八ケ岳の大パノラマを気軽に満喫!北横岳のガイドトレッキング

2017.09.11

本州のほぼ中央、長野県と山梨県にまたがり、個性的な山々が連なる八ヶ岳。森と湖をめぐるトレッキングから本格的な登山まで、コンパクトなエリアに魅力が凝縮しています。そんな八ヶ岳の中でも、ロープウェイを利用することで気軽にトレッキングが楽しめるのが北横岳(きたよこだけ)。今回は登山ガイドの案内のもと、北横岳の魅力を存分に堪能してきました。

南北でふたつの表情をもつ八ヶ岳

標高2,889mの赤岳を主峰に20以上のピークが連なる八ヶ岳。地殻変動ではなく火山活動から生まれた山々で、本州中部山岳を代表する山域のひとつです。ほぼ中間の夏沢峠を境に、南は南八ヶ岳、北は北八ヶ岳と呼ばれ、南八ヶ岳は急峻な峰々がアルペンムードを放つのに対し、北八ヶ岳は穏やかな山並みと針葉樹の原生林に囲まれた山上湖や明るく伸びやかな草原が点在しています。
▲南北30km余りの「八ヶ岳」。いくつもの山々が連なった山塊の総称で、八ヶ岳全体で日本百名山のひとつに選ばれている

そんな八ヶ岳の中でも登山初心者に人気なのが、北八ヶ岳に位置する北横岳。2,500m級でありながら北八ヶ岳ロープウェイと組み合わせれば、往復3時間ほどで登ることができるため、八ヶ岳の中で一番登りやすい山と言われています。
▲堂々とした山容の北横岳

「登山口から山頂までの標高差は約250m。手軽に登れて素晴らしい眺めにも出合えるので、八ヶ岳を初めて登る方や家族連れにもおすすめです」と話すのは、「YATSUトレッククラブ」の上田剛(たけし)さん。八ヶ岳を中心に、少人数によるガイド登山を行っており、ただ登るだけではない登山の楽しみ方を伝えています。
▲八ヶ岳好きが高じてサラリーマンを退職し、2009年に東京から麓の茅野市に移住した上田さん。「気軽に山を楽しんでほしい」との思いで2011年に「YATSUトレッククラブ」を立ち上げた

そんな「YATSUトレッククラブ」で用意している登山プランのひとつが「北横岳日帰り登山プラン」。6月~11月初旬まで開催で、料金は1人14,000円(税込)。所要4~5時間です。今回はこの登山プランを利用し、登山歴30年以上の上田さんと北横岳トレッキングへ出かけました!

大自然がつくり出した神秘的な自然庭園・坪庭

上田さんとの待ち合わせは、北八ヶ岳ロープウェイの山麓駅に10時。服装は速乾性のあるウエアや長袖シャツ、タイツなどの登山装備をし、靴はトレッキングシューズで。日除け、ケガ防止のために帽子も着用してスタートしました。

登山口までの北八ヶ岳ロープウェイは20分に1本運行。運賃はガイド料に含まれていないため、山麓駅で往復分のチケット(税込1,900円)を購入します。山麓駅から山頂駅までは高低差466m。約7分で到着します。
▲北横岳と縞枯山の間にかかる100人乗りの北八ヶ岳ロープウェイ
▲山頂駅の標高は2,237m。展望台テラスからは、晴れていれば南アルプス・中央アルプス・北アルプスの「日本三大アルプス」から木曽御嶽(おんたけ)山まで一望できる

山頂駅周辺には八ヶ岳最後の噴火でできたとされる溶岩台地の坪庭が広がります。一般的に坪庭は日本庭園などの庭を指しますが、北八ヶ岳ロープウェイの頂上に広がる坪庭は、高原と溶岩石によってつくり出された自然庭園。すり鉢状になっており、日本庭園の坪庭に似ていることから名付けられました。
▲ハイマツやコメツガなどの低木が溶岩台地を覆い、高山植物が群生する坪庭

坪庭は1周30分ほどの散策路が整備されており、北横岳の登山口へは、この坪庭の散策路を経由。高山植物を眺めながら、のんびりと進みます。
▲上田さんによると、北横岳の山頂は南北に分かれており、標高は南峰2,471.6m、北峰2,480m、どちらも抜群の展望が楽しめるそう
▲坪庭は溶岩の岩石がむきだしの土地に長い年月をかけて植物が少しずつ回復しつつある状態。自然の力強さを感じることができる

ちなみに、火山群である八ヶ岳はあちこちに火口がありましたが、現在も活火山に指定されているのは北横岳だけ。2017年8月現在、火山活動は見られませんが、800年ほど前に噴火したと言われています。
▲坪庭は開けた土地で風が強いため、高山帯ではなくても森林限界の環境に近いことから、ハイマツなどの小低木が見られる

ところで、坪庭から眺める山々の斜面には、不思議な白い縞模様が見られます。これは、木々が帯状に立ち枯れたり倒れたりする「縞枯れ現象」というもの。遠くから見ると縞模様に見えることからこう呼ばれていますが、はっきりとした発生原因は解明されていないそうです。シラビソやオオシラビソの針葉樹が多い八ヶ岳山系に多く見られ、北横岳の南側に位置する縞枯山や、坪庭の先に見える雨池山は特に目立つのだとか。
▲神秘的な縞模様が帯状に広がる縞枯れ現象。長い年月をかけて自然が作り出した芸術作品のよう!
▲縞枯れ現象を作り出している立ち枯れた木々
▲散策路からは溶岩や植物を間近に見られ、縞枯れ現象も望める

そんな話を聞きながら上田さんと進んでいると、坪庭の散策路の途中に北横岳への登山道が見えてきました。ここは南北八ヶ岳を通じて最高所となる登山口で、ここから山頂までは約1時間の山行です。
▲この看板が登山道の目印。「よく整備されたコースで特に難しいところもないので、のんびりと登りましょう」と上田さん

溶岩からなる独特の景観と可憐な高山植物を楽しむ

▲足裏全体を着地させるようにぴったりと地面につけて歩くと、悪路でもソール(靴底)のグリップが効くのだそう
▲上田さんから歩き方をレクチャーしてもらいながら、ゆっくりとシラビソの樹林帯を進んでいく

しばらく歩くと、高台から坪庭全体を見渡せる場所に到着しました。溶岩からなる独特の景観と大自然の美しさに感動!
▲高台から眼下に広がる坪庭を眺める
▲北横岳から見渡す明るく開けた坪庭の景色。ハイマツが緑のじゅうたんのよう
▲散策路を通る人の大きさから、坪庭の雄大さが伝わる

さらに進むと、坪庭とはまた違った高山植物が見られるようになってきました。上田さんが1つひとつ丁寧に説明をしてくれます。
▲シラビソの仲間であるコメツガ。葉の先の明るい色の部分は今年出てきた新芽で、9月になるとほかの葉と同色になる(取材に訪れたのは7月下旬)
▲高山性のハクサンシャクナゲ。花は白色から淡い紅色で、大形でよく目立つ
▲ウメに似た黄色い可憐な花を咲かせるキンロバイ
▲ツツジの仲間であるクロマメノキ。秋になると甘酸っぱい青い実がなり、「野生のブルーベリー」ともよばれている
▲ちょうど見頃を迎えていたゴゼンタチバナ。7~8年かけて葉が6枚になると花が咲くという不思議な高山植物
▲線香花火のような可愛い花を咲かせるマイヅルソウ

さまざまな高山植物が見られますが、なかでも不思議な様相だったのが、鋭いトゲが生えたハリブキ。標高2,000m以上の八ヶ岳の樹林帯でよく見られる植物で、山菜のウドの仲間だそう。
▲葉や茎に針状のトゲが密生するハリブキ。触ると痛い!

また、北横岳では少なめですが、八ヶ岳全体には480種類もの苔が生えていて、日本全体に生えている苔(約1,800種類)の4分の1が見られるそうです。
▲さまざまな苔が見られるのも八ヶ岳の特徴

山小屋を経て絶景の山頂へ

途中、火山活動の溶岩流によって形成された三ツ岳への分岐を過ぎると、そこから約5分で山小屋の北横岳ヒュッテに到着。登り始めて1時間ほどです。ここで一休み。
▲その名の通り3つの山頂からなる三ツ岳
▲有料トイレ(税込100円)が併設されていて、テーブルや椅子もあるので休憩スポットにも最適な北横岳ヒュッテ。宿泊の場合は要予約

それにしても、山の上は下界の暑さを忘れるほどの涼しさです。ふと山小屋の温度計を見ると気温17度。麓の気温が30度を超えていたので、温度差にびっくりしました。
この北横岳ヒュッテから山頂までは、徒歩15分ほどの道のりです。
▲階段状に整備されているルート上でもっとも険しい登り坂。山頂は近いので、足元に気をつけてゆっくりと登る
▲最後の登り坂を越えたら南峰へ

まずは南峰に到着!この日はあいにく雲がかかっていましたが、晴れた日には南八ヶ岳と中央アルプス、奥秩父がよく見えます。
▲晴れた日は南峰から360度の大パノラマが広がる

さらに南峰から北峰までは、徒歩約5分。北峰からは間近に横たわる蓼科(たてしな)山をはじめ、御嶽山や北アルプス、頸城山塊(くびきさんかい)、浅間山をよく眺めることができます。
▲江戸時代末の山岳修験道行者・脩那羅大天武(しょならだいてんむ)が祀られた北峰
▲蓼科山を背に記念撮影!残念ながらこの日は雲により蓼科山が半分しか見えず…
▲晴れた日は蓼科山をはじめ、北アルプスまで見渡すことができる

北峰では休憩を兼ね、上田さんがコーヒーを淹れてくれました。
▲山頂で飲むコーヒーは格別の味わい

森の中に静寂の空間が広がる七ツ池へ

下山では、北横岳ヒュッテから歩いて2分ほどの七ツ池に立ち寄りました。ヒュッテから近距離ながらなかなか訪れる人が少なく、静かな空間が広がる上田さんおすすめの場所です。
▲大小10の池からなる七ツ池。そのうち歩いて行けるのは、最初のふたつまで。秋の紅葉や冬の七ツ池の景色も素晴らしいそう

七ツ池を経て下山後は、再び坪庭の散策路へ。一方通行なので、往路とは別のルートを進みます。
▲アップダウンの少ない整備された道を進む
▲山頂駅からは南八ヶ岳の眺望も楽しめる

なお、北八ヶ岳の無雪期は、おおむね6月上旬から10月下旬。この間が雪の装備や技術を必要とせずに歩ける時期です。

「花を楽しむなら7~8月ですが、9~10月の紅葉もおすすめ。空気が澄んで晴天率も高いので、遠くまで展望できる日が多いですよ」と上田さん。

例年、初冠雪は10月半ば。その頃には防寒対策をしっかりとする必要があります。11月に入ると本格的な積雪期を迎えますが、北横岳は雪山入門コースとしても親しまれ、冬も活気があります。
▲アイゼンを使用した雪山登山などのツアーなども盛んに行われている北横岳。「冬も絶景!」と上田さん

「YATSUトレッククラブ」では、冬山登山を始めたい、冬の八ヶ岳に初めて登ってみたい方に向け、冬の「北横岳日帰り登山プラン」も用意しています。開催時期は12月~4月初旬。1人13,500円(税込)で、所要は4~5時間です。
▲冬の七ツ池の雪原。水面が結氷し、池の上を歩くことができる
▲北八ヶ岳ロープウェイも通年運行。冬はスキー場としても利用されている

また、YATSUトレッククラブでは、北横岳以外に、八ヶ岳のひとつで日本百名山にもなっている蓼科山の登山プランも用意。標高2,530mと高い山ながら、日帰りでも登山が楽しめます(開催時期5~11月初旬、1人14,000円、所要4~5時間 ※税込)。
▲用意されたプラン以外にも、登山者の要望に合わせたプライベート企画もある(料金は希望の山域やコースによって異なる)

四季を通じて楽しめる北横岳。夏のガイドツアーでは、八ヶ岳の溶岩石と高山植物が織り成す貴重な坪庭の絶景や高山植物の生命力、自然がつくり出した不思議な縞枯れ現象、そして八ヶ岳の歴史も知ることができました。
八ヶ岳を訪れるのならガイドツアーに参加して、その大自然を気軽に満喫してみませんか。
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

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