福寿園京都本店 1日1組限定「夜の茶会」とお茶を使ったフレンチを堪能

2018.03.14 更新

茶道の三千家があり、宇治茶の産地でもある京都。その魅力をひと味違う趣向で楽しむ体験が話題になっているのをご存じですか? 寛政2(1790)年創業の宇治茶の老舗「福寿園」の京都本店が1日1組限定で開く「夜の茶会」では、和ろうそくの灯りのもとでの茶席体験と、元銀座マキシム・ド・パリ総料理長・中野鉄也シェフによるお茶を用いた本格フレンチが堪能できます。

▲手燭(てしょく)の灯で楽しむ夜の茶会

老舗が提案する多彩なお茶の楽しみ方

四条通といえば百貨店やファッションビルなどが立ち並ぶ京都随一のメインストリート。その四条通と南北に走る富小路が交差する角に、220余年の歴史をもつお茶の老舗「福寿園」の京都本店があります。
▲7月の祇園祭では山鉾が巡行する四条通。その通りに面して立つ福寿園京都本店(写真左・写真提供:福寿園)

福寿園の創業は江戸後期の寛政2(1790)年。大阪・神戸に通じる木津川の船着場として、また大和・伊賀街道が交わる地として、物や情報の集積地だった山城国上狛(現・京都府木津川市)で茶問屋を営んでいたことに始まり、幕末から明治にかけては日本茶を世界へ送り出した茶商として全国にその名が知られています。また、現在では大規模な茶の研究所をもつ業界屈指の企業でもあります。
▲四条通に面した1階「京の茶舗」には京都本店オリジナルの玉露や煎茶、抹茶などが並ぶ

そんな老舗が2008年にオープンした京都本店は、地上9階、地下1階の10フロア。館内には京都本店限定の宇治茶のギフトや、オリジナルブレンド茶がつくれる工房、本格的な茶室の体験、レストランやカフェ、福寿園ブランドの茶器の販売など、さまざまなテーマでお茶の文化を発信しています。

内装は寝殿造りの蔀戸(しとみど)を思わせる格子のデザインが印象的で、黒御影石の外観は、夜になると通りを照らす行灯のような佇まいになり、街のランドマークとしても親しまれています。

和ろうそくの灯が照らす茶室で一服を

今回、体験する夜の茶会は「シェ・ナカノ風 夜のカジュアル茶会とフレンチディナーを楽しむ」と題した特別コース。1日1組のみ、4~8名で利用でき、3日前までに要予約です。

料理を手掛ける中野シェフは1960年代に渡仏して「マキシム」ほか本場のフレンチレストランで料理を学び、銀座マキシム・ド・パリで総料理長を務めた日本フレンチの先駆者です。
夜の茶会は夕方からスタートします。「きちんとお茶を習ったことがないので…」と今回体験する彼女。少々不安げですが、「そういう方にこそぜひ楽しんでいただきたい気軽なお茶席なんですよ」というスタッフの台詞が心強い!
▲4階にある京の茶庵。「無量庵」という扁額は裏千家の前家元である千玄室大宗匠(せんげんしつだいそうしょう)によるもの

エレベーターで4階に上がると、四条通の喧騒が嘘のような静けさの中、茶室がしつらえられています。蹲踞(つくばい)や飛び石のある露地を目の前にすると、ビルの中にいることを忘れてしまいそうです。
▲茶室の灯りは二つの手燭のみ

夜の茶会は、茶道の「夜咄(よばなし)の茶事」になぞらえた趣向になっています。もとは冬の夜長のなか、手燭の灯りだけで茶を楽しむというもので、福寿園京都本店では、京都観光や買い物、仕事の帰りにもお茶に親しんでもらえるよう、一年を通して行っています。
▲待合の代わりのテーブル席に運ばれてくるのは、手燭と白湯(さゆ)

ろうそくの灯りのもと、まずは白湯で心と体を鎮め、茶に向き合う準備。ほっとひと息ついたら、用意された草履に履き替えます。ご亭主が新しいろうそくを灯した手燭をもって露地口まで出迎えてくださり、こちらの手元にある古い手燭と交換します。この手燭の交換は夜咄の茶事の作法の一つ。
▲宵闇のなか、障子の向こうから露地へと運ばれてくるろうそくのゆらめきが幻想的

手燭の交換のあと、ろうそくの灯りで足元を照らしながら露地を進み、その奥に設けられた蹲踞で手と口をすすぎます。茶室のなかは清浄で平和な空間とされているので、入る前に生活の塵を落とし、無になれるよう身を清めるのだとか。
▲手燭を一旦脇に置き、左手、右手、口の順ですすいだあと、柄杓の柄を清める

蹲踞をつかったら、いよいよ茶室に入ります。草履の揃え方、障子の開閉の手順、にじり口からの入り方など、細やかに教えてもらえます。
▲小さなにじり口から畳の目に沿ってすべるように茶室の中へ

茶室のなかへ進んだあとは、手燭で照らしながら床を拝見します。茶道では、こうした設(しつら)えを堪能し、席のホスト役である亭主の趣向を感じ取って感想などを伝えるのも作法の一つです。この日の掛物は「福」の一字。花は冬の花の代表格である椿が生けられていました。
▲ろうそくの灯りで照らしながら床の間を拝見

席に着いたら、薄茶のお点前がはじまります。闇のなかで釜にはあたたかな湯が沸き、香がほのかに香ってきます。
▲お点前の間にお菓子が運ばれてくる
▲一礼してお菓子を懐紙に取り
▲お茶を出していただいたら一礼して茶碗を膝前に取ります

お抹茶は、茶碗を回し、正面を外していただきます。これは茶碗の絵柄を損ねないという心づかいと、謙虚な気持ちの表れなのだとか。
お茶は三口半でいただく、という作法もありますが、「まずはおいしく好きなように召し上がってください」というご亭主の言葉と笑顔に肩の力がほっと抜けた様子。最後は音を立てて吸い切り、泡沫を残さないようにします。

「お茶の香りがまるで心地よいアロマのようで、味も想像と違ってとてもまろやか。ほっとするってこういうことなんですね」と彼女も堪能できた様子。お茶をいただいたあとは、器を拝見します。泡沫を残さず吸い切ったのは、茶碗の裏まで見せていただくため。
▲大切な器を落とさないよう、身を低くして茶碗を拝見

この日の器は色彩鮮やかな福寿園オリジナルの抹茶椀。描かれた六つの瓢箪は六瓢(むびょう)を表し、「無病息災を願ってご用意しました」というご亭主の心づかい。「お茶がもてなしの文化といわれる意味がわかった気がします」と彼女。最後は和やかな笑顔を交わして席を辞しました。

茶庵では、昼間にも茶室での抹茶体験(一人2,700円・税込)を受け付けていて、観光客はもちろんのこと、茶会やちょっとしたお呼ばれの前に手順やマナーを確認したい、という人も訪れるのだとか。なるほど!の利用法ですね。

新感覚!お茶とフレンチの出合い

和ろうそくの灯りのなかで薄茶をいただいたあとは3階にあるレストラン「京の茶膳 シェ・ナカノ」に移動し、お茶をさまざまなかたちで用いた正統派フランス料理のディナーをいただきます。
▲ウエルカムドリンクは福寿園京都本店オリジナルの宇治茶「平安京 玉露」

4階「京の茶庵」とはうって変わった華やかな洋の空間。ウエルカムプレートとして各テーブルに並べられているのは、茶席の茶碗と同様、福寿園オリジナルの食器でそれぞれ1点ものです。

食前酒代わりに「水だし玉露」が出されるのもお茶の老舗がプロデュースするフレンチならでは。お湯ではなく、水で時間をかけてじっくり出した玉露はまさに贅沢な一品。「ひと口いただいてみてお酒の代わりというのも納得です。とろみを感じるほどまろやかで濃く、それでいて渋味がまったくない。こんな味のお茶ははじめて」と彼女も驚いた様子。
▲この日の前菜は「オマール海老のサラダ仕立て 抹茶風味」

伝統的なフランス料理の味を大切にする中野シェフの料理は、何といってもソースが絶品。これぞフレンチ!という深みのある味わいを堪能できます。

弾力ある歯ごたえのオマール海老は旨味たっぷりで、濃厚なソースと相性抜群。そこに抹茶が程よく香りを添えていて、シェフが思い描く料理の世界へ一気に引き込まれます。
▲「季節のポタージュ」。この日は聖護院かぶらが使われていて、上に乗っているのは抹茶の原料「碾茶(てんちゃ)」

中野シェフは、フレンチを本場フランスで学んだ先駆者であり、また、京野菜をフレンチに取り入れたパイオニアの一人。要所に伝統野菜が用いられていて、独特の滋味が楽しめます。

この日のポタージュに用いられていたのは聖護院かぶら。やわらかな甘味が特徴の聖護院かぶらは、クリームと合わせると味が負けてしまうのでは?と思いがちですが、スープのなかには角切りにしてやわらかく煮込んだかぶらが入れられていて、濃厚なクリームの風味のなかでかぶら独特の滋味が存在感を主張しているから不思議です。さらに、碾茶ならではの香ばしい風味がかぶらにマッチしています。
▲メインディッシュは「和牛のフィレステーキ ボーマニエール風トリュフ入りソース」

柔らかな和牛に添えられているのは、ポートワインをベースにトリュフを入れて煮込んだソース。深いコクとワインの香りが、レアに焼いていただいたお肉とぴったり合います。添えられているのはジャガイモのグラタンに、ニンジンと芽キャベツのソテー。こちらも余すところなくソースを付けていただきます。
▲京都ならではの王朝の気品を感じさせるレストラン

また、料理と一緒にいただいたのが、「煎茶スパークリングカクテル」(800円・税別)。すっきりとして口当たりよく、煎茶の風味がフレンチに合うのも驚きの発見です。
▲写真右は煎茶スパークリングカクテル。左は料理にかけていただく「食べるお茶」

テーブルにサーブされる「食べるお茶」も福寿園京都本店ならでは。料理にかけて楽しむことができ、写真右の抹茶は前菜や魚に、左の煎茶は牛肉や羊、鹿などによく合い、真中の碾茶はオールマイティに使えるといいます。シェフのソースとともにこちらもぜひ味わってみたいところです。
▲食後に出される「お茶を使った季節のデザート」

もちろん、デザートもお茶づくし。この日は、ほうじ茶のババロアに、抹茶とチョコレートのケーキと洋梨のシャーベットが添えられていました。

「どれもお茶の味がいままで食べたことないぐらい濃厚で贅沢ですね」と絶賛です。
▲コースの締めは「宇治茶のカプチーノと一口茶菓子」

京の食通のみならず、シェフのファンも通うというレストランの味を、夜の茶席とあわせて楽しめるなら、かなりリーズナブルといえそうです。

気軽なカフェやオリジナルブレンドの工房も

京都本店ではレストラン「シェ・ナカノ」のほかに、地下1階に産地別・品種別の宇治茶をそろえ、好みに応じてブレンドしてもらえる「京の茶蔵」もあり、お茶の淹れ方・ブレンド体験講座なども開催されています(いずれも予約制)。
▲好みのオリジナルブレンド茶をあつらえてもらえる地下1階「京の茶蔵」

5階「京の茶具」では福寿園オリジナルの茶器や茶道具を買い求められるショップもあり、茶席やレストランで使われていた茶器や食器ももちろん購入できます。
▲5階、茶器と茶道具の「京の茶具」
▲京都本店オリジナル商品「富小路」(ティーバッグ3g×10袋・缶入)玉露1,800円(右)、煎茶1,200円(左・いずれも税別)

また、2階の宇治茶を使ったスイーツが味わえるカフェ「京の茶寮」も人気です。

茶道とフレンチという、一見遠い間柄に見える二つを結んでいるのは、お茶ともてなしの心。それを上品に、スマートに提案してくれる特別コースは、海外から訪れる人をアテンドしたり、大人の女性がお友達同士で楽しむのにぴったりな体験です。体験を終えた彼女も「ひと口にお茶といっても、これほど楽しみ方があるんですね」と感心しきりの一夜だったようす。京都旅行を特別にしてくれる一夜になること間違いなしです。

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若林扶美子

若林扶美子

フリーのライター&プランナー。京都をはじめ関西を中心に、雑誌、書籍、PR誌の企画・執筆を手掛け、伝統文化や地域情報などを発信している。6匹の猫とともに滋賀在住。

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