京都の隠れ里、大原・三千院。苔むす庭に日常を忘れる
古寺名刹が多く、世界中からたくさんの人々が癒しを求めて訪れる京都。そんな京のまちに住む”都人(みやこびと)“たちが、平安の昔から心安らぐ地として愛してきたのが大原の地です。なかでも「三千院」は、山里の澄んだ空気のなかで、心静かに美しい庭を眺めることができます。

国宝や庭など、見どころが多い門跡寺院

大原は「声明(しょうみょう)」と呼ばれる仏教音楽の発祥の地。そのなかで三千院は大原の里を望む高台にあり、代々皇子・皇族が住職を勤めてきた天台宗の門跡寺院です。創建は8世紀、最澄が比叡山延暦寺を造営する際に建てた庵が起こりとされています。
本尊は、最澄作と伝わる「薬師瑠璃光如来」。その秘仏が鎮座する宸殿(しんでん)は声明をいまに伝える道場です。

御殿門から一歩足を踏み入れると、境内は山の傾斜を巧みに取り入れた段状になっていて、杉木立や苔の緑のなかに、お堂が点在しています。
境内は御殿門を入ってすぐの客殿から「聚碧園(しゅうへきえん)」、「宸殿」、「有清園」、「往生極楽院」、そして山手の「金色不動堂」、「観音堂」へと進み、「円融蔵」を通って再び客殿へ戻る順路となっています。とくに聚碧園・有清園は四季折々に見ごたえのある名庭として知られており、春に山吹、初夏の紫陽花、秋の紅葉から冬の雪景色まで、いつ訪れても心奪われるような美しい風情を見ることができます。


ひと筆ごとに、心鎮まる穏やかな時間

写経する場合は拝観受付で申し込み、客殿のなかにある写経所で行います。休日ともなるとたくさんの方が体験されるそうですが、私がうかがったのは平日だったためか、ずらりと並んだ机には人もまばらでとても静かでした。とくに空気の澄んだ朝一番がおすすめだそうです。
写経とは自分自身の修行というのはもちろん、印刷技術のなかった時代には仏教の教えを伝え残していくための大切な手段でもありました。ですから、写経はとても功徳のある行いとして位置づけられているのだそうです。写経体験でも、書き写したお経は持ち帰らず、ご本尊の前にお供えします。

筆できちんと文字を書くなんて「小学校のお習字以来かも……」と、若干不安に思っていましたが、筆のほかに筆ペンも用意されていてひと安心。なかには“my筆”を持参される方もいるそうです。

慣れない筆と、難しい経典の文字の並びに、最初は字のくずれや書き損じなどに気をとられていましたが、ひと筆、またひと筆と書き進めていくと、そのリズムに引き込まれるように集中している自分がいました。

お経のあとに、「家内安全」や「世界平和」など、祈願したいことと、日付、名前を書き入れて完成。
書き終えた用紙は、机の正面に据えられた三方にお供えし、再び合掌。のちほどお寺の方の手でご本尊に奉納されます。

写経のあとの穏やかな気分で境内を参拝

写経所を出て、客殿のなかを順路に沿って進むと、縁先の向こうに見えてくるのが聚碧園。江戸時代の茶人・金森宗和(かなもりそうわ)が修築したと伝えられる名庭です。ここでは縁先や座敷に腰を下ろしてゆっくり庭の景色を楽しんでいる人がたくさんいました。


客殿はご本尊のある宸殿に続いていて、お参りしたあと順路は宸殿を降りて池泉回遊式の有清園へ進みます。

往生極楽院のなかに座しておられるは、国宝の「阿弥陀三尊像」。仏様はお堂に比べてとても大きいため、納めるために天井を船底型に折り上げてあるのだとか。仏様のお顔はお堂の前から見上げるようにして拝見します。
また、極楽院という名の通り、天井には極楽浄土に舞う天女や諸菩薩の姿が極彩色で描かれていています。収蔵庫「円融蔵」に復元模写されたものがあり、そちらで詳しく観ることができます。

往生極楽院のそばに立っていると、どこからともなく水の流れる音が。木立の奥から苔むす山肌を伝い、細く糸を引いたように流れるのは「細波の滝」。この絶えることのない流れが、有清園のみずみずしい美しさを作りだしています。

天を突くように立ち並ぶ木々と、その根元に広がる緑の絨毯。木の根や岩の隆起にそって広がる苔は、ときに波にうねる海原のようにも思えて、いつまでも見つめていたくなります。

往生極楽院から石段を登ったところにあるのが「金色不動堂」。
ここから伸びる500mの遊歩道には、初夏になると約3,000本の紫陽花が咲き誇ります。




山を降りてきたところにあるのが、順路の最後となる「円融蔵」。収蔵品が展示されているほか、お守りなどの授与品やお土産が並んでいます。

写経の際に授与された「奉納経朱印授与引換券」をここで提示すると御朱印がいただけます。いま、お寺巡りを楽しむ人の間でブームとなっている「御朱印集め」ですが、そもそもは写経を奉納した証として授けていただけるものなんだそうです。つまり今回は本来の手順を踏んで授与していただくということ。

一枚ものの紙に書いていただくこともできますが、せっかくなのでこの機会に御朱印帖を購入してみました。三千院をご縁のはじまりとして、御朱印を集めてみようと思います!

とくに秋は庭の紅葉の美しさがまた格別とのこと。


街を離れ、日常を離れて訪れた大原の地。山里の風情と趣ある名庭、そして写経のひとときが、日々の暮らしのなかで忙しなくざわついていた心と体を鎮めてくれたように感じます。静かな海のように広がる苔のみずみずしさが私のなかにも染みわたり、潤いを取り戻したかのような一日になりました。

天台宗 京都大原 三千院門跡
京都府京都市左京区大原来迎院町540
[参拝時間] 3月~12月7日 8:30~17:30(受付終了17:00)、12月8日~2月 9:00~17:00(受付終了16:30)
[拝観料]一般700円・中高生400円・小学生150円
[休館日]なし
[写経体験コース(一般向け)]
9:00~15:30 般若心経一巻を写経。所要時間は約60分、予約不要、写経奉納料1,000円~
※法要等で実施のない日もあります。予じめご確認ください。
075-744-2531

若林扶美子
フリーのライター&プランナー。京都をはじめ関西を中心に、雑誌、書籍、PR誌の企画・執筆を手掛け、伝統文化や地域情報などを発信している。6匹の猫とともに滋賀在住。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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