小江戸・栃木「蔵の街」で、遊び心あふれる粋な大人たちに出会う

2018.03.27 更新

小江戸として知られる栃木県栃木市。重厚な佇まいの蔵やレトロな洋館、市の中心を流れる巴波川(うずまがわ)では遊覧船が当時の面影を残し、のんびり気ままに散策するのにピッタリの街です。名物の「とちぎ江戸料理」を味わえるほか、すぐ近くには「岩下の新生姜ミュージアム」も。新旧の魅力にあふれる「蔵の街」を訪ねました。

▲かつて江戸との舟運でにぎわった巴波川。今はゆったりした川の流れに身を任せて、舟の上から蔵の街並みを堪能できる

「蔵の街」といわれる栃木市は、東京から日帰りで気軽に遊びに行ける穴場スポット。電車なら東武日光線・JR両毛線「栃木駅」からのアクセスが便利です。
▲蔵の街の玄関口、栃木駅北口。「栃木」の由来となった「栃の木」をモチーフにしたモニュメントが目印

近代的な駅舎の栃木駅北口から、蔵の街大通りを約10分歩くと、趣のある蔵や洋館が見えてきます。
▲江戸時代から続く老舗の人形店「三桝屋(みますや)本店」

栃木市は、江戸時代より日光例幣使(れいへいし)街道の宿場町として、また市内を流れる巴波川の舟運による江戸との交易で大いに栄え、「北関東の商都」と呼ばれていました。かつての豪商たちの栄華を偲ばせる蔵や、明治から昭和初期に建てられたレトロな洋館など、今も当時をしのばせる歴史的建造物が市内の随所に点在しています。

そんな情緒あふれる街並みを早速散策してみましょう。
▲「三桝屋本店」のはす向かいにある「スターバックス栃木倭町(やまとちょう)店」も周囲に溶け込む落ち着いた雰囲気

「鯉のいる街、蔵の街」を彩る巴波川沿いをしっとり散策

まず目指したいのが、巴波川にかかる幸来橋(こうらいばし)。欄干に彫られた鯉のモチーフが目印です。
太陽の光を浴びてキラキラ光る巴波川の川面、ゆったりと川を下る遊覧船、それを囲むように戯れる鯉や鴨、川越しに佇むかつての木材回漕問屋の黒い塀と白い蔵……。そんな江戸情緒あふれる「蔵の街」をたっぷりと味わえる起点となる場所です。
▲通学路にもなっている巴波川沿いの遊歩道。暮らしのなかに溶け込んでいる
▲幸来橋の欄干に彫られた鯉のモチーフ。巴波川の鯉は人々に親しまれていて、栃木市は別名「鯉のいる街」とも呼ばれている

遊覧船で江戸時代にタイムスリップ

ここまで来たらぜひ乗ってほしいのが、巴波川を下る「蔵の街遊覧船」です。すげ笠に法被姿の船頭さんが竹竿で舟を操りながら、約20分の舟旅にいざなってくれます。
▲「巴波川の案内は私たちにお任せください!」と頼もしい船頭さんたち

江戸時代、舟運による交易で江戸から運ばれていたのは、日光御用の荷や塩、油など。栃木からは木材や石灰、農産物などが運ばれ、物資の集積地として発展を遂げました。当時は利根川を経由して一昼夜かけて江戸へ行き、帰りは三日三晩かけて戻ってきたというから驚きです。

そんな巴波川の歴史、江戸日本橋までの川筋の話などを、船頭さんが時にユーモアを交えながら説明してくれます。舟旅のクライマックスは朗々と歌い上げる『栃木河岸船頭唄(かしせんどううた)』で締めくくり、一気に江戸時代へとタイムスリップします。
▲舟の上から眺める蔵の街もまた風情がある

ゆったりした川の流れに身を任せ、蔵の街の雰囲気を全身で堪能することができる「蔵の街遊覧船」を、ぜひお楽しみください。

巴波川は季節を楽しむための舞台にもなる

「蔵の街遊覧船」は、当時の巴波川の雰囲気を少しでも再現しようと、2006年頃から地元の方の声掛けで始まりました。現在、舟旅を楽しく演出してくれる船頭さんたちは、一般公募で集まった11名の方。約2カ月の研修を受け、一人前の船頭になります。
▲多芸多才な船頭さんたち

「20分間はステージだと思って、自分自身も楽しんでいます」と語る船頭の中村さん。今では地元を愛する市民と行政が一丸となって蔵の街を盛り上げていますが、船頭さんはシンボル的な存在として欠かせません。

このほかにも、春は「うずまの鯉のぼり」、夏は「行灯祭り」、秋は「花魁道中」、冬は「竹灯り」と、一年を通じて季節ごとの行事を楽しめます。地元の方が中心になり、かつての賑わいを今に伝えているんですね。
▲春は巴波川(開運橋~幸来橋~うずま公園)の約800mを、体長1mの鯉のぼり約1,000匹が彩る(写真提供:栃木市観光振興課)

シュールなロボット人形にビックリ!塚田歴史伝説館

「蔵の街遊覧船」の待合所の隣から、巴波川沿いを黒い塀沿いに歩いていくと、かつての材木回漕問屋「塚田歴史伝説館」の入口にたどり着きます。さすがは江戸との交易で栄えた豪商、8軒の見事な蔵が立ち並び、栃木市のなかでも圧倒的な存在感を誇ります。
▲立派な蔵造りの佇まいが当時の栄華を物語る

館内で最初に出迎えてくれるのが、三味線を弾くおばあさん。といっても、その正体はロボット。おばあさんを見つめるおじいさんも含めて、実に精巧な動きをしていて、本物と見まがうほど。そのロボットおばあさんが、三味線と歌を披露するだけでなく、当時の材木回漕問屋の暮らしや、巴波川にちなんだ話もしてくれます。
▲リアル過ぎるおばあさんやネコ、見物客のおじいさんにビックリ!

そのほか「塚田歴史伝説館」では、人形ロボット蔵芝居やお囃子付きからくり人形山車、ひょっとこロボットなどが、ちょっとクスッと笑ってしまうシュールな演出で、「蔵の街」の様子や歴史、伝説を伝えてくれます。
▲歴代の家宝も見応え十分

老舗洋食レストランで「とちぎ江戸料理」を堪能!

さて、目と耳で江戸情緒を味わったあとは、「舌」で江戸文化を感じてみましょう。

栃木市では2014年頃から「とちぎ江戸料理」を打ち出し、江戸時代に食された料理を再現した独自メニューを、老舗料亭や洋食レストラン、惣菜店など、市内にある約20の飲食店で提供しています。
▲「とちぎ蔵の街観光館」近くにある「赤城亭」

今回、「とちぎ江戸料理」をいただいたのは、1923(大正12)年から続く老舗レストラン「赤城亭」。ご主人の趣味のアンティークに囲まれた店内は、シックで落ち着いた佇まいです。
おじいさまの代は、創業当時珍しかったハンバーグやカツレツなどの洋食を、お父様の代では料亭として日本料理を提供していたそうです。その影響もあってか、3代目シェフの飯沼友治(ゆうじ)さんは、ゴボウやサトイモなど和の食材を洋風にアレンジするなど、和と洋の垣根を超えた料理を日々、追求しています。
▲3代目のご主人・飯沼友治さん

「好奇心のままに、おもしろいものを作るのがもともと好きなんです」と少年のように目を輝かせる友治さん。
その自由な発想で生み出された「とちぎ江戸オードブル」には、栃木名産のかんぴょうを使ったキッシュ、サトイモとベーコンのテリーヌ、江戸の万能調味料「煎り酒」をコンソメ代わりに使った野菜のテリーヌ、味噌を使ったフロマージュブランなど、和の食材や調味料が随所に使われています。お皿を彩るオードブルは、まるで一幅の絵画作品のよう。
▲目にも鮮やかな「とちぎ江戸オードブル」
▲上品な味の「味噌のフロマージュブラン」

「三元豚和風おろしカツレツ」や「ハンバーグステーキ」、「有頭海老フライ」など、ランチメニューには、必ずこの「とちぎ江戸オードブル」と「味噌のフロマージュブラン」がつくという太っ腹ぶり(このほか、スープ・ライス・デザート・コーヒーまたは紅茶がセットで各1,663円)。

カツレツやフライには、江戸時代からこの地で味噌を作り続ける「油伝(あぶでん)味噌」の味噌を使った特製ソースを、オムライスには、名物「牛鍋」の煮汁で煮込んだ三元豚や黒毛牛をぜいたくに入れるなど、ひと手間を惜しまないのが友治さん流。
「栃木に多くの人が訪れるきっかけになるように」という熱い地元愛から、これほど手間暇かけていても価格は抑えめです。
▲人気メニューの「とろとろ卵のオムライス」。こちらも、とちぎ江戸オードブル・味噌のフロマージュブラン・スープ・デザート・コーヒーまたは紅茶がついて1,663円というリーズナブルさ

大正、昭和、平成と歴史を語り継ぐ赤城亭は、いつまでも遊び心を忘れず、新たなアイディアで、これからも人々を惹きつけていくことでしょう。

江戸時代だけじゃない!歴史と文化を語り継ぐ生き証人たち

蔵の街は、江戸の風情が堪能できるだけではありません。明治、大正、昭和と時代を語り継ぐレトロな街並みを一度に味わえるのも魅力。ランチの後は、そんな歴史と文化を感じる街並みを散策してみましょう。
▲日常のなかに歴史と文化が息づく街。ひとつの通りに、江戸、明治、大正、昭和、平成が混在するのもおもしろい

栃木市は明治時代の一時期、栃木県庁が置かれていました。現在の栃木市立栃木中央小学校、栃木県立栃木高等学校の区域を囲む「県庁堀」は、旧県庁の遺構として今に歴史を伝えています。このあたりは、当時の栃木に思いを馳せながら歩くのにぴったりの場所。とくに、県庁堀の南東部に位置する「旧栃木町役場庁舎」は、白と緑を基調とした木造2階建ての瀟洒な洋館で、ひときわ目を引きます。
▲国の登録有形文化財、旧栃木町役場庁舎

ほかにも明治・大正期に建てられた洋館が街中に点在しています。カフェやレストランとしてリノベーションされている場所もあるので、歴史を感じながらゆっくりコーヒーを飲むのもよいですね。
▲同じく登録有形文化財に指定されている県立栃木高等学校の記念図書館
▲旧栃木病院のレトロな佇まい。今は栃木中央クリニックとして使われている
▲「鯉のいる街、蔵の街」らしいマンホール。蔵の街ならではのアイテムを見つけながら散策するのも楽しい

栃木市を南北に貫く「蔵の街大通り」を歩いていて気づくのは、電線がないこと。これは、2年に一度行われる「とちぎ秋祭り」で江戸型人形山車が巡行するためです。

2018年はこの秋祭りの開催年に当たります。11月9~11日の3日間で、約30万人の見物客が訪れます。9台の人形山車が練り歩き、絢爛豪華な江戸文化と、かつての栄華を誇った豪商たちの繁栄ぶりの一端に触れることができます。
ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?
▲町会ごとにテーマがある江戸型人形山車(写真提供:栃木市観光振興課)

「とちぎ江戸料理」と栃木名物のB級グルメをおみやげに!

さて、最後は、郷土料理の「しもつかれ」や「ずいき酢」など、体にやさしいお惣菜を少量ずつそろえる「かねふくストア」に寄ってみましょう。蔵の街大通りの東側、小道を入った住宅街にあります。

天気が良い日は、お惣菜を買って、近所の「第二公園」で食べるのがおすすめです。「第二公園」は1900(明治33)年5月、皇太子殿下ご婚儀の慶事記念として造られ、今では緑豊かな日本庭園と遊具を備えた公園として、地元民の憩いの場となっています。
▲庶民の味方「かねふくストア」には、東京在住の栃木出身ファンも訪れる。惣菜のほか、野菜、果物、乾物、飲料、調味料など、家庭料理に必要なものは大抵そろう

「しもつかれ」は、「鬼おろし」という専用のおろし器で粗くすりおろした大根と人参、塩鮭の頭、煎り大豆、油揚げ、酒粕などを煮込んで作ります。家庭料理なのでそれぞれの味があるそうですが、地元の人が「『かねふくストア』のしもつかれはおいしいよ」と口をそろえる、人気の味を試食させていただきました。
▲とちぎ江戸料理の代表格「しもつかれ」

大根の甘みと酒粕の香りが相まった初めての味は、独特の臭みもなく、お酒やごはんが進みそうです。「何で臭みがないかは企業秘密」と茶目っ気たっぷりに答えるのは、奥様の熊倉さなえさん。さなえさんは、「とちぎ江戸料理」の広報誌のレシピコーナーで、家庭で作れるとちぎ江戸料理を紹介するなど、料理の魅力を伝える活動にも奔走中です。
▲中央が、「しもつかれ(1袋・216円~)」。右はサトイモの葉柄(ようへい)を使った酢の物「ずいき酢(1パック・162円)」、左は薄切り大根と柚子の酢の物「ゆず大根(1パック・410円)」。ゆず大根は11~3月の季節限定商品
▲地元産の野菜で手作りされたお惣菜は20種類以上。少量(1パック・108円)から売られ、庶民の味方

郷土料理のお惣菜のほかにテイクアウトできるのが、栃木名物のB級グルメ「じゃがいも入り焼きそば」。その名のとおり、一口大に切ったじゃがいもがゴロゴロ入った焼きそばで、じゃがいもとソースの相性抜群。太い麺の歯ごたえもよく、地元の人たちは昔から親しんでいます。
一度食べたら病みつきになる味を、ぜひ一度試してみてください。
▲栃木名物「じゃがいも入り焼きそば(1パック・216円)」
昼間訪れた巴波川を再び訪れてみました。冬の風物詩、竹灯りに照らされた夜の巴波川もとても風流です。
▲ボランティア手作りの竹筒と屋形船がライトアップされた夜の巴波川は、冬の風物詩になっている

歴史と文化を感じる街並みのなかに暮らす人がいて、そこでの暮らしを楽しもうと、遊び心を忘れない「粋な大人たち」がいる。地元愛にあふれる人たちが暮らす土地はどこも魅力的。そんなことを感じた、小江戸・栃木「蔵の街」でした。

※記事内の料金・価格はすべて税込です
古谷玲子

古谷玲子

編集者・ライター。出版社・編集プロダクションの株式会社デコ所属。移住者向け雑誌「TURNS」のほか、「孫育て一年生」を担当。フリーランス時代は、海外旅行ガイドブックで、台湾、台北、モンゴル、東アフリカを手掛ける。さまざまな「人の営み」に興味がある。

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