山形の今昔かき氷を楽しむ/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩き vol.18

2017.07.25

「すだまり氷」、という言葉を皆さんはご存知だろうか?山形県の南東部にある山辺(やまのべ)地区だけで食べられている珍しいかき氷なのだが、名前の通り、かき氷にお酢をかけて食べるという、全国でも類を見ない斬新なスタイルである。イチゴ味やメロン味の甘いシロップの上に酢醤油という組み合わせ。なんとも不思議なご当地かき氷を食べてみたくて、山形を訪れてみることにした。

▲「音茶屋(おとちゃや)」の「さくらんぼミルク」700円(税込)※期間限定

山辺町限定・酢醤油をかけるかき氷「すみどや」「山辺温泉保養センター」

もともと「すだまり氷」は屋台から生まれたと言われている。戦後の物資が貧しい頃、かき氷の屋台とところてんを売る屋台が近くにあり、有料のイチゴのシロップをかけずに無料で置いてあったところてん屋台の酢醤油をかけて食べたことが「すだまり氷」の始まりだったらしい。やがてイチゴやメロンなどの甘いシロップの上に酢醤油をかけて食べるのがこの地方の風習となっていったようである。
▲「すだまりかき氷」200円(税込)、「昔みぞれ」180円(税込)

まず訪れたのは、JR羽前山辺駅から徒歩2分ほどの「すみどや」。酢醤油を入れてあるのは大抵サイダーの空き瓶で、口の部分には杉の葉がぎっちりと差し込まれている。これは防腐剤の役割と、かけすぎ防止の役割を担っているそうだ。注文したイチゴのかき氷に酢醤油を振りかけてみると、杉の葉を伝ってポタリポタリといい塩梅に氷の上にかかる。
いざ実食!うーん、まあ、いけないことはない。想像通りに甘いシロップとツンとくる酢醤油だ。しかし、食べ進んで行くうちに、もう少し酢醤油をかけてみるか?とシロップのかかってない部分に酢醤油をかけてみたり、シロップだけの部分を食べてみたりと、なかなか楽しめる。食べ終わると、口の中は冷たさと酸味からくる爽快感でスッキリとしていた。これは結構癖になる味だなと実感した。
2017年現在「すだまり氷」を提供している店はわずか7軒。どの店も氷専門店ではなく、スーパーだったり、食事処だったり、八百屋さんだったり、様々な形態の店舗で伝統の味を絶やさないように提供している。山形のコクのある醤油をベースにした酢醤油は、各店舗で調合が異なるのだそうだ。

今回僕がかき氷を食べた「すみどや」は本来たこ焼きのお店だ。地元客も観光客も楽しそうに熱々のたこ焼きを頬張ってはかき氷を味わっていた。
▲「たこ焼き(1串・3個)」110円(税込)
▲「すだまりかき氷」250円(税込)

もう1軒、山辺温泉保養センターの食堂では、「シロップはいらないよ!酢だまりだけかけて!」と風呂上がりのお父さんが酢醤油だけのかき氷を食べていた。「温泉後にはこれがいいんだよ!」とかき氷で涼む姿を、気持ち良さそうだなあ、と羨ましく感じた。

蔵王温泉を2倍楽しめるかき氷「音茶屋」

せっかく山形まで来たんだから、露天風呂にでも入りたいなと思って向かったのが蔵王温泉だ。観光雑誌などに必ず載っている素晴らしい景観の温泉に向かって車を走らせると、やがて車は蔵王温泉街に差し掛かった。冬にはスキー客で賑わう温泉街も、夏となると多くの店がシャッターを下ろして夏休み状態になっている。
ましてや平日の夕方となると出歩いている人も少なくひっそりとしているのだが、ある店の前を通りかかった時、立て看板に大きなかき氷の絵が描かれているのに目が止まった。看板には「この夏かき氷はじめました」という文字が書かれているではないか。こんなところでかき氷に出合えるとは、なんという偶然。これは入るしかない!
店に入ってゆっくりメニューをみると、おっ?と好奇心をくすぐられるメニューが並んでいる。「とりあえず、これとこれを」と立て続けにふたつ頼むと店員さんが不思議な顔で厨房に入っていった。それはそうだろう、夕食時にふらりと来た一見の客がいきなり2杯もかき氷を注文したら怪しいだろう……。

ほどなくして運ばれて来たかき氷は素朴な印象だが、なんとも心惹かれるものがある。ゴロゴロとさくらんぼのコンポートがのった「さくらんぼミルク」に、スパイスがしっかりと効いた「カルダモンミルク」。これは当たりだな、とニヤニヤとしてしまった。
▲「さくらんぼミルク」700円(税込)※期間限定

「さくらんぼミルク」のかき氷は丁寧にきめ細やかに削られ、山形らしく大きなさくらんぼをコンポートにしたものをたっぷりかけてある。「音茶屋」では、できるだけ果物は県内産のものを使うようにしているという。

山形県産のさくらんぼをこんなにたっぷり食べられるなんて、なんと贅沢なかき氷だろう!一度にこんなにたくさんのさくらんぼを食べたのは生まれて初めてだなぁなどと考えながら一つ、もう一つとさくらんぼの淡い香りを存分に楽しんだ。
▲「カルダモンミルク」700円(税込)

もう一つ注文していた「カルダモンミルク」は、まさかこの味が山形で食べられるとは…と驚く味わいだった。甘ったるくなくすっきりとした仕上がりで、カルダモンのスパイシーな香りをしっかりまとわせたミルクが氷にしっとりと染みている。

実は「音茶屋」ではカレーも有名だということで、スパイスの扱いに慣れているのであろう。カレーを食べて汗をかいた後にこのかき氷を食べたとしたら…きっと最高であろう。ああそうすればよかった、とちょっと後悔だ。

それでもかき氷の美味しさにすっかり満足して、再訪を心に誓いながらお会計をしていると店主さんに「かき氷、お好きなんですか?」と声をかけられた。
「ずっと食べ歩いているんです、でもこちらのことは知らなくて……看板見て入って来たんですよ」と答えると、「昨日、看板書いたんです。よかった、看板書いて!」とのこと。なんとまあ、見事な看板効果。きっとご縁がある店なのだろう、とかえって嬉しくなった。
▲「かぼちゃ」700円(税込)

「音茶屋」では、旬の果物や野菜を使ったかき氷を出しているので、果物の旬が終わったらメニューも終了。さくらんぼ、桃、プラム、かぼちゃ…と変わってゆく旬の味と蔵王温泉をセットで楽しんでみてはいかがだろう。

畑に囲まれたジャム屋の絶品かき氷「ぽたじぇ」

山形県の最後の目的地は「ぽたじぇ」というかき氷の店だった。平日は畑を耕している主人が自分の畑で採れた農作物でジャムを作り、週末限定のジャム屋として営業している小さな店らしい。そのジャムを使った美味しいシロップのかき氷を夏の間だけ提供しているらしいのだ。

ネットで山形のかき氷の情報を探している時にたまたま見つけた店主のSNSを見て、「どうしても行きたい」と1日かけてその店へと向かった。その店が開いているのは週末のみ。かき氷も売り切れじまいなので、朝一番を目指すしかない。
東北中央自動車道の米沢北ICを降りてから30分ほど車を走らせ、田んぼと畑に囲まれた片田舎の美しい空の下、絵本の中のジャム屋のようにその店は佇んでいた。ここで食べるかき氷はさぞ美味しいだろう、と開店前からワクワクが止まらない。噂を聞きつけて来たのであろう、県外ナンバーの車が同じように開店前から駐車場に停まっている。きっと口コミで有名な店なのであろう。
店内に入ると、カウンターでまず注文。ここまで来ているのだから全部注文か?いや、それではやはり怪しすぎる。はやる心を抑えながら1人1品で注文した。店内に入ると店主手作りのジャムが並び、窓からの真っ青な空と雲がのぞいている。
窓から風が吹き抜ける店内で心地よい時間を過ごしていると、やがてかき氷が登場した。最初に注文したのは山形県産の真っ赤なすももを使ったという「すもも」のかき氷。
▲「すもも」700円(税込)

この美しすぎるかき氷にしばし呆然としてしまった。この鮮やかさは見たことがない。驚くほど芳醇な香りを放ち、すもも独特の酸味とそれを超える濃厚な甘さのバランスが素晴らしい。「ぽたじぇ」のかき氷は全てミルク付きになっているのだが、「すもも」にはヨーグルトソースがかかっており、果物の美味しさをひきたててくれる。
▲「桃と木苺」700円(税込)

次に提供されたかき氷も、これまた美しい姿だ。今まで食べ物に対してそう思ったことはないのだが「可憐」という言葉が浮かんでくる。とても可愛らしく、儚げであり、それでいて力強い。山形県産の桃と店主が育てたラズベリーの2色がけのかき氷「桃と木苺」だ。

桃のピンクがかった果肉ソースの上に、まるで発色しているかのごとく輝いているラズベリーシロップ。見ていて飽きない美しさなのだが、かき氷はそうも言ってられない。それぞれのシロップがどちらも抜群にうまいのだが、ふたつのシロップが混ざると新しい美味しさが生まれる。ふたつのシロップを重ねるとき、その重ね方に店主の感性が表れているような気がする。僕はこの店主の感性が大好きだ、と思った。
▲「マスクメロン」800円(税込)

もうこうなると1人1品なんて言ってられない。他のお客さんがやってくる前に2つかき氷を追加注文だ。

まずは山形県産のメロンを使った「マスクメロン」。これはまた、ここでしか食べられないのではないかと思わせる、マスクメロンそのものを味わえるかき氷である。メロンが完熟するまでじっくりと待って、最高の状態になった時にメロンそのものの美味しさを楽しめるシンプルなシロップに仕上げている。まるで瑞々しいメロンを1個食べきった気分になる。
▲「和栗のモンブラン」800円(税込)

最後にお願いしたのは「和栗のモンブラン」。これは今までの3つとは毛色が違っていた。自家製栗をペーストにしてクリームソースと合わせた、まるでケーキのような味わいのかき氷。シンプルなかき氷も、手を加えて洋菓子のように仕上げたかき氷も、どれも素材の味を活かしながら色々な手法で果物の美味しさを追求している店主の姿勢が見えてくるような、丁寧で美しく、美味しいかき氷だった。
どのかき氷も、この店の雰囲気や、居心地の良さをうかがえるほど美味しかった。「美味しいジャムを作りたい。ジャムを使ってできた美味しいかき氷を食べてもらいたい」という店主の気持ちが詰まったかき氷は、店主の人柄がそのままかき氷になったような素晴らしい味であった。
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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