MIHO MUSEUM トンネルの先に広がる建築美と貴重なコレクションに浸る

2018.03.10 更新

滋賀県の南部に位置する甲賀市信楽(しがらき)町。緑深い高原の町の、さらに郊外の山中に、海外からも注目を集める美術館があります。「MIHO MUSEUM(ミホミュージアム)」は、貴重な美術コレクションが鑑賞できるのはもちろんのこと、周囲の大自然を生かした建築美が一見の価値あり。世界各国のセレブリティたちも遠路訪れるという美の世界を堪能してきました。

世界的建築家が手掛けた美の“桃源郷”

琵琶湖の南、自然豊かな湖南アルプスの山中にMIHO MUSEUMが誕生したのは1997(平成9)年。建築・設計を手掛けたI.M.ペイ氏は、フランス・ルーヴル美術館のガラスのピラミッドなどで知られ、その作品は各国でランドマークとして親しまれています。

所蔵品は、シルクロードに沿ってエジプト、ギリシア・ローマ、西アジア、南アジア、中国・西域、アメリカ大陸などの古代美術品と、仏教美術や茶道美術をはじめ、絵画、漆工芸、陶磁器などの日本古美術をあわせて約3,000件。常時250~500件が公開され、質の高いコレクションは海外からも評価されています。
▲ロータリーを囲むように半円形を描くレセプション棟

建物は、チケットカウンターやレストランがあるレセプション棟と、コレクションが展示されている美術館棟に分かれていて、この二つを小さな山と谷が隔てています。敷地面積は実におよそ30万坪!

“桃源郷”をテーマに設計されたこの美術館は、周囲の自然景観を守るように建てられています。地上から見える建物はほんのわずかで、なんと建築容積の約8割が地下に埋まっているのだとか。構想から完成までに6年の歳月を要したというのも納得です。
▲美術館棟へ向かうゲート。写真は紅葉に彩られた秋の様子

レセプション棟から美術館棟までは約500m。散策気分で歩くにはぴったりで、無料の電気自動車も運行しています。
▲春には、プロムナードを彩る枝垂れ桜を楽しみに訪れる人も(写真提供:MIHO MUSEUM)

3月中旬から6月初旬までの春季、7月中旬から8月中旬までの夏季、9月初旬から12月中旬までの秋季に開館していて、冬季は休館します。
季節によって国内外の出陳を加えた企画展が開かれ、春は枝垂れ桜、夏は高原の涼風、秋は紅葉を楽しめることもあって、年に何度も訪れるリピーターが多いとか。

トンネルを抜け、吊り橋を渡って美術館棟へ

枝垂れ桜が両側に植えられたプロムナードを登っていくと、山を通り抜けるトンネルが見えてきます。
▲出口の光に向かって約200m続くトンネル。進むにつれて、どんどん期待が高まっていく

中へ入ると銀色の壁面が一条の光を写し、とても幻想的。設計テーマの元となった5世紀中国の詩人、陶淵明(とうえんめい)の『桃花源記(とうかげんき)』では、道に迷った漁夫が桃源郷にたどり着く様子が描かれていて、トンネルはその一節を表現しています。

プロムナードやトンネルは緩やかなカーブになっていて、その先がなかなか見えないという趣向。これは設計者のペイ氏による利用者に期待と感動をもたらすための工夫だとか。
▲橋の上から、通ってきたトンネルを振り返る

トンネルを抜け、視界が開けた先は小さな谷になっていて、約120mの吊り橋がかけられています。
▲橋を渡り切った先に見えてくるのが美術館棟

小さなお社のように見える入館口は1階にあたり、常設展示が行われている南館には1階と地下1階があり、南館1階から廊下と階段で結ばれた北館は2階に位置しています。
複雑な三層構造ですが、西側が山の斜面になっているため、建物の大半が地中にあるとは思えないほど日差しにあふれています。

何と言っても圧巻は1階のエントランスホール。正面に見える窓からの景色は、山並みや松の枝ぶりまで計算し尽くされていて、まるで一隻の屏風絵のよう!
▲目の前に大パノラマが広がる美術館棟1階のエントランスホール

幾何学模様に張り巡らされたシルバーグレーのスペースフレームと高い天井をもつガラスのアトリウム構造は、ペイ氏の代名詞とも呼べるデザインで、床のハニーカラーのライムストーンが温かさを添えています。

シルクロードの風を感じる常設展

エントランスホールから左手へ進み、まずは南館の常設展へ。最初の展示室のテーマは「古代エジプト」です。
▲「女神立像」エジプト プトレマイオス朝 紀元前3世紀

古代エジプト展示室に入ると、出迎えてくれるのは一体の女神像。プトレマイオス朝初期(紀元前270~紀元前246年頃)の神格化された王妃アルシノエ2世を表しているといわれています。
▲「隼頭神坐像(じゅんとうしんざぞう)」 エジプト 紀元前13世紀(写真提供:MIHO MUSEUM)

エジプト第19王朝(紀元前1295~紀元前1213年頃)のものと伝わる隼頭神坐像は、42cmの高さで銀製。「ホルス」と呼ばれる天空と太陽の神をかたどっていて、かつては全身が金で覆われていた痕跡が残されています。ラピスラズリでつくられた青く光る髪が何とも神秘的です。
▲地下1階に位置する「西アジア」展示室。大きな窓からうっすらと山並みが見える

階段を降りた古代エジプト展示室の真下、地下1階にあるのが「西アジア」「ギリシア・ローマ」の展示室。
▲二度発掘された「精霊と従者浮彫」イラク北東部 紀元前9世紀(写真提供:MIHO MUSEUM)

この展示室の中でとくにユニークな逸話をもつのが“二度発掘された”というレリーフ。「精霊と従者浮彫」はアッシリア(現在のイラク北東部)のアッシュールナシルパル2世の治世(紀元前883~前859年)に神殿の内壁を飾ったもので、19世紀半ばに発掘されています。
当初は英国の個人宅に展示されていましたが、のちにそこが学校となり、石膏で上塗りされていたところを1992(平成4)年にアメリカの美術史家によって再発掘されました。
▲フレスコ画の「庭園図」ローマ 1世紀(写真提供:MIHO MUSEUM)

また、帝政ローマ時代のものでは、1世紀作の庭園図が展示されています。貴族の別荘の壁を飾った壁画で、窓枠を通して見える庭園が描かれています。
▲南館地下1階の喫茶室「Pine View(パインビュウ)」

展示室を出ると、自然光にあふれているのもこの美術館の大きな特徴。地下1階には、喫茶室「Pine View」があり、軽食や和洋菓子、飲み物、オリジナル・ワインなどを楽しめます。また、食材や調味料のほぼすべてが農薬や人為的な肥料を一切使わず、自然の堆肥のみで栽培する農法で作られたものが使用されています。
▲南館地下1階の吹き抜け空間。足元に見えるのは3~4世紀にシリアから出土したと伝わる「ディオニュソス・モザイク」

喫茶室からひと続きになっている地下1階の吹き抜け空間は、大きく開けた窓の目の前に山の木々が迫っています。建物の中にもファイカスの木が植えられ、まるで空中楼閣にいるかのよう。
▲モザイクを真上から。中央に描かれているディオニュソスはギリシャ神話に登場する豊穣と葡萄酒の神で、ナクソス島で美しい娘アリアドネを見つけ、恋に落ちたところを表現している(写真提供:MIHO MUSEUM)

ディオニュソス・モザイクの右手に見える入り口から入ったところにあるのは「南アジア」展示室。正面に鎮座する高さ2.5mのガンダーラ様式の仏立像は、美術館の計画が立ち上がった当初から展示の核の一つとして考えられてきたものです。この像を展示するために、ペイ氏は天窓を設け、自然光が降り注ぐように設計しました。
▲「仏立像」中央アジア ガンダーラ 2世紀後半期。天井からの自然光が時間ごと、季節ごとに異なる表情を見せる
▲仏立像の頭部。ヘレニズムの影響を感じさせる顔立ち(写真提供:MIHO MUSEUM)

次の展示室のテーマは「中国・西域」。
▲中央奥に見えるのは中国の「青銅馬」。後漢(25~220年)のもの

中でも16~17世紀にイラン・ケルマーンでつくられた「メダリオン動物文絨毯」は高さ約6m、幅約3mもあります。
▲中央に見えるのがメダリオン動物文絨毯。中央に龍が絡み合い、その周りにはイスラムの天使や動物たちが闘う様子、狩猟の様子などが描かれている

中国・西域展示室の前にはミュージアム・ショップがあり、オリジナルグッズや図録などが並びます。
▲南館地下1階のミュージアム・ショップ。ほかに北館とレセプション棟の3カ所にショップがある
▲ショップには美術館設立者・小山美秀子(みほこ)氏の言葉を綴った絵本なども並ぶ。『美しの里』(作・絵/葉祥明/1,620円)、『美しいものを見なさい』(作・小山美秀子/絵・葉祥明/3,600円)、『Feel the Beauty』(作・小山美秀子/絵・葉祥明/1,000円・いずれも税別)

階段を上り、長い廊下を渡った先にあるのが北館。中庭を囲むように建てられていて、枯山水の庭には日本三名石に数えられる佐治石が配され、四方から眺めることができます。

また、北館では季節ごとに企画展が催され、2018年3月10日(土)~6月3日(日)までは春季特別展として「猿楽と面-大和・近江および白山の周辺から-」が開催されます。
▲北館のホール。階段上の2階フロアからはガラス越しに日本庭園を眺めることができる

じっくり鑑賞しながら館内をまわっていると時が経つのを忘れそう。天井の幾何学模様の落とす影が、刻々と移り変わって時を告げています。

人気のおにぎりなど、自然派のフードも必食!

自然を生かした美術館のコンセプトそのままに、館内で販売される食べ物やジュース、ワインなども自然農法で育てられたものを使っています。手間暇かけた味が人気を呼び、美術鑑賞だけで終わらず必ず何かを味わって帰る、という人も増えているのだとか。

レセプション棟にあるレストラン「Peach Valley(ピーチバレイ)」の人気メニューは「おむすび」。1個200円、3個600円(ともに税込)から味わうことができ、古代米や胡麻、季節の味など常時3種類が用意されています。
▲自家製とうふなども味わえる「おむすび膳」(1,800円・税込)

とくに写真のおむすび膳は、器のなかに野菜の焼物、揚げ物、煮物などが盛り込まれ、懐石料理の味わいをぎゅっと凝縮したような取り合わせがうれしいメニュー。細かなところまでじっくりと掛けた手間暇が、深い滋味を引き出していて、ほっこり落ち着きます。
▲左からハイビスカスティー、みかんジュース、すだちジュース(各600円・税込/(写真提供:MIHO MUSEUM)

フルーツジュースも、一個ずつ果実から手絞りし、産地や時期にあわせて味を調整しているといいます。料理や飲み物には「ここの自慢の一つです」という信楽の山の湧き水が使われていて、まさにこの地の自然を満喫できます。

また、古代米を添えたサンドイッチや、季節の果物を使ったロールケーキなど、軽食やデザートも楽しめます。
▲古代米サンドイッチ(1,200円・税込/写真提供:MIHO MUSEUM))
▲季節のロールケーキ(600円・税込/写真提供:MIHO MUSEUM))
▲人気の自然酵母のパン(写真提供:MIHO MUSEUM)

レストランの横ではフランスパン(1本400円・税込)など、自然酵母のパンも販売されています。レストランやパンの購入を目的にここを訪れる人もいるのだとか。
▲4月中旬ごろには、枝垂れ桜を写し込み、ピンクに染まるトンネル(写真提供:MIHO MUSEUM)

自然と建築美という絶好のシチュエーションを生かし、2017年5月には世界的に有名なブランドのファッションショーが美術館棟前から吊り橋上に至る一本道をランウェイにして開催されました。また、折々にワークショップや食のイベントなども企画されています。

トンネルを抜け、橋を渡ってたどり着く深い山の中、古代の遺物や美術品に囲まれて過ごす一日は、まさに日常を忘れさせてくれる桃源郷。ぜひゆっくり時間をとって出かけてみてください。関西だけでなく、日本全国・海外からも足を延ばす価値がある美術館です。
若林扶美子

若林扶美子

フリーのライター&プランナー。京都をはじめ関西を中心に、雑誌、書籍、PR誌の企画・執筆を手掛け、伝統文化や地域情報などを発信している。6匹の猫とともに滋賀在住。

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