蕎麦、雑貨、城跡、そしてお茶…。丹波・篠山で心溶かす古民家の休日

2015.10.08 更新

電車なら大阪から約1時間でたどり着く篠山(ささやま)は良質な水と農産物に恵まれた丹波の城下町。毎年、10月三連休に開催される「丹波篠山味まつり」は観光客でごった返すが、それ以外はのんびりした町歩きを楽しめる。空の広さや風の爽やかさがたまらない。

クルマで高速道路(舞鶴若狭道丹南篠山口IC)を使えば、電車よりもっと早く着くかもしれないが、今回はJR福知山線に乗り、篠山口駅まで。そこからはレンタサイクルを使って盆地の城下町を目指すことにした。

というのも、JR篠山口駅から篠山市街までの道程にはほとんどアップダウンがない。季節は秋。こんな時こそ「地元の風」を感じながら目的地に近づいていく、というアプローチの方が楽しいのです。
あえて電動アシスト(800円・税込)は使わず三段変速の付いた20インチの自転車(500円・税込)を借りる(9:00~17:00)。城下までチンタラこいでも25分ぐらいの距離。ゆっくり行こう。
15分もすると城下への入り口となる渡瀬橋でイノシシくんがお出迎え。
そして城下に入り、自転車をこいでいるとお腹もすいてきたので、まずは古民家が密集するエリアとして人気の河原町通りに足を向けることにした。
▲ここが河原町の西側入り口。木陰のベンチなどもある

懐かしさと新しさが同居する通りで、蕎麦をゆるりと

篠山城下は古い日本家屋が目につくが、それでもこの「河原町妻入商家群(国重要伝統的建造物群保存地区)」の密集具合は群を抜いている。
「丹波古陶館」や「能楽資料館」のほか結納品店、美術品店、畳屋、食料品店、ワインショップ、雑貨屋、カフェなどが軒を連ね、午前中はまだこのとおりだが昼を過ぎると人の姿が急に増えてきます。
兵庫県篠山市は東を京都府に接しているので、京都+大阪(北摂)+神戸+有馬の文化が微妙にミックスされた感じが、町並みからもなんとなく伝わってくる。
そして、まだ静かな通りでもここだけは違っていた。
11時半。人気の蕎麦屋である「花格子」の暖簾が上がる前からこれだけの人が集まり、開店後すぐに店内に吸い込まれる。予約はしていなかったが20人ぐらいでいっぱいなので、ぎりぎりセーフでした。
▲今日のお蕎麦は北海道と福井から
ちゃんとした蕎麦屋というのは作り置きしてないので時間がかかるもの。ましてや開店早々からどっと客が訪れ、それぞれの注文をこなしていたら尚の事。
蕎麦茶と一緒に出てくる蕎麦の揚げ菓子をぽりぽり食べ、ゆっくり待つことにしよう。特に急ぐ用事があるわけでなし。
店内には篠山発のフリーペーパーや小冊子が置かれ、書棚には司馬遼太郎の「街道をゆく」やフランスの著名な画家による「ロートレックの料理法」などもある。それらを読みつつ静かに流れるBGMのジャズを聴きつつでのんびり過ごしておりました。

来ましたよ! お待ちかねの「胡麻つゆ冷やしかけ蕎麦(季節限定)」の蕎麦膳(1,670円、単品は1,240円。ともに税込)。
▲右端の、錫製の蕎麦つゆの容れ物がまことに渋うございます
左手には鱧の子の卵とじの小鉢が添えられ、もう完全に酒呑みたいモード。
そういえばここの常連さんが言っておられたなぁ。「店主もお酒が好きな人なので、お猪口も好きなものを選ばせてくれる。それがまたいいんですわ」
しかし自転車での帰りの行程を思うと現実に戻り、蕎麦茶をひと口。残念。

十割蕎麦は風味がゆたかで、胡麻の甘さとカイワレの辛味が横綱(蕎麦)の太刀持ちと露払いのようにバランスを取っていて、楽しませていただきました。

「蕎麦膳」は蕎麦に加えて小鉢が付き、さらに季節のご飯や鯖寿司、黒豆笹おこわの三つから一つを選べるのだが、迷わず鯖寿司を選ぶ。
鯖寿司は篠山の蕎麦屋さん定番メニューのようで、「花格子」のは京都のようにギュギュッと酢飯を固めてない。口の中でほろっと崩れて食べやすく、かつ鯖の柔らかさと甘みがうれしい。筆者好みの一品でした。
ハイライトは最後の蕎麦湯に待っていた。お蕎麦自体を飲んでいるような濃厚さで、わざわざこの蕎麦湯を別仕立てで作っておられるとのこと。待った甲斐が十分ありましたわな。

「お料理を見て、“飲みたいけどなぁ~…クルマやねん”というお客さん多いですよ。今度はぜひ一杯」の店主・石田悌丞(だいすけ)さんのお言葉に「ホンマですね」と返事してお店を後にする。
「河原町通りの古民家再生」が本格的に動き出す前の2006年からこの地で開業。古い街の真ん中、目印のようにお蕎麦屋さんがあるというのはうれしい。今度は夜、丹波の酒とお蕎麦のデュエットといきたいものです。

古民家とスタッフと客が醸し出す「いい気」の雑貨店

自転車をのんびり走らせて河原町通りを東へ。
このようなこの風情ある文言が書かれた灯籠が目を楽しませてくれるが、丹波篠山観光協会によると城下町に全部で30基ほどあるという。
これらの文言は篠山を中心に盆踊り唄として歌われる「デカンショ節」の一節で、2015年4月には文化庁から「日本遺産」最初の18件の一つ(デカンショ節-民謡に乗せて歌い継ぐふるさとの記憶-)として選定された。
「花格子」からちょっと走ったらもう「ハクトヤ」に着きました。
店主の一瀬裕子(いちのせゆうこ)さんが旅先で買い付けた「器とくらしの道具」が150坪ほどの古民家を見事に埋め尽くしている。
▲河原町通りからは、このディスプレイがまず目に入る
古民家なので靴を脱いで上がる。土間の商品が見たいときは靴を履き直さずに専用のサンダルでどうぞ。
一瀬さんは神戸でずっとファッションの仕事をしていたが、仕事を掘り下げていけばいくほど、「食」や「住」への興味が深まってきた。そんな頃、「古民家再生」を推進する篠山市から「こんな場所が」との誘いを受け、2010年に店を始めたそうだ。
「ハクトヤ」の意味は「白兎」にあらず。「ハク(白=朝)とヤ(夜)」、つまり「朝から夜まで暮らしのそばにあるもの」という一瀬さんのメッセージが店名に込められている。

「最初の1年半は一人だったので、商品を並べるのに格闘してました」
この膨大な商品陳列を一人でやっていたとは!?
もちろん「倉庫のような陳列」とは180度違って、「こんな家でほっこりできたらいいよね~」の空間に、様々なコーナーがあって、それに見合った商品をディスプレイしている。
「お客さんは平均して2時間ほど店内にいらっしゃいます。うれしいのはこっちが売る側なのに、帰るときに“ありがとう、楽しかった。また来ますよ”と言ってくださる方が多いこと。7時間いてくださった方もいます」
一瀬さんやスタッフの皆さん(接客が上手で裏方に徹している)がええ「気」の持ち主であるのはもちろんだが、感じたのはお客さんが発する「こんな場所でこんなモノたちをゆっくり見られてうれしい」の気である。
畳や敷物の感覚を足の裏で受け止め、窓から差し込む光や緑や風を感じながら一つひとつの商品を眺めていたら、時間もいつの間にか過ぎていくことだろう。
▲荷物も預かってくれるが、引換証のペンダントがまた洒落てます。土間に降りるサンダルや専用の買い物籠も販売している
名残惜しさ全開であるが、今日は福岡県の作家が作ったマグカップを購入してお店を後にする。一瀬さん、お世話になりました。

何げない風景がうれしい、城下町の道と城跡

歩くにはちょっと距離があるが、自転車は篠山の街ではジャストサイズである。
「名勝」などとはちょっと違うが、小さな橋から見えるこんな小川の風景は、最近あまり使わないけど「命の洗濯」という眺めです。
篠山城跡の外濠沿いの道も、風にたなびく枝や波立つ水面を観るだけでココロ和みまくり。
篠山城跡のてっぺんは空の広さを感じさせる広場。そこから青山神社を通った東南の角に20メートル四方ほどの天守台があり、すこぶる絶景。駅から城下へ行く道中で見えていた形の良いシルエットは高城山(たかしろやま=八上城跡)であることを知る。
左に目を移せば城内に赤い屋根の可愛らしい建物が並んでいるが、なんと篠山市立篠山小学校(下の写真右側)であると。明治6(1873)年創立。
小学校のHPによると校舎のほとんどが築50年を経過しているが、2015年3月に耐震・改修工事が完成したとのこと。うらやましいぞ篠山小の児童たち。
▲北東を望む。左の2棟は篠山市役所
しかし……当の小学生たちは「これが普通」にしか思わないんだろうな。有り難みが分かるのは、きっと卒業して何十年も経ってからなのでしょう。

「名残惜しい町」の締めくくりに最高の名残惜しさを

「ハクトヤ」の一瀬さんに、「お茶を飲んで帰りたいのですが」と相談したら、
「それでしたら、帰りに『ことり』さんに寄られてはいかがしょう?」
という返事が返ってきた。

場所がまた、南外濠と西外濠の角という絶妙の位置にあって、建物全体が「ここではゆっくりしていきなさい」と語りかけているようである。
かつての武家屋敷を改修し、店主の小谷咲美(さくみ)さんが2010年に開いた。
靴を脱ぎスリッパに履き替えていい音がする板張りの床を歩いてテーブルへ。心の落ち着きがマックスになるようなBGMのクラシックと空間のしつらえに感謝。窓からこぼれるような緑が素晴らしい。松本民芸家具のテーブルと椅子のコンビがまたよし。
ここは烏龍茶の中でも味と香りの最高峰と言われる中国福建省の武夷山(ぶいさん)の岩茶(がんちゃ)を24種類も楽しめる店で、「岩茶房 丹波 ことり」というのが正式な店名。
正直、何を頼んだらいいか分からなかったが、バランスがいいとメニューに書いてあったので「奇種(800円・税込)」というお茶をお願いする。お茶うけのお菓子も付いてきました。
▲器は店主の父上である陶芸家の柴田雅章氏が制作
こういったレベルの烏龍茶を一度も味わったことのない門外漢でも「おー」と心の声がするような、実に調和のとれた美味しさだった。のど越しがナチュラルで、付け合わせの乾燥果実もたまりません。

小腹がすいてきたので、豆寒(600円・税込※季節限定)もリクエストする。
う~む。豆の美味さは地元丹波だから当然にしても、寒天のキレの良さはどうでしょう。口の中でぷりぷりを噛みしめられる喜び全開、「ありがとう立方体」である。またお茶が進む。
急須からいったん「茶海」というミニポットのような器に入れ、そこから湯呑みに注ぐ。このひと手間の動作がまた心を落ち着ける。

陶芸家の柴田雅章氏はスリップウェアでも素晴らしい作品を世に送り出している。器の表面をスリップ(泥漿=でいしょう=水と粘土を適度な濃度に混ぜたもの)状の化粧土で装飾するこの手法は太古から伝えられているもので、20世紀には日本でも著名なバーナード・リーチらが取り組んだ。それを現代の器で具現しているのが柴田氏だ。

建物と空間、お茶とお菓子、そして器。
三拍子プラスαがそろった場所で和むとお尻に根が生えまくりだが、秋の夕暮れは早いので再会を期して失礼する。
「篠山浴」は体にもココロにもすこぶる良い。
中島淳

中島淳

編集者。京阪神エルマガジン社時代にSAVVYとMeets Regionalの副編集長、Lmagazine編集長を歴任、2006年に独立して編集出版集団140Bを立ち上げ、代表取締役に。久しぶりに訪れた丹波篠山の洗練され具合にちょっと驚いたが、次回は「昼間は自転車散策、夜は酒とぼたん(猪)鍋で1泊」という予定でリターンマッチせねばと意気込む。

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