緑多き山麓のホームタウン、神戸・岡本を登る下る

2015.10.27

神戸の東端、岡本は「気持ちのいい住宅地」として人気だ。JR・阪急両方の駅のにぎわいがあり、阪神間で最もカフェや雑貨屋が密集しているエリアであり、3大学(甲南大・甲南女子大・神戸薬科大)のキャンパスタウンであり、たまに野生のイノシシも下りてくる六甲山麓の街。そこで人気の店を訪ねた。

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淡路島仕込みの岡本テイスト

JR摂津本山(せっつもとやま)駅で電車を降り、駅の南側を西へ。
岡本には特急停車駅である阪急岡本駅もあり、阪神間の街では2つの鉄道駅が例外的にご近所にあることも人気にひと役買っている。
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▲右上はJR神戸線の高架

駅から5分も歩くと「淡路のビストロManki」の外観が見えた。カウンター7席、テーブル8席とこじんまりした店だが、店内には美味いものを食わせてくれそうな気配が黒板から伝わってくる。
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これは晩のメニュー。「夜ならもっとええ目さしたるでー」というシェフの挑発か。お昼なのでランチ(Aコース1,600円・税込)をいただきます。

いきなり生シラスのテリーヌが出てきてびっくり。上にかかっているのは淡路島玉ねぎのムースで、瑞々しさにヤられる。
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メインはスズキのソテー(ラタトゥイユ添え)焼きナスのソース。焼きナス好きにはソースだけとはちょっともったいないが、あの甘くてちょっと苦いナスがクリーミーになるとまた趣が変わる。ワインが進みますなこれは。
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メインは2種類の中から選べて、この日は写真上のスズキか淡路鶏のグリル金時芋のマッシュ添え(写真下)。甘みのある金時芋がええアクセントで、添えられた玉ねぎのローストがまたゆたかに甘い。迷いますわこれは。
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客はオッサン1人(私)以外は親子連れ3人、年配女性のお友達同士、アラフォー女性の1人客と、のどかな昼下がり。
シェフの今井万喜(Mankiではなく「かずき」)氏は奈良県の北西部、平群町(へぐりちょう)の出身。岸和田と堺の人気レストラン「シャンソニエ」でキャリアを積んで、2013年7月にこの岡本で開店した。

「淡路島の出身というわけではないんですか?」
「ええ(笑)。店を始めるのだったら何かに特化したもんがないとアカンと思いまして」。なるほど。
淡路から肉や魚、そして旬の野菜を仕入れ、それらが一番生かされるようなメニューを季節ごとに提案。シェフというより職人的スリムで精悍な外見だ。
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あとはデザートかな…と思っていたが、メニューの「オムライス」(1,000円・税込)という文字が目に入った。
「ご家族連れが多いでしょ、この辺りは。それで入れているんです」
デザートはちょっと先延ばしにして、こっちにも一つ(どんだけ食うねん)。
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▲この形で出てきて   
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▲ドミグラスソースを卵の窪みにタラ~と

子どもに食べさせるのはもったいないわ(怒らいでも)!
洋食屋のそれとは全然違う美味さ。ラグビーボールを平たくしたようなふわふわ卵が帽子のようで可愛らしくて色あいがええだけでなく、舌触りもまた良し。歯ごたえのある淡路鶏がナイスな脇役でございました。

ビストロ(仏bistro)は「気軽に利用できる小レストラン」や「居酒屋」の意。それでだろうか、これまでに経験したビストロの多くは「味付けが濃い」店が多かったように思う(塩分多い方が酒も進むし)。しかしこの店の味付けは、その一歩手前の優しい味。空手で言うと「寸止め」だろうか。

今井さん曰く「意識したことないです。僕が“うまい”と思う味付けでいってるだけですから」。
40代以上の女性からとくに支持されている理由が何となくわかりました。

ランチに付いている桃のリキュール入りパンナコッタがまたうれしく。ご馳走さまでした。
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ナイスビューパークと不動の地元おやつ

腹ごなしに坂を登った岡本公園まで行きたいところだが、ちょっとお遊びを入れたいので、逆にゆるやかな坂を少し下って国道2号線「田中」交差点まで。
何があるかというと…。
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神戸、とくに三宮以東に住む人間にとって生涯の友と言っても過言ではない、昭和22(1947)年創業「鈴木商店」のアイスキャンデーである。
近所の商店街(甲南本通)の買い物途中とか、ドライブ最中にクルマを駐めてとかいろんな客が次から次へと買いに来る。
食べるまでに時間がある場合は「ちょっとかかるんですわ」とお願いすると、キンキンに凍ったやつを新聞紙に包んで渡してくれたりする。

ビストロの後だったので、自家製粒あん入りのミルク金時(120円)を買った。ちなみにバナナ(120円)、ミルク(80円)、カルピス(80円)やアイスモナカ(150円)、ソフトクリーム(220円)もあり、それぞれに熱烈なファンがいる。(いずれも税込)
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▲一つひとつええ感じの包装紙で包む

これを上の公園で食べることを楽しみに、坂を上がる。馬のニンジンですな。
JRと阪急の高架をくぐると、街はいつの間にか「山の手」に早変わり。これが神戸の面白いところ。
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さらに上がると「高級住宅街」の匂いが濃くなり、岡本公園への道標が出てくるが、ここはあえてスルー。もう少し上がります。
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すると、いかにも「山と町の境界」にありそうな岡本八幡神社に到着。
とりあえず岡本散策の安全を祈ります。
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ここは東六甲山系の登山口にあたる場所。ここから山腹にある保久良(ほくら)神社を経て風吹岩(かざふきいわ)、そして六甲山最高峰を目指します。だから「登山者」「下山者」両方が参拝する。
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お参りを終え、本殿西側の石段を降りると、西向きに住宅街の狭い道が。
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100メートルも歩いたところに岡本公園の北入口がある。
「扉が閉まってる!」。いやいや昼間は施錠されてないから簡単に開きます。
こうしているのは、イノシシの侵入を防ぐため。「山の手」は言い換えれば「山麓」。イノくんがゴミあさりするなんてのは日常茶飯事なのです。だからこうやって「結界」を張る。
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階段をトントンと下りると、せせらぎの向こうに神戸の街が少し見えた。
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木蔭の東屋のベンチでひと心地。ここでアイスキャンデーにかぶりつく(ゴミは持って帰ろう)。
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この公園は阪神間屈指の梅の名所であり、約30種190本の梅の木の間を縫うような散策路がバラエティ豊かで楽しめる。
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公園自体が標高の高い位置にあるので、東神戸の展望がドーンと開けるバルコニーのような場所もある。
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ご覧の通り、こんな急斜面につくった公園なので、「下から上がる」より「上から下りる」ほうがラクなんです。
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▲早春には緑が紅白の梅に

メイン入り口は南側。ここも「イノくん結界」があり、人力で扉を動かさないと出入りできないようになってます。こんどはぜひ梅真っ盛りの2月下旬あたりに行こう。
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▲先程の「←(梅林)岡本公園」の道標に従うとココに

糀で元気を取り戻して、岡本再見

阪急岡本駅まで下って、「神戸・岡本Cozy Cafe」に寄る。
岡本界隈はたぶん阪急神戸線一のカフェ密集地帯だと思うが、その中でもここは糀と発酵食品の多彩なメニューが売りだ。
奥に子どもが遊べるマットが敷かれたスペースやトイレでおむつを替えられる台も用意されていて、若いママにもパパにも人気だ。

甘糀ラテ500円(税込)の優しい甘さが坂を上り下りした体には助かる。
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「神戸・岡本Cozy Cafe」は2014年の春にオープンした。きっかけは店長の稲本千愛(ちえ)さんが同じ東灘区にある商業施設の「チャレンジショップ(開業希望者を支援する空き店舗活用事業)」で開いていたカフェでの経験からだという。

「子どもと一緒に遊べるような店がないよね、っていう話をお客さんからよく聞いていたので、子連れで来やすいカフェをつくりたいなという思いがあったんです。子どもとワークショップをやるのが好きでしたから」
そんな時、ボランティアで知り合った女性から「岡本でカフェやってみない?」との誘いを受ける。彼女がお店のオーナーになってくれた。

「これまでも味噌づくりの教室をしていたんです。するとあちこちで“糀”のことを耳にするようになって。糀って幅が広いし、旨みのモトですからね」
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▲糀を使ったフードメニューを黒板にイラストで紹介

お店には主婦や学生など、10人ほどスタッフがいて交代でシフトを組んでいる。「私は週に3回ほど店にいますが、それ以外は経理をしたり次に開きたいお店のことを考えたりします。 “ママさんがいないとつまらない”というお店にはしたくなかったので」
たしかに「店主の顔」を売りにしているカフェの方が多いが、ここは別なものを売りにしている。
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▲おやつのクッキーやポップコーン
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▲ゆず塩ポン酢、なたね油も

写真のような多彩な物販メニュー(アクセサリーなども販売)や、店内(月1回)または別会場で開く糀づくりの教室などがそれだ。お店で使っている糀も、量に余裕があるときは販売する。年明けからは、料理教室も始めるとか。
食生活を根本からヘルシーに……を目指しているが、「自然食品店」的な打ち出しではなく、おしゃれに生活を楽しもうという「岡本ライク」な提案。これだけいろんな人が訪れて楽しんでいるのはそういうことなのだろう。
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▲店長・稲本千愛さん(右)と神戸大学農学部生のスタッフ田中久美子さん

糀大好きなヨメはんへのおみやげに、有機トウモロコシに甘糀と甜菜糖(てんさいとう)のキャラメルを使ったポップコーン(600円・税込)を買って帰ろうとしたら、背中に田中さんからお声が。
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「これから寒くなる季節には甘酒チャイがぴったりです。またぜひ!」
中島淳

中島淳

編集者。京阪神エルマガジン社時代にSAVVYとMeets Regionalの副編集長、Lmagazine編集長を歴任、2006年に独立して編集出版集団140Bを立ち上げ、代表取締役に。岡本界隈にはかつて15年間住んでいたが、新しい店があちこちに増えていて浦島太郎状態。しかし鈴木商店の健在に思わず安堵したのであった。

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