私にもできた!金沢の「加賀繍」で世界にひとつだけのアクセサリー作り体験

2018.01.29

室町時代、京都より金沢に伝えられたとされる手刺繍「加賀繍(かがぬい)」。金や銀を含む100以上もの多彩な絹糸を用いることや、立体感のある仕上がりが魅力の精緻な刺繍です。ひと針ずつ手で縫い進め、糸の始末も丁寧に行うため、ほつれにくい丈夫さも特徴のひとつ。現在、国指定の伝統工芸に認定されている「加賀繍」を工房「加賀繍IMAI」で体験してきました!

まずは加賀繍の歴史と特色を知ろう!

日本の刺繍は、元々は仏具の打敷(うちしき)などを華やかに飾りあげる技法として発展し、京都で始まったと言われています。

室町時代初期に仏教とともに刺繍が金沢に伝わった時は、お城の細工所で藩主の陣羽織や、奥方や姫君の着物に施されるようになったそうです。

加賀藩前田家の正室、お松も刺繍を得意としたようで、藩の庇護のもと刺繍文化はますます発展。1900年頃には着物の半襟に刺繍を入れたものが大流行し、「加賀繍」の需要が一気に増えたそうです。
▲お仏壇の前机に飾る打敷に施された加賀繍

寺社が多くある金沢では、高位の僧侶の袈裟として加賀繍がさらに発展。時代とともに次第に町民にも親しまれるようになり、金沢に加賀繍の工房がたくさんできたそうです。裁縫の機械化と洋装化が進むに伴って工房の数も減り、今では「加賀繍IMAI」を含む約3軒が残っています。
▲「加賀繍IMAI」の店内には加賀繍が施された着物や帯など、さまざまな作品が展示されています

加賀繍の特徴は、絹糸を何重にも重ねたり、綿を閉じ込めるようにして縫うことで立体感を出す「肉縫い」や、グラデーションを表現する「ぼかし縫い」。金や銀を含む100色を超える色数豊富な絹糸を用いるのも特色のひとつです。
▲着物に施された加賀繍のアップ。手のひらに収まる大きさの文様に、加賀繍の特徴が全て表現されています

テキストはなく、先生の教えの元でひと針ひと針実際に刺繍し、長い経験を積んで覚えるしかない伝統の技術なのです。

「加賀繍IMAI」で美しい刺繍作品を拝見

今回加賀繍体験に訪れた工房「加賀繍IMAI」は、JR金沢駅からバスで約25分。閑静な住宅街の中にあります。
前身となる工房の創業は1912(明治45)年。京都で修行を積んだ今井助太郎さんが金沢で「ぬいの今井」として始め、二代目の福枝(ふくえ)さん、三代目の潔(きよし)さんと受け継がれ、現在は助太郎さんの曾孫にあたる横山佐知子さんが四代目として「加賀繍IMAI」の代表兼師範を務めています。
▲糸車で紡がれている最中の絹糸、奥には豊富な色の絹糸が並んでいます

「かつては私の家に100人近くの職人がいたと聞いています」と、横山先生。幼少の頃から祖母・福枝さんの姿を見ながら加賀繍に触れて育った横山先生は、20歳の頃に本格的に福枝さんに弟子入り。2008年に国指定の伝統工芸士の認定を受け、2011年9月に「加賀繍IMAI」を立ち上げ、弟子を育てながらも国内外で広く活躍しています。
▲加賀繍で作られた蝶のブローチ。立体の蝶を作るという発想がすごい!

横山先生の作品は、鳳凰や花、植物など伝統的な加賀繍のモチーフはもちろん、それらを現代的にアレンジした創作も積極的に行っているそうです。最近では「VIVIENNE TAM」や「FENDI」など海外の有名ブランドとのコラボで、バッグやシャツが作られたとか。
▲コラボ作品の一部。和と洋の融合の美しさに見惚れてしまいます

また、工房で作られたオリジナルのバッグチャームも多数あり、古典柄から現代柄まで全てが違う色とデザイン。チャーム部分は500円玉大くらいの大きさなのですが、刺繍作品なので思った以上に軽いんです。
▲バッグチャーム(下段:シングル3,500円、上段:ダブル4,200円・いずれも税込)

色鮮やかで緻密な加賀繍の作品は、糸の始末まで手を抜くことなくしっかりと施されるため、長い間ほどけることなく、丈夫で色あせない美しさがあるのです。

伝統工芸「加賀繍」をいよいよ体験!

こちらでは伝統工芸の継承や後継者の育成はもちろん、「加賀繍を体験してみたい!」という初心者向けに、簡単な加賀繍の体験コース(2,700円~・税込)を設けています。
▲工房内の体験スペース。作業台が並んでいます
▲イヤリングにストラップ、キーホルダーなど体験できる種類は豊富

体験は3日前までの予約制で、予約時に作りたいアイテムを伝えます。希望の布や模様も伝えておくと、体験当日までに横山先生が布生地に下絵を描いて準備しておいてくれるので、おすすめ。
▲カラーバリエーション豊かな布生地。絹や麻など素材もいろいろ

私は今回イヤリング(3,780円・税込)を作ると決めていたので、事前に「作りたいものはイヤリングで、紫の布に松の刺繍をしたいです」とお伝えしました。花や蝶、フルーツ、クローバーやハートなど、さまざまなものが作れるようです。

もちろん当日、実際に作成見本の柄を見たり、使用する布に触れたりして選ぶこともできるので安心してくださいね。
▲まずは釜糸(かまいと)の色選びから。模様によっては複数選択可

体験用に用意された刺繍糸は約100色。これでも加賀繍で使うものとしては少なめなのですが…正直、たくさんありすぎて迷います。
「松だから1色だけ選ぶんですか?」と尋ねると、「松の面の部分で1色、スジの部分でもう1色選ぶことになりますよ」と横山先生。しかもイヤリングなので同じものを2つ作るため、左右で色を変えてもいいとのこと。ピンクとブルーのどちらにしようかと迷っていたので、松の面の色変えにチャレンジ!スジには紫色を選びました。

イヤリングの体験時間は約3時間とのこと。イヤリングにするほどの小さな刺繡なのに、どうしてそんなにかかるんだろう…と不思議に思っていたら、「この絹糸はよりがかかっていない釜糸です。刺繍する前に、まず、ご自身の手で糸を縒る作業から始めていきます。だから体験時間も多く取っているんですよ」と聞いて納得!
▲体験用に小分けされる前の釜糸。絹なのでとても柔らかくて細いんです

フランスなど海外の刺繍糸は、糸がすでに縒られて6本でひとつの束になっていて、それを指定の本数だけ取って使うのが一般的。対して日本刺繍では髪の毛のようにとても細い釜糸の状態で保管されているため、なんと使う釜糸を使う分だけ手作業で縒り(ねじり)をかけ、太さと色を調整するんだとか。
▲というわけで糸縒りからスタート。釜糸の端を口にくわえて固定します

「糸縒りは絹糸の艶やかさと強度を増す重要な工程。縒りが甘いと刺繍が美しく仕上がりません。『糸縒り3年、縫い8年』と言われるんですよ」と先生。
▲糸を歯でくわえたまま、卓上のピンに引っ掛けて両手のひらで重ねた釜糸をねじり合わせていきます

初めに先生がお手本で1本糸縒りをしてくれ、その様子を思い出しつつ指導を受けながら自分で糸寄りをするのですが、これが思った以上に難しい! 乾いた手ではねじりづらいので、湿らせたハンカチなどで随時手を湿らせるのもコツだそうです。
▲ようやく糸縒りができた…と思うものの、1本40cm程度の長さ。意外と短い!

刺繍している最中に足りなくなるのではと思っていたら、「足りなくなるごとに、糸縒りをしてもらいます」とのこと。40cmくらいでどれくらい刺繍できるんだろう…もう1本縒るのかな…と思うと、ちょっぴり気が遠くなりました(笑)。

続いて、下絵が描かれた布をセットした刺繍フレームを前に、縫い方の説明を受けます。
▲繍っていく部分や順番をホワイトボードでていねいに解説してくれる先生

松の模様は下から順に縫うのではなく、中心あたりから縫っていきます。
「まず松の下半分を縫い、その後で松の上半分を縫っていきます。刺す向きは左から右です」と、わかりやすく説明してくれました。

使用する刺繍針はなんと約2.7cmという短さで、しかも細い!手作りで作られているため、ほどよくしなり、めったに折れないほど丈夫なのだそう。とはいえ、こんなに細くて小さな針を持つのは初めてなので、正直、最初は持ちづらく感じました…。
▲刺繍フレームは机に固定されます。まずはピンクの松を縫っていきます

縫いはじめは玉結びをし、布が縒れないようにするために隠し針をします。薄い布なので、ここでも縒れてしまわないように注意しながら、松のラインの内側の適当な場所を小さく1針縫います。この1針は実際に縫い進めていくことで見えなくなっていくので、隠し針というそうです。なお、この時の玉結びは切らずにそのまま残します。

では、実際に縫い始めていきます。針は布地に対して垂直に刺すことが基本で、左手は布地の裏で針を受けて刺し、右手も表で針を受けて刺します。これが基本ポジションで、両手を使って針を刺したり抜いたりすることに初めは戸惑いますが、案外すぐに慣れます。むしろこの短さが小回りが利いて使いやすく感じてきました!
▲しっかり縒られた糸は、1針刺しただけでも存在感たっぷりの太さ

もし縫い間違えてしまっても、刺繍針から糸を抜いて、手前の工程まで糸を戻せば大丈夫。でも、できれば戻りたくないので、一つひとつの針を刺す場所にとても集中しました。
縫い終わりは玉留めをせずに隠し針を2度行って終えます。
▲針先に視線も神経も集中して、慎重に縫い進めます

ピンクの松は途中で1本糸縒りを追加して、合計1本半使いました。続いてブルーの糸を1本縒り、2個目の松を刺繍します。
▲下絵の線より少し外側を狙い、詰めすぎず、隙間が空かないように縫っていきます

少し慣れたこともあり、適度な間隔を掴み、ピンクよりも回数を少なめに刺繍できたおかげか、ブルーの松は糸縒りした糸1本だけで縫い終わることができました。
とはいえ、松のスジを刺繍するために、紫の糸を1本縒るのですが…(笑)。
▲松の中のスジ模様も刺繍。この糸が横に縫った色糸を抑える大事な役割に

縫い終わり、隠し針を2度したら、糸を切ってついに完成!曲線がぎこちないなど不格好な所も少しありますが、かわいい松がふたつ縫いあがり、感無量です!!
▲先生が布地をカッティングし、イヤリングに加工してくれます
▲模様が最も美しく出るように、丁寧に台座をくるんでいきます
▲オンリーワンのイヤリングのできあがりです!
▲実際につけてみると、とても軽い!
▲先生のお手本(右)と並べてみました

糸の縒り具合や曲線など細やかな美しさはまだまだですが、約2時間ほぼ無言で集中して手がけた加賀繍イヤリングは、達成感もひとしお。

そして、体験した後に改めて店内の加賀繍作品を見ると…「この小さな作品にこんなにも色糸が!」と、技術の高さと細やかさに感慨深くなりました。

作る内容によって体験代が異なり、私が体験したイヤリングは3,780円(1対・税込)でしたが、伝統工芸を先生の指導を受けながら3時間ほど集中してしっかり体験できてこの価格は、正直リーズナブルです!
▲金糸も用いられた加賀繍はより一層繊細かつ豪華

ひと針ごとに思いが込められ、この上ない美しさを放つ加賀繍。京都の刺繍「京繍」と並び国が認める伝統工芸は、実際に見て触れて体験すると、その奥深い伝統と技法に感動します。金沢に訪れたら、自分だけの加賀繍アイテムを記念に作ってみてはいかが?
SARYO

SARYO

石川県の温泉地として名高い南加賀在住のライター・エディター、時々シナリオライター。北陸の地域情報誌に10年勤めていた経験と、国内も国外も興味津々な好奇心をフル活用し、さまざまな情報をお届けします。歴史、神社仏閣、旅、温泉に強く、利用者と同じ目線を重視するスタイル。

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