中山道の宿場町「奈良井宿」で、ノスタルジックなカフェや雑貨巡りの旅

2018.06.27 更新

江戸時代に京都と江戸を結んだ中山道。そのちょうど真ん中に位置する長野県木曽谷(きそだに)に、南北約1kmに広がる日本最長の宿場町「奈良井宿」があります。江戸時代にタイムスリップしたような情緒ある町並みには、宿場時代そのままの老舗旅館や千本格子の家々などが残り、今なお人々の暮らしが息づいています。そんな奈良井宿で、古民家カフェやレトロな雑貨店など、乙女心をくすぐるおすすめ町歩きスポットを巡る旅をご紹介します。

往時の面影が色濃く残る奈良井宿の町並み

参勤交代のほか、大名や皇族のお輿入れにも盛んに利用された中山道。中でも最大の難所と言われた標高1,197mの鳥居峠の北に位置する奈良井宿は、交通の要として、また峠越えに備える旅人の癒しの場として栄えました。

近世では大きな火災も起きなかったことから、今でも往時の面影を色濃く残した美しい町並みが南北約1km、東西約200mに渡って広がっており、重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
▲まるで、江戸時代の浮世絵に描かれた旅人が飛び出してきそうな、古きよき景色

また、面積の9割以上を森林が占める木曽谷では、檜物(ひもの)細工や塗物などの木工業が栄え、江戸時代、奈良井宿で販売される漆器や塗櫛は旅人のお土産品として高い人気を集めました。今でも街道の両側には木工品を扱う漆器店や土産物店が並んでいます。
▲江戸時代、優れた技術と持ち運びやすさからお土産品として人気だった木曽漆器や櫛。写真は長野県の伝統工芸品にも指定されている「お六櫛」

歴史ある寺や神社、旅人の喉の渇きを癒してきた水場など、江戸時代の面影が町のあちこちに残るのも奈良井宿の魅力です。
▲街道沿いには沢水や湧き水を利用した6カ所の水場が。中山道はこのような水場を多く有し、東海道に比べ水の不便がほとんどなかったことから女性も多く歩いたとか
▲奈良井宿の鎮守「鎮(しずめ)神社」。町の南端・鳥居峠の入り口に位置しています

そうした町並みの中に、今ではおしゃれな雰囲気のカフェや雑貨店などが増え、歴史好きはもちろん、レトロ好きな女子からも人気を集めています。
▲昔懐かしい雑貨に心をくすぐられます

街道の北の入り口にはJR奈良井駅があり、他の長野県内の宿場町に比べて電車でのアクセスも便利。近年はレトロ好きな若者のほか、多くの外国人も足を運んでいます。

レトロ可愛い商品がずらり!見るだけでも楽しい【湖月堂】

奈良井駅から歩いて4分ほどの場所にあるのが、古い陶器や漆器、古家具などさまざまな商品を取り扱う「湖月堂(こげつどう)」。店主で木工職人の小平こずえさんが、かつて祖父が営んでいた同名の和菓子屋の建物を1年かけて改装し、2008年にオープンさせました。
▲店先にも多くの商品が溢れる「湖月堂」

1階にはフラッと立ち寄った観光客でも気軽に買える器類や木工雑貨など小さいもの、2階には古家具や小平さんが製作した家具などの大きい木製品が所狭しと並んでいます。リピーターも多いため、何度来ても以前と違うものがあると感じてもらえるよう、商品の回転を考えて価格はおさえめにしているそう。
▲店先には100~200円ほどのおちょこなども。手頃なお土産としても大人気
▲独特の深みを感じさせる商品が並ぶ1階。小さなお子様連れの方は商品の落下にご注意を
▲店主の小平さん。後ろの木製の階段を上って2階へ
▲1階よりも小さな空間には、家具や木箱などの木製品が
▲2階から1階を眺めた様子。吹き抜けの面白い構造の建物

店内には、手染めの麻バッグやかごなども並びます。実は全て小平さんのお手製。オーダーメイドの家具や小物製作の注文、修理も可能です。
▲苔玉も小平さんの手作り。こちらはヒノキの入れ物に入ったもの(角型500円、卵型800円 ※ともに税込)。ヒノキの種が入っており、いずれ小さな芽がヒノキらしい葉に育って、よい香りがするのだそう
▲こちらはさまざまな木で作られたメジャー(税込2,600円)。なぜか外国人に妙にウケるのだとか

奈良井宿の昔懐かしい空気に馴染みつつも、個性的な存在感を放つ「湖月堂」。建物の造りもユニークで、探検気分で買い物が楽しめるのも魅力です。

奈良井宿の名産の漆製品や工芸品をおしゃれに提案【漆アート花筏】

奈良井宿には昔ながらの漆器や伝統工芸品を販売するお店が多くあります。なかでも、今の時代に合った和洋を問わず使える工芸品を求めるなら「漆アート花筏(はないかだ)」へ。「湖月堂」から南へ向かったすぐの場所に位置しています。
▲手書きの看板が掲げられた「漆アート花筏」

結婚を機にこの町に移住したオーナーの高谷すみ子さんは、隣接する平沢地区にある漆芸の学校で5年間勉強。その後、1996(平成8)年に自宅の土間と居間を生かしてこの店をオープンさせました。
▲地元の職人の手作りにこだわり、ストーリー性のある伝統工芸品が並びます。高谷さんが一つひとつの物語を紹介してくれます
▲高谷さんの感性を生かしたアートを感じる商品がずらり

「花筏」とは葉の上に花を咲かせ、やがて黒い実になる山野草のこと。高谷さんは友人の誘いで出かけた山野草教室でこの植物に出合って、その愛くるしさに惹かれ「花筏」という名前を冠した店を開きました。
▲店の軒先にはシンボルの「花筏」が。葉の上の小さな実が次第に黒くなり、その様子がまるで船頭のように見えることから名付けられました

おすすめの商品のひとつが、かつて鳥居峠の近くに多く生えていた、木目が詰まった硬いミネバリの木で作られる伝統工芸品「お六櫛」。歯が細かい梳き櫛です。

その品質のよさから皇室にも献上され、近年はメディアからの注目も集めて人気が高まっているものの、残る工房はわずか数軒。なかなか手に入りにくい貴重な工芸品ですが、こちらでは「信州ものづくりマイスター」に認定された篠原修さんが手がけるオリジナルの「お六櫛」を、地元ならではのお値打ち価格で常時提供しています。歯先がなだらかなカーブを描くようにデザインされており、頭皮への当たりがやさしく、高いマッサージ効果もあります。
▲「お六櫛」という名前は、美しい娘「お六」が頭痛に悩んで木曽御嶽山に願掛けしたところ、「ミネバリの木で作った櫛で髪を梳かせば治る」とお告げを受けたという伝説に由来します

ほかにも、器やアクセサリーなど、「ここにしかないオリジナル」の製品を中心としたアイテムが所狭しと並んでいます。
▲こちらは高谷さんが高さや角度など木地からデザインした塗物のお椀(税込8,600円)
▲一番人気のオリジナルの香りのお香(税込1,080円)。高谷さんが花言葉をヒントに香りを考え、同市内にあるお香製造会社が開発しました。お香立て(税込1,260円)も花筏の形
▲赤色が鮮やかな山珊瑚のネックレス(税込1,800円~3,000円)も人気
▲花筏の形のアクセサリーもおすすめ(税込2,800円〜)

「伝統を受け継ぎ、使っている時に幸せや豊かな気持ちを感じられる商品を並べています」と高谷さん。「大切な人や自分のための特別なお土産」を購入できるお店です。

ゆったりとした心豊かな時間を過ごせる【カフェ深山】

買い物や散策を楽しんだあとは、落ち着いた空間でひと休みしませんか。ぜひおすすめしたいのが「カフェ深山」。街道沿いから少し外れ、奈良井駅から名所「木曽の大橋」方面に向かって徒歩数分の場所にあります。古民家風の建物が目印です。
▲道の駅「木曽の大橋」駐車場のすぐ隣。奈良井宿の町並みとはまた違った雰囲気の風情ある佇まい
▲近くには「木曽の大橋」が

扉を開けると、奈良井宿ののんびりとした空気にふさわしい、広く穏やかな空間が広がります。高い天井に渡る立派な梁の落ち着き、温もりと深みを感じさせるテーブルや椅子、店内の中央を彩る花々や窓際にそっと飾られた一輪挿しの野花、立派な一枚板のカウンター席、緑の木々がのぞく窓…、随所にさりげないセンスが光っています。
▲落ち着きのある店内。中央には常に花が。この日飾られていたのはアルストロメリアのアレンジ

営むのは、小林里子さん。古くはご主人とこの地で材木屋を営んでおり、2003年、材木屋時代の事務所を手直ししてカフェを開きました。
趣のある建物や丁寧な接客、穏やかな空間づくりが少しずつ評判になり、口コミが広がって多くの人が訪れるように。2008年に道の駅の建設に伴い建物が取り壊しになったため、一度閉店したものの、その3年後の2011年に古材を活用して新店舗を設計し、再オープンさせました。
▲カウンターの先に広がる窓のそばにはエサを設置。毎日山からエサを食べにくるさまざまな野鳥の姿を見られるそう

カウンターに使っている一枚板のケヤキは、材木屋に残っていたもの。独特の懐かしさとセンスを感じる椅子も、材木屋時代の事務所で使っていたものを活用しています。なお、カウンター席の目線の先を壁ではなく窓にしたのは、より開放感を得るためだそう。
▲かつての雰囲気も伝わるように設計し、テラス席も新設

小林さんの店づくりの思いは「奈良井宿を訪れた人にゆっくりと楽しんでほしい」というもの。そのために、コーヒーや軽食などには毎朝野山から摘んできた野花を添えています。こうした心遣いに感動し、野花を持ち帰って自宅に飾ったり、「来店するたびに違う花が添えられていて楽しい」と話したりするお客さんもいるのだとか。
▲この日、オリジナルブレンドの「トアルコトラジャコーヒー」(税込450円)に添えられていたのは二輪草とカキドオシの花。勾玉をイメージしたお盆は木曽ヒノキの曲物で、地元の伝統工芸士に依頼したオリジナル

また、看板メニューの「100年前のライスカレー」(税込950円)はぜひ味わってほしい一品。インパクトがあり、ここにしかないものを提供したいという思いから生まれた、ほどよい甘さのカレーです。
▲インパクトのある盛り付けに、手作りの乾燥パセリが彩りを添えています

レシピは、100年以上前の1903(明治36)年に発行された雑誌「家庭之友」第1巻5号に掲載されていた、カレーの作り方にアレンジを加えたもの。何度も試行錯誤を重ねた末、現在のレシピにたどり着きました。玉ねぎをバターでアメ色になるまでじっくりと炒め、そこに牛肉や数種類の野菜とオリジナルブレンドのスパイスを加え、丸5日間かけて煮込んでいるとのこと。牛肉や野菜は煮溶けてしまっていますが、素材のやさしい旨みが引き立つ味わいです。
▲「子どもも食べられるほどやさしい味わいのカレーです」と小林さん

また、「えごまだれおはぎ」(税込702円)も自慢のメニューです。信州産のもちきびと米で作ったおはぎに、木曽産のえごまをすりつぶしたオリジナルのタレが絡んで絶品!箸休めに添えられた手作りのきゃらぶき(フキの茎を醤油などで煮詰めたもの)もやさしい味わいです。
▲えごまの味わいが引き立つ「えごまだれおはぎ」
▲店内一角には、昔ながらのおもちゃやポスター(非売品)が並べられ、和裁の小物入れや「お六櫛」などを販売するおみやげ売り場も
▲冬場は閉鎖される北側の一角は、また違った雰囲気。どこか昔の学校のよう

木曽谷名物の五平餅を味わうなら【喫茶たなかや】

旅先では、その土地ならではの郷土料理も楽しみたいもの。木曽谷は五平餅が有名ですが、「喫茶たなかや」のものはひと味違います。
▲奈良井宿の街道のちょうど真ん中あたりに位置する「喫茶たなかや」。その昔、鳥居峠越えに使われたとされる「山かご」が目印
▲テーブル席とカウンター席がある店内。夏場は窓が開放され、店内から街道を眺めることもできる

こちらの五平餅は、しょうゆと味噌、くるみ、えごま、ゴマ、さらに山椒をミックスしたオリジナルのタレが特徴。店主の田中和人さんのお母様が1975(昭和50)年にこのお店を創業し、五平餅のレシピを30年以上前に考案したそうです。
▲注文後に五平餅を焼き始めると、店内に香ばしい香りが広がります

「山椒がピリッと効いた味わいです。昔から五平餅に山椒を入れるレシピはあったそうですが、『初めて食べた』というお客さんも多いですよ」と田中さん。山椒以外にもえごまやくるみがアクセントになり、複雑な味わいは癖になるほど。焼き置きをしておらず、注文されてから焼くので、できたての香ばしい味わいが楽しめるのもいい!
▲さくら茶が付いた「五平餅」(税込300円)
▲店主の田中さん

持ち帰りもできるので、五平餅片手に奈良井宿をそぞろ歩き…なんて楽しみ方もできます。お土産として何本も買っていく人もいるのだとか。このほかにも、お昼時には、「小盛りの信州そばと五平餅のセット」(15食限定・税込800円)が一番人気で、豆を手挽きするコーヒー(税込400円)もおすすめです。

奈良井宿の歴史を感じる散策も楽しんで

ほかにも、奈良井宿には元櫛問屋で市指定有形文化材の「中村邸」や、樹齢数百年の杉の大樹が続く「中山道杉並木」、幾多の旅人の足跡を刻んだ石畳、隠れキリシタンたちの悲しい歴史が刻まれた「マリア地蔵」など、この地の歴史を感じさせるスポットが数多くあります。
▲典型的な民家造りの家を保存し、資料館として公開されている中村邸
▲奈良井駅からもほど近い中山道の杉並木
▲町の中ほどに位置する「大宝寺」境内にあるマリア地蔵
▲旅人たちの荷物を宿場から宿場へとリレー方式で受け継いだ宿継ぎの駄賃を定め、宿場間の距離を測る基点にもなっていたという高札も残ります
▲この日は鳥居峠を徒歩で越えてきた多くの高校生もいました
▲和装姿の人も。町並みとよく合います

電柱も電線もない町並みにさまざまな年齢や国籍の人が集う様子は、遠い時代の旅籠の活気ある光景を蘇えらせたかのよう。女子旅にもおすすめな個性豊かな店舗を訪ねつつ、奈良井宿の歴史を感じながら、フォトジェニックな町並みの散策を楽しんでくださいね。
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

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