京都・西陣 日曜日は文化財銭湯「船岡温泉」の朝風呂から、「さらさ西陣」のランチへ

2015.09.08

旅に出たときに温泉で朝風呂に浸かる気持ちよさは、みなさんご存知の通り。京都はあまり天然温泉に恵まれた土地ではないが、街の銭湯で朝風呂という手がある。戦前は料理旅館だった豪華な造りの銭湯「船岡温泉」で朝風呂を浴びて、元銭湯の空間を活かしたカフェ「さらさ西陣」でランチというコースは、京都の市中でちょっと贅沢な旅気分を味わえる日曜日の過ごし方だ。

▲船岡温泉の風格ある脱衣場は一見の価値アリ

温泉旅館にも負けないワンダフルな銭湯「船岡温泉」

立派な唐破風に見事な枝ぶりの松。京都市内には120軒ほどの街の銭湯が残っているが、その中でも船岡温泉の佇まいは群を抜いている。

この船岡温泉が、日曜日だけ朝風呂を開いている。午前中に入るお風呂はまた格別の気持ちよさ。ちょっとのんびり過ごしたいときや、人出の多い観光地を避けたい日曜日におすすめだ。
▲鞍馬口通に面して建つ船岡温泉。京都の現役銭湯では唯一、国の登録有形文化財になっている
船岡温泉の創業は大正12年(1923年)、お風呂も楽しめる料理旅館「船岡楼」がルーツだ。戦後、銭湯専業になったが、各所にお客さんを楽しませようという心意気が散りばめられている。

まず驚かされるのは脱衣場。漆塗りの格(ごう)天井の中央には牛若丸と鞍馬天狗の彫刻があり、趣向を凝らした透かし彫りの欄間が脱衣場を取り囲んでいる。
▲天井を見上げるとこの彫刻。牛若丸が剣術の修行をしている場面がモチーフになっている
特に男女の脱衣場を仕切る壁の欄間は上海事変をモチーフにした見事な装飾。細かく見ているとお風呂に入るのを忘れてしまいそうになる。
▲上海事変の欄間。よく見ると電話をかけている人や軍用犬まで彫り込まれている
そして次に驚かされるのは、浴室へと続く廊下にある洗面所。この廊下が錦鯉の泳ぐ池に架かかる橋という趣向もスゴイが、洗面所一面を覆っているマジョリカタイルもスゴイ。
▲ご主人によれば、錦鯉は40年近く生きている長老もいるとか
▲何種類ものマジョリカタイルが使用されているのも贅沢なところ
マジョリカタイルは、大正時代から昭和初期に掛けて流行した高級タイルで、表面の凹凸や鮮やかな色使いが特徴。これだけ壁一面に贅沢に使われていることは少なく、今見ても十分にインパクトがある。

愛知県常滑市にあるINAXライブミュージアムの「世界のタイル博物館」では、同様のマジョリカタイルがガラスケースに入っているが、船岡温泉では現役の銭湯に昔のまま残っているところが素晴らしい。
手を伸ばせば直接触れることも可能だ。きっと昔の入浴客の中にも、その美しさに思わず触ってしまった人もいるのではないだろうか。
▲間近でみると表面に凸凹があることがよくわかる。型に粘土を押し込んで成型されている
お風呂は平成10年(1998年)に改装されたが、是非とも楽しみたいのが露天風呂だ。船岡温泉ではレイアウトの異なる2つの浴室を男女日替わりにしているので、土曜日の夜に一度入り、日曜日の朝風呂にも来れば両方の浴室が楽しめることになる。
▲東側の浴室の露天風呂は岩風呂。手前は水風呂で龍の口から冷水が注がれている
▲西側の浴室の露天風呂はひのき風呂。温泉旅館気分でゆったりと浸かれる
風呂上がりには、フロントの脇にある冷蔵庫を覗いてみよう。昔懐かしい地場メーカーが作っているローカルドリンクも並んでいる。ビンの口当たりのよさといい、ちょっと甘すぎる味といい、それもここではエンターテイメントだ。
▲地場メーカー城南鉱泉所のジュースが並ぶ冷蔵庫。ビンの「冷やしあめ」は京都以外ではほとんど見掛けない
そしてフロントにご主人がおられたら、お風呂の感想を伝えてみよう。きっとお風呂談義に花が咲くはず。僕が行くと、いつもにこやかに船岡温泉の歴史から、昔の銭湯事情まで教えてくださる。
▲3代目にあたる大野義男さん。奥さんと息子さん夫婦でお風呂を切り盛りされている
うん、この満足感。430円(税込)という喫茶店でコーヒーを飲むほどの入浴料で、文化財銭湯を満喫できるのは、なんともありがたいことだ。本当に京都に船岡温泉があってよかったと思える。

マジョリカタイルの異空間を体験できるカフェ「さらさ西陣」

朝風呂でさっぱりしたあとは、鞍馬口通を東へぶらぶら。しばらく歩くと唐破風のある古い建物が現れる。平成11年(1999年)まで藤森湯という銭湯として営業していた建物が、現在はカフェ「さらさ西陣」として利用されているのだ。
▲唐破風の上には「藤ノ森温泉」という銘の入った鬼瓦も残っている
「さらさ西陣」は平成12年(2000年)にカフェ「さらさ」の2号店としてオープン。現在「さらさ」は市内に数店舗を構えているが、どの店も木造家屋の良さを活かした造りになっていてとても居心地がいい。ボリュームのある食事の美味しさにも定評がある。

「さらさ西陣」は元銭湯の造りを活かして浴室をそのまま客席にしているが、ここで目を見張るのは壁一面のマジョリカタイル。
藤森湯の開業は昭和5年(1930年)だが、船岡温泉が施主として建てたので、船岡温泉同様に、いや船岡温泉以上にマジョリカタイルが贅沢に使われているのだ。こちらも国の登録有形文化財になっている。
▲かつて浴室だった客席は一面のマジョリカタイルに囲まれている
▲トイレはかつての洗面所部分を利用。こちらにもマジョリカタイルが贅沢に使われている
この独特の雰囲気の中で、毎月京都を中心に活動しているアコースティックバンド「ザッハトルテ」がコンサートを開いたり、京都では知られた独立系書店「ガケ書房」(2015年に「ホホホ座」に改名されたが、さらさ西陣の棚は「ガケ書房」のまま)が古本や新刊を販売するコーナーが設けられていたり、さらさ西陣はこのエリアのちょっとした文化発信基地にもなっている。
▲ガケ書房セレクトの書籍やCDが並ぶコーナー。週1程度で補充も行われている
さて、ランチだが、週末はドリンク付で税込1,000円(ドリンクでコーヒーを選択の場合は+100円)のワンプレートランチが2種類用意されているほか、この日はサンドイッチや丼ものもあった。僕はワンプレートランチの「自家製ゴマダレの棒々鶏」をチョイス。期待を裏切らないボリュームと美味しさだった。
▲この日選んだ「自家製ゴマダレの棒々鶏」と自家焙煎のアイスコーヒー。1,100円(税込)
ランチセットのドリンクにビールは含まれていないが、風呂上りのビールを飲みたいという方には、もちろんビールもある。ハートランドやコロナも置いてあるあたりは、ビール好きの気持ちをよく知ってらっしゃる!と言わざるを得ない。

「さらさ西陣」では15時までランチメニューがオーダーできるのも嬉しい。ちょっと始動が遅くなった日でもしっかりとランチにありつけるのだ。

朝風呂とランチで身もココロも満たされたら、界隈を散策してみるのもいい。京都市街を一望できる船岡山へは15分もあれば登れるし、麓にはユニークな古書店「世界文庫」(営業日要確認)もある。また、「さらさ西陣」の東隣は唐紙を専門に扱う「かみ添」さんだし、西隣は小さなショップが数店入った「藤森寮」という施設もある。

通えば通うほど、このエリアの面白さと奥深さが実感できるはずだ。
▲さらさ西陣と鞍馬口通。ちょっと文化の香りがする店が集まっていて散策も面白い
林宏樹

林宏樹

フリーライター。銭湯めぐりをライフワークとし、風呂上りの一杯をこよなく愛する。著書に『京都極楽銭湯案内』『京都極楽銭湯読本』(ともに淡交社)、『近大マグロの奇跡』(新潮文庫)など。

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