世界遺産の天草・﨑津集落で、美しい教会と海上マリア像に出合う旅

2018.11.23 更新

熊本県西部にある天草諸島は、キリシタン信仰や文化と歴史的に縁が深く、当時の信仰をしのばせる場所が多く残るエリア。なかでも「﨑津(さきつ)集落」は、2018年にユネスコ世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産の1つとして登録されたことで注目を集めています。そんな﨑津集落の魅力を、散策と船上クルージングの両方で楽しめるガイドツアーに参加してきました。

▲﨑津集落のシンボル的存在である「﨑津教会」

潜伏キリシタンがつないだ文化が生きる場所・﨑津

熊本県南西部にある天草諸島は、大小120余りの島からなる広い地域。熊本県では海の観光地として人気のエリアです。「天草上島(かみしま)」「天草下島(しもしま)」などの主だった島はすべて橋でつながっているため、ドライブで島を巡ることができます。
▲昔ながらの漁村の中に「﨑津教会」が見える

この天草諸島、江戸時代にキリシタンが起こした「島原・天草一揆」(1637~1638[寛永14~15]年)の舞台となり、潜伏キリシタンが多くいた歴史を持つ場所です。そのため、全域にわたってキリスト教信仰の文化が残っています。
▲海と山に囲まれた﨑津集落

なかでも、天草下島の南西端にある漁村・﨑津集落は、潜伏キリシタンの文化が特に色濃く受け継がれた地域。キリスト教弾圧下において、日本の伝統的宗教や一般社会と共生しながら信仰を続けた希少な宗教文化が評価され、ユネスコ世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の1つとして2018年7月に認定されました。
▲神社のすぐ近くに教会がある景色も不思議

﨑津集落へのアクセスは、九州自動車道・松橋(まつばせ)ICから車で約2時間30分。国道266号線などを走り、下島の南部にある集落を目指します。海の景色を楽しみながらドライブすると、湾に隠れるようにひっそりとたたずむ集落が現れます。
▲小さな湾に隠れるようにたたずむ集落

集落内を散策したい場合は、まず集落の入口にある「天草市﨑津集落ガイダンスセンター」を訪れましょう。土・日・祝日など観光客が多い時期は集落内の駐車場が少ないため、車もここに駐めます。
▲2016年にオープンした「天草市﨑津集落ガイダンスセンター」。ここは道の駅にも設定されています
▲ここで﨑津の歴史的・文化的価値を学び、集落内での観光マナー、﨑津教会での拝観マナーなどを確認してから散策へ向かいましょう

﨑津集落は今も住民が暮らしを営む場所。そして﨑津教会は集落の人たちの祈りの場でもあります。集落の穏やかな生活を壊さないよう、センターで確認したルールとマナーを守って散策しましょう。
▲センターから集落までは5分ほど歩きます。レンタサイクルも便利です

陸と海、両方から﨑津集落を堪能する、ガイド付き散策ツアーに参加!

﨑津集落内は個人でも散策できますが、せっかくなのでガイド付きツアー「﨑津まち歩きと海上のマリア像クルージング」を利用して周ることに。このツアー、なんと「天草宝島案内人の会」のガイドによる集落内の散策に加えて、海上クルージングも楽しめるのです!

申し込み方法は「天草宝島観光協会」の申し込みフォームより。料金は4名以上の場合3,000円/人、3名の場合3,500円/人、2名の場合4,590円/人、小学生以下540円、3才児以下無料(すべて税込、2名からの開催)。ツアー所要時間は約2時間です。
▲ガイドさんとの待ち合わせ場所は、﨑津の漁業組合近くにある「きんつ市場」です。ガイダンスセンターからは徒歩10分ほど(本ツアーに参加する場合は、きんつ市場付近の駐車場が便利)
▲この日のガイドは「天草宝島案内人の会」森田哲雄さん。4歳の頃から﨑津に住んでおり、集落でのガイド歴約10年の達人!

どこか懐かしい漁村の街並みを散策

あいさつもそこそこに、早速ツアーへ出発します。昔ながらの景色が残る漁村を歩きながら、﨑津の概要や森田さんの子ども時代の楽しい思い出話も伺います。
▲どこか懐かしい景色が広がる、集落のメインロード
▲今もキリスト教徒が多い﨑津集落。キリスト教徒のお墓はクロスの形。仏教徒と同じ墓地内にあることにも、﨑津独特の文化を感じます

3分ほど歩いて、「お休み処 よらんかな」へ。こちらは、1925(大正14)年に建てられた旧漁師網元邸がそのまま残る建物。昔ながらの漁村の暮らしを伝える建物として保存されています。
※2019年夏まで改築工事中のため入場できません
▲昔のままの姿を残す建物
▲畳の空間で休憩もできます

こちらの施設を海側に抜けると、海沿いに広いウッドデッキのような空間が広がります。こちらは「カケ」と呼ばれる場所。護岸から海に突き出すように作られていて、漁師が魚を水揚げしたり魚干ししたりするのに使っていたのだそうです。集落と教会、そして湾の青い海が一望できて、とても気持ちのいい場所!
▲「昔の漁師の生活空間としても使われていたんですよ」と森田さん
▲漁船が並ぶ奥に教会が見える、絶好の写真スポットの1つ!
▲天草の美しい海も一望でき、癒されます~!
さて、心癒される天草弁のガイドを聞きながら、さらに集落を散策します。「ここば(ここを)通りましょう」と森田さんが誘ってくれたのは、家と家の間にある細い道。「えっ?ここ通っていいんですか?」と問うと「大丈夫です、ここも立派な公道です」と森田さん。海沿いの狭い土地に家々が密集して建ったことからできた「トーヤ」と呼ばれる小路で、ここは集落の象徴的な景色の1つになっています。
▲家と家がすぐ近く!住民が暮らしを営む民家なので、静かに通りましょう
▲エサの魚には事欠かない漁村なので、ネコちゃんもうろちょろしています。人に慣れた子も多いですよ
▲広い車道ができる以前は、この海に向かう細い道が集落のメインロードだったそう

海沿いに立つ、素朴な畳敷きのチャペル「﨑津教会」を拝観

さあ、トーヤを散策しながら、海の方へと歩みを進めます。すると見えて来たのは、すっとした尖塔が伸びるグレーのチャペル。次の目的地である、集落の象徴・﨑津教会です。
▲住宅街を抜けた先、レンガの門の奥に教会がそびえ立ちます

江戸時代の厳しい禁教時代を経て、1873(明治6)年に信仰の自由が確認された後、潜伏キリシタンが多く住んでいた﨑津集落に教会が建てられました。現在の建物は、1934年(昭和9)年頃にフランス人宣教師・ハルブ神父により再建され、長崎県出身の建築家・鉄川与助によって施工されたものです。
▲尖塔の上に十字架を掲げた、重厚なゴシック様式の教会。海のすぐ近くにあることから「海の天主堂」として愛されています
▲素朴で美しいステンドグラスは、当時フランスから取り寄せたもの。ハルブ神父の故郷であるフランスの国の花・スズランが象られています

教会の中へと歩みを進めます。いくつものアーチが連なった堂内は、なんと畳敷き。和と洋が融合した独特の内観に、漁村の文化と共に信仰が寄り添ってきたことがうかがえます。
▲ステンドグラスから優しく自然光が降り注ぐ、畳敷きの天主堂内。祈りの場であるため、天主堂内は写真撮影不可です(撮影:小林健浩、写真提供:天草宝島観光協会)

「あの中央の祭壇は、1805(文化2)年に『天草崩れ』という厳しいキリスト教徒摘発が行われた際に、絵踏みが行われた場所に作られたとですよ」と森田さん。建築当時、﨑津に在住していたハルブ神父による強い希望だったとか。
▲フォトジェニックな外観。下からはわかりにくいですが、実は屋根は瓦なのだそう

しんとした神聖な空間の中に、これまでこの地域の方々が密かに守ってきた信仰の深さが感じられて、拝観するだけでも心が洗われたような気持ちになりました。

ちなみに、﨑津教会はツアーに参加しなくても個人で拝観できますが、ミサや冠婚葬祭などの教会行事中は見学できない場合もあります。拝観を希望する際は、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター」より事前予約をしましょう。

集落のキリスト信仰を長く見守ってきた神社へもお参り

次に向かったのは、教会からまっすぐ山の方に向かった先にある「﨑津諏訪神社」です。
▲海から少し離れ、山手の階段を上ります

昔ながらの漁村である﨑津集落の大漁・海上安全祈願のため、1647年(正保4)に創建されたこの神社。潜伏キリシタンであった住民が、仏教徒を装いながら隠れてキリストに祈りを捧げていた場所でもあります。この神社に潜伏キリシタンが参拝する際には「あんめんりゆす(アーメン、デウス)」と唱えていたという記録が残っているそう。
▲集落を見守るような位置にある、神社の御堂

この神社の一番の見所は、鳥居越しに教会が見える景色です。「神社と教会を一度に見ることができるのは珍しく、﨑津が守ってきた独自の文化を象徴する奇跡的なもの」と森田さん。ぜひ写真に収めておきたい風景です。
▲鳥居の中から教会の姿を望むことができます

「ところで、世界遺産に登録されたのは﨑津教会だと間違われがちですが、実際はこの集落全体が世界遺産の対象なんです」と森田さん。
禁教時代に仏教徒を装いながらキリストを信仰してきた潜伏キリシタンが数多く存在し、200年以上もの間、信仰を守ってきた地域があるのは、世界の宗教史の中でも珍しいことなのだそう。
▲神社境内から一望できるこの景色も、奇跡的なものに思えます

チャーター船に乗って「海上のマリア像」を正面から望む

さて、1時間ほど集落内を散策し、集合場所の「きんつ市場」へ戻ってきました。
ツアー後半では、ここまで散策してきた﨑津集落を、今度は海から楽しみます。この正面にある港から、ツアー参加者のためだけにチャーターされた船に乗って、いよいよクルージング出発です!
▲地元の漁業組合から、漁船を出してもらいます
▲海面との距離が近く、海風も気持ちいい~

まずは、集落が面する羊角(ようかく)湾をぐるりと回ります。小さな湾に沿うように広がる漁村と漁船、そしてその中に見える﨑津教会の尖塔…その光景はまさにフォトジェニック!この湾にトンネルや車道が通じる前は、他の地域との往来はかなり不便だったとのこと。「海と山に潜むようにできた集落だったことも、潜伏キリシタンが守られた理由の1つだったかも」と森田さん。
▲素朴な漁村と教会が見える独特の景色!
▲先ほど訪れた「カケ」。海側から見るとこのようになっています。海面に通じる手積みの石垣の階段も味わい深いですね
▲ぜひ集落をバックに記念写真も。クルージングでないと撮れない絶好のシチュエーションを狙いましょう

天草の海と豊かな自然の美しさも加わって、キレイな景色をゆったりと楽しめます。船はゆったり進んでくれるので、写真もいっぱい撮れるのが嬉しい限り。
そして船は、湾をゆっくり西の方に進みます。
▲崖の先端に、白い何かが見えてきました
▲あれは…、マリア像!?

岬の上に立つ「海上のマリア像」が見えてきました!キリスト教徒が多い﨑津集落。この湾を行き交う船人や漁師の心の灯火となるように、このマリア像が作られたそう。陸側からもその半身は拝むことができますが、像を正面から見ることができるのは海上からだけです。
▲白亜のマリア様。海に向かって手を合わせています

ゆったり約30分のクルージングに、身も心も洗われました。港に到着したら、ここでツアーは終了です。この﨑津集落が世界的にどれだけ貴重な場所であるかを知ることができて、とても充実した2時間でした!
▲森田さん、ありがとうございました!

おいしいモノや素敵な景色を目指して、もうちょっとだけ集落を散策!

「きんつ市場」で森田さんと別れた後、ガイダンスセンターへと戻る道すがら、もう少しだけ集落を散策しました。ひとまず「きんつ市場」の物産館・売店で小休止!
▲﨑津や天草近海でとれた新鮮な水産物や加工品、農産物などが売られています
▲天草の食材を使った「あまくさ地アイス」をいただきます!晩柑(ばんかん)に、お、おにぎり…!?(各240円・税込)
▲気になる「おにぎり」味のアイス。フリーズドライのお米が入ったミルクアイスの中央に、甘酸っぱい梅のペースト。お米のサックリ食感がいい感じ!
▲教会付近をさらに散策します

集落の中でぜひ立ち寄っておきたいのが、﨑津教会の向かいにある「みなと屋」です。1936(昭和11)年に建てられた同名の旅館をリノベーションし、﨑津の文化を伝える資料館として活用しています。
▲教会のすぐ目の前にあります。旅館時代の味わいが残る建物
▲内部には潜伏キリシタンの信仰具などの展示も。なかでも、貝殻に自然にできた模様をマリア像やメダイに見立てた信仰具は、漁村特有の貴重なものです
さらに、長さ800mほどの中にあるこぢんまりとした集落の散策は進みます。
▲人なつっこい漁村ネコと触れ合ったり…
▲奥に海が見えるトーヤで写真を撮ったり…

ここならではのお土産も探しましょう。教会周辺には、数軒のお土産店や商店などが並んでいます。軒先で海産物を売っていたり、お茶休憩ができたりするお店もあるので、地元の人との会話も楽しみましょう。
▲お土産店「天草レインボーシェル」では、ヒオウギ貝やアワビ貝を使ったストラップなどを販売しています(営業時間8:30~17:00、不定休)
▲赤ちゃんヒオウギ貝は、こんなに小っちゃい!着色などはされておらず、これが自然な色なんです!
▲「郷土文化伝承館 南風屋(はいや)」では、﨑津独自の甘味「杉ようかん」を販売。琉球から伝わったお菓子で、一度は途絶えたものの、このお店が復活させました(営業時間7:30~16:00、定休日12月25日~1月31日、8月15・16日)
▲﨑津名物の「天草謹製 﨑津 杉ようかん」(180円・税込)。こしあんを挟んで蒸した餅を、ドラゴンフルーツで鮮やかなピンク色に色つけ。保水と殺菌のために杉の葉を添えているそう(1~2月中旬はお休み)
▲「宮下商店」では、コーヒーやかき氷、杉ようかん(数量限定)のイートインができます(営業時間8:30~19:00、定休日1月1日)
▲散策した日は暑かったので、かき氷(200円・税込)とアイスコーヒー(250円・税込)をオーダー。昔懐かしい食堂のような店内に癒されます。おいしい!
▲「天草さをり織り」のブックカバーやポーチも
▲海辺の休憩所で、ボンヤリ湾を眺めながら休憩…

厳しい禁教時代から、たくましく独自の文化と歴史を刻んできた﨑津集落。その歴史を感じ、いろんな想いを巡らせた散策でした。

もう一つの「山の天主堂」、白亜の「大江教会」へ

﨑津集落の近くにはもう一つ、古くからのキリスト教信仰を伝える教会があります。それが、山村の中にある「大江教会」です。海のすぐ横に建つ﨑津教会が「海の天主堂」と呼ばれるのに対し、こちらはさながら「山の天主堂」。﨑津集落からは車でわずか10分ほどの距離ですが、景色も、教会の趣もまったく異なります。
▲山の中を上っていくと、丘の上に空に伸びる真っ白なチャペルが見えてきます。コロンと丸い屋根が特長

大江教会は、キリスト教解禁後に天草でもっとも早く建てられた教会です。現在の建物は1933(昭和8)年にフランス人宣教師・ガルニエ神父が地元信者と協力して再建したもの。ゴシック様式の﨑津教会とは異なり、こちらはロマネスク様式です。
▲真っ白な壁に、柔らかなシルエットが映える建物。厳かな﨑津教会と違って、こちらは丸っこくてかわいらしい雰囲気
▲アーチやステンドグラスも、丸みのあるかわいい形です。祈りの場であるため、天主堂内は写真撮影不可です。節度を持って拝観を
▲大江教会のある丘の上からは、農村地帯を望めます。この地で潜伏キリシタンがひっそりと信仰を続けた歴史に想いを馳せます
▲青空によく映える白亜の建物

この丘を下った先には、潜伏キリシタンの遺物を集めた「天草ロザリオ館」もあります。観光駐車場やお土産店もあり、じっくり天草の歴史と文化の魅力に触れられます。
江戸時代から地域で守られ続けてきた貴重な信仰や文化が、現代まで残る天草の﨑津集落。素朴で可愛いチャペルやどこか懐かしい漁村の景色に、心が洗われたような穏やかな気持ちになりました。天草といえば海のレジャーばかりを思い浮かべがちですが、たまにはこんなスローなお出かけもオススメですよ!
中川千代美

中川千代美

長崎生まれ、熊本在住。地方出版社に勤めたのち、「チヨミ編集事務所」として独立。地域の子育て情報誌や生活情報紙をはじめ、幅広いジャンルの編集・ライティング・企画を手がける。食欲・物欲・お出かけ欲・温泉欲・ビール欲が赴くままに熊本・九州を駆け回る日々。趣味は二胡。(編集/株式会社くらしさ)

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