んでもらえないことが時どきあって、地元出身者として全国の人に八戸をもっと知ってほしかった」と振り返ります。そこで目を付けたのが八戸せんべい汁でした。
▲各家庭で古くから食べられていたという八戸せんべい汁

「八戸せんべい汁は200年以上前から食べられていると言われていますが、誕生の正確な時期など詳しいことは分かっていません。肉や魚、野菜やきのこなどを使い出汁をとった鍋の中にせんべいを割り入れて煮込んで食べる。地元では家庭料理として食べられ、人におもてなしをするために出すようなものではなかったんです」(木村さん)

しかし、八戸を離れ東京での生活を経験した木村さんは、せんべい汁ならではのオリジナリティに気づき、文化として発信できる可能性を見出したのです。
▲八戸を代表する種差(たねさし)海岸の景色

そもそも八戸せんべい汁が生まれた背景には、八戸地域の特殊な気候がありました。この地方は春から初夏にかけて太平洋沿岸に吹く冷たく湿った風「ヤマセ」の影響で、冷害も多く稲作には適していませんでした。そこで生まれたのがいわゆる「粉もの文化」。小麦や蕎麦などの栽培が盛んになり、それらを粉に挽いてせんべいを作って食べる食文化が発達したそうです。

八戸せんべい汁から八戸の魅力を発信!

こうして八戸せんべい汁研究所の活動によって注目を集めた八戸せんべい汁。総務省がまとめた報告書によると、それに伴う観光客増加、飲食やお土産品などの需要を含めた経済波及効果は563億円(2010年)と発表されました。
そこに至るまでには話題を集めるさまざまな取り組みがあったと木村さん。応援ソングを作ってみんなで踊ったり、廃品を活用した「ま汁〝ガーZ」という超大鍋をPRに活用したり、ボランティアとは思えないほど多くの活動をしてきたとのことです。
▲約1,500杯分も作れるという名物「ま汁〝ガーZ」

また実は、「B-1グランプリ(R)」も八戸せんべい汁研究所が始めた企画。B級グルメの祭典と誤解されることも多いのですが、本来は「ご当地グルメを活用したまちおこし」が目的で、食による地域活性化に取り組む全国各地の団体と連携して、それぞれに地域ブランドを確立しようというイベントなのです。八戸の魅力をもっと伝えたい、地域を元気にしたい、という木村さんたち汁゛研の想いが原点なのです。
▲「B-1グランプリin 北九州」(2012年)でグランプリを受賞した際の集合写真

最後に、八戸せんべい汁研究所で提唱しているせんべいの割り方の奥義を木村さんに見せてもらいました。汁〝研には「煮込み3年、割り8年」のキャッチコピーがあるそうです。これは「アルデンテの八戸せんべい汁の調理をマスターするには3年かかり、さらにせんべいをキレイに3等分に割れるようになるには8年の修業が必要」という、汁゛研流の洒落なんだとか。
▲南部せんべいを割って見せてくれる木村さん
▲見事3等分に割られた南部せんべい!

3等分に割れたせんべいは、世界的に有名な自動車メーカーのエンブレムに似た形状であることから、「いつのまにか『ベ●ツ割り』なんて呼ぶ人も出てきた」と満面の笑みで教えてくれた木村さん。南部せんべいを使ってさまざまな話題を提供する八戸せんべい汁研究所のユニークな活動が、きっと多くの人々の心を掴むのでしょう。

今回は八戸せんべい汁をテーマに八戸を紹介しましたが、八戸にはほかにもおすすめの観光スポットやグルメがたくさんあります。八戸せんべい汁研究所の想いがあるように、八戸せんべい汁を入り口に、八戸の魅力を見つけに来てみてはいかがでしょうか?

八戸せんべい汁研究所

くどうたける

くどうたける

東京でウェブライターを経験し、2012年に青森へ移住。地域新聞や地域の情報を発信するお仕事をいただきながら、田舎でせっせと暮らしてます。(編集/株式会社くらしさ)

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