湯治場の風情が残る秘湯・肘折温泉郷で、洞窟の湯とレトロな雰囲気を楽しむ

2018.08.31 更新

山形県の北西部にある「肘折(ひじおり)温泉」は、開湯1200年以上の歴史を持ち、昔ながらの湯治文化を守り続ける小さな温泉地です。全国的にも珍しい炭酸泉や洞窟(あな)の湯、朝市や人力車…など多彩な魅力がいっぱい。湯治場の風情を感じられる、レトロな温泉地を満喫してきました。

▲アドベンチャー気分が味わえる「四季の宿 松屋」の洞窟

秘湯感漂う、山あいの小さな湯治場

飛行機を利用すると山形空港からバスで約1時間20分、山形新幹線を利用すると終点のJR新庄駅からバスで約1時間のところにある「肘折温泉」。四方を山に囲まれ、冬になると多いときで4mもの積雪があることから、全国でも有数の豪雪地帯として知られています。
▲山々に囲まれた温泉地

肘折温泉の開湯は807(大同2)年、平安時代前期に遡ります。その昔、肘の骨を折った老僧がお湯に浸かったところ痛みが癒えたという逸話から、その名が付いたと言われています。
▲どこか懐かしく、風情ある佇まいが残る温泉街

2018年8月現在、営業している旅館は20軒。湯量が豊富な温泉地ということもあり、どの旅館もかけ流し。昨今は短期宿泊客が多い肘折温泉ですが、昔から湯治場(病気の治癒を目的とした人々が長期滞在する温泉地のこと)として栄えてきました。農閑期になると、農家の人達が農作業の疲れを癒すためにも長期滞在していたそう。
▲人力車が絵になる街

自炊場が設けられている旅館も多いので、かつては自炊をしながら1週間以上滞在する湯治客もいたそう。ただし、現在は完全自炊ではなく、食事を出してもらう「半湯治」が主流になっています。

しゅわしゅわの炭酸泉が楽しめる、個性豊かな日帰り温泉「カルデラ温泉館」

温泉地には日帰り入浴ができる施設も点在しています。食事や会合などにも利用される「肘折いでゆ館」や地元民も多く集う「上ノ湯」など、その個性もさまざま。
▲温泉街の入り口にある「肘折いでゆ館」(営業時間/4~10月9:00~19:00、11~3月10:00~17:00、定休日/第2・4火曜、入浴料/400円税込)
▲温泉街の中心地にある「上ノ湯」(営業時間/8:00~18:00、定休日/木曜午前、入浴料/大人250円、小人100円税込)

なかでも温泉街から5分程車を走らせたところにある「カルデラ温泉館」は、日本では珍しいサイダーのような天然の炭酸泉を体験できる施設です。
▲個性的な外観の「カルデラ温泉館」

男女別の大浴場と男女入れ替え制の露天風呂があり、自然の移ろいを目の当たりにしながら、ゆっくりと入浴を楽しむことができます。炭酸泉は、内湯とは別に大浴場の一角に浴槽が設けられています。
▲緑を眺めながら入浴できる大浴場 ※炭酸泉ではないほうの内湯(写真提供:大蔵村観光協会)

炭酸水の水温はなんと約8度。全身浴ではなく、手と足のみをつける部分浴で楽しみます。温かい内湯と交互に浸かると、体の芯からぽかぽかしてきますよ。
▲「肘折カルデラサイダー」は1本280円(税込)

「カルデラ温泉館」に湧いている天然の炭酸冷鉱泉を10%加えて使った「肘折カルデラサイダー」も肘折ならでは。ピリッとした炭酸とすっきりとした甘さが特徴です。「カルデラ館」以外にも温泉街の施設や商店、飲食店で購入できますよ。

冒険心をくすぐる「洞窟(あな)の湯」がある宿

日帰り温泉もいいけれど、せっかくなら宿泊して温泉地を満喫しましょう。
今回宿泊するのは、全国的にも珍しい“洞窟の湯”のある宿「四季の宿 松屋」。
▲温泉街の中心部に位置する「四季の宿 松屋」

江戸時代から昭和初期にかけて、この地区を流れる銅山川(どうざんがわ)の源流近くに、日本三大銅山の一つと呼ばれた「永松(ながまつ)銅山」がありました。松屋の歴史は、そこで働く坑夫たちを泊めたことから始まります。

洞窟の湯を掘ったのは大正時代から昭和の初め頃のこと。隣りの旅館から買い受けた岩風呂に館内からも行けるようにしたいと、坑夫たちの力を借りて掘ったそうです。
▲洞窟の湯を利用できるのは宿泊者のみ。男女交互に入浴時間が決められています。貸切でも利用可能(貸切時の利用時間は30分、料金は1人500円)

暖簾をくぐり、スリッパに履き替え、ワクワクしながら洞窟のほうへ。所々に設置されている照明のぼんやりとした灯りだけを頼りに進んでいきます。
▲洞窟の高さは1m80cmほどで、全長は約45m
▲「どれだけの時間を費やしたのか」と、岩肌の手掘り跡に感動しきり!
▲洞窟の先に見えてきたのは…

秘湯感あふれる洞窟の湯が目の前に現れました!神秘的で厳かな雰囲気が漂う空間。一度は入ってみたくなる独特な趣のあるお風呂です。
▲左手は3人分の脱衣篭が用意されている脱衣所
▲洞窟の湯は自家源泉を利用した天然温泉100%かけ流し

プライベートな雰囲気が漂う岩風呂は2~3人が入れる程度の広さ。シャワー設備はなく、シャンプーや石けんの利用もできません。泉質はナトリウム塩化物炭酸水素塩泉で泉温は42度と高め。短時間でもじわっと温まります。
▲効能の表示板もレトロな雰囲気

松屋では洞窟風呂の他にも男女別の大浴場があります。すべて源泉100%かけ流しで、泉質は岩風呂と同じです。泉温は65度以上あるため、42度まで冷まして利用しています。こちらにはシャワー設備もあり、シャンプーや石けんを利用することもできます。
▲やませみの湯(女湯)

客室は全13部屋。8畳と10畳の部屋があり、いずれも昔ながらの風情を残す純和風の部屋です。
▲落ち着いた10畳の和室
▲食事会場でいただく、地元の食材を存分に活かした自慢の料理。料金によって料理の変更や追加が可能です(写真提供:四季の宿 松屋)

「山形牛をはじめとする山形のブランド食材や、地元最上(もがみ)地方で採れる山菜やきのこ、庄内浜に水揚げされる旬の海の幸をたっぷりと召し上がってください。地粉で打った十割そばは打ちたて、茹でたてをお出ししています」と語るのは、常務であり料理長でもある高山茂さん。
▲祖父と父の思いを継ぐ、3代目の高山茂さん

ここでしか入れない洞窟風呂と、ここだから味わえる郷土料理に舌鼓を打ちながら、贅沢な時間を過ごしてみませんか?

幻想的な灯りの祭典!夏の風物詩「ひじおりの灯」

毎年7月下旬~9月中旬の期間限定で、旅館や商店の軒先をはじめとする温泉街の各所に八角の灯籠が灯されます。開湯1200年を迎えた2007年の夏から毎年行われている灯籠絵展示会「ひじおりの灯」は、山形市にある東北芸術工科大学(以下:芸工大)と肘折地区による共催イベントです。
▲アーティストたちの制作による灯籠が温泉街のあちこちに飾られる(写真提供:ひじおりの灯実行委員会)

芸工大の学生をはじめ、アーティストやデザイナーといった芸工大の卒業生たちが温泉街に滞在し、数カ月かけて制作した灯籠を、毎年夏の夜に点灯します。湯治場の夜に灯る美しい灯籠の絵がノスタルジックな世界へと誘ってくれます。
▲ほのかな灯りは肘折温泉の夏の風物詩(写真提供:ひじおりの灯実行委員会)
▲灯籠の絵は人それぞれ。個性あふれる絵が完成(写真提供:ひじおりの灯実行委員会)

翌朝は肘折温泉名物の朝市を楽しむ

肘折温泉には、古くから親しまれてきた名物の朝市が存在します。長期滞在する湯治客は、朝市に出店している“おばちゃん“たちと触れ合い、そこで新鮮な食材を購入して滞在中の料理をつくっていました。湯治客にとって、朝市は無くてはならないものだったのです。
▲温泉街には朝から元気な声が聞こえます(写真提供:大蔵村観光協会)

店を出すのは地元朝市組合の女性たち。4月下旬~初雪が降る頃まで、毎朝早くから自分の家で育てた野菜や山菜、果物、自家製の笹巻きやおこわなどを道端に並べて販売します(5月~8月5:30~7:30、4月下旬・9月~降雪前6:00~7:30)。

常連客も多く、おばちゃんたちとの掛け合いに笑い声も。肘折温泉ならではの光景が繰り広げられます。

旅の思い出に、人力車でレトロ街巡り

ゆっくりと時間が流れる温泉地には人力車が似合います。そこで、温泉地を後にする前に、人力車での街巡りを楽しんでみることにしました。
▲車夫の佐藤則夫(のりお)さん。80代とは思えない矍鑠(かくしゃく)とした姿は日々の訓練の賜物

もともと路線バスの運転手だった佐藤さんが人力車を始めたのは定年退職直後の1997(平成9)年。「生まれ育った肘折の田舎の風景に合う人力車を走らせることで観光客に楽しんでもらえれば」という思いからの決断でした。佐藤さんは肘折温泉で唯一の車夫として活躍しています。
▲通常乗車は2人から。今回は特別に1人で乗せていただきました
▲街角にはこんな「おふれ」が!

コースは30分(2人で2,000円・税込)と55分(2人で3,000円・税込)の2通り。乗車を希望する場合は、宿泊先の旅館に申し込むと各旅館まで迎えに来てくれます。
▲佐藤さんとの会話も素敵な旅の思い出に

宿泊した松屋から100mほど進んだところにある「旧肘折郵便局」は、温泉街のシンボル。レトロ感たっぷりの建物はインスタ女子にもおすすめしたいフォトスポットです。通常は内部見学できませんが、ミニコンサートやイベント会場として活用されているのだとか。
▲1937(昭和12)年に建てられ、1995(平成7)年に局舎が移転するまで郵便局として使われていました

せっかくなので、温泉街を流れる銅山川の上流部にある「肘折ダム」のほうまで特別に案内していただきました。途中、昔懐かしいだんご屋さんを発見!地元で有名な「羽賀だんご店」です。
▲営業は9:00~16:00、夏季は不定休、冬季 (12月上旬~4月中旬)は休業

棒状の餅を輪切りにした素朴なだんごはなめらかで、つるっとした喉ごしです。種類は、あんこ、しょうゆ、ごま、ぬた(枝豆を潰したもの)の4つ。だんごはすべて1串100円(税込)というのもうれしいですね。

店内でも食べることができますが、注文があれば旅館の部屋まで配達してくれるサービスも。
▲甘さ控えめのしょうゆ餡とぬただんご。だんごの他にお餅も店内で食べることができます

だんご屋さんから徒歩1分ほどで銅山川沿いにある「源泉公園」に到着。ここは、温泉街の一番端にある絶景ポイント!

「源泉公園」の中にある、共同の足湯「初恋足湯」でひと休み。可愛いネーミングは、肘折ダムの建設時に若い男女が手伝いに参加し、その時に多くのカップルが誕生したことに由来しているんだとか。
▲少々熱めの「初恋足湯」に入りながら自然を満喫。奥に見えるのは1952(昭和27)年に建設され、登録有形文化財にも指定されている「肘折ダム」です

温泉に泊まり、人力車体験もできた2日間。肘折温泉は街全体がコンパクトなので、老若男女問わず負担なく散策でき、行き交う人たち同士が「こんにちは」と挨拶し合う、身も心もあたたまる温泉地でした。

昔ながらの湯治や一泊型の短期宿泊、散策しながらの日帰り入浴と、自分に合ったスタイルで楽しめる温泉郷です。人の温かさに触れながら、自然に囲まれた山あいの秘湯で至福のひとときを過ごしてみませんか?冬の肘折温泉も格別ですよ。
▲冬に開催される「幻想雪回廊」(例年1月下旬~2月中旬の特定日開催)も風情がある
撮影:佐藤友美
佐藤昌子

佐藤昌子

エディター&ライター。山形県知事認可法人アトリエ・ミューズ企業組合専務理事。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。

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