大覚寺 離宮の面影を残す京の古刹。早朝の写経体験も

2017.11.13

たくさんの観光客が訪れる京都のなかで、静かなひとときを堪能するなら、おすすめはやはり市街地北西部の嵯峨野。なかでも「大覚寺」は、日本に現存する最古の庭池「大沢池(おおさわのいけ)」を望む風光明媚な地にあり、嵯峨天皇が愛した離宮の面影を残す門跡寺院です。早朝の特別写経なども行われていて、ひと味違う京都を体験することができます。

“嵯峨御所”とも呼ばれた天皇ゆかりの古刹

季節を問わず観光客でにぎわう京都・嵐山。トロッコ嵯峨駅などがあるエリアから北へバスで約10分、散策しながら歩いても20分ほどのところにあるのが「旧嵯峨御所 大本山 大覚寺」です。
大沢池の水面が街の喧騒を吸い込んでしまったかのような静かなたたずまいのなか、池のほとりに立ち並ぶお堂。それらを結ぶ「村雨の廊下」は、大覚寺を訪れたことがない人でも時代劇やドラマなどできっと目にしたことがあるのではないでしょうか。
▲柱を雨、折れ曲がる回廊を稲妻にたとえた「村雨の廊下」

平安時代初期、嵯峨天皇がこの地に「離宮嵯峨院」を建立し、鎌倉時代にはここで政治が行われたことから”嵯峨御所“と呼ばれていました。お寺に改められたあとは代々天皇や皇族が門跡(住職)を務めてきた格式高い寺院で、貴重な文化財も数多く収蔵されています。

舟遊びを好んだ嵯峨天皇にならい、中秋の名月に大沢池に舟を浮かべる「観月の夕べ」はとくに有名であるほか、春の桜や秋の紅葉も見ごたえがあることで知られています。
▲大沢池の北側にある放生池と、その奥に見える「心経宝塔」(写真提供:大覚寺)

また、大覚寺は「いけばな嵯峨御流」の総司所(家元)で、生け花発祥の地ともいわれています。大沢池のなかには菊ケ島と呼ばれる小島があり、そこに咲く野菊を嵯峨天皇が手折ったという伝承から、この菊を門外不出で品種改良したものが「嵯峨菊」として今に伝えられています。
▲毎年11月に行われる「嵯峨菊展」のようす(写真提供:大覚寺)

開門前の静けさのなか、早朝写経を特別体験

大覚寺の開門は通常朝9時ですが、予約をすればそれより30分早い時間に入場し、写経をすることができます。今回は、参拝者がいない堂内で心静かにお経に向き合うという特別な時間を体験してみました。
▲大門の奥にある参拝入り口

通常の順路では、大門から参拝口に上がり、「宸殿(しんでん)」から村雨の廊下を抜けて「御影堂(みえどう)」、「安井堂」、本堂の「五大堂」、「勅封心経殿(ちょくふうしんぎょうでん)」、「正寝殿(しょうしんでん)」という順番で参拝します。
▲大覚寺 境内見取り図

①宸殿 ②御影堂 ③正寝殿 ④五大堂 ⑤村雨の廊下 ⑥勅封心経殿 ⑦勅使門 ⑧安井堂(天井雲竜図) ⑨大沢池 ⑩心経宝塔 ⑪名古曽の滝跡 ⑫天神島・菊ケ島・庭湖石
※通常は①→⑤→②→⑧→④→⑥→③の順路で参拝

早朝写経では、参拝口からそのまま奥の五大堂へ向かいます。写経すると御朱印を授与していただけるので、御朱印帖を持参している人は参拝口に預け、帰りに受け取ることができます。
▲参拝エリアのいちばん東奥、大沢池に面した五大堂

僧侶のみなさんによって朝、手入れされたばかりの寺内はどこも清々しく、池の水面を渡ってくる心地よい風に、思わず深呼吸。
▲五大堂の観月台から望む大沢池と嵯峨野の山々

江戸中期に創建された五大堂には、不動明王を中心とする五大明王が安置され、ぴりりと引き締まるような空気のなか、仏様を前にずらりと写経用の机が並べられていました。

早朝特別写経のご奉納料は、拝観料込みで大人1,500円、小中高生1,300円。事前予約制で1人から申し込むことができ、所要時間は約1時間です。
▲写経用紙と筆、文鎮が並ぶ写経机。用意された袈裟を首から掛けて準備を整える

大覚寺は弘法大師を宗祖と仰ぐ、真言宗大覚寺派の本山。弘法大師の勧めによって嵯峨天皇が般若心経を写経して奉納され、天皇の命(勅命)によって封じられています。霊験あらたかとされるこの経「勅封心経」が開封されるのは60年に一度(次回は平成30年秋)。勅封心経が納められていることから、大覚寺は般若心経の写経を行うお寺の本山(根本道場)と位置づけられています。

この長い歴史を踏まえて心静かに写経を始めましょう。
▲まずは塗香(ずこう)と呼ばれるお香を少し手に取り、両手に塗り合わせて身を清める

早朝写経をする人以外は参拝客が誰もいない堂内。京都の有名なお寺でこんな静けさを体験したのは初めてです。
▲写経机のすぐ目の前は、不動明王を中心とする五大明王

最初は「上手く書こう」という気持ちで力が入るのですが、知らず知らずひと筆ごとに集中し、感覚が研ぎ澄まされていきます。
▲薄く書かれた文字をなぞっていくので、筆に不慣れな人でも美しく書き上げることができる

書き始めから筆を置くまでは40分ほどでした。最後に住所と名前、願いごとを記入して完成。写経用紙は仏前に奉納します。
▲ろうそくを献じ、その灯明から線香を灯す
▲写経用紙を線香から上がる煙の上に掲げ、時計回りに三度回す

写経用紙をお線香の煙に薫じたあと、仏前の木箱へ奉納したら写経は終了です。お経を納めたあと、なぜか体が軽くなったように感じたのは不思議です。日常ではなかなか味わえないような清々しさを心と体に残してくれたような気がしました。

カメラに収めたい、池を望む絶好のロケーション

写経のあとは、朝の寺内をゆっくり拝観。仏様がいらっしゃるお堂やそのなかは今回特別に許可をいただいて撮影しましたが、本来は禁止。ただ、五大堂の東側には大沢池に突き出すように観月台がつくられていて、絶好の撮影スポットになっています。
▲観月台は広々としていて、さまざまなポーズで仲間と記念写真を取り合う人も多い
▲観月台のそばには色とりどりのお守りが並ぶ授与所も

写経後は通常の参拝順路と少し異なりますが、五大堂・観月台から安井堂、御影堂へ向かい、勅封心経殿や村雨の廊下、正寝殿、宸殿などをまわって参拝口へ戻ります。

大正天皇の即位に際して建てられた饗宴殿を移築した御影堂や、鎌倉後期に後宇多上皇が政治を行った部屋のある正寝殿(国指定重要文化財)など、さまざまな時代様式の建築物を見ることができるのも大覚寺の魅力の一つです。
▲複雑に折れ曲がる回廊は、地図がないと迷ってしまいそう

お堂をつなぐ村雨の廊下を歩いていると、まるでタイムスリップしたようで、向こうから十二単の女官とすれ違うかも!?なんて錯覚も。
歩くたびにキュッキュッ、と軋むような音がするのは、侵入者を知らせる「鶯(うぐいす)張り」と呼ばれる造りのため。天井も刀や槍を振り上げられないように低くしてあります。
▲廊下の天井に施された唐草の装飾のなかに、よく見るとハートの文様。細かなところにお気に入りを見つけるのも楽しいもの
▲緑のなかにお堂の瓦が見え隠れする。朱色の柱のお堂は霊明殿

宸殿(重文)は、江戸時代に後水尾天皇より賜ったという寝殿造りの建物で、天皇の后(きさき)である徳川二代将軍秀忠の娘・東福門院和子が使用していたものが移築されています。
▲門跡寺院ならではの格式高い宸殿(写真提供:大覚寺)

また、宸殿や正寝殿には狩野山楽による「牡丹図」「紅梅図」、参拝口に近い式台玄関には狩野永徳の「松二山鳥図」があり、重文に指定されている障壁画が100点を超えるのもまさに門跡寺院ならではです(現在展示されているのは模写)。

お堂をひとめぐりして、再び参拝口へ。参拝口の隣には売店も設けられています。
▲売店で売られている人気の障壁画をモチーフにした筆ペンセット2,700円
▲いただいた御朱印を記念撮影

また、門を出て大沢池のほとりを散策することもできます。
▲中央に見える朱色の橋の右に天神島、菊ケ島などが浮かぶ
▲心経宝塔の姿を映す放生池。小道を挟んで右には大沢池が広がる
▲大沢池を望むように座する石仏群

池の東北には、平安時代の歌人・藤原公任(きんとう)が「滝の音は 絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ」と百人一首に詠んだ名古曽の滝跡も。
▲離宮嵯峨院の庭の面影を伝える名古曽の滝跡

なお、11月中旬からは紅葉が見頃を迎え、大沢池のほとりを中心に夜間拝観も行われます。
▲大沢池のほとりに続く紅葉の回廊(写真提供:大覚寺)
▲放生池を水鏡にした紅葉のライトアップが鮮やか(写真提供:大覚寺)

長い歴史と宮廷に育まれた文化財、そして穏やかで美しい自然など、さまざまな表情を楽しむことができる大覚寺。天皇や貴族たちが宮廷を離れて行楽や狩りを楽しんだ嵯峨野の地は、今を生きる私たち現代人にとっても心と体を癒してくれる場所でした。朝の陽の光の中の写経や、灯りに照らし出された宵の紅葉など、素敵な時間を過ごしに何度も出かけてみたくなるお寺です。
若林扶美子

若林扶美子

フリーのライター&プランナー。京都をはじめ関西を中心に、雑誌、書籍、PR誌の企画・執筆を手掛け、伝統文化や地域情報などを発信している。6匹の猫とともに滋賀在住。

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