歩けば名店、世界遺産の城下町・姫路

2015.10.12

長い長い平成の大修理を経て、2015年3月27日に再びその秀麗な美しさを見せてくれた姫路城。姫路駅からこのお城にかけてはいろんな商店街が縦横に走り、商店街ごとに名店がある。といっても、普通の旅行者が気軽に入れる店ばかりなので、城散策と一緒に味わっていただきたい。

気前よすぎる“駅前”世界遺産と、真心とんかつ

日本には今、自然遺産や文化遺産を合わせて19の世界遺産が登録されている。
その中には「白神山地」や「小笠原諸島」のように、関西人にとって「気合入れて行かんと一生無理」みたいなところもあるが、法隆寺と共に国内初の世界遺産に登録(1993年)された姫路城は大阪から新幹線を使わずとも1時間で行けるし、駅前から「ここですよ」とお目見えしてくれる気前のいい名所。
京都や奈良の世界遺産も、こんなにサービス精神旺盛ではありません。
▲大手前通りの中央奥にスッと立つ見事なシルエット
さて北へ向かって歩くとするが、お城までの道程がまた楽しい。
通りごとに微妙に表情が違う商店街のアーケードをちょっと寄り道しつつジグザグに進む。
「天守閣への登りは結構ハードだからしっかり腹ごしらえして」という地元民のアドバイスに従い、とんかつの「赤心(せきしん)本店」の暖簾をくぐる。
カウンター7席という凝縮された空間で、目の前で揚げてサクサクっと切り分けて出てくるライブ感がたまらない。土曜の11時半頃だったが、私の後にはすでに列が出来ていた。

分厚いバラ肉のとんかつに、「こんなん見たことない」って感じの、そのバラ肉の入った豚汁と白ご飯の3点セット1,200円(税込)。長女の上谷(かみや)桃子さん曰く「半身のバラ肉を買って、とんかつ用に切り分けた後に出る端っこを豚汁に使ってるんです。切るのがけっこう重労働ですが」…と、涼しいお顔でさらりと。
左隣の席は「さぁ午後からも働くで~」って感じの元気な地元男子3人衆が忙しく機嫌よく箸を動かしている。右隣は私と同様に観光客風のオジサン。今から姫路城かな。

「赤心」というお名前はどこから?
女将さんの裕子さん曰く「(創業者の)祖父が付けたんです。勝海舟が好きで、その言葉からいただいたようですが。ご本人の許可は取らないままに(笑)」と。
勝海舟は「偽りのないありのままの心」を表現する場合、「赤心」という表現をよく用いていた。
約二千年前の『後漢書-紀[光武帝紀上]』にも「赤心を推して人の腹中に置く(心から人を信じて、真心を持って接する)」とあるように、歴史の風雪に耐えて残った言葉。
その「赤心」を座右の銘にした勝海舟も偉いが、それを家族で経営する食堂の名前にした初代のセンスに脱帽である。
▲左から上谷裕子さん、長男の公太さん、長女の桃子さん。3人の空気がええです
夕方まで休憩なしでやっておられるので、天守閣の帰りにオムライス(750円・税込)とビール(600円・税込)という締めもさぞかし楽しいだろうな…と思いつつ、お店を後にする。

「八百屋さんから珈琲専門店」の40年

満腹になったところで商店街をさらに北へ。城攻めの前にコーヒーを一杯いただこうと、「みゆき通り」のアーケードに「はまもとコーヒー」を訪ねる。

昭和50年(1975年)。姫路に喫茶店は多けれど「珈琲専門店」はまだ一軒もなかったような時代に、店主の浜本卓弥さんの父上である康雄さんが開業した。
▲アールが美しいカウンター席は奥。入り口近くにテーブル席がある
「以前は八百屋だったんです」。聞き間違えたかと思った。
「ダイエーの進出が決まり、野菜を売るには不利だということで踏み切ったようです。でも親父にとっては野菜もコーヒーも同じ“生鮮食品”なんですね。必要な量を仕入れ、無駄な分を残さず素早く売り切るということでは一緒だと」
とはいってもスゴい転身。周囲は「大丈夫か!?」という目で見ていたようである。

その店が今年で開店40周年。姫路城の再オープンもあって最近は外国人客も多いと聞く。とくにサイフォンでコーヒーを入れることは欧米ではもはや珍しいらしく、カウンターを挟んで盛んにシャッターを押されるようである。
▲サイフォンがぴかぴかに磨かれていました
卓弥さんの代になってから、「季節のブレンド」という商品も登場した。
「コーヒーは四季のない赤道周辺で採れるでしょ。日本は季節があるから、こんな提案がしたかったんです」
▲これは定番のハマモトブレンド430円(税込)。寄り道の甲斐がありました
今から城攻めだが、帰りに季節のブレンドと名物のアーモンドトースト(450円・税込/アーモンドトーストは姫路では超メジャーな喫茶メニュー)もええなぁ~と思いつつ、また後ろ髪を思い切り引かれながらお店を後にする。

世界中のひとびとと行く、楽しげな「城攻め」

いよいよ本日のハイライト。世界の名所・姫路城に登る。

姫路城は大阪城のような「鉄筋コンクリートでエレベーター完備の観光用施設」ではなく、徳川時代に「西の将軍」と讃えられた実力者の池田輝政が築いてから今日まで城として生きながらえている、そのまんまの軍事要塞である。
▲みんながカメラを取り出す、桜門橋(さくらもんばし)と姫路城
城が要塞であった頃は殿の家中や城主の覚えがめでたい人しか登城できなかったが、今や国籍・性別・年齢・身分不問で世界中の観光客がぞろぞろと登っている。
いろんな国の言葉を聞くごとに、「あぁ、アクロポリスやピラミッドでもきっとこんな光景なんだろうな」と行ったこともないくせにうれしくなった。
「天守閣まで30分待ち」のサイン。かまわずどんどん登る。

左に飲み物の販売所。ここから先は「江戸時代と一緒ですから」ということなので、登りで疲れる人は今のうちに水分を手に入れておこう。トイレは天守閣を降りるまでないので、この手前で済ましておこう。
▲「いの門」をくぐるとお菊井戸との分岐が。奥は「ろの門」
▲「ろの門」をくぐると一気にお城らしくなる。奥は「はの門」
ご覧のとおり、石段は急である。当たり前だが「城攻め」する手合には攻めにくく造ってあるのだ。
▲上の狭間(さま)から石や矢が降ってきても銃撃されても逃げようのない場所だが、そんな心配はありません
ディテールおたくには、こんな扉もたまらんだろう。
そして靴を脱ぎ専用のビニール袋に入れて、さらにずんずん歩く。
やっと着いたかと思ったら、まだ2階でした(最上は6階)。
▲左は「武具掛け」。天守は武器倉庫でもあり、ここに槍などを掛けておく
熱気むんむん、多国籍の汗の匂いぷんぷんだが、ここまで上がると風通しもよくなってきた。薄暗い城内だが、なんとも言えぬ「わくわく感」が場を支配している感じで、世界の皆さんも満足していただいているようではないか。
そしてさらにずんずんと登っていった先の最上階に「刑部(おさかべ)神社」がある。
ここに祀られている神さまは諸説あり、この姫路城のある姫山の神だともいわれたり、姫路城に隠れ住むキツネの妖怪だとも言われたりしている。
確かなことは、この祭神が「城主の行いによっては祟る」と言われたため、この超一等地に遷座されたということである。感謝のお参りをする。

気がつけば、3時間前に見た景色と全く逆に、姫路駅が大手前通りの奥に小さく立っている。あぁここまで来たのだな。
名残惜しいがずんずん降りて、姫路城の細かな仕掛けを早送りするように眺めて天守閣を後にする。自分の足で登った城には愛着も一層湧くというものだ。

しかし軍事要塞だけあって、敵を一人残らず生かしておかない仕掛けにはびっくり。「武者隠し」なるこの壁の仕掛とか。上手いこと造っている。
▲武装した侍が隠れていた。何時間交代制なんでしょうか?
さらに降りると、大天守を出て広々とした場所(本丸)に着きほっとひと息。
そしてもう一つの名所「お菊井戸」に出る。
▲そんなに楽しそうに覗きこんで大丈夫?
皿を盗んだ濡れ衣で井戸に落とされ殺されたお菊さんが「一枚~、二枚~…」と数えるあのお菊さんのルーツはここ。落語好きならぜひ、三代目桂春団治師匠の「皿屋敷」も併せて聞いてみてください。

まだお時間があるなら、西の丸の「百間廊下」や姫路城に隣接する庭園「好古園(こうこえん)」にもぜひ。
▲西の丸「百間廊下」からの大天守もオツな眺めです
西の丸は天守閣への垂直に近い登りとは打って変わって、本当に長々と続く廊下の所々に設置された姫路城の物語展示(家康の孫娘で豊臣秀頼に嫁ぎ、大坂夏の陣の後に本多忠刻と結婚して姫路城に移った千姫に因んだものが多い)に「へぇ~」と頷くこと必至でしょう。
後者は歩き疲れてへとへとになったところで庭の自然に癒され、抹茶とお菓子で元気になること請け合いである。好古園の所々に設えられた四阿(あずまや)でうとうと…も楽しゅうございます。
▲好古園内にある茶室「双樹庵」でぜひ一服を

「播磨灘の幸」を存分に味わうフィニッシュ

めいっぱい歩いてお腹が減ってきたので、本日のラストの場所へ移動する。
「ざこば あん西(さい)」は姫路で35年の実績のある魚屋さんが開いた居酒屋だが、よくある「港町の活魚居酒屋」とは違って、料理のバリエーションが驚くほど豊富だ。
▲黒板のお薦めを見た瞬間に「おいしい口」になりました
まずはお酒と一緒に出てきた突き出しが、きずし、ポテサラ、ヒイカの煮付けとどれも酒泥棒であった。
▲この突き出しで播磨の地酒をお代わり
「まずはサラダっぽいもんでいこかな」
と思って頼んだのがこの「自家製スモークサーモンサラダ(800円・税別)」。
▲見栄えも華やか
こんなに脂がのって香ばしさ抜群で、レタスもトマトもみずみずしいサラダは初めてですわ。疲れた全身に特製ドレッシングの酸味とボリューミーなサーモンが効く。

大将の安西輝高(てるたか)さん曰く「それはイタリアンで修業した凜太郎(長男)のメニューですわ」。引き出し多し! 
店長は保育園の先生だったという長女の真世さん。「紅一点」という言葉どおりの華がある人である。
▲大将と店長の作戦会議。背後の絵は姫路在住の画家・岩田健三郎が開店のために描きおろしたもの
そして淡路サザエ(880円・税別)。
「つぼ焼きとお造り、どっちがええですか?」と言われて迷ったが、お造りにして正解でした。甘い。コリコリ。奥歯でしっかり噛みしめられる有り難さよ。
▲日本酒のお代わりにターボがかかる
サンマ塩焼き(580円・税別)。ちょっと苦いワタまでたまりません。
▲画面には入りきれないサイズだったので、尾が見えずすみません
汁っぽいものが欲しいなぁと「大アサリのだし焼(800円・税別)」をお願いしたら、またドーンと来た。身は大アサリ(本庄貝)で、貝殻はニシガイのものです。
▲このだし汁に白飯をぶち込んでもきっと美味かろう
安西さんの真骨頂は、やはり無名の地魚。
「昔は近所の魚屋さんで買うて、どこでも家で料理して食べてたんですけどね」
播磨の地魚である「ねぶと(テンジクダイ)」のじゃこ天(500円・税別)をいただく。
ビールでもたまらんだろうが、今日は地酒一本でぐいぐい行きます。
このあと、同じねぶとの唐揚げ(600円・税別)を戴いたが、私より先にカメラが沈没してしまった。

たぶんこれは「1回姫路に行ったくらいで原稿書いたらアカン」という神のお告げであろうから、この3軒は近々アンコール行脚をせねば。店も当然、世界遺産レベルである。
中島淳

中島淳

編集者。京阪神エルマガジン社時代にSAVVYとMeets Regionalの副編集長、Lmagazine編集長を歴任、2006年に独立して編集出版集団140Bを立ち上げ、代表取締役に。今回は強力な播州ネイティブのお蔭ですこぶる充実した姫路行脚が楽しめたが、姫路通いがクセになりそうな予感が…。

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