3年に1度の「大地の芸術祭」。年々進化する、雪国が生み出すアートの祭典

2015.09.01

「越後妻有」と呼ばれる新潟県十日町市と津南町地域で行なわれる世界最大規模のアートの祭典「大地の芸術祭」。前回の記事では、開催前に芸術祭に関わるボランティアグループ「こへび隊」に魅力を語ってもらいました。今回は、実際に会場を訪れ、年々進化する大自然に包まれたアートの旅を体感してきました!

今年も過去最大の作品数!大地の芸術祭2015

新潟県の南端、長野県との県境にある十日町市と津南町は「越後妻有」と呼ばれる地域。「妻有(つまり)」は、「越後のドン詰まり……」と言われるほど奥深い行き止まりの地という意味。そんな地域を舞台に行なわれるのが「大地の芸術祭」です。地域を巻き込み年々進化し続けるこの取り組みでは、これまでに総数約1,000作品が作られてきました。

6回目を迎えた今回のテーマは【人間が自然・文明と関わる術こそが「美術」】。過去の芸術祭から、これまでに蓄積されてきた約200点のアート作品に加え、新作約180点。35ヶ国・地域の作家による合計約380点の現代芸術作品が公開されています。

作品の展示に加え、さらに、廃校が劇場に変わった越後妻有「上郷クローブ座」も開演。アジアを中心とするパフォーマーたちが、各拠点施設や集落を巡り公演するなど、イベントやパフォーマンスが充実。芸術祭は、年々進化し続けています。

芸術の旅の玄関口へようこそ!「キナーレ」

まずやって来たのは越後妻有里山現代美術館「キナーレ」。自然を巡る「大地の芸術祭」では珍しく、十日町市の町中にある美術館ですが、芸術祭の玄関口としても機能しています。

今回はこちらで作品鑑賞パスポートを購入。これを一冊持っていれば、会期中に各施設のアート作品や屋外作品をすべて鑑賞できます。(※作品への入館は1回のみ有効。2回目以降は、パスポート提示で通常の個別鑑賞料が半額に)
▲作品観賞パスポート 一般3,500円/高・専・大学生 3,000円(税込)
パスポートを使って「キナーレ」の中庭に一歩踏み込むと、芸術祭の代表作品、中国のアーティスト蔡國強 (ツァイ・グオチャン)による中国の伝承の「蓬莱山」が目前に飛び込んできました。
池の中央の島には滝が流れ、霧のような水蒸気が漂っています。周囲には、わら細工で作った舟や飛行機のオブジェが。
▲蔡國強 (ツァイ・グオチャン)/蓬莱山
宙を泳ぐオブジェの一つをよく見ると「空母」です。周りにも、戦艦や戦闘機が多く漂っていました。中国では仙人が住むと言われた蓬莱山。その周りには兵器が飛び回っている。込められたメッセージはどんなものなのか?と考えさせられました。
▲空母をかたどったわら細工
面白かったのは島の裏側!これにはどんな意味があるのでしょうか……?
▲ええ~!?ハリボテ??
その他にも、「キナーレ」には「大地の芸術祭」ではお馴染みの常設展示の数々や、飲食ができる「越後しなのがわバル」などが併設されています。
▲ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー/ゴースト・サテライトと蔡國強 (ツァイ・グオチャン)/火薬画≪島≫
▲越後しなのがわバル。この空間もアート作品。

廃校が舞台。土を使った作品満載の「もぐらの館」

「キナーレ」を後にし、十日町の北東、うぶすな・下条飛渡エリアへ。やってきたのは廃校を活用した土の美術館「Soil Museum もぐらの館」。2009年に閉校した東下組小学校を再生した今回の新作です。

お出迎えは、直径4メートル以上の土の球体。インパクト大!
▲大平和正/風還元「球体01」
かつて、子どもがこの学校に通っていたという地元のお母さん方が受付に。雑談をしながら、パスポートにスタンプを押してもらいます。地元の人が作品に関わっていて、そのお話を聞けるのがこの芸術祭の何よりの楽しみです。
▲受付の茅小屋
中に入ると、学校を大胆に作り替えた、まさに土の世界が広がっていました。ここでは、土の魅力を知る画家、左官職人、写真家、陶芸家、建築家、染織家、土壌研究者ら9組の作家が手がけた作品が展開されています。3階建ての校舎が土のアミューズメントパークに大変身!
▲縄と土で作ったオブジェがあちこちに
廊下も教室も床は木くずでふかふか!
▲日置拓人+本田匠/もぐらの散歩道
階段を登ると壁に一面の絵が!何とこれ、「土」で描いた絵なんです!下条地区の14種類の土に接着剤を混ぜて絵の具を作り、和紙に描いたそう。土でこんなに色が出せるなんて驚きです。
▲佐藤香/原子へと続く道
1万年の時間が刻印された土の絵画。まるでワイン蔵のような空間!
▲土壌モノリス――日本の土・1万年のプロフィール

「土」だけで、ここまで世界観を作れるとは……表現の奥深さを感じました。

まつだい「農舞台」のランチビュッフェで地元食材を満喫!

▲草間彌生「花咲ける妻有」

寄り道をしながら車を走らせ、気づけばもうお昼時。今回のお昼は、草間彌生の作品や、「棚田」でお馴染みのまつだい「農舞台」でいただくことに。まつだい駅と直結したこの施設は、約50の作品が点在する「里山フィールドミュージアム」の中心地です。

お目当ては、「越後まつだい里山食堂」。ここでは、20種類以上の里山料理を楽しめるビュッフェを開催。忘れられつつある郷土料理を生かした、新しい料理の形を提案しています。
▲里山ビュッフェは大人1,500円、小学生800円、幼児400円(税込)
もちろん、このレストラン自体も「大地の芸術祭」の作品。ジャン=リュック・ヴィルムートによる「カフェ・ルフレ」です。
水色の空間と、鏡のテーブルが非日常空間を演出しています。そして外にはイリヤ&エミリア・カバコフの「棚田」が。「大地の芸術祭」を代表する作品を眺めながら松代地域の食を堪能しました。美味!
▲イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」

まつだい「農舞台」には、食堂以外にもギャラリーや、ショップが併設されています。大地の芸術祭会期中、ギャラリーでは特別企画展「今日の限界芸術百選」が開催されています。
▲ショップ
▲特別企画展「今日の限界芸術百選」
周辺の城山一帯は約30点もの作品が点在するフィールドミュージアムが広がっています。じっくり見ていたらこのエリアだけで丸1日楽しめそうです。

背筋がゾクゾクする空間「最後の教室」

続いて足を運んだのは、キョロロ・松之山エリアにある、「怖い!」と人気のクリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマンの「最後の教室」。
2006年の作品で、廃校となった旧東側小学校を活用した回遊型インスタレーションです。1階から3階までの教室や廊下、そして体育館など校舎をフルに活用して、「人間の不在」を表現しています。

一歩踏み込むと、思った以上に暗い空間が。目が慣れるまでは暗闇で何も見えないくらい。だんだんに見えてくるのは、体育館に並べられた扇風機が、生暖かい風を起こして首を振っている姿。床に敷き詰められた藁の匂いがムンムンと立ち込め、何か怪しい雰囲気です。
▲扇風機が生暖かい風を送る不気味な体育館

暗い廊下に進むと、中を真っ黒に塗りつぶされた額縁が飾られ、元理科室らしき部屋では心臓の鼓動のような音が響いています。また、額縁が一面に飾られた部屋や、棺桶を想起させる透明な光るケースの展示など、なんとも重苦しい雰囲気。
▲暗く足元も見えづらい学校の廊下
▲校舎に響く鼓動に合わせて電球が点滅する理科室
▲教室で使われていた机が重ねられ、布がかけられた山
▲塗りつぶされた額縁はまるで遺影みたい
▲光る棺。霊安室に迷い込んだような緊張した空気が漂っていました
まさに「人間の不在」と言いますか、私たちが日頃生活している次元とは一線を画した時空に迷い込んだかのような衝撃を受けました。

スケール大の注目プロジェクト「土石流のモニュメント」

続いて、アジア芸術村・津南エリアへ移動。やって来たのは今回の注目プロジェクトの一つ「土石流のモニュメント」。長野県北部地震で起きた土石流の傷跡を約230本の黄色いポールで表現した作品です。
▲磯辺行久/土石流のモニュメント

一見すると大きな鋼製の円柱形をした砂防ダムが作品のようですが、違います。黄色のポールが作品です。土石流の原因となった長野県北部地震は2011年3月12日に起きた地震。その前日の3月11日に東日本大震災が起きたことからあまり報道されていませんでしたが、津南町で土石流の被害があったとは……
セル式砂防ダムは新潟県が建築した最先端の砂防ダム。そこにアートの側面から光を当てることで、ダムを見に来たり、災害の爪痕に触れる機会になっています。この日は展望台に登ることができ、上から砂防ダムを眺めることが出来ました。
(展望台は金・土・日のみ公開)
土石流の傷跡は広大で、黄色いポールが「どんな形で配置されているの?」と疑問を持つくらい全貌を眺めることはできませんでした。災害も同じで、現場に入ってしまったら、事態の全容は把握できないのかもしれません。災害というもののスケールの大きさを体感できました。
▲航空写真で見るとようやく作品の全貌がわかります
▲展示場所にあるプレハブ小屋には、妻有地域の土木工事の歴史が展示されている
▲砂防ダムのスケールの大きさも体感!

異色のアート!?「ザ キュウリ ショー」

キョロロ・松之山エリアに、公式ガイドブックで見つけたどうしても気になるアートが。それを見るために、古民家を墨で真っ黒に塗り、レストランとして再生した「黎(れい)の家」へやって来ました。
「これから8分で、僕がキュウリの美味しさを伝えるショーです」と、キュウリのプレゼンテーションをしてくれたのがEAT & ART TAROさん。ショーそのものがアート作品だという「ザ キュウリ ショー」です。
▲ ザ キュウリ ショーは別途500円(税込)で体験可能
TAROさんが妻有に来て、一番美味しいと驚いた食材がキュウリだったそう。どこにでもあるキュウリについて語るショータイムはキュウリ発祥の地や、世界のキュウリのウンチク。それを聞きながら、参加者は生食から始まり、漬物、シャーベット、キュウリ水など全10種類の食べ方でキュウリを味わうことができます。
▲さまざまなキュウリの食べ方を熱く語るEAT & ART TAROさん
▲キュウリシャーベット。はちみつの甘さとレモンの酸味、キュウリの香りの絶妙なハーモニー
▲キュウリの漬物。この他にも世界各国の調理方法を楽しめます
こんなアートもありなんですね!

ついつい寄り道したくなる!これが「大地の芸術祭」の醍醐味!

芸術祭を自動車で回っていると、気になるアート作品がたくさん目に入ります。「何か気になる!」と思ったら迷わずにGO!大自然のなかに点在する作品を手がかりに、そこで暮らす人たちや、自然に触れることができます。私たちも取材中についつい寄り道を楽しみました。
地元のお母ちゃん達が熱烈歓迎してくれる「うぶすなの家」
▲うぶすなの家
渋海川沿いに並ぶ、40人の赤ふん少年たち!
▲関根哲男/帰ってきた赤ふん少年
棚田に下半身だけの案山子が!?
▲関根哲男/原生―経つ土
集落の人と作家が一緒に鳥を作成!
▲キジマ真紀/鳥と小荒戸のものがたり
カラスの羽を使った制作に6年以上かけた大作!
▲古郡弘/うたかたの歌垣
主に繊維を取るための植物「からむし」。その繊維で織った布を、からむしで染めて飾った「からむしの部屋」を公開!
▲ドーヴ/からむしの部屋project
作品以外にも、直売所や飲食店、お店などを覗いてみると、妻有という土地の空気をより体感できますよ。

もちろん、ここで紹介した作品はごく一部。約380点もの作品が、東京23区よりも広い妻有の大地約760キロ平方メートルの大地に点在しているので、一度に回るのはほとんど不可能なくらい。どこをどう見たらいいか迷ってしまうという人は、公式ガイドブックを参考にしたり、テーマに合わせたツアーが多数企画されているので参考にしてみて下さい。

アートに導かれ、妻有の大自然と人の魅力に触れる旅へ、あなたも飛び出してみてはいかがでしょうか?
唐澤頼充

唐澤頼充

編集・ライター。新潟をもっと楽しくするWEBマガジン「にいがたレポ」編集長。農学部卒業後、マーケティング会社に勤務後、独立。現在はNPO職員として勤務する傍ら各種媒体で執筆活動を行っている。「情報流通量の多さが地域の豊かさ」をモットーに、地域に眠る資源をコンテンツ化し、発信する活動を行う。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
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