「クレマチスの丘」はアート好き、花好きなら1日中楽しめてしまう夢の国だった!

2017.07.23 更新

富士山の裾野に位置する静岡県駿東郡長泉(ながいずみ)町。この町にある緑豊かな丘には、美しい庭と4つのミュージアム、カフェ、レストランからなる複合文化施設「クレマチスの丘」があります。アートと花と食がテーマの場所に流れる豊かな時間を楽しみに、行って来ました。

美しい庭を求めて「クレマチスガーデン・エリア」へ

新東名高速道路長泉沼津ICから伊豆縦貫道方面へ。長泉IC出口より国道246号線を東京方面へ進み、南一色交差点を西へ折れ、細い道を登っていくことおよそ5分。「クレマチスの丘」に到着します。
クレマチスの丘には、2つのゾーンがあります。丘のふもとから第一駐車場へと続いているイチョウ並木の右手にあるのが「クレマチスガーデン・エリア」。こちらは「ヴァンジ彫刻庭園美術館」と「IZU PHOTO MUSEUM」があるゾーンです。
そこから徒歩で15分ほど丘を上ったところにあるのが「ベルナール・ビュフェ美術館」と「井上靖文学館」のある「ビュフェ・エリア」。それぞれのエリアにカフェやレストラン、ミュージアムショップなどが併設されています。
▲満開のクレマチスがお出迎え。色も形もさまざま

そもそもどうして「クレマチスの丘」という名前なのでしょうか?
この施設がある長泉町は、全国のクレマチス生産数のうちおよそ6割を栽培しているクレマチスのメッカ。確かにここへ来る道中にも農園があって“クレマチス”の文字を眺めて来たところでした。
▲まずはクレマチスガーデン・エリアにあるチケットセンターを目指そう

実は、この場所に最初にできた施設は1973(昭和48)年に開館した「ベルナール・ビュフェ美術館」。黒い直線とモノトーンの色彩により独自の画風を築いたフランスの画家ベルナール・ビュフェの作品を収蔵・展示する美術館です。自然豊かなこの土地の景色が、ビュフェが生涯描き続けたフランス・ブルターニュにとてもよく似ているそうです。

その後、アートと花と食を楽しめる複合文化施設「クレマチスの丘」としてオープンしたのは2002(平成14)年のこと。アートや花、そして食事を、1日かけてゆっくり楽しんでほしいという願いを込めて作られたそうです。
▲チケットセンターの正面にあるIZU PHOTO MUSEUMの入り口

各ミュージアムではそれぞれ企画展も催され、その開催期間が長いのも特徴です。
石畳の道を歩いていくと、広場に、ビビッドな色彩の作品を発見。この作品は、前衛芸術家である草間彌生さんの彫刻作品《明日咲く花》。クレマチスの丘創設15周年を記念して、この場所に常設されました。個性的な大輪の花は、一度見たら忘れられない衝撃と圧倒的な美しさがありますよね。
この作品のすぐそばにあるチケットセンターでは、ヴァンジ彫刻庭園美術館とIZU PHOTO MUSEUMの単館券のほか、4館共通券3,000円(税込)といったお得なチケットの販売もあるので、その日のプランに合わせて利用するのがオススメです。

今回は、お目当てのヴァンジ彫刻庭園美術館の入館券1,200円(大人1名・税込。11~3月は1,000円)を購入。カウンターの右手へと続く石畳の道の先にある入り口を目指します。
緑の小道を抜けると広い空と緑が広がり、イタリアの彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの作品がのびのびと置かれています。
▲《層になった木を眺める人物》は、ヴァンジの1993(平成5)年の作品。御影石でできていて、触れるとすべすべとしている

屋外にある作品は、実際に触れながら鑑賞してもOK。作品に敬意を払いながら触れると、肌触りや温度の違いに驚かされます。それぞれの素材の特徴を体感できて、とても面白いですよ。
展示棟の入り口は、丘を下ったところにあるコンクリートの建物にありました。ドアの向こうにある階段を下ると、展示室が広がります。
▲これらは全てヴァンジの常設作品

渡り廊下の上から、作品を見下ろします。ヴァンジの彫刻は、大理石や木、ブロンズなど、さまざまな素材を組み合わせているところが特徴とも言えるでしょう。
角度を変えて見れば別の表情をしていたり、違った輪郭が浮かび上がったり。角度によって形や表情が豹変する彫刻は、まるで生きている人間が持つ複雑な感情や多面性を表しているよう。見れば見るほど想像力を掻き立てられます。
▲窓に描かれた作品は、2017年11月30日まで見ることができる

窓ガラスに描かれた6本の木は、美術作家である佐々木愛さんの作品《The first tree》です。卵白と砂糖でクッキーをデコレーションする“アイシング”を用いて描かれる“シュガードローイング”という技法で描かれているのです。画材が卵白と砂糖だなんて、とてもユニーク。
建物の外には、ふかふかの芝生が広がって気持ちよさそう。彫刻作品も見えます。早速外へ出てみると、目の前には、大きなクスノキ!
クスノキが植えられた「くすの木の丘」の左手には、色も大きさも形もさまざまなクレマチスが広場の周囲を囲む「クレマチスガーデン」が広がっていました。
その広場には、ヴァンジの彫刻作品《天の階段》があります。近づいてみると……。
▲緑の中に、下へと続く階段を発見!
早速降りてみると、そこには地下室があって、ひどく悲しそうな表情を浮かべる人々と、それを眺める男女がいました。
ヴァンジが生まれたのは1931(昭和6)年のこと。幼少期から青年期にかけて第二次世界大戦を経験。社会の不条理さをたくさん感じたと言います。
倒れている人。泣いている人。目を背けたくなるほど悲しい光景。そして、それを眺める若い男女。この地下室から地上へと伸びる青い階段はとても急で、まるで明るい場所へと急かすように存在します。この世界は、未来は、どこへ続いているのか。大いに考えさせられます。
クレマチスガーデンの片隅には、ガゼボ(東屋)がありました。こんもりと咲いているのは“シンデレラ”という品種のつるバラ。まるでオールドローズのような柔らかな雰囲気があって、とても素敵です。園内に植えられた250種、2,000株のクレマチスの半数以上が、5月上旬~6月中旬にかけて咲くそう。もちろん、一年を通してクレマチスを楽しむことができます。
次は、くすの木の丘の右手に広がる庭へ行ってみました。たくさんのバラが咲いているのが見えます。
木バラは5月中旬から8月下旬まで繰り返し開花。その後、10月になると秋バラが咲き始めます。ツルバラは、6月上旬までが見頃です。
▲クレマチスのほか、バラも開花し始める5月は、庭が最も華やかになる
▲男と女と木を彫刻で描いた《プリマヴェーラ》

丘の上にある彫刻とバラのある景色も美しく、心が弾みます。作品の一部である円形のベンチに腰掛ければ、自分もこの作品の登場人物になったような気分が味わえます。

純白のイングリッシュガーデンには、隠れ家みたいなティールーム

庭を歩いていたら、緑の中に小さなアーチがありました。そっと入ってみると、そこは正統派のイングリッシュガーデン。
バラやクレマチス、チューリップなど季節ごとに純白の花だけが咲く「ホワイトガーデン」に仕立てられていました。緑と白の爽やかなコントラストを楽しみながら歩いていると、今度は小さなティールームに出合いました。
▲小さな「ガーデナーズハウス」はクレマチスの丘の隠れ家的存在

こちらは、知る人ぞ知るティールーム。お菓子とコーヒー、お菓子と紅茶、お菓子とジュースといった具合に、お菓子と飲み物のセットがいくつも用意されており、それぞれ1,000円(税込)で味わえます。広い庭の散策に疲れたら、こちらでほっと一息つくのがオススメです。
美しい庭のある美術館に後ろ髪を引かれつつ、外へ出るとそこには……。
▲まるでレストランがあるとは思えないほど庭園と一体になっているリストランテ

美しい花に彩られた「リストランテPRIMAVERA」がありました。「ヴァンジ彫刻庭園美術館」併設のレストランだけあり、美しい庭園を眺めながら上質な料理とサービスを堪能できます。
このほか、美術、写真、自然や暮らしにまつわる本や絵本を扱うショップ「NOHARA BOOKS」や、「ピッツェリア&トラットリアCIAO CIAO」もクレマチスガーデン・エリアにあります。
もう1つ、このエリアにある「日本料理tessen」は、箱根西麓三島野菜やあしたか牛、沼津港で水揚げされた魚介など、地元の食材をふんだんに使った和食を味わえるお店。2017年には1階に「うつわ茶房 KEYAKI」をオープンしました。
作家が作る器を購入することもできるうえカフェ利用もでき、軽食や喫茶を味わえます。

つり橋を渡って「ビュフェ・エリア」へ

クレマチスガーデン・エリアとビュフェ・エリアを結ぶのは、長泉町営の駿河平自然公園。この公園に架かる吊り橋を渡ると、歩いて15分ほどで移動できます。もちろん無料巡回バスもあるので心配ありません。

緑の中へと続く道を行くと、目指すビュフェ・エリアにある「ベルナール・ビュフェ美術館」前へ到着します。
▲「ベルナール・ビュフェ」という名のバラ

美術館の前に咲くバラは、画家ベルナール・ビュフェその人の名を冠したバラ。2008年11月、「ベルナール・ビュフェ美術館」開館35周年と日仏交流150周年を記念して植樹されました。

では早速「ベルナール・ビュフェ美術館」を見学することにしましょう。こちらでは、単館券のほか、共通券も購入できます。
建物は、日本を代表する建築家、菊竹清訓(きくたけきよのり)氏が設計。陽の光が差し込むアールを描いた展示室にはなんとも言えない開放感があります。

この美術館が収蔵するビュフェの作品は、油彩、水彩、素描、版画、挿画本、ポスターなど多岐にわたり、ビュフェが生涯に渡り残した作品およそ8,000点のうち約2,000点を収蔵。コレクションとしては世界一を誇ります。

展示は、ビュフェの初期の作品から始まります。
▲1946(昭和21)年の作品《海》

この作品をよく見ると、キャンバスにつなぎ目のような跡があるのがわかります。この作品が描かれたのは、第二次大戦終戦の翌年のこと。物資がない時代、ビュフェは、シーツやカーテンをつなぎ合わせて油彩を描いたのです。
そんな時代に描かれたビュフェの作品には戦争による虚無感や不安感が描き出されており、作品を観た美術館創設者の岡野喜一郎氏の心に深く刻まれました。それをきっかけに彼の作品を蒐集し始めたのです。
ビュフェの作品は、油彩をはじめ、ドライポイント、リトグラフといったさまざまな技法で描かれており、題材も多岐に渡り、風景、ポートレート、昆虫や動物など、幅広いのが特徴です。
▲ビュフェが愛したアナベル夫人をモデルにした絵も多くある
▲第62代横綱大乃国を描いた油彩も

1980(昭和55)年の初来日以来、7度も来日しているというビュフェ。「自分の子供に会いに行ってくる」と来日のたびに訪れたというこちらの美術館には、日本をテーマにした作品も収蔵されています。
2016年にはパリにある2つの美術館で回顧展が開催されており、今、再評価の流れにあるベルナール・ビュフェ。現在、こちらの美術館では「ベルナール・ビュフェ再考」という企画展を開催。テーマへの取り組みを、収蔵する代表作100以上から再考する大回顧展は、前期と後期に分けて開催されます(前期は2018年1月16日まで。後期は2018年1月18日~2018年9月4日まで)。

「ビュフェこども美術館」で美術に親しむ

矢印にしたがって階段を降りれば、別館の1階にある「ビュフェこども美術館」へ到着します。
▲クルクル回して絵を合わせるのは、大人だって楽しい!

大人も子供も入り口で靴を脱いだら、ビュフェの絵の世界を楽しみましょう。
木のボールのプールでは木の感触を楽しんだり、五感を使ってアートに触れることができるのです。「ビュフェこども美術館」の館内には、子供用の手洗い場や授乳室を完備。エレベーターの利用もでき、ベビーカーや車椅子での利用もラクラクです。

併設のミュージアムショップ&カフェへ

▲ベルナール・ビュフェ美術館と井上靖文学館の間にある「TREEHOUSE」

ビュフェの世界を堪能したら、美術館に寄り添うように建つ「カフェ&ショップTREEHOUSE」へ。
目の前には、シンボルツリーである樹齢40年を超える大きなクスノキが。これは、美術館開館時にアナベル夫人も一緒に植樹したもの。大きな木に見守られるように存在するから「TREEHOUSE」と名付けられたそう。
ショップには、ビュフェに関連した美術書をはじめ、絵本や書籍、グッズなどが販売されています。
カフェには、季節のフルーツを使った焼き菓子やケーキが並ぶショーケースが。この中から選んだ好きなものを、イートインすることができます。コーヒーはすべてフレンチプレスで淹れてくれます。金属のフィルターで濾すフレンチプレスは、ペーパーフィルターなどでは抽出されにくいコーヒーオイルをしっかり抽出できるため、コーヒー本来の美味しさを味わえるのだそう。
オーダーしたのは「京都玉屋の有機マイルドブレンド オーガニック」500円(税込)。
砂時計の砂が全て落ちたら、フレンチプレスのレバーをググッと押してコーヒーをプレスします。
ひと口含めば、香りがよく、程よい酸味とほろ苦さが口いっぱいに広がります。思っていたよりもずっとマイルドで飲みやすく、驚きました。
▲コーヒーのお供に選んだのは「プリン」450円(税込)

イッタラの器に乗ってきたプリンは、しっかりとした固さのある昔ながらのプリン。スプーンを奥まで入れれば、サラリとした液状のカラメルがたっぷり!ほろ苦いカラメルと、玉子の風味がまろやかなプリンが違いを引き立て合います。
四季折々に咲き誇る花々と広い空が、訪れる人を出迎えくれるクレマチスの丘。彫刻、写真、絵画、文学といったアートをいつでも身近に感じることができる、美術好きにオススメの場所でした。ここで出合ったものは、どれも鮮やかな記憶となって残り、そのどれもがかけがえのない宝物になりますよ。
永井理恵子

永井理恵子

日大芸術学部写真学科卒のフリーライター。食いしん坊(飲んべえでもある)。東京の荒波に15年揉まれて気づいたのは、生まれ育った静岡県と御殿場市が思いのほか素敵な場所だったってこと!地元のいいところを発信すべく鋭意活動中。

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