電気も電波もない!「ランプの宿 青荷温泉」で風情ある秘境旅

2017.10.05

青森県の山奥に、電気もテレビもなく、ケータイの電波すら届かない温泉宿「ランプの宿 青荷(あおに)温泉」があります。他ではなかなか体験できない不便な環境が人気で、国内外から多くの観光客が訪れているとか。夜になると明かりはランプだけ。メディアにも度々取り上げられているこちらの宿は果たしてどんなところなのか、実際に泊まりに行ってみました。

▲館内の明かりは非常灯以外すべてランプのみ

細い山道を運転して1時間、秘境感あふれる青荷温泉

「ランプの宿 青荷温泉(以下、ランプの宿)」は青森県のほぼ中央に位置する黒石市にあります。市街から遠く離れた山奥にあり、最寄りのJR弘前駅からは車で約1時間のアクセス。南に十和田湖、東に八甲田山麓に挟まれた立地であることから、電気も電波もないという話にも納得です。
▲青荷温泉へ向かう道中では八甲田連峰が望める

「ランプの宿」までは、車がなんとかすれ違えるような山道を進みます。その途中、津軽弁で書かれた宿の案内板があちこちに設置されていますが、中には意味すらわからないものもありました。まるで異国を訪れているような旅情がかき立てられます。
▲「ケッパレ!!アドハンブン」の看板。これは「がんばれ!あと半分」という意味らしい

たどり着いた「ランプの宿」は標高400mの山間にあります。周囲には川が流れ、山や木々に囲まれた大自然のロケーションです。
▲「ランプの宿」の入口

到着して最初に驚いたことは、渓流と虫の音が想像以上に大きいこと。しかし、都会の喧騒とは違った音に思いの外、心地よさを感じます。そして、ケータイは予想通り圏外。最新のスマートフォンであれ、もはや時計の役割しか果たしません。

客室も廊下も帳場も、館内はすべてランプの明かりだけ

「ランプの宿」では、非常灯以外はすべて灯油ランプの明かりだけで照らされています。客室も昼間であれば太陽の光で明るいですが、夜になるとランプの明かりしかありません。当然ですが電気がないためコンセントもありません。ケータイは充電不可。必要であればモバイルバッテリーなどは持参した方がいいかもしれません。
▲シンプルな一人用の客室。昼間に撮影。ランプが灯っているものの、太陽の光だけで十分明るい
▲夜になるとランプのほの暗い明かりだけになる

ランプだけでは正直、心細く不安はありました。しかし、最初こそ暗いと感じていたランプの明かりも、目が慣れてくると読書も十分できるくらいの明るさに感じます。
▲帳場には、地元絵師が描いた襖絵やねぷた絵が飾られている

上の写真、意外と明るそうに見えますが、三脚を使って一眼レフカメラで撮影しているため、明るく撮れているだけ。スマートフォンやコンデジでの撮影だとちょっと難しいかもしれないので、撮影する際はカメラを固定できるものがあった方がいいですね。
▲2階フロアと吹き抜けなっていて奥行きを感じさせる
▲ランプの明かりだけで照らされる廊下も風情たっぷり
▲館内には伝統手芸の津軽こぎん刺しのタペストリーも飾られている

館内を巡って感じたのは、建物全体にどこかぬくもりや温かさがあり、「落ち着く」という言葉がまさに当てはまるということ。また、木造で古さも感じさせますが、清潔感があり居心地の良さを感じました。

やわらかい泉質で適温、長く浸かれる4つの温泉

「ランプの宿」は木造2階建ての本館と、つり橋を渡った対岸の離れ4棟から成ります。約1万平方メートル(東京ドーム約4分の1個分)の敷地内には4つの温泉(青荷温泉)があるそうなので、次は温泉巡りに向かってみましょう。
▲施設内マップ。キャンプ場や散策道は2017年10月現在閉鎖中

最初に向かった「健六の湯」は、正面入り口前の湯小屋にある総青森ヒバ造りの温泉です。青森ヒバは日本三大美林の一つで、その強い香りが特徴。建物に入った瞬間からヒバの香りが漂い、情緒ある空間で癒しを提供してくれます。
▲「健六の湯」は2001年に新設されましたが、湯室はもちろんランプしかありません(24時間入浴可。ただし清掃時間あり)

青荷温泉は2つの源泉を混ぜた掛け流し。泉質はやわらかく、無色透明で無臭。いつまでも浸かっていられるような適温です。

次に向かったのは、本館を抜けた奥にある露天風呂。途中で青荷川に渡された吊り橋を通る必要があります。
▲青荷川を渡る吊り橋。昼間に撮影

昼の時間帯であれば問題ありませんが、ここは「ランプの宿」。外灯にランプはありますが、市街のような明るさではありません。夜の時間帯は足元などがちょっと暗くなるので、部屋に備えつけてある簡易ランプを持っていくことをお勧めします。
▲夜は足元が暗くなるのでご注意ください!

そしてやってきた露天風呂。渓流沿いにあり、岩で造られた湯船です。ここは青荷温泉唯一の混浴。男女別に分かれた更衣室があるため、着替えには困りません。夜はほの暗いランプの明かりだけなので、混浴でもそんなに気になりません。また、17時~18時は女性専用の時間となっているので、女性だけでお越しの場合はねらい目ですね。
▲間近に瀬音が聞こえる野趣に溢れる露天風呂

3つ目は、敷地内一番奥にある「滝見の湯」です。内湯と露天の2つがあり、内湯はこちらも青森ヒバで造れられたお風呂です。
▲「滝見の湯」の内湯

奥の露天風呂からは、その名の通り、高さ約10mの龍神の滝を見ることができます。しかし、この滝を見られるのは夏季限定で、冬になると2~3mの積雪によって見られなくなるそうです。
▲露天風呂の奥に、龍神の滝が見える。夜は暗くて滝を見ることができなかった

そして最後に紹介するのは、本館にある内風呂です。こちらもヒバの香りに包まれた内湯で、湯に浸かりながら、窓の外の景色が眺められる贅沢な湯でした。
▲館内の内風呂。窓の外は何気ない山の風景だが、四季によって、また昼夜によってさまざまな表情を見せる

青荷温泉にはシャワーがなく、シャンプーやリンス、石けんなどの備え付けはありません。使いたい場合は、持参するようにしましょう。

なお、青荷温泉では日帰りでも入浴できます。入浴だけでなく、昼食付きなどのプランもあるため、観光がてら立ち寄り湯として利用するのもいいかもしれません。

津軽三味線の演奏を聴きながら郷土料理を堪能

▲夕食は大広間で宿泊客全員でいただく

「ランプの宿」は温泉だけでなく、地元の食材を中心に使った料理も楽しみのひとつ。毎晩、支配人自らが津軽弁を交えて料理の説明を行います。毎週金曜日には津軽三味線の生演奏もあり、津軽伝統の音色を無料で聞くことができるのでおすすめです。
▲「ランプの宿」支配人・石動尚(いしどうなおし)さんのあいさつで始まる夕食

夕食には青森の郷土料理であるイワナの塩焼きをメインに、ミズや根曲がり竹といった地元で採れる食材を使った料理も並びます。
▲10品以上でボリュームたっぷりな夕食

イワナは川魚なので、生臭さや苦味があるのかなと予想していましたが、食べてみると塩加減や焼き加減が絶妙で、骨や頭まで全部食べてしまいました。
▲一匹丸ごとイワナの塩焼き。左奥にあるのはゲソのぶつ切りを揚げたイガメンチ

食事は長テーブルに用意され、個々で仕切られることなく相席のような形で食べます。テレビがあるわけでもなく、携帯電話も圏外なので、隣に座った方と「どこから来たんですか?」と自然と会話が始まります。まさにこれこそが旅の醍醐味なのかもしれません。
▲地元・津軽地域で活動する千葉勝弘さんがお弟子さんと2人で演奏。演奏時間は約30分

そして、そんな会話の最中に始まる津軽三味線の演奏。バチを弦に叩きつけるように弾く力強い音に聞き惚れてしまいます。津軽三味線を聞く機会が普段からあるわけではないため、日本人の筆者でも異国の音楽を聴いているような気になってしまいました。
▲朝食で供された味噌の卵とじ。ホタテやネギなどが入った味噌煮込みに生卵をかけて作る

なお、朝食のメインとなる味噌の卵とじは、青森では風邪に効くと言われ、家庭でよく食べられる料理の一つです。ご飯との相性は抜群で、ついお代わりを頼んでしまいそうな美味しさでした。

また来たくなる!季節によってまったく違う表情を見せる

「ランプの宿」は1928(昭和3)年に青森県の歌人・丹羽洋岳(にわようがく)氏が開湯した温泉宿です。山奥にあるため、開湯当時は夏季のみの営業でしたが、現在は通年で営業しているため、秋には紅葉、冬には白銀の世界など四季折々の景色とともに温泉を楽しむことができます。
▲例年10月中旬~11月上旬ころは、紅葉を楽しむことができる(写真提供:弘南観光)
▲冬の積雪の多い時期はミニかまくらを作って明かりにすることも(写真提供:弘南観光)

移りゆく四季の景色だけでも魅力的ですが、やはりこの土地に足を運んで体験しないと伝わらないこともたくさんあります。そのひとつが、夜空に輝く星の美しさ。それを直に見ただけでも、ここに来た価値があるような気がします。
▲とにかく満天の星でした

「都会の喧騒を忘れて」なんていう常套句では片付けられないような体験が「ランプの宿 青荷温泉」にはあります。その体験を例えるならば、青森県出身の劇作家・寺山修司の「書を捨てよ町へ出よう」を現代風にもじって「ケータイを捨て田舎へ出よう」と言ったところでしょうか。そんな日常からちょっと距離を置いた、本当の意味で贅沢な旅をしてみませんか?
▲ランプが照らした部屋の天井

ちなみに滞在中、ランプが照らす天井を長い時間見上げていました。風情ある秘境で誰にも邪魔されず時間の流れだけをゆっくりと感じることができただけでも貴重な体験でしたよ。
くどうたける

くどうたける

東京でウェブライターを経験し、2012年に青森へ移住。地域新聞や地域の情報を発信するお仕事をいただきながら、田舎でせっせと暮らしてます。(編集/株式会社くらしさ)

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