世界遺産・白神山地をトレッキング。手付かずのブナ林に癒される

2018.09.13 更新

青森県南西部と秋田県北西部にまたがる「白神山地」。人為的な影響をほとんど受けていない、ほぼ手付かずのブナ原生林が広がる貴重なエリアです。その大きさは山手線内側の約3個分にあたる約17,000ヘクタール。1993(平成5)年にユネスコ世界自然遺産にも登録された大自然の中を、今回は青森県側からトレッキングしてみました。

▲ブナの林をトレッキング

白神山地トレッキングまでの準備

トレッキングは、白神山地の青森側の玄関口と言われている西目屋(にしめや)村にある「アクアグリーンビレッジANMON(あんもん)」からスタートです。こちらは白神山地トレッキングの拠点となる施設で、キャンプ場や温泉施設も完備。夏には野外イベントなどが開催され、白神山地のグルメも楽しめます。アクセスはJR奥羽本線弘前駅から車で約1時間。在来バスでも移動可能です。
▲アクアグリーンビレッジANMONのセンターハウス

白神山地にはコア(核心)エリアとバッファ(緩衝)エリアがあり、コアエリアはここからさらに1,000m級の山々を越えていかなければなりません。森林管理署長などへの入山手続きはマストで、初心者には少しハードルが高めです。そこで今回は、初心者でも比較的歩きやすい、アクアグリーンビレッジANMON近くにある整備されたトレッキングコース「世界遺産の径 ブナ林散策道」をトレッキングすることにしました。
▲コアエリアはこの山の先にあります

「世界遺産の径 ブナ林散策道」の散策は自由。しかし、ブナ林のことをより深く知るためにはトレッキングガイドに申し込むのがおすすめです。

個性豊かなガイドさんがたくさんいますが、今回お願いしたのは夫婦でガイド業を行う「白神山地ガイド会」の代表・渡邊禎仁(ていじ)さんと景子さん。禎仁さんは「くまさん」の愛称で親しまれ、ご本人もガイド中に、ちょくちょく熊ネタを持ち出してきます。
▲夫婦でガイド業を行う渡邊さん

ガイド料はプライベートプランが12,000円、他のお客さんと一緒でもOKの2名以上催行プランが3,500円(ともに税込、催行期間:4月末~11月上旬)。今回はブナ林のことをじっくり教えてもらいたかったので、プライベートプランで案内してもらうことにしました!

はじめの一歩から知らされた白神山地の事実

ANMONの駐車場を歩いているとすぐに渡邊さんが立ち止まって「こちらの木を見て気づいたことはありませんか?」と問いかけてきました。さて?
▲何か特徴に気づきませんか?

そうです。白い斑点模様が下半分にはありません。白い斑点模様は菌類の仲間である地衣類によって描かれたもの。それが、車の排気ガスなどによってなくなってしまったのです。

こんな大自然の中、車の往来が激しいわけでもないのに、このような影響があるとは驚きです。渡邊さんは「自然は壊れやすく、だからこそ人間が大切にしなければなりません。白神山地はそんな自然の大切さを教えてくれるんです」と話します。
▲散策道の入り口

ANMONを出て徒歩5分で散策道入り口に到着。傍には湧き水を飲める水飲み場がありました。こちらの水はブナの林から湧き出ており、暑い夏の日でも10度以下とひんやりしています。
▲散策道入り口付近にある水飲み場

一口飲んでみたところ、スーッと喉に落ちるような味わい。口当たりがなめらかで、のどごしのよい水です。聞いてみたところ、硬度0.2mg/lという日本でも珍しいほどの超軟水。山深いこの地に来た疲れを吹き飛ばしてくれるような水です。
▲ペットボトルに入れて持ち帰るお客さんも多い。コーヒーに使うのがオススメ

渡邊さんによると、この水は約100年前の雨水なのだとか。雨水がブナの木を伝って地下に浸透し、清らかな水となって約100年かけて再び地表に出てきているのです。そのため、たとえ雨が降らなくなっても、ここの水は100年間は絶えることがないとのこと。ブナの木々がゆっくりと時間をかけて作り出す水に、自然の大きな恩恵を感じることができます。

ガイドとともにブナの自然を満喫!

散策道は階段や足場などがしっかりと整備されており、歩きにくさはありません。全長2km程度と長くないものの、高低差は約150m。意外に運動量がありますが、渡邊さんの話を聞きながら歩いていると、時間が経つのがあっという間です。なにより木々のせせらぎや虫の音が響き渡る、心地よい空間に癒されてしまいます。
▲心地よいブナの木に囲まれた散策道

それもそのはず、ブナの林の特徴は木々が密集しておらず、大きな空間があるから。ブナの木はてっぺんに枝を広げ、途中の幹に枝をつけることは少ないので、大きなドームの中にいるような林を形成しているのです。
▲天井で葉が茂っているため雨が降っても傘はいらない。ドームのようなブナの林

すっかり大自然を堪能していたところ、渡邊さんが教えてくれたこちらの看板に思わずヒヤっとする秘密がありました。
裏に回ると何やら傷跡が…。なんと、熊がつけたものだそうです。
▲柄の部分に熊がつけたという傷が。直さずそのままにしているのだとか

これも大自然の中だからこそ。人間のほうが部外者だということを感じさせられます。ちなみに渡邊さんたちも熊に遭遇したことは何度もあるそうですが、襲われたことは一度もありません。出合っても熊を驚かせないようゆっくりと立ち去ることが大事だそうです。
▲沢の水が飲めるかどうかは周囲の苔の生え具合を基準にしているとか

白神山地の自然を知り尽くしている渡邊さん夫妻。歩きながら話してくれることは、どれも「へー!」と驚くようなことばかり。例えば、ブナは隣の木と重なるくらいまで根を広げます。その根っこにはドラム缶約10本分の水を含み、「天然のダム」とも呼ばれるそう。絡み合う根っこがネットのような効果を生み出し、土砂崩れなどの災害を防ぐとも言われています。
▲根っこが断面図のようにわかる、切り立った場所にあるブナの木

かつてブナは日本全土にありましたが、現在も残っているところはごくわずか。その理由は「漢字の場合、『木』に『無』と書くブナは、役に立たない木として戦後伐採され、加工しやすく成長が早い杉に植え替えられたため」だそう。
▲3cmほど芽吹くまで成長するのに1年はかかるというブナの木

ブナは花を咲かせ、実をつけるほど成長するには80年はかかると言われています。ここ白神山地は、日本国内でも最大級の原生林が残る場所。その貴重さから日本では初となるユネスコ世界自然遺産として、屋久島と一緒に1993(平成5)年に登録されました。

今回のトレッキングは約2時間でしたが、大自然の心地よさを体感するには十分でした。そして何より、自然の貴重さや尊さをこのブナたちに伝えられているような気がしました。

四季折々で楽しむことができるブナの林

今回訪れたのは8月上旬でしたが、ブナの林は四季折々でさまざまな表情を見せます。秋は紅葉、冬は雪、春は芽吹き。渡邊さんのオススメは10~11月に見頃を迎える紅葉で、「落ち葉によって足音が違ったり、雨になれば靄が出たりします。毎日景色が違い、同じ表情を見せることはありません」と語ります。毎日のように林に入っている渡邊さんだからこそ、その言葉の重みが違いますね。
▲紅葉シーズンのブナの散策(写真提供:西目屋村役場)

また、今回の散策ルートの中にはありませんが、ANMONからさらに奥地には「マザーツリー」と呼ばれる樹齢約400年のブナの大木があります。寿命が300年と言われているブナの木の中では高齢で、その神々しさはまさに神秘的。
▲幹の周囲は約5mにもなるマザーツリー

(編集部注:2018年9月4~5日に本州を縦断した台風21号の影響により、マザーツリーの幹が折れていたことが確認されました。同13日現在、周辺は立ち入り禁止となっています)

ほかにも中級者以上向けの「暗門(あんもん)渓谷ルート」では、3つの滝が流れる「暗門の滝」を楽しむことができます。ルート上で渓流の中に入るためシャワークライミングの要素もあり、ちょっとしたアトラクション気分が味わえます。事前準備が必要ですが、大自然のマイナスイオンを思いっきり浴びるにはオススメのルートです。
▲暗門渓谷ルート一番奥に位置する「暗門の滝(第一の滝)」。現在は未整備のため、こちらは上級者向けコース

世界自然遺産をトレッキングした後は

トレッキングから戻ってきた後は、ANMONで白神山地のグルメを堪能しましょう。まずはリンゴ味のオリジナルソフトクリーム。こちらは地元で採れたリンゴを使っています。少し酸味があり、ソフトクリームの甘みとのバランスが絶妙。ここでしか食べられない、青森ならではの人気商品です。
▲リンゴのソフトクリーム(350円・税込)

そして、ランチにオススメなのが「マタギ飯」です。なめこやネマガリダケを使った混ぜご飯と山菜や揚げたてのまいたけの天ぷらなどがのったお蕎麦、岩魚の南蛮漬けに、デザートはリンゴのコンポート。山の恵みをふんだんに使い、混ぜご飯にはバターという洋風のアイデアも盛り込んだメニューとなっています。
▲さまざまな山の食材が味わえる「マタギ飯」(1300円・税込)。意外とボリューミー

食事のあとは、同じくANMON内にある入浴施設「暗門の湯」で、トレッキングでかいた汗を流しましょう。運動して食べた後にこちらで湯船に肩まで浸かり、ほっと一息を入れる時間は最高です。
▲清潔感のある浴室。入浴料は550円(税込)
2018年は、白神山地が屋久島と並んで世界自然遺産に登録されて25周年というアニバーサリーイヤー。ここでは紹介しきれないほどの魅力や自然の偉大さをたくさん知ることができました。

知識や情報はネットや本からでも得ることはできますが、実際に触れてみると、想像以上の感動があります。ぜひみなさんも白神山地の大自然を体感してみてはいかがでしょうか?
くどうたける

くどうたける

東京でウェブライターを経験し、2012年に青森へ移住。地域新聞や地域の情報を発信するお仕事をいただきながら、田舎でせっせと暮らしてます。(編集/株式会社くらしさ)

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