梅はもちろん、桜も紅葉も絶景!水戸・偕楽園は開かれた花の公園
金沢の「兼六園」、岡山の「後楽園」と並んで日本三名園に数えられる水戸の「偕楽園」。2~3月には約100品種、3,000本の梅の花が咲き誇る観梅の名所として有名です。でも、それだけじゃないんです!偕楽園は「花の公園」と呼ばれるほど、四季折々の花々を楽しめるスポット。その知られざる魅力をたっぷりご紹介します!

偕楽園は民とともに楽しむ公園
見所の多い園内をポイントを押さえて巡るために、今回、市民観光ボランティアの菊池正章(まさあき)さんにガイドをお願いしました。ガイドは無料、水戸観光コンベンション協会のホームページから事前に申し込んでくださいね。

「偕楽園を見ていただく前に、まずは水戸藩がどういう藩かわかりますか?」と、菊池さん。
うーん、徳川御三家、ですよね?
「そう。家康は晩年に生まれた3人の息子に、特別に藩を与えました。将軍家に世継ぎが生まれなかった場合、この御三家から世継ぎを出すためです」
水戸藩といえば黄門様で知られる徳川光圀(みつくに)ですが、光圀は2代目で、偕楽園を造った斉昭は、光圀の死後100年が経った寛政12(1800)年に生まれた9代目です。そして斉昭の7番目の子どもが、なんと徳川幕府最後の将軍・慶喜(よしのぶ)!

頭のよかった斉昭は、天保12(1841)年には日本一の広さを誇る藩校・弘道館を、翌年に偕楽園を造ります。
「藩校は文武修行の場ですが、偕楽園は心身保養のための公園なんです。人は張るばかりではだめ、緩むことも必要、と斉昭は考えていたんですね」(菊池さん)
この「一張一弛(いっちょういっし)」(弓の弦を張ったり、緩めたりすること)の精神は、偕楽園の隅々まで反映されています。
「兼六園と後楽園はお殿様や上級武士のための庭園ですが、偕楽園は民と偕(とも)に楽しむ公園。一般の領民も入れたんです。画期的ですよね」と菊池さん。
入園料が無料なのも、「民と偕に楽しむ公園」ゆえ。庶民に優しい斉昭……遠い江戸時代の殿様を、ぐっと身近に感じます。
まずは、幽玄な「陰の世界」へ

「偕楽園を見るには、この表門から入り、陰(いん)から陽(よう)へと巡るルートがおすすめです」(菊池さん)
世の中は、すべて相反するものの調和のもとで動いていると、斉昭は考えていました。
まずは日頃の忙しさから解放されて幽遠閑寂な「陰の世界」でゆっくりと心を落ち着かせ、休息をとる。その後現れる「陽の世界」では、詩歌を詠んだり酒を飲んだりして楽しむ。そんな斉昭の強い思いが、このルートには込められているのだそうです。
「園内へはこの門から入りました。『病なき者籠に乗るを許さず』ということで、どんなに偉い人でも、ここで籠や馬から降りました」(菊池さん)
門を一歩くぐると、なんだか空気がひんやりとしています。
その理由はこちら、高く青々と伸びた孟宗(もうそう)竹林です!

まさに壮観!孟宗竹は成長が早いため、4~5年たち色が黄色く変わったものは切り落とし、新しい竹を伸ばすことで、常に青々とした竹林を保っているのだそう。
竹林を抜け、なだらかな勾配のある小道を歩きます。人工的に作り込んだのではなく、自然を最大限に生かしているため、ちょっとした森林浴気分に。



さらに杉林の中を少し歩くと……

「陽の世界」へ導く「好文亭」
「陽の世界」の入り口に位置するのが、園のシンボル「好文亭(こうぶんてい)」です。

斉昭が別邸としてこの地に建てさせた「好文亭」は、木造2層3階建ての本体と木造平屋建ての奥御殿からなる伝統建築です。
水戸藩は全国で唯一、幕府から参勤交代を命じられなかった藩であり、藩主は江戸・小石川藩邸に居住し、不在のまま領地を統治しなければなりませんでした。
斉昭が藩主を務めた15年間のうち、水戸に帰ってきたのはわずか3回。そのうちの1回の間に、弘道館と偕楽園の両方を造ってしまったというのですから、すごい手腕ですよね。
「お殿様がいないから、水戸には天守閣のあるお城がないんです」と菊池さん。
その代わり、ここ好文亭が水戸城の出城(でじろ=本城の他に敵の侵攻を防ぐのに重要な地に物見櫓として築いた城)として使われたともいわれ、建物内には敵の攻撃をかわす備えがいくつも施されているのだとか。

10部屋からなる質素な造りの奥御殿は、藩主の奥方の休み所として使われました。ここでぜひ見ていただきたいのが、各部屋の名前にちなんだ襖絵の数々です。
創建当時の襖絵は戦火で焼失、現在のものは昭和30(1955)年に始まった好文亭復元工事において、東京藝術大学で教鞭をとっていた2人の日本画家、故・須田珙中(きょうちゅう)と故・田中青坪(せいひょう)が8年の歳月をかけて完成させたものです。
その完成から54年後の2017年夏、初めての大掛かりな修復作業が始まりました。ニカワの水溶液で顔料を定着させたあと、襖絵を補強する「裏打紙」の張り替えなどが行われ、10月頃から順次公開されています。
これから訪れる方は、美しくよみがえった襖絵を堪能できますよ!




さて、太鼓橋廊下を渡って本体へ。1階には東塗縁(ひがしぬりえん)と西塗縁(にしぬりえん)という2つの広間があります。斉昭はここへ家臣や領内の庶民らを招いては、詩歌を楽しむ宴や養老の典(敬老の儀式)などの慰労会を催していたのだとか。

殿様も見た!東南西3面からの絶景
1、2、3……と急な階段を数えながら上った先に見えたのは……


「偕楽園は、ニューヨークのセントラルパークに次いで世界で2番目に大きい都市公園なんですよ」(菊池さん)

こんな広大な園内を眺めるお殿様の部屋「楽寿楼」はというと、こちら……!

江戸滞在が長く、資金不足が深刻だったという水戸藩の主らしく、好文亭の中はどこも御三家の殿様の別邸とは思えないほど簡素な造りなのです。
「あの床柱を見てください。節がいくつありますか?」と、菊池さんが薩摩藩第11代藩主・島津斉彬(なりあきら)から贈られたという竹の床柱を指さしました。11節……あっ!たしかさっき上ってきた階段も11段だったような。
「そうなんです。武士という字は11画でしょう?武士の『士』の字は十一と書きますしね」(菊池さん)
素朴で質素な中にもユーモアを忘れない、斉昭らしい部屋です。

好文亭を出たところには、園を造るにあたっての斉昭の考え方を記した「偕楽園記の碑」があります。

「この園は藩主の休息や慰安のためだけの施設ではなく、藩に住む多くの人々と楽しみを偕(とも)にしようとするもの」──「偕楽園」の名の由来がしっかりと刻まれています。
枝ぶりに注目!梅林は樹齢100年超えの古木ばかり
「3万3,000坪の敷地のうち、陰の世界が4分の1、陽の世界が4分の1、そして2分の1が梅林です」(菊池さん)

斉昭が梅の木を植えさせたのは、春一番に咲く花で領民たちに希望を与え、実を梅干しにして飢饉や軍事の非常食とするためだったと言われています。また梅の木は別名「好文木(こうぶんぼく)」といわれ、「好文亭」の名はこの梅林からきているのです。
毎年2月中旬から3月下旬には「水戸の梅まつり」が開催され、可憐に咲き競う梅の花を見に多くの人が訪れます。
「早咲き」「中咲き」「遅咲き」と長期間にわたって観梅を楽しめるのも、約100品種もの梅の木を持つ偕楽園ならでは。

「でも、梅林の見どころは花だけではないんですよ」と菊池さん。「梅というのは、花を見て、香りを嗅ぎ、枝ぶりを見る。枝ぶりを見るにはかえって花のない季節がおすすめです」
なるほど。樹齢100年を超える古木が多い偕楽園、枝ぶりもじっくり堪能したいところ。
あちらの木は四角い囲いがしてありますね。

ということは、樹齢100年以上……!?
うわっ、こっちの木は幹のねじれがすごいですね!それに、なんだか黒っぽい。

ねじれた幹は、古木の証。通常、梅の木の寿命は長くて50年で、100年以上の古木が今も生き生きと花を咲かせるのは、樹木医をはじめ専門のスタッフによる日々の丹念な手入れの賜物なのだそう(訪れた日も、あちこちで剪定作業が行われていました)。
「水戸の人は正義感が強い反面、頑固で意固地でへそ曲がりが多い。偕楽園の梅がねじれているのはそのためだ、とも言われていますけどね」と菊池さんは笑います。
なにしろ全部で約100品種、その多くが貴重な古木とくれば、一本一本をつい丁寧に眺めてしまいます。それぞれの木にプレートがつけられているので、名前の由来を想像してみるのも楽しいです。

なかでも花の形、香り、色などがとくに優れた「白難波(しろなにわ)」「烈公梅(れっこうばい)」「虎の尾(とらのお)」「柳川枝垂(やながわしだれ)」「月影(つきかげ)」「江南所無(こうなんしょむ)」の6品種は、『水戸の六名木』と呼ばれ、六角形の竹垣で囲われているので、ぜひチェックを!


おや、こちらの木は幹に穴が開いてしまっています。枯れているのでしょうか?

こんな状態でもまだ元気に花をつけるなんて、なんと健気な……。
枝ぶりを堪能したら、やっぱり花が見たくなります。2019年の「水戸の梅まつり」は2月16日(土)~3月31日(日)。満開の梅の花の下、野点茶会やひな流し、夜間ライトアップなど、さまざまなイベントも行われるので、ぜひ訪れてみては?
第123回水戸の梅まつり
[会場]偕楽園(茨城県水戸市常磐町1-3-3)
[開催期間]2019年2月16日(土)~3月31日(日)
029-244-5454
四季折々、いつ訪れても美しい花の公園




偕楽園
茨城県水戸市常磐町1-3-3
[開園時間]本園/7:00~18:00(10月1日~2月19日)、6:00~19:00(2月20日~9月30日)
好文亭/9:00~16:30(10月1日~2月19日)、9:00~17:00(2月20日~9月30日)
[休園日]なし(好文亭は12月29日~31日)
[好文亭入館料]高校生以上200円、小・中学生100円、満70歳以上100円
029-244-5454
水戸土産は「見晴亭」へ


「黄門さまベアの足裏には、葵の御紋が刺繍されています。コレクションアイテムなので、このクマを買いに遠くからいらっしゃる方もいますよ」(服部さん)
しっとりふわふわ、夢のような抱き心地です。
また、偕楽園土産で欠かせないのが、梅を使った商品です。

こちらは2017年の全国梅酒品評会で、147銘柄の中から最高金賞を受賞した梅酒。水戸の老舗、吉久保酒造の日本酒「一品」をベースに和三盆を使い、飲み飽きない味に仕上げているのだそう。ボトルもおしゃれで、お土産に人気の逸品です。

また、人気ナンバーワンの水戸銘菓といえば「水戸の梅」。明治時代、現在のJR常磐線の水戸~東京間が開通した頃にお土産品として誕生したといわれるこの和菓子、練り白あんを求肥で包み、シソの葉で巻いた形が梅の実に似ていませんか?実際、全体がほんのり梅を思わせる風味。ほかにはない、やみつきになる味です。

そのほか、梅の花をかたどった亀じるし製菓の「梅さぶれ」など、偕楽園のお土産にぴったりなお菓子もあるので、ぜひチェックしてみてください。
茨城県観光物産協会・偕楽園売店「見晴亭」
茨城県水戸市常盤町1-3-2
[営業時間]9:00~17:00
[定休日]年末年始
029-306-8911
紅葉の時期に訪れたい「偕楽園もみじ谷」
本園の南門(みなみもん)を出て「梅桜橋」と名付けられた歩道橋を渡り、「徳川博物館通り」を5分ほど歩くと、右手に見えてくるのが「偕楽園もみじ谷」です。



偕楽園もみじ谷のライトアップ
[会場]偕楽園もみじ谷(茨城県水戸市見川1-2-1護国神社西隣り)
[開催期間]毎年11月上旬
[開催時間]日没~21:00
[入園料]無料
029-244-5454
※記事中の料金・価格はすべて税込です
※本記事は2017年取材記事を一部更新したものです

髙松夕佳
編集者、ライター。茨城県つくば市のひとり出版社「夕(せき)書房」代表。『家をせおって歩いた』(村上慧著)、『山熊田 YAMAKUMATA』(亀山亮著)、『宮澤賢治 愛のうた』(澤口たまみ著)、『失われたモノを求めて 不確かさの時代と芸術』(池田剛介著)が好評発売中。ふるさと、茨城の魅力を再発見する日々。
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