幻のかんきつ類!香り高く果汁豊富な「へべす」を発祥の地・日向で味わう

2018.09.14 更新

宮崎県の北部に位置する日向(ひゅうが)市に、全国的にはまだまだ知名度が低い、しかし一度食べたらその美味しさに誰もが驚く“幻のかんきつ類”があるのをご存知でしょうか?それが「へべす」です。甘く酸っぱく、香り高い。ライムやカボス、スダチにも似ていますが、その味わいはぜんぜん違う。へべす農家が始めたカフェ「arne_morimichi(アルネ森みち)」を訪れ、へべすの魅力に迫りました。

▲外皮はグリーン、中は淡い黄色の「へべす」

なぜ「幻のかんきつ」に?へべすのルーツをたどる

一度聞いたら忘れられない、独特な名前「へべす」。レモンやライム、ユズ、カボス、スダチなどと同じ「香酸かんきつ類」に属しています。その名のとおり、香りと酸味が特徴で、料理の香りづけやドリンクにも適した果物です。

へべすという名は今の日向市、昔の富高村(とみたかむら)に住んでいた農家・長宗我部平兵衛(ちょうそかべへいべえ)さんが、江戸時代末期に山で自生していた香り高い果実を偶然見つけたことに由来します。香酸かんきつ類は「酢みかん」とも呼ばれますが、どうやら“へいべえさんの酢みかん”が転じてへべすになったよう。
▲中は黄色くて、まるでライムみたい。熟していくと外皮も黄色くなっていく

平兵衛さんは接ぎ木をして苗を作り、地元の農家に分けていたとか。その後、地元では娘が嫁入りするときにへべすの木を1本持たせるようになったとのこと。日向でへべすの木はとてもポピュラーで、地元の人にとっては自分の家の庭にあるくらい身近な果物なのです。
▲現在でも県外での流通は年間生産量150tのうち、ごくわずか。これが「幻」と呼ばれるゆえん

そんなふうにローカルに楽しまれていたため、他の都道府県で流通することもなく、日向を中心とした限られた地域で消費される時代が長く続きました。

東京・吉祥寺で奇跡のへべすブーム到来

そんなピュアで控えめな、まるで宮崎県人のような(筆者の個人的な見解)へべすが、2016年頃に東京・吉祥寺でちょっとしたブームに。日向出身の知人からお土産としてもらったへべすをきっかけに、その魅力とポテンシャルの高さを知ったある飲食店店主が、へべすの専門卸会社を設立しました。ここから、吉祥寺の飲食店ではへべすサワーやへべすハイボールを提供する店が日向市内より多いのでは?と思うほど増えました。
▲露地ものは8月から出荷されるへべす

へべすのいちばんの魅力は?と聞かれれば、やはりその香り。酸っぱすぎず、爽やかなことこの上なし!グリーンの外皮でおしゃれな演出にも一役買います。
カボスやスダチといった他の香酸かんきつ類に比べ、搾汁率が高いのも特徴的です。健康のためにとりたい必須アミノ酸9種のうち、8種が含まれているのも魅力。発がん抑制やがん細胞増殖抑制の効果があるとされる「ナツダイダイン」というフラボノイド成分は、カボスやスダチにはありませんが、へべすには非常に多く含まれているんです。

へべすの地元・日向へ!農家が経営するカフェ「arne_morimichi」

そんなへべすの魅力と美味しさを生で体感しようと、発祥の地・日向市にあるカフェ「arne_morimichi」を訪れました。
▲小さな看板が目印

JR日向市駅から車で約20分。市街地からだんだんと田園風景が広がる地域に入り、さらに山の方へ。民家が減り、「本当にここでいいの?」と不安になってきたところに「森みち←」の小さな看板が。それを見過ごさずに道を曲がって、さらに行くと、そのカフェはあります。
築80年の古民家をリノベーションしたこちらのカフェ。田園の中にたたずむ古民家は、素朴な中にも洗練された雰囲気をもっていて、グッと人々の心をひきつけます。
▲ドアの取っ手は鍬(くわ)を使ったアイデアもの

靴を脱いで中に入ってみると、テラスからそそぐ太陽の光と、窓の外に広がる山の緑が目に飛び込んできます。テーブルは、引き出し付きの片袖机をリメイクしたものや、廃材を使った1点物などさまざま。
▲スナック風の赤いソファ席も居心地良さそう
▲木々の緑を見てリラックス。野鳥の声も聞こえる
▲人影の見えるところが、人気のテラス席。里山の風景が広がり、へべす畑なども見える

こちらのカフェのオーナーは、日向市出身の黒木洋人(ひろと)さん。2014年に築80年の古民家を借り受け、3年の月日をかけてリノベーションし、カフェ「森みち」をオープン。手塩にかけて育てたへべすを、農家自身がドリンクやフードにして提供する世界で唯一の店としてスタートしました。
▲へべす生産者でカフェオーナーの黒木さん

現在は「arne_morimichi」として営業され、黒木さんはオーナーという立場で店を統括しています。実際の運営は友人の椎葉(しいば)直美さん、健介さんご夫妻が担っています。
▲直美さんが調理を、健介さんがコーヒーなどドリンクを担当

爽やかな酸味と甘み!へべすのスイーツとドリンクを実食

では、お待たせ。へべすメニューをご紹介します。まずは「へべすのキャトルキャール」。キャトルキャールとは、フランス語で4分の1が4つという意味。小麦粉・バター・卵・砂糖という基本の4つの材料を用いたしっとりとしたケーキのことを指しています。
▲「へべすのキャトルキャール」(450円)

フォークで一口分を切り取り口に運ぶと、ふわっとへべすの香りが鼻腔を抜けていきます。ケーキの生地はもちろん、上にかけた粉糖にもへべすの果汁が使われていて、かんきつの香り、酸味、甘さをバランス良く味わえる焼き菓子です。秋になると材料のへべす果汁は、熟した黄色の実のものに替わります。黄色のへべすは緑のへべすより酸味が抑えられ、まろやかな味わいです。
▲「へべすソーダ」(500円)。「キャトルキャール」とともに、通年提供のへべすメニューです

続いて、フレッシュなへべす果汁を使った、清涼感のあるドリンク「へべすソーダ」をいただきます。グラスを持った瞬間に広がる、豊かな香り。飲めばその爽やかさが体中をめぐります。通常はシロップで甘めに調整されていますが、より酸っぱいものがお好きな方は、「甘みなしで」とオーダーすることもできます。こちらもおすすめです。
▲「季節野菜とベーコンのキッシュ」(前菜付き・1,300円)

この日のランチは「季節野菜とベーコンのキッシュ」。キッシュはバターの風味が豊かで、しかも野菜たっぷり。黒木さんはへべすのほか、野菜も生産しているので、黒木さんが育てたミニトマト、ズッキーニがキッシュの材料に使われています。そのほか、ベーコン、きのこ、タマネギなどもギッシリ。見た目はかわいらしいのに、食べると満足感でいっぱいになる直美さんのおすすめメニューです。
キッシュに添えられたグリーンサラダには、へべす果汁のドレッシングがかけられています。レモンやビネガーのような鋭さはないのに香りは豊か。ほのかに甘みが感じられるさっぱりとした酸味を生かし、まろやかな味わいが口に広がるのが特徴です。

健介さんはへべすの魅力を「何と言っても搾りたての香りのインパクトとフレッシュさがいい。香り豊かなのに主張せず、素朴な感じなので、サラダにもスイーツにも合う。相手を選ばず、他の食材と合わさることでよりおいしさを増す気がする」と話してくれました。
▲フレッシュなへべす果汁が美味なへべすソーダと、arne_morimichiの定番、キッシュ

どこか懐かしい古民家にぬくもりを感じ、里山の風景を見ながら、すぐ近くの畑で収穫されたへべすを使ったメニューをいただく…。日頃街の中で生活している身としては、リラックス、癒し、デトックスというのはこういうことか!と体と心が喜んでいることを実感できる空間です。友人同士で、またはカップルで。もちろん一人で行くのもおすすめ。時間を忘れてゆるりとできますよ。
▲椎葉さんご夫妻がヨーロッパを旅する途中に集めたアンティーク雑貨も

加工品、オーベルジュ、観光農園…若き農家の夢は果てしなく

へべすメニューを堪能したところで、カフェから車で2~3分のところにある、へべす畑を黒木さんに案内してもらいました。高さ3mほどの木々が並び、草取りをする人たちの姿が。ここには約100本のへべすの木が植えられています。
▲黒木さんのへべす畑

へべすを育てるうえで、いちばん難しいポイントは何かと黒木さんに伺うと、「剪定です。へべすは春芽、夏芽、秋芽と1年に3度芽を出しますが、その剪定の仕方を間違えると実がならなくなる。冬場も枝を剪定しなくてはいけないのですが、落としすぎると実の出来に影響が出るので、その技術を習得することが大事」とのこと。
▲畑でへべすの生育状況を確認する黒木さん

春には白い花をつけ、6~7月に実がなり、8月から収穫が始まり、10月半ば以降は緑色から黄色に熟したへべすを収穫します。
▲青空に向かって実をつける「へべす」
現在黒木さんは、へべすの栽培のみならず、へべすを材料にした宮崎県を代表するお土産品を作りたいと試行錯誤しているそうです。

カフェで販売している「へべすジャム」は、ジャム専門店を経営していた地元のパティシエに製造を依頼し、形になった自慢の品です。さらに飲食店向けに果汁を使った加工品を販売することも目指しています。
▲中身は同じだが、パッケージは2種あるへべすジャム(各700円、150g)。左端はニホンミツバチのはちみつ(3,000円)

今後はさらに様々な展開を考え、カフェから派生した「オーベルジュ」(=宿泊できるレストラン)構想もあるそう。鳥がさえずり、虫の声がする田舎の古民家に宿泊すれば、朝昼晩で景色を変える自然にどっぷり浸かることができます。日々の生活で溜まったいろいろなものをデトックスする場所になりそうです。
▲黒木さん自身がデザイン、施工を手掛けたカフェの内観

大きな夢の出発点になっているカフェ。まずはへべすのおいしさと自然をすぐそこに感じられる田舎暮らしのエッセンスを味わいに、遊びに来てみませんか?

へべすの調味料、スイーツのお土産品も…「まちの駅」もチェック!

もっとへべすを味わいたい!と思っているなら、JR日向市駅にある「まちの駅 とみたか物産館」へ立ち寄るのもおすすめです。へべすを使った調味料、漬け物、お酒、スイーツなどが約40点揃っています。
▲日向市観光協会が運営する物産館

イタリア・シチリア島産の岩塩と合わせた「へべ塩ロックソルト」や食のコンクール「料理王国100選」に選ばれた「へべすが香る七味とうがらし」など、へべす農家「熊野農園」が作った商品は、料理好き、おいしいもの好きの人なら見逃せない逸品です。
▲「へべ塩ロックソルト」(細粒・瓶と太粒・袋の2種)と「へべすが香るとうがらし」(一味・七味の2種)は各700円。「手搾り無添加へべす果汁」(840円・200ml)も

他にも地元の洋菓子店「SEIKADO」が作った「へべすちーずまんじゅう」や、果実生産者グループ「大山いち三(ぞう)」が開発した「へべす農園からの直送シャーベット」もおすすめ。「まちの駅 とみたか」のカフェスペースで食べられる「へべすソフトクリーム」は地元の人も大好きです。
▲宮崎名物・チーズ饅頭も日向ではへべすバージョンに(1個・140円)
▲ミルクのコクも感じられる「へべす農園からの直送シャーベット」(350円)。へべすの皮も使い、香り豊か(※皿に盛られた生果のへべすはついていません)
▲駅前広場を見ながら、「へべすソフトクリーム」(300円)とフレッシュな果汁を使った「ヘベスカッシュ」(200円)はいかが?

へべす商品がここまで揃っているのは、ここ「まちの駅」だけ!毎年のようにへべす商品は増えているそうなので、ぜひチェックしてみてください。
きっと一度食べたら忘れられない味になる「へべす」。緑色のかわいいかんきつ類を求めて、生まれ故郷の日向市まで旅をしてみてはいかがでしょうか?

※記事内の価格表記はすべて税込です
小御門綾

小御門綾

編集者/ライター 福岡県生まれ、神奈川県川崎市育ち。宮崎県在住。明治学院大学卒業後、メーカー勤務。その後、出版社勤務を経て、フリーランスの編集者、ライターに。現在、「日向経済新聞」(みんなの経済新聞ネットワーク)の編集長を務め、宮崎から情報を発信する。築150年ほどの古民家に住み、おいしいもの探しが趣味。 (編集/株式会社くらしさ)

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