邪道なのに旨み抜群!?あいがけ&あいめしスパイスカレー

2017.06.13

スパイスカレーの弱点である“旨み”にこだわったカレー店がある。旨みのために、干しエビやカキ、アサリなど一般的にカレーには使わない食材も取り入れる。あえて邪道を行くという店主の人間性が見事に表れたスパイスカレーだ。他では決して味わえない唯一無二の味だろう。(by カレー調査隊隊長・井上岳久)

どうも、こんにちは!
カレーの第一人者である井上岳久先生と、一番弟子りかです。私たち2人は「カレー調査隊」として、ぐるたび編集部に届いた耳寄りカレー情報をもとに全国津々浦々を旅しています。

今回は、旨みも味わえる大阪スパイスカレーのうわさを調査してきました。

裏谷四の仕掛け人!個性的な“塔主”のカレー店「バビルの塔」

りか「ぐるたび編集部宛てに、こんな調査依頼のメールが届きました」

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大阪には元バンドマンが経営するスパイスカレー(※)店が多くあるのですが、なかでもバンドを辞めて無職だった方が、谷町四丁目駅近くにカレー店をオープンし、成功をおさめているそうです。今では、その周辺エリアは「裏谷四(うらたによん)」と呼ばれ、カレー激戦区になっています。どんな店主が経営しているのか、またどんなカレーを提供しているのか調査してきてください。
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※スパイスカレーとは…大阪発祥の創作カレーのこと。明確な定義はないが、仕上げにスパイスを振りかけるなど、スパイスの香りを重視したカレーが多い。

井上先生「そうそう。大阪のスパイスカレーのお店は、なぜかバンドマン出身者が多いんだ。バンドをやっていなくても、例えばDJやゲームクリエイタ―など表現者ばかり。それにしても無職からカレー店を成功させたっていうのはすごいね」

りか「私はカレーも大好きですが、同じくらいバンドマンも大好きなので、ぜひ行ってみましょう!」

井上先生「そうだった~、りかさんはバンドマンが好きだったんだ。…やれやれ」
ということで、やってきたのは大阪市営地下鉄・谷町四丁目駅から徒歩8分ほどの「バビルの塔」。店頭に飾られたバイク「バビル2号」が目印です。

りか「もう店名と外観からして、個性的な店主がいるとわかりますね!」

井上先生「ああ、間違いない(笑)。入ってみよう」
店内は1970~80年代に流行したスペースエイジなテイスト。アパレルショップや雑貨店ならまだしも、これがカレー専門店だとは信じられません!
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは、店主ならぬ“塔主”の福田タクシさん。

井上先生「内装がカレー店っぽくなくて驚きましたよ」

塔主「昔から、こういったデザインのアンティーク家具を集めていたんです。家に置いていたら、奥さんの機嫌が悪くなったんで、開業するタイミングでお店に持ってきたんですよ」
▲無職のときに、100万円ほどかけて購入したテレビ!

井上先生「(カレー店の店主はおもしろい人が多いが、今回は群を抜いておもしろそうだな)…その話はまたあとでじっくり聞くとして、先にカレーをいただきますかね!」

旨みも味わえる!あいがけ&あいめしスパイスカレー

▲日替わりの肉カリーと豆カリーがのった「あいがけ」(税込900円)。ごはんは、ジャスミンライスかササニシキ、または両方のせた“あいめし”から選べる

りか「“あいめし”って言葉は初めて聞きましたが、塔主が考えたのですか?」

塔主「いや、お客様から『あいがけできるなら、あいめしできるやろ?』と言われて始めました。この辺はそういう輩が多いですからね(笑)」
井上先生&りか「では、いただきまーす!」
▲この日は、肉カリーが干しエビ&茹でエビの入ったキーマカリーで、豆カリーがあしたば&厚揚げ入り。日替わりメニューは当日にお店のブログとTwitterで告知しています
▲パクっ

りか「う~ん、香ばしい!これは、干しエビの旨みですね。干しエビだけでなく、茹でたエビのぷりっとした歯ごたえもあっていいですね」
りか「それに、トッピングされたあられの食感もいい!カレーにあられって初めての組み合わせです」
井上先生「スパイスカレーは、どうしても辛さに寄ってしまいコクや旨みが少なくなりがちだけど、これは干しエビを入れることで旨みが出ているよ。それに、清涼感漂うカルダモンの香りが際立っている」

塔主「日替わりなので今日は干しエビですけど、他にアサリやカキ、カツオ、ズワイガニなども使いますよ。よそがやっていないことをやってみたくてね。キーマカリーにこんな食材を入れるのは普通に考えたら邪道だと思うんやけど、その邪道を俺がやったろうって」
井上先生「なるほど。あえて邪道を行くとは、ロックンローラーですね。でも、そのおかげで旨みをカバーした、完全無欠なスパイスカレーとなっていますよ。厚揚げもカレーと混ざることで柔らかな食感が活きているし、あしたばも苦味がなくて食べやすい!」

前日、当日、直前。スパイスを3段階に分けて使いこなす!

あえて邪道を行くというカレーは、一体どうやって作っているのでしょうか?塔主の福田さんに聞いてみました!
塔主「メニューは日替わりですが、ベースは同じ。肉カリーの場合、まずトマトと玉ねぎを、ニンニク、ショウガ、香りづけした油で炒め、トマトが半分の量になるまで煮詰めたら、挽き肉と日替わりの具材を炒めます。前日にここまで下準備しておいて、当日にクローブ、ブラックペッパー、シナモン、フェネグリークなど8種類のパウダースパイスを加えて香りを立たせ、最後の仕上げとして直前にカルダモンを振りかけて完成です」

井上先生「カルダモンは火を止めてから投入するんですね」
塔主「はい。カルダモンは熱に弱くて、50度以上になると香りが飛んじゃうんですよ。カルダモンは値段が高いから、香りが飛んだらもったいないでしょ!」

豆カリーの場合は、みじん切りのセロリ、すったニンジンを香りづけした油で炒めてから、ニンニク、ショウガを投入してトマトと玉ねぎを炒めます。当日に豆を入れて煮込み、パウダースパイスでさらに香りづけしていきます。前日と当日の工程があることも、カレー作りのポイントです。
りか「でも、なぜメニューは日替わりなんでしょうか?」

塔主「飽き性だからずっと同じものを作るのが嫌なんですよ。だからメニューを固定していないんです。それと、スパイスは香りが大事だから余ったカレーは捨てていて、次の日には売りません。それを証明するためには、毎日日替わりにするしかないかなって」

カレー店を始めた理由は、奥さんに尻を叩かれたから!?

さて、気になる塔主の人柄に迫ってみましょう!どうして無職からカレー店をオープンしたのでしょうか?
塔主「元々バンドをやていて、カレー屋をやるつもりはなかったんですよ。ただ『カシミール』さんや、『コロンビア8』さんの作るカレーが好きで、どうやったらあの味が出せるんだろうと15年ほど前から趣味で研究していました。バンドを辞めて無職になってしまい、さらに子どもも生まれて…。2人目の子どもが生まれたタイミングで、嫁さんに『働け!あんた何ができんねん!』って言われて…。じゃあカレー屋やるか言うて」

井上先生「今まで、さまざまなカレー店を取材してきましたが、開業理由が奥さんに尻を叩かれたからという方は初めてですよ(笑)。それにしても大阪でスパイスカレーを出すお店の店主は、元バンドマンが多いですね」

塔主「そうなんですよ。カレー屋やる前から知っていた人たちも多いですからね。『お前もカレー屋になったのか?バンドに挫折したやつがカレー屋やるって思われたら、どないすんねん!イメージ悪いやろ!』って、よく話しています。大阪のカレー屋は横のつながりが強くて、大体が友だちの友だちにおさまりますね」
りか「へぇ!なぜ、スパイスカレーはバンドマンを魅了するのでしょうか?」

塔主「スパイスカレーって、音楽のジャンルにたとえたらオルタナ(※)。インドやタイカレーなどのジャンルにも属さないし、何でもアリだからじゃないですかね。スパイスカレーに出合って、はじめて飲食店やカレーをカッコいいと思いましたから」

※オルタナ…オルタナティブ・ロックの略。商業的な音楽とは一線を引いた、前衛的でアンダーグラウンドな音楽のこと。

りか「なるほど。スパイスカレー店の店主に元バンドマンなどの表現者が多いのは、つまりアウトプットの場がライブハウスからカレー店に変わったってことなのかもしれませんね。大阪のスパイスカレーシーンのことが何となくわかってきました」

では井上先生、カレーの評価をお願いします。
井上先生「『バビルの塔』のカレーチャートはこちら!」
井上先生「干しエビを使うなどして、旨みを出していたからコクの項目は4。あえて邪道を行くというロックな信念があったので、オリジナリティは5超え。前日と当日の工程があって、さらにカルダモンは直前に振りかけるなど、独自のスパイステクニックもあったので、スパイステクニックも5。なかなかおもしろいカレー店だったよ」

りか「はい、何より塔主の福田さんの人柄がおもしろかったです!」
▲店頭に飾られたバイク「バビル2号」と一緒にパシャリ!

大阪で、旨みのあるスパイスカレーを食べるなら「バビルの塔」へ。
ご協力ありがとうございました!

井上岳久(カレー大學学長/株式会社カレー総合研究所代表)

カレー業界を牽引する、業界の第一人者。横濱カレーミュージアム責任者を経て現職に至る。カレーの文化や歴史、栄養学、地域的特色、レトルトカレーなど、カレー全般に精通。レトルトカレーは全国から2,000種類を収集し試食している。著書に『一億人の大好物 カレーの作り方』『国民食カレーに学ぶもっともわかりやすいマーケティング入門』など多数。

名久井梨香

名久井梨香

フリーライター。毎日カレーを食べるカレー愛好家で、現在はカレーパンも研究している。カレー大學、カレー大学院卒。趣味はカレーとJリーグ。

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