ここは竜宮城!?レトロでディープな「武雄温泉」の楽しみ方

2017.11.23 更新

江戸時代は宿場町として栄え、佐賀藩主鍋島氏の保養所としても愛された温泉歓楽街、佐賀県・武雄温泉。実はこの武雄温泉に竜宮城を作る計画があったとか…。その名残とも言えるフォトジェニックな景色がたくさんの武雄温泉。ディープな楽しみ方をお教えします。

▲武雄温泉のシンボル「武雄温泉楼門」

武雄温泉の歴史ってスゴいんです!

JR武雄温泉駅から徒歩15分、九州自動車道・武雄北方ICから車で約10分の「武雄温泉」。温泉地の総称としても指しますが、武雄温泉楼門・新館・本館があるエリアが一般的にそう呼ばれています。
▲新館。観賞自由なのが嬉しい

「武雄温泉楼門」(以下、楼門)をくぐると、一番手前には2つの大衆浴場がある「武雄温泉本館」(以下、本館)、一番奥には、昔の浴場の跡がそのまま残る「武雄温泉新館」(以下、新館)があり、自由に鑑賞できますよ。

その他「旅館楼門亭」の浴場を兼ねた「鷺乃湯」や、「柄崎亭」「殿様湯」「家老湯」などの貸切風呂が点在しており、さながら温泉パラダイスです。
▲新館2階から見る楼門

武雄温泉の歴史は古く、開湯は何と約1300年前。明治28(1895)年頃までは柄崎(つかさき)温泉と呼ばれていました。
当時、神功(じんぐう)皇后が三韓征伐の凱旋の途で立ち寄り、手に持っていた太刀の柄(つか)の先(さき)で岩を割ったところ湯が湧出したのが始まりとも、鷺が温泉で傷を癒しているのを発見したのが始まりとも言われています。

その後約1300年もの間、良質な湯を楽しもうと、伊達政宗、宮本武蔵、吉田松陰などの偉人をはじめ、多くの人が訪れています。
▲蓬莱山を背に立つ新館

武雄温泉のシンボルと言えば、朱塗りの楼門と新館です。青空に映える朱塗りの柱と白壁。この不思議な光景どこか見たことがあるような…と思った方、その既視感は恐らく昔話の絵本とリンクしています。さぁ、何でしょう。
▲楼門は、釘を一本も使っていないそう

…その正解は“竜宮城”です!

幻の竜宮城・武雄温泉

この楼門と新館は、1915(大正4)年の4月に落成した建築物。東京駅や日本銀行などを手掛けた辰野金吾(たつのきんご)氏による設計です。武雄温泉を竜宮城にしようとする壮大な計画のもと、これらは建てられました。
▲下から見る楼門の姿。美しい色彩が見もの

佐賀から武雄まで鉄道が開通した1895(明治28)年、武雄温泉は遠方からも入浴客が訪れる温泉観光地になっていました。武雄温泉を管理していた会社代表・宮原忠直(ただなお)氏が、その後新しい泉脈を発見。新しい浴場を作ろうと佐賀県出身の辰野氏に設計を依頼したのが始まりでした。
▲どこを撮影してもフォトジェニックな新館

「この温泉で、ここを竜宮城にしたい!」
そんな宮原氏の思いに応え、辰野氏は、一大レジャーパークの設計図を仕上げました。楼門は3つ、そしてその門をくぐった先には新館が。新館には温泉浴場に加え、演芸を観賞できる劇場、ビリヤード場、サウナ、食事処などが入ります。…それはまるで、その時代の歓楽場=竜宮城だったのです。
▲一部の瓦などには松・竹・梅の文様があるので、じっくり探してみるのも面白い。すべて見つけると幸運が舞い込む…かも?

しかし、残念ながら改めて試算するとすべてを建築する予算がないことが分かります。そこで造られたものが、この楼門と新館。竜宮城の、一部のみが作られたのでした。
▲ここには鷺の文様が。傷ついた鷺が温泉で癒していた、という武雄温泉発祥伝説の一つにちなんでいます

とはいえ、この2つだけでもものすごい建築物!いずれも国の重要文化財に指定されており、改修を経て今なお鮮やかな色彩を放ち、私たちの目を楽しませてくれます。新館はもう浴場として機能はしていませんが、その内部は無料で自由に見学することができます。早速、新館へ入ってみましょう。
▲新館入口の目の前には、レトロな雰囲気のお土産屋さんもあります

浴場タイルも伝統もレトロ可愛い新館

シンメトリーに作られている新館。中央の入り口から入って、右手が「五銭湯」の女湯、左手が「五銭湯」の男湯、その奥が「十銭湯」となります。ちなみに現代に置き換えると、五銭で100円程度、十銭だと200円程度だそう。さぁ、まずは「五銭湯」へ。
▲「五銭湯」の男湯。女湯も同じ造り
▲男湯には昔使用されていた温泉マークの電飾看板があります。これも味がありますね

「五銭湯」は、20名ほどは入れそうな浴槽の周りに洗い場。天井には湯気抜き塔と呼ばれる穴が開いており、建物内の湿気を穴の開いた天井から逃し、老朽化を防ぐように設計されています。
▲電灯もアンティークで可愛い!

さて次は十銭湯です。
おおっ!五銭湯より小さいけれど、ちょっと豪華な気がします。
その理由はこの浴槽底にも使われているレトロ可愛いタイル。
▲北欧っぽいデザインの浴槽底のタイル

これは当時高級だったマジョリカタイル。浴槽の底も、洗い場にもそれぞれ異なる柄が使用されています。
マジョリカタイルとは、そもそもはイギリスの陶器メーカーの商品名で、色鮮やかな文様を施されたタイルのこと。スペインのマヨルカ(マジョリカ)島を経由して運ばれたことからその名が付いたそうですが、こちらで使用しているのはすべて和製。落成当時は「化粧陶磁瓦」と呼ばれていたそうですよ。
▲ちょっと入ってみたい…

他に、現在で言うところの家族風呂・二十銭湯も。貸し切りで使用できる小さな個室になっていますが、こちらの見学は不可。残念!

そして今回特別に見せていただいたのが「特別貸切湯」。これは大正15(1926)年に行われた「陸軍特別大演習」に大正天皇がお見えになる予定があったため、特別に貴賓室と浴槽を設えたのだとか。
▲「特別貸切湯」。こちらの洗い場にもマジョリカタイルを使用。浴槽底の文様タイルは有田焼!

このマジョリカタイル、東京「迎賓館赤坂離宮」のエジプトの間にも使用されているというから、高級さが伺えます。現在は生産・製造されていないので、タイル自体も貴重な文化遺産。底のタイルは、特別に有田焼で造られており、四季の草花をタイルで表現しています。
▲アヤメや桃、竹などの繊細な絵が描かれています

事前に申し込みすれば見学もできるので、希望の方は電話にて問い合わせてみてくださいね。

そして、1階には注目してもらいたいところがもう一つあります!
十銭湯の脱衣(であったであろう)スペースでは、楼門や新館に関する年表や、歴史資料などが展示されているのですが、そこにちょっとびっくりする展示物が。
それはコレ!
豊臣秀吉の書状です!

もちろんレプリカですが、しっかりと書体や印なども見て取れます。
内容は、「入浴心得」を示したもの。
1592(文禄元)年の朝鮮出兵の際、現在の唐津市にあった名護屋城に集められた兵士たちが武雄温泉に押し寄せたそう。それら兵士に対し、「地元の入浴客に迷惑をかけないように」「ちゃんと入浴料金を支払うように」などの心得を記したものだそうです。
▲秀吉って達筆~!

秀吉が一つの大衆浴場に対し朱印状を送るということ自体珍しく、いかに武雄温泉が重宝されていたかということが伺えます。ちなみにこちらの朱印状、秀吉が実際に書いたかどうかは謎とされていましたが、他の秀吉の書状の筆跡が似ていることから、秀吉直筆でないかと言われています。あくまで推測だそうですが…。

さて、浴場見学の後は建物の両端にある階段から二階へ。
▲現在イベントなどで利用することもある休憩所

そこには、広々とした休憩所が。南八畳、南十二畳、中八畳、北十二畳、北八畳…と、休憩所もシンメトリーに並びます。当時入浴した後の家族や男女が、「いい湯だった~」とここで談笑していたのでしょうね~。

二階の中央窓からは楼門を一望。
ここからの眺めは抜群です!

こちらの窓に使用されているガラスは、当時のガラスと現在のガラスが混在しています。新館が完成した当時はガラス製造技術が不完全であったため、使用されているガラスは厚さが不均一でした。ゆえに、当時のガラスを使用している窓越しに見える風景は歪んで見えることも。そんなガラスを指す「むかしガラス」を見つけるのも面白いですよ。
▲「むかしガラス」にも注目してみてください

良質トロトロの柔らかな湯。
名湯・武雄温泉をじっくり堪能

武雄温泉のレトロな建物を楽しんだ後は、やっぱり温泉に入らなくては!武雄温泉は美肌湯とも名高い、肌にしっとり馴染む弱アルカリ泉。武雄温泉を日帰りで味わい尽くしたいなら、おすすめしたいお風呂は2つあります。その楽しみ方は両極端!
地元の方と一緒にレトロな大衆浴場をリーズナブルに楽しむか、殿様気分で贅沢に楽しむか。
それぞれの気分を、同じ敷地で味わえるのだから面白いですよね。
▲「元湯」と「蓬莱湯」のある本館の入口。タオルやせっけんが入ったカゴをもった地元の方が続々と※いずれも入浴料は大人400円、3歳~小学生200円(税込)

さぁ、まずは大衆浴場「元湯」に行ってみましょう。
元湯は、楼門から入ってすぐ左手の本館にあります。なんとこちら、1876(明治9)年に建築された、現在使用されている温泉施設の建物としては日本最古の木造建築共同浴場。2番目に古い「道後温泉」より18年前に完成しているのです。それからずっと武雄の方の憩いの場として愛され続けている浴場です。
▲男湯と女湯の温度が少し異なりますね

入口には入泉券自動販売機があり、元湯と少し小さ目の大衆浴場「蓬莱湯」の湯温が表示されています。元湯のあつ湯は43.0度、ぬる湯でも40.3度とかなり熱め。ここで熱いのが苦手な私はちょっと怯みました…。さらに日本最古って、あまりキレイじゃなかったらいやだなぁ…。

でも、日本最古の木造浴場、やっぱり見たい!ということで大浴場へ。すると…!
天井高い!広い!壁がすべて木でステキ!
1分前までの私に説教したくなるほど、開放感があり、歴史は感じさせるもののレトロな造りでカッコいい!

日本最古と言えども浴槽も洗い場も清潔に保たれているから快適!お湯はやっぱり熱めですが、じ~~っくり入ればその熱さも次第に心地よさに。お湯が柔らかいので、肌にまとわりつくような感じです。
「家にもお風呂はあるけど、ココでの入浴は別」というおばあ様と一緒にたっぷり名湯を堪能しました。
次は殿様気分を楽しむために「殿様湯」へ。ココはその名の通り、佐賀藩の武雄領主・鍋島氏専用として造られた浴場。休憩室と浴場が貸し切りできるという贅沢入浴タイムが過ごせるのです。新館の左手にある建物で受付をし、奥へと進みます。
▲お殿様も通ったであろう通路。趣があります

そして通されたのは、まるで旅館のような和室。ココは休憩室として利用されていた当時から改修していないそう。お殿様が入浴していた際は、お付の方がここで待機していたとか。備品などはさすがに変えているものの、部屋の造りは替えていないそうです。扇風機やドライヤーを備えた鏡台、お茶が飲める急須やポットもありました。
▲4.5畳+3畳の和室。障子を開ければ廊下もあります

和室から急な階段を下ると、ありました!こちらが殿様湯です!
白黒の大理石でできた浴槽は、モダンでカッコいい!ロフトのようになっていて上には鏡、下には洗い場と浴槽があります。
上の鏡は大理石製!よーく見ると…
髙島屋の「髙」の字が!お殿様への贈り物だったのでしょう。
何もかもが贅沢な造りで、気分まで上がりますね。かのシーボルトは、鍋島のお殿様に特別にこのお風呂を利用することを許され入浴した、という文献が残されています。そこには、「まるで水晶のような湯だった」と記述されているそう。
当時は湯を人力で運び、さらに馬の尻尾で漉して使用していたという手間のかけよう。武雄の透明な湯がキラキラと日の光を受けて輝いていたのでしょうね。

レトロモダンでカッコいいこちらの殿様湯は5名まで入浴できます。和室利用も含まれるから、この内容を鑑みると割安な気もしますね。カップルやグループに人気のこちら、殿様気分を味わいたい方におすすめですよ。

毎日1時間だけ開放される楼門内部で
十二支のロマンに触れよう

最後に耳より情報。火曜を除く毎日、9:00~10:00の1時間のみ、楼門の内部を見学できるのです。これはあるロマンに触れるツアー。

楼門・新館を設計したのは、東京駅を設計した辰野金吾氏であることは前述しました。東京駅は1914(大正3)年12月、楼門は1915(大正4)年4月と、落成時期もほぼ同時期です。そして改修時期もほぼ同時。東京駅は2012年に当時の姿に改修復原、楼門は2013年に修復されました。
▲武雄温泉株式会社の岸川さん。今回特別にツアーを案内していただきました(通常はボランティアガイドによる案内)

赤レンガ造りの東京駅丸の内駅舎には干支のレリーフがあることをご存知ですか。丑・寅・辰・巳・羊・申・戌・亥の8つのレリーフが、駅舎の天井に飾られています。しかし、十二支のうち何故8つだけ?それは謎とされてきました。
▲東京駅丸の内駅舎。天井には干支のレリーフが
▲こちらは南南東の方角にある「巳」のレリーフ

改修にあたり、当時、東京ステーションホテルの方から武雄温泉に一本の電話がありました。電話を受けたのは岸川さん。
そこで受けたのは不思議な質問。「そちらに、十二支をモチーフにした何かがありませんか?」

岸川さんは驚きました。ちょうど改修中だった楼門の内部から4つの動物の透し彫りが出てきた直後だったからです。
子・卯・午・酉の画が出てきたことを伝えると「あぁ、そちらでしたか。納得しました」との声。
▲楼門の2階天井、北の方角にある「子」

東京ステーションホテルの方は、辰野氏が同時期に手掛けた建築物に残りの4支がいるのでは、と探していたとのこと。
東京駅の8支も楼門の4支も、それぞれの動物が示す方角の場所に設えられています。
▲東の方角にある「卯」

辰野氏の遊び心なのか、単なる偶然なのかはわかりません。でも、遠く離れた東京と武雄、2か所でつながった十二支は人々の心をつかみ話題となっています。
▲南の方角にある「午」

こちらのツアーは、元湯入浴券付き(大人400円、3歳~小学生200円)。つまり元湯に入浴すれば無料で見学できるということ。
元湯のみならず、殿様湯も、他の入浴施設・蓬莱湯(大人400円、3歳~小学生200円)、鷺乃湯(大人600円、3歳~小学生300円)の入浴でもOKだそう(すべて税込)。
▲西の方角にある「酉」

9:30までの受付が必要なので、殿様湯利用以外なら、朝一番に入浴してツアーに参加するのはいかがですか。
ツアーは20分程度、2階には辰野氏の幻の設計図もあるので、そちらも注目です!

鮮やかな朱色が闇夜に浮かぶ、幽玄の世界を作る不夜城へ

さらに夜にはまた違う表情に。
新館と楼門は毎日夜23:00までライトアップ。地上から照らされる光は、建物の朱色をさらに際立たせます。昼とは一変し、妖しく光る新館と楼門は、まるで映画「千と千尋の神隠し」に出てくる湯屋のよう。
夜のライトアップも楽しむなら、武雄温泉に宿泊して散策するのがおすすめです。昼と夜の雰囲気の違いをじっくり楽しんでください。

大正ロマンあふれる武雄の旅はいかがでしたか?
見るだけでも楽しいですが、湯上りツルツルの名湯に入って、不思議な逸話も聞けば、ワクワクした気分はさらに高まります。こんな驚きと発見に満ちた武雄温泉、本当に竜宮城なのかもしれませんね。
桑野智恵

桑野智恵

フリーの雑誌ディレクター/ライター。福岡生まれ、福岡育ちの博多女。3つの出版社を渡り歩き、雑誌編集歴20年弱。食育アドバイザー、フルーツ&ベジタブルアドバイザー。

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