長野県でいただく天然水のかき氷/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩き vol.20

2017.09.17 更新

長野県といえば、スキー・温泉・蕎麦。もう少し加えるとしたら避暑地・別荘地というところだろうか?夏でも涼しく、冬は寒さ厳しく、あまり「かき氷」と縁が薄そうな…なんとなくそんな印象ではないだろうか?しかし、その天然の涼しさが故に、実は長野県には今では数少なくなった天然氷の氷室が現存しており、代表的な避暑地である軽井沢をはじめ県内の多くの場所で天然水のかき氷をいただけるのである。長野で愛されるかき氷をご紹介したいと思う。

▲「ちもと総本店」の「宇治金時」750円(税別)

栗菓子の名店が提供する栗かき氷「小布施堂本店」

長野の秋が深まり始める9~10月にかけての1カ月間、長野県の北東にある小さな町・小布施町では変わった現象が起きる。朝8時を少し回った頃、朝一番に訪れようと「小布施堂本店」に到着した僕の目に飛び込んできたのは長い長い行列だった。
何十人という数ではない、明らかに何百人。先頭に並ぶ人は、まだ10月になったばかりだというのにダウンコートを着込み折りたたみの椅子も持参しているようだ。よく見てみるとしっかりと防寒して並んでいる人が数十人はいる。ということは、多分夜中のうちから並び始めたということであろう。

忙しく走り回る店員さんのトランシーバーからは「8時半、現時点で300名様です」と声が聞こえる。これは皆、「小布施堂本店」が期間限定・数量限定で販売している「栗の点心 朱雀」を求める人の行列なのである。
▲「栗の点心 朱雀」1,500円(税込)。9月中旬~10月中旬の期間限定・数量限定販売

小布施で栗が栽培され始めたのは、室町時代のことらしい。朝晩の気温の変化が激しく、豊富な水源と豊かな土壌が栗の栽培に適したこの町では、香り高く甘い栗が収穫されるようになり、江戸後期になると普及し始めた砂糖を使って栗菓子が作られるようになったという。
それから600年余り、受け継がれてきた技法が今の小布施の栗菓子の基礎となっているのだ。そんな栗の産地で作られている「栗のかき氷」は、この長野県小布施町でしか食べられない至極の逸品なのである。
▲「小布施堂本店」。長野電鉄・小布施駅から徒歩7分ほど

「小布施堂本店」がかき氷に着目したのは約5年前。「小布施の町にきてもらって、ここでしか食べられない小布施堂のお菓子を楽しんでいただきたい」という考えを持つ店主は、かき氷という商材に一念発起して真剣に取り組んだのである。ぼくの一番のお薦めは、やはり小布施堂自慢の栗のかき氷だ。
▲「かき氷 栗あんソース」860円(税込)

目の前に運ばれて来たかき氷には、一粒栗と栗のシロップがかかっているように見えたが、実はどちらも栗餡である。一粒栗に見えたのは、硬めの栗餡を栗のように形取っていたもので、その上から絶妙なとろみと甘さの柔らかめの栗餡がかけられている。新雪が積もったようにふわふわと重ねられた氷の上にのった2つの栗餡は、つやつやと美しく輝き実に美しい。
まずは柔らかい方の栗餡と氷をすくって口に含むと、ひやりと氷が消えていく瞬間に驚くほど豊かな栗の風味が広がった。普段食べている栗以上に栗の味がするような気がした。
使っているものは栗と砂糖のみだという。僕の知っている栗が、砂糖を混ぜただけでこんなに豊かで深みのある味になるとは…と驚いていると、店主は「砂糖はマジックですから」と笑った。

和菓子屋だから知り得る砂糖の扱い方に、栗とともに生きて来た栗菓子屋だからこそ出せる栗の味。氷と栗と砂糖。この3つだけで作られたかき氷は想像以上に美しく、感動的に美味しかった。
▲「かき氷 生苺ソース」860円(税込)

「小布施堂本店」では栗の他に、苺、杏のかき氷も提供。栗と同様、どれも長野で採れたものを使用しているという。同じく使用する氷も長野で採れた天然氷。その地で生まれたものを組み合わせ、余計なものを加えない。だからこそ、素材の味を研ぎ澄まして完成させるのだ。
▲「かき氷 生あんずソース」860円(税込)

栗・苺・杏ともシロップが売り切れ次第終了だが、春から初冬までという長い期間で提供している。ちなみに、いずれの商品も100円(税込)でシロップの追加ができる。ここでしか食べられない「小布施堂本店」の「栗のかき氷」。この氷を食べるためだけに、多分僕はまた長野に向かって旅をするだろう。

別荘族の愛する冬のかき氷「ちもと総本店 軽井沢本店」

江戸時代から伝承される抹茶用の菓子「ちもと餅」が有名な老舗和菓子店の喫茶室では、どんなに寒い冬であろうとメニューから「かき氷」の文字を消すことはない。たとえ雪が降っていようと「軽井沢に来たら、まずはちもとのかき氷だよ!」とかき氷目当てに来てくれる常連さんがいるのだという。別荘族が愛してやまない老舗和菓子店のかき氷を味わいに、秋の軽井沢に車を走らせた。
▲軽井沢のメインストリート・軽井沢銀座沿いにある「ちもと総本店 軽井沢本店」

人気は和菓子屋のかき氷の鉄板メニュー「宇治金時」。老舗和菓子屋自慢の小豆に薄く削った天然氷が美しく盛られている。舌の肥えた別荘族の方々を満足させる上質な抹茶をたっぷり使用。抹茶は香りが飛ばないように注文が入る度に点てて抹茶蜜を作るのだという。運ばれて来た氷は素朴だが大変品のある姿をしている。
▲「宇治金時」750円(税別)

まずは抹茶と氷を口に含んでみた。甘さはとても控えめ、口の中には一気に抹茶の香りが広がった。上品な抹茶氷を味わった後に、氷の下にたっぷり盛られたお店で炊かれた自慢の小豆をスプーンで探ってみる。しっかりと甘みがあるが、重さやくどさがないのがいい。

コンビニでもスーパーでも、いつでも好きな時に小豆が食べられる世の中になったが、たまには和菓子屋に足を運んで、歴史ある小豆の味を味わってほしいと僕は思う。キレの良い甘さと小豆の旨みが、甘さを抑えた抹茶氷に混ざって最高の味わいになる。きっと別荘に来る方々も、このかき氷を食べながら仕事脳から休みの脳へ頭を切り替えているのではなかろうか。
観光客が多く、子供からお年寄りまでお客さんの幅がとても広いこの店では、子供達には「いちご」や「カルピス」、大人達には「宇治金時」のほかにシンプルな「みぞれ」や「あずき」など、様々なメニューが揃っている。かき氷のメニューは常時17種類、訪れた人誰もが楽しめるように準備されている。
▲「夏みかん」750円(税別)

特に女性が好みそうな柑橘系のかき氷「夏みかん」を注文してみると、運ばれてきた氷は意外にも真っ白。みぞれかな?と思うほど透明なシロップだが、氷の中に夏みかんの粒のようなものが見える。ひと匙食べると、甘い、酸っぱい、ほろ苦い!と3つのバランスの良い美味しい蜜が身体中に染み渡る。この酸っぱさとほろ苦さが良いのだ!
▲「あんず」800円(税別)

もうひとつ、男性に人気があるのが「あんず」のかき氷だ。
ケーキやパフェなどの甘ったるいものは苦手、という男性の中にも「かき氷は別!」という方は多く、老舗の和菓子屋に行くと男性が1人であんみつやかき氷を食べている姿を目にすることがある。特にあんずのかき氷は年配の人が好んで食べていることが多い。干しあんずをたっぷりと使って煮出したあんずシロップがかかったかき氷は、見た目はとてもシンプルでみぞれ蜜かな?と思ったのだが、氷を食べると驚くほどあんずの味と香りが凝縮されている。これはうまい!
和菓子屋では昔から甘味にあんずが使われることが多く、馴染み深いという理由もあるのだろうが、久しぶりに食べたあんずのかき氷は甘くて酸っぱくて、なんだか頭が冴えて来る気がする。仕事と休みの切り替えに、煮詰まった時の頭の切り替えに、現在社会人の男性諸君も試してみてはいかがだろうか。

子供たちの夏の思い出・色とりどりの大きなかき氷「シブレット」

「ちもと総本店」のはす向かいでかき氷を提供しているカフェテラス「シブレット」は、実は軽井沢で100年以上も続く天然氷の蔵元「渡辺商会」の直営店である。子供たちの思い出に残るようにと、ふわふわで色とりどりのかき氷を提供し続けてきた。赤、黄、緑、と美しいシロップがかかった氷は子供の頭ほどもありそうで、運ばれてきたかき氷にあちこちから歓声が上がる。

「紅茶やコーヒーも提供する喫茶店なんですけど、もう『かき氷のお店』って思われてるみたいで」と店主は笑いながら話してくれた。
かき氷のシロップは全部で27種類。「グレープにミルクをかけるのが好き」という店主のお薦めで、グレープのかき氷を注文してみた。
目の前に運ばれて来たかき氷は、想像以上に、多分想像のひと回り以上大きい。「夏には子供さんたちペロリと1つ食べちゃうんですよ」と言われ匙を入れると、なるほど、柔らかくて軽い。最近街中で食べるかき氷は、こってりとしたシロップが流行なのでそれに慣れていたのだが、こういうさっぱりとしたシロップは腹にたまらず体温を下げてくれる。暑い夏に涼を取るのに最適だろうなと改めて思う。
▲「グレープ」660円(税込)

人気のシロップを尋ねてみると、「子供さんたちは頑固なんでね、自分の知ってる味以外は食べたがらないの。だから『いちご』がいちばん人気。若い人は他にあまりない味とか綺麗な色とかで選ぶから『ももみるく』や『グレープ』。年配の方は『宇治金時』かな」

それではと注文してみると、「ももみるく」の鮮やかなピンクに白いミルクが映えてなんとも可愛らしい。これは軽井沢に旅行にきた女子達に大人気に違いない。結構な大人の僕でも、ついつい顔を並べて撮影したくなる衝動に駆られてしまうほどだ。

最後に運ばれてきた「宇治金時」は、氷は言うまでもないが艶やかな小豆もたっぷり。きっとおじいちゃんやおばあちゃんも驚きの声をあげ、笑顔が溢れることだろう。昔ながらの宇治シロップの味にふと郷愁を覚えながら、3つのかき氷を美味しくいただいた。

何気なくメニューをめくっていると、ひとつのかき氷を3人以上で注文することは避けていただきたいとの趣旨の注意書きがある。逆に考えれば「2人で1つでも大丈夫ですよ」というメッセージでもある。これは子供連れの家族にはとてもありがたいメッセージだろうなと思う。そんなところにも店主さんの温かみのあるお人柄が伝わってくる。
▲店頭にある大きなかき氷の看板が目印

シブレットのかき氷は、こんなに大きくても600円代~800円代。観光地で、この大きさで、しかも天然氷を使ってのこのお値段は破格だと言えよう。子供たちは自分だけで独り占めできる大きなかき氷を手に入れて、歓喜の声を上げている。軽井沢に来た思い出に、このかき氷が刻まれるのであろう。
長野県でかき氷というイメージが今まであまり湧かなかったのだが、天然氷の生まれる場所のひとつ・軽井沢がつなぐかき氷のルーツが見つかり、本当に有意義な旅となった。いざ出かけてみると、他にも長野県のいろいろな場所でかき氷が多く提供されているらしいということもわかってきた。次に長野県を訪れる時は、蕎麦・温泉と一緒にかき氷を楽しんでいきたいと思う。
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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