“何もない贅沢”を味わう、1日1組限定の宿「小屋場 只只」

2016.05.10 更新

山陽新幹線の徳山駅から歩くこと約5分。徳山港から船に乗り、瀬戸内海に浮かぶ大津島(山口県)へ向かいます。馬島(うましま)港に到着すると、宿のスタッフが迎えにきてくれていました。ただただ、海を見て過ごし、ただただ、美味しい地元食材の料理を味わう──。そんな贅沢な時間が過ごせる宿「小屋場 只只(こやばただただ)」を訪れました。

美しい自然に囲まれた島に残る、忘れてはならない悲しい過去を伝えたい

「徳山港で待ち合わせをしよう」。そう電話で言った「小屋場 只只」のオーナー、水本雄二さん。今回の旅は、2005年にこの宿をつくった水本さんとともに、大津島をめざします。
建設会社ほか4社の企業を営む水本さんは、今から10数年前、生死をさまようような大病を患い、仕事一辺倒だった日常をリセットするために、探し当てたこの土地に週末を過ごす家を構えようとしましたが、調整地域のため住居建築の許可が得られなかったそう。
「ちょうどその頃、太平洋戦争末期に多くの若い命を失ってしまった人間魚雷『回天』の基地がこの島にあったこと、そして、これまでの自分の生き方とは真逆の若者たちの生き様を知り、この事実を多くの人に知って欲しいという想いを持ちました。そこで、住居がだめなら、宿にしようと考え、『小屋場 只只』をつくりました」。
そんな話を伺っていると、大津島の馬島港が見えてきました。

馬島港に到着するとスタッフが車2台で迎えに来てくれていました。1台は私たちの荷物を宿へ運ぶために。そして、もう1台は、水本さん自らドライバーとして、島を案内してくださるために。
このかわいらしいミニモークは、1時間2,000円(税別・ガソリン代込)、半日7,000円(税別・ガソリン代込)でレンタルすることも可能です。
水本さんが連れていってくださったのは、ガマの群生地の畔に建つ茶室「石柱庵(せきちゅうあん)」。農業用の倉庫を茶室に見立てて改修した地域のコミュニティスペースです。
陶芸家の内田鋼一氏がプロデュースし、2015年の春に完成した「石柱庵」に入ると、大津島で採掘された御影石を加工し、彫刻家の上田快さんが手掛けた立礼卓(りゅうれいじょく)が、存在感たっぷりに鎮座しています。これまでにお茶会などのイベントも開かれ、島外からも多くの人々が訪れているとか。2015年には「GOOD DESIGN賞」を受賞するなど、全国的な注目度も高まっています。

息をのむほどの絶景に心癒される

ミニモークでの島内ドライブを終え、一路宿へと向かいます。

駐車場から建物の入口へは階段をのぼっていくのですが、水本さんから「まだ後ろを振り返ってはダメですよ」と言われてしまいます。
階段をのぼりきり、いざテラスへ。

「そろそろいいですよ」と水本さん。
振り返ると、敷地内のグリーンと、その奥に広がる穏やかな瀬戸内海。息をのむほど美しい景色に、しばらく言葉を失ってしまいました。
デッキから景色を眺めていると、視界の右隅にコンクリートの建物を捉えました。これが、水本さんが伝えたかった人間魚雷「回天」の基地の跡。島内には、「回天」にまつわる遺品や写真などの資料を展示した「回天記念館」もあり、この宿を訪れた人々は、自然な形で、島に残る悲しい歴史を知ることになります。
夕食の時間まで少し時間があったので、お風呂をいただくことにしました。湯船に浸かって眺める景色も素晴らしく、時間が経つのを忘れてしまいます。
寝室にも西日が射し込んできました。
そして。
周防灘に落ちる夕陽をただただ眺めながらのノスタルジックなひととき。この素晴らしい景色を独占できるなんで、本当に贅沢です。

地元の食材を心ゆくまで味わう贅沢

この日の夕食は、トラフグの延縄(はえなわ)漁発祥の地と言われるお隣の粭島(すくもじま)で穫れた「トラフグの造り」や「ふぐちり」などのフグ料理のほか、島内で採れた「野草の天ぷら」や、山口県産の黒毛和牛、阿知須(あじす)牛のサーロインなど、地元・山口の食材をふんだんに使ってつくられたものばかり。
▲島で採れた橙(だいだい)のポン酢でいただく「トラフグの造り」
▲ほくほくとしたフグの身に感動!
▲島に自生するむかご、ミツバ、長命草の天ぷら
▲山葵でシンプルにいただく「阿知須牛のサーロイン」
美味しいご飯と楽しい会話。そして、時折、テラスに出て眺める星空に、心からの幸せを感じる一夜でした。

早朝の散策後にいただく朝食に満たされる

翌朝、いつもより早く目覚めたので、水本さんからオススメされていた早朝の散歩に出掛けることに。澄んだ空気と、爽やかな風。キラキラと光る海面が眩しく、とても清々しい朝です。
宿に戻ると、竃で炊いたご飯が炊きあがったばかり。ご飯の甘い香りが漂ってきました。
▲朝ご飯のメニューは季節や仕入れ状況などによって異なります

散策後にいただくご飯は、本当においしく、朝から幸福感に満たされます。
名残惜しくはありますが、そろそろ現実に戻らなければなりません。港まではスタッフの方が送ってくださったのですが、船に乗って振り返ると、なんと手を振ってくださっています。
私たちが乗った船が見えなくなるまで手を振り続けてくださる姿に感動。水本さんのセンスが光る空間、そして行き届いたホスピタリティに、心から満足できる旅となりました。

「何もない」ことの贅沢さを思い知らされる、素晴らしい宿。全国から訪れるリピーターが多いというのも納得です。美しい自然と美味しい料理を味わえる「小屋場只只」へ、ぜひ一度、訪れてみてはいかがでしょう?
寺脇あゆ子

寺脇あゆ子

福岡を中心にグルメや旅などを中心に活動するフリーの編集者・ライター。美味しいものがあると聞けば、行かずにはいられないフットワークの軽さが自慢。主な仕事はグルメ情報誌「ソワニエ」、greenz.jpなど。

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