モンゴルの風を求めて歌舞伎町「新 オッと屋」へ/東京で楽しむ世界の料理Vol.1

2015.09.18 更新

フランスで最も権威ある美食ガイドにて、世界一のグルメ都市として評価されている東京。世界各国津々浦々、あらゆるジャンルの料理が集まっています。それも、現地の味わいを完全に再現していたり、もはや本場よりもクオリティが高かったり。海を越えて異郷の地へ出向かずとも、ここ東京は素晴らしい美食との出会いであふれているのです!

北海道のみならず、今や全国的に愛されている郷土料理ジンギスカン。歴史上最大といわれるモンゴル帝国を築き上げたチンギス・ハーンが、鉄兜で羊肉を焼いて兵士に食べさせたことが起源とされる説があります。
しかし実はこちら、モンゴルとはまったく関係のない料理なのだそう。では、実際にモンゴルの人々は一体全体どんな調理法で羊を食べているのでしょう?

ということで今回訪れたのは新宿・歌舞伎町。ここにはモンゴル遊牧民が使用する移動式住居「ゲル」のなかで、本場のモンゴル料理をいただけるお店があるのです。店舗入口の目印となるのは、なんと古代ローマ建築風の巨大な柱!!
その脇を通ってエレベーターで2階へ上がり、マンションの一室のような何の変哲もない扉を開いた先にゲルはあります。
レプリカではなく、本場から運んできた正真正銘のゲルです。
いくつかの折りたたみ式の壁を継ぎ合わせて組み立てているのですが、この壁の枚数はハナという単位で数えられていて、その数で家の大きさを表すのだとか。伸縮性のある壁なので正確な数値に置き換えることは難しいものの、部屋の広さを畳の枚数で数える日本の文化と似ていますね。

お店のゲルは12ハナの壁が接合された大型タイプ。現地では十数人の大家族が暮らすことができる規模なんですって。運搬できる移動式住居とはいえ、こんな巨大なものをはるばるモンゴルから運んで来るとは……その本物志向、見事という他ありません。自ずと伝統料理の再現性にも期待が高まります。

出迎えてくれたのは、お店を切り盛りするドリンさんご夫妻。おふたりとも10年近く東京で暮らしていて日本語ペラペラです。
希望者には無料で伝統的な民族衣装「デール」が貸し出されているので、まずは着替えることから歌舞伎町モンゴルツアーがはじまります。衣装は男女別ですが、エリを左前にして右肩でボタンをとめるのは男女共通。年齢や性別、部族、既婚か否かなどによって細かな違いがあり、本場では400以上の種類があるそうです。
今回はドリンさんご夫妻にモデル役をお願いしました。
まず駆けつけ一杯目は「ヨーグルトのお酒」で乾杯! こちらはモンゴリアンウォッカ“アルヒ”を、モンゴル産の酵母が生きるヨーグルト“タラグ”で割った名物ドリンクです。
日本のヨーグルトよりも豊かな酸味が特徴。ウォッカ割りだけあってアルコール度数は高めなので飲み過ぎにはご注意を。

そしてモンゴル料理といえばメインは当然、羊肉。お店では、丸ごと一頭分を仕入れており、目の前で解体ショーを楽しみながら食べ尽くせる大宴会プランも用意しています。
本場では週に1回のペースで羊をさばくそう。子供の時から日常的に行っていることですから、ドリンさんも大ベテラン。
またモンゴルでの羊は、日本の江戸時代で言うところの米のように、お金と同等の財産そのもの。肉や毛皮はもとより、血も一滴も無駄にせず腸詰めにし、「ザイダス」というブラッドソーセージを作るそうです。

さすがに一頭分(40人前)は食べきれないため、今回は代表的な家庭料理「チャンスンマハ」をオーダー。
羊の肩から腕にかけての美味しい部位を、モンゴル岩塩を溶かした水で煮込んだもので、一皿で350から400グラムはあります。

食べ方は3パターン
1.ナイフ(包丁)とフォークで切り分けていただくヨーロピアンスタイル
2.肉は手づかみ。ナイフでスライスするモンゴリアンスタイル
3.そのままかぶりつく、男気あふれるワイルドスタイル
3番も捨てがたいですが、今回は本場モンゴリアンスタイルの2番に挑戦。包丁の使い方は大根をかつらむきにする時に似ていますが、予想よりも難易度高し。一片の肉も残さないように、美しく骨から剥ぎ取るのがモンゴル流のマナーであるものの、やはり初挑戦では難しい。最終的に3番のワイルドスタイルを選択し、骨までしゃぶりつくしました(笑)。

ここで、もう一つモンゴル流マナーをご紹介。羊を丸ごと食べる際は、最も美味しい肩甲骨周辺の部位が最年長者か客人に振る舞われます。与えられた側は、それを細かく切り分け、お返しとして皆に分配。そんな素敵な食のコミュニケーション、どことなく和の心に通じるものを感じます。

さて、「チャンスンマハ」に話題を戻します。味付けは、日本人向けにニラ醤油とニンニク豆板醤、2種類のつけダレが用意されていますが、まずは本場の食べ方に則り、何も付けずにいただくのがオススメ。じっくりと煮込こまれたことで羊特有のクセは飛ばされており、お肉ファンにはたまらないしっかりとした味わいに仕上がっています。

ここで更に、冒頭のジンギスカンの話題に戻ります。モンゴルには伝統的な焼料理はほとんどありません。なぜなら草原には炭や薪などはなく、代わりに牛の糞を乾燥させて燃料としているため、火力が弱いのです。自然と煮込み料理や蒸し料理、発酵、乾燥食品が郷土料理の中心となっています。

さあ、歌舞伎町モンゴルツアーもいよいよ終盤。食事に花を添えてくれるのが、奥様による馬頭琴(モリンホール)の演奏です。予約のお客さんが揃う20時から21時の間に、ほぼ毎日演奏しています。
実は奥様はプロの演奏家であり、昼間は講師としても活躍中。美しい音色に耳を傾けながら目をつぶれば、瞼の裏にはモンゴルの広大な草原が広がります。ああ、どこからか吹く爽やかな風が頬をなでていくよう……。

気づけば、この場所が東洋一の歓楽街まっただ中あることは、遥か地平線の彼方へすっ飛んでいました。

味覚だけでなく、五感のすべてをモンゴルへと誘ってくれる、こちらのお店。気分が乗った際にはモンゴル相撲の貸し衣装もあるので、周りに迷惑をかけない程度に、一勝負繰り広げてもOKですよ。

佐藤潮

佐藤潮

編集プロダクション・エフェクト所属。旅&グルメ媒体をメインに編集や執筆をしています。趣味は旅行。歴史探訪をはじめ、建築めぐり、秘湯巡礼、トレッキング、路上徘徊、見知らぬ人への声かけなど、法に触れない範囲で満喫中です。人生の目標は旅気分で働き続けること。著書に『夢がかなう世界の旅』。 編集:山葉のぶゆき(エフェクト)

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