右手にスプーン、左手にししとう!?話題のスパイスカレー代表店を調査!

2017.05.20

「おいしいとは何か?」を飽くことなく追求し、自身の哲学をカレーに反映させた料理人がいる。しかも、スパイスを音にたとえて使いこなすという超人技も兼ね備えている。彼が10年ほど前に生み出した“ししとうがのるスパイスカレー”は、今や大阪のカレーを代表するまでになった。これを食べずに、現在ブーム到来中のスパイスカレーは語れない!(by カレー調査隊隊長・井上岳久)

どうも、こんにちは!
カレーの第一人者である井上岳久先生と、一番弟子りかです。私たち2人は「カレー調査隊」として、ぐるたび編集部に届いた耳寄りカレー情報をもとに全国津々浦々を旅しています。

今回は、今ブームとなっている大阪発のスパイスカレー代表店のうわさを調査してきました。

右手にスプーン、左手にししとうが常識の「コロンビア8」

りか「ぐるたび編集部宛てに、こんな調査依頼のメールが届きました」

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数年前から、大阪で「スパイスカレー」が流行っていると聞きました。他のインドカレーなどとスパイスカレーはどう違うのでしょうか?また、食べるべきお店があれば教えてください。
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井上先生「実を言うとスパイスカレーに明確な定義はないんだ。でもお皿に盛りつけたあと、仕上げにパウダースパイスを振りかけるなど、スパイスの香りが重要視されている場合が多い。実はこれ、大阪で生まれた創作カレーのジャンルで数年前から大ブームになっているんだ。東京でも、ちらほらスパイスカレー店がオープンし、もうブームが起き始めている。今日は、そんなスパイスカレーの名店中の名店に行ってみよう!」

りか「実は私も、大阪のスパイスカレーブームがずっと気になっていたんです!名店のカレーを味わってみたいです」
▲お店は雑居ビル2階にひっそりある

ということで、やってきたのは大阪市営地下鉄・北浜駅から徒歩3分ほどの「コロンビア8(エイト) 北浜本店」。北浜駅周辺はカレー激戦区の1つです。

りか「あれ?『コロンビア8』じゃないですか!ずっと行きたいと思っていたんです!」

井上先生「おお、さすがに知っていたか。大阪市内に4店舗も経営する人気店なんだ。ここ1~2年で、大阪にはスパイスカレー店がたくさんオープンしたけど、『コロンビア8』の創業は2008年。スパイスカレーの先駆者の1つと言ってもいいね」
「いらっしゃいませ!」
出迎えてくれたのは、陽気な雰囲気の代表・オギミ~ル☆さん。店内はカウンター9席のみとこぢんまりしていて、調理スタッフとお客さんの距離が近いのが印象的です。
▲店内にはビールや焼酎などのお酒がズラリ。水・金曜の夜は、飲み屋としても営業(予約推奨)。沖縄のオリオンビールとスパイス料理は相性抜群らしい
▲黒板に書かれたメニュー表

オギミ~ル☆さん「メニューはいかがなさいましょう。キーマカレーと野菜カレー、それらを合わせたミックスカレーなどがありますが、初めての方はスパイスの基本を味わえるキーマカレーがオススメですね!」

りか「では、初めての私は基本のキーマカレーでお願いします!」
オギミ~ル☆さん「お待たせしました、キーマカレーです」
▲「キーマカレー」(税込850円)。てっぺんにのったししとうが存在感を放つ、なんとも不思議な盛りつけ

カレーの見た目に驚いていると、なにやらオギミ~ル☆さんの流暢な説明が始まりました…。

オギミ~ル☆さん「こちらのカレーは辛くないので、ししとうを左手にお持ちいただき、最初にひと口かじって、口の中に苦味を含ませながらカレーをお召し上がりください。それからこのカレーにはグレープフルーツジュースが付くので、グレープフルーツの酸味もカレーと合わせて味わってみてください」

りか「(…え?左手にししとう?そしてグレープフルーツ?!)」

オギミ~ル☆さん「…この苦みや酸味は、スイカに振る塩のような役割を果たしています。対比効果があることで、最後までスパイスの香りを楽しんでもらえるはずです。うちのカレーは、“右手にスプーン、左手にししとう”です。大阪では常識ですよ♪」

井上先生「『コロンビア8』ではカレーを提供するときに、こうやってお客さん一人ひとりに説明するんだよ。最初はびっくりするかもしれないが、これも人気の理由の1つだろうね」

りか「カレーの食べ方、その理由までちゃんと説明してくれるとはびっくりしました!」
井上先生&りか「では、いただきます!」
▲よく見ると、スパイスやカシューナッツ、細かくカットしたインゲン、レーズンなどが降りかかっている
りか「右手にスプーン、左手にししとうだから…こうですね!」
まずは、ししとうをかじってから
▲カレーをパクっ
▲もぐもぐ…

りか「先生、すみません。なんやこれ!って感じです。ししとうの苦味に加え、シャバシャバのカレーソースの中にスパイスやカシューナッツの歯ざわりが感じられるんですが、もう独創的過ぎて、よくわからないです!!」
オギミ~ル☆さん「ははは!初めて食べる方で、おいしいって顔をされる方は滅多にいないですね。大体の方が『なんやこれ?』と、頭の上にはてなを浮かべて食べられます。だけど、そのはてなが気になってもう1回食べに来ていただけるんです。それで、ご理解いただいて、また3回目も来てくれる。そうなったら、しめしめですよ(笑)」
井上先生「はてなを頭に浮かべたりかさんに、このカレーのしかけを解説してあげよう!ししとうの苦味とグレープフルーツの酸味を加えることで、味の切り替えができて飽きずに食べられる。さらにカレーソースの中には、カシューナッツやレーズンの他にインゲンのピクルスが入っていて、それらを噛むたびに違った味わいを楽しめるようになっているんだ」
りか「言われてみれば、インゲンを噛むと口の中で爆発するようなインパクトがありますね!」

オギミ~ル☆さん「そのインゲンのことを、僕は“味爆弾”と呼んでいます。カレーソースにはほとんど塩を使ってないので、メニューによって味爆弾の数を調整しながら塩気を足しています。塩味をインゲンという形で持たせることで、ものすごいインパクトを生む効果があるんです」
井上先生「なんとなく陽気な兄ちゃんがノリで作っているカレーのように見えるが、ロジカルに考えて作られているんだ。こんな風に自分なりにおいしさの哲学を持っている料理人は意外と少ないよ。それに、ししとうのイメージが強すぎて、最近ではししとうを見る度に『コロンビア8』を想起してしまう。一皿の中に、こんなにも語れる要素のあるカレーも珍しい。ちなみに、このししとうはおかわりできるんですか?」

オギミ~ル☆さん「スイカに塩をかけすぎたらおいしくないですよね。それと同じでししとうも1個で十分です。カレーを食べ終わる前にししとうがなくならないよう、家でししとうをゆっくり食べる練習をしてきてくださいね♪」

独創的すぎるキーマカレーの作り方とは

ロジカルに作られているとはいえ、初めて食べるキーマカレーの味に驚きを隠せません。一体どうやって作っているのでしょうか。オギミ~ル☆さんに聞いてみましょう!
オギミ~ル☆さん「まず、ターメリックなどのスパイスと一緒に炊いた麦飯をお皿に盛ります。麦飯にすることで、食感が活きるんですよ。その上にたくさんのミックスペッパーとバジル、それから隠し味のスパイスを振りかけます」
オギミ~ル☆さん「そして、鶏肉でとったブイヨンと30種類以上のスパイスを使ったカレーソースをかけます。この時、先ほど振りかけたバジルが放射状に散るようにお皿の真ん中からかけていきます」
オギミ~ル☆さん「で、味爆弾やレーズン、炒りカシューナッツを振りかけ、玉ねぎのピクルスをのせて、最後にテンパリング(※)したししとうを添えて完成です。コーヒーと同じ感覚で、完成して15分~20分がおいしさのピーク。だから大量に作り置きができないんですよ」

※テンパリング…油で熱することで、ホールスパイスや野菜の香りを引き出す作業のこと

まさに超人技!スパイスを音にたとえることで、テクニックを習得

作り方を教えてもらっても、まだ謎に包まれているキーマカレー。どうしたらこんな独創的なカレーを生み出せるのでしょうか?
オギミ~ル☆さんの経歴について聞いてみると、以前は会社勤めをしていましたが職人になりたいという願望があり、自分に何ができるのか模索していた2001年頃、カレーに出合ったといいます。
▲「僕はカレー店での修行経験はありません!」

オギミ~ル☆さん「たまたま入ったお店で創作カレーを食べたとき、『これが私です』と料理人の名刺をもらったような衝撃があったんです。カレーってポピュラーな料理なのに、こんなにもいろいろと表現できる料理やったんや!と気付きました。そして自分も、狭いお皿のなかでオリジナリティを表現できるようなカッコいいカレー職人になろうと決めたんです。ただ料理に関しては素人だったので、まずは他の料理人に失礼がないよう、一人前の料理人になってからカレー店をやろうと思い、6年ほどかけてカレー以外のさまざまな飲食店で修業しました」

井上先生&りか「…カレー以外?」

なんとカレー店をやるために、あえてカレー店には行かないという選択をしたオギミ~ル☆さん。それは「どこどこのカレー店出身」と言われるのが嫌だったからだそう。そうまでしても、自分だけのカレーを作りたかったようです。
井上先生「カレーのために6年かけて修業とはまたすごい。でもその甲斐あって、今ではスパイスカレーの代表店になっていますね」

オギミ~ル☆さん「そうなんですよ。ただ『スパイスカレー』という言葉でカテゴライズされるのも嫌なんです(笑)。当時はそんな言葉はなかったし、そもそも枠にはめられるのが嫌で始めているのでね」

井上先生「ははは、すみません(笑)」
りか「他の料理で修業したとはいえ、スパイスを使う料理って他にあんまりないですよね?」

オギミ~ル☆さん「スパイスは独学で勉強しました。最初の頃はスパイスを数値でしか見ていなくて、全然うまく作れませんでしたね。実は自分、DJとして活動していたこともあって。それでスパイスの香りを音感に当てはめてみたんです。音にはハイ、ミドル、ローがあるように香りにも高中低があって、たとえばシナモンなら低で、ローリエなら低と中をつなぐ役割とか。得意とする感覚に転換してみたら、スパイスをうまく使いこなせるようになったんです」

井上先生「ほ~ぉ。頭で考えるのではなく感覚で作れる超人の境地に至ったわけだ。私はよく物事を野球にたとえるのだが、今度からカレーも野球にたとえて話してみようかな。カルダモンはカーブだとか(笑)」

りか「う~ん、お二人の話は高度過ぎて私にはまだ理解できません(苦笑)」

では井上先生、カレーの評価をお願いします。
井上先生「『コロンビア8』のカレーチャートはこちら!」
井上先生「右手にスプーン、左手にししとうから始まり、味爆弾などユニークなテクニックが使われていたから、オリジナリティは5超え!スパイスは麦飯の上にかけて、さらに仕上げにもかけるなど、何層にもわたって使っていたからスパイステクニックも5超え。そして、大阪でしか食べられないカレーだから、ご当地グルメ度は5」

りか「私もさまざまなカレー店を食べ歩いていますが、かなりの衝撃度でした。なんだか、このカレーのことをもっと理解したくて、2回目も来てしまいそうです。ちなみに、店名はどういう意味があるのでしょうか?」

オギミ~ル☆さん「それは夜に飲みに来てください。そしたら教えますよ♪」
▲最後は、ししとうを持ってパシャリ!

大阪でスパイスカレーを食べるなら、まずは「コロンビア8」へ。
ご協力ありがとうございました。

井上岳久(カレー大學学長/株式会社カレー総合研究所代表)

カレー業界を牽引する、業界の第一人者。横濱カレーミュージアム責任者を経て現職に至る。カレーの文化や歴史、栄養学、地域的特色、レトルトカレーなど、カレー全般に精通。レトルトカレーは全国から2,000種類を収集し試食している。著書に『一億人の大好物 カレーの作り方』『国民食カレーに学ぶもっともわかりやすいマーケティング入門』など多数。

名久井梨香

名久井梨香

フリーライター。毎日カレーを食べるカレー愛好家で、現在はカレーパンも研究している。カレー大學、カレー大学院卒。趣味はカレーとJリーグ。

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