標高1,800mの乗鞍高原で、初心者も子どもも楽しめる絶景トレッキング

2018.08.22 更新

北アルプスの乗鞍岳(のりくらだけ)山麓に広がる乗鞍高原。原生林や池、湿原、個性的な滝などダイナミックな自然を楽しめることから、四季を通じて多くの観光客が訪れています。さまざまなアクティビティを楽しめるスポットとしても人気。そんな乗鞍高原の魅力を、気軽なトレッキングツアーで体感してきました。

大自然を満喫できる山岳リゾート乗鞍高原

3,000m級の山々が連なる北アルプスを中心とした「中部山岳国立公園」の南端に位置し、長野県松本市の山岳エリアに広がる乗鞍高原。活火山である乗鞍岳から流出した溶岩によって形成されており、自然が豊かなことから多くの動植物が生息しています。夏の避暑やグリーンシーズンの登山、パウダースノーのスキーや4つの源泉がある温泉など、さまざまな魅力にあふれ、1年を通じて多くの人々が訪れています。
▲日本百名山の一座である乗鞍岳。標高3,026mの主峰「剣ヶ峰」をはじめとする23の峰と7つの湖、8つの平原からなります

また、乗鞍岳は高原エリアから山頂エリアへと車道が整備され、日本アルプス3,000m級の山の中でももっとも楽に登れることで知られています。山頂方面は自然環境を守るためのマイカー規制が実施されているので、登山をする場合は乗鞍高原でバスかタクシーに乗り換えて登山口に向かいます。

そんな乗鞍高原で、さまざまなツアーを展開しているのが「リトルピークス」。個性豊かなガイドが、トレッキングや登山、シャワークライミングのほか、冬のスノーシューやファンスノーなど、山や川の楽しいアクティビティを案内しています。
▲シャワークライミングは小学生から参加可能

今回は「リトルピークス」で、乗鞍高原の魅力を半日で楽しめる「乗鞍高原ガイドトレッキング ハーフDAY」に参加してきました。アウトドア初心者や家族連れにもおすすめのトレッキングツアーです。
通常の集合場所は乗鞍岳山頂シャトルバスの発着所でもある観光案内所「乗鞍観光センター」ですが、今回は「乗鞍BASE」へ。2018年春にリニューアルした乗鞍高原のアウトドアの発信基地で、アスレチックやキャンプ場が整備されており、マイカーでのアクセスも可能です。「リトルピークス」の夏季の事務所もあります。
▲乗鞍岳が一望できる最高のロケーションの「乗鞍BASE」。アドベンチャーパークやマウンテンバイク、マレットゴルフ等のアクティビティが楽しめます
▲「リトルピークス」の夏季事務所。「乗鞍高原ガイドトレッキング ハーフDAY」は9~12時、13~16時の1日2回開催

今回、案内してくれたのは、「リトルピークス」代表の小峰邦良(こみねくによし)さん。スノーシューやネイチャースキー、シャワークライミング、トレッキング等のガイドをこなします。
▲通称“みねちゃん”。岐阜県のアウトドア企画会社でのガイドを経て、2015年に「リトルピークス」を設立

まずは小峰さんから、ツアー参加にあたっての注意点をうかがいます。自然の中での活動には日常生活にはない危険が潜んでいることや、ガイドの指示に従うこと、健康状態が良好であることなどを確認し、参加承諾書に記入します。ツアー料金にはガイド料や歩くためのストック、雨天用の登山スパッツ(ゲイター)のレンタル料は含まれていますが、傷害保険料100円は含まれていないので、別途支払いを。動きやすい服装と靴、日除けの帽子や雨具などは自分で用意しましょう。
▲レンタル用のストックはカーボン製で軽く、タコ足のようなパッドが地面をしっかりとグリップする滑りにくい仕様

なお、乗鞍高原にはいくつかの散策コースがありますが、今回の「乗鞍高原ガイドトレッキング ハーフDAY」では季節ごとの見どころや参加者の希望に応じてルートをセッティングしているのだとか。

「今日は標高1,590mまで登り、1,380mまで下りながら、標高差250mほどを行き来する約3時間のルートにしましょう」と小峰さん。そこで、まずは起点になる「休暇村乗鞍高原」まで車で移動し、ここからいざ、トレッキングスタートです!
▲「乗鞍BASE」から車で10分ほどの「休暇村乗鞍高原」。冬はスキー場のゲレンデになります。歩き始める前には準備体操を

「リトルピークス」のトレッキングツアーで特徴的なのが、先にも紹介した2本のストックを利用すること。ポールのグリップはストラップに手を通すタイプ。歩行時の自然な腕の動きに合わせてポールを動かしやすい仕様で、片手で簡単にストラップの着脱が可能なので写真を撮りながらも歩けます。
▲ポールウォーキングで山歩きを楽しみます

このポールウォーキングにはディフェンシブスタイルとアグレッシブスタイルという歩き方があり、今回はより運動強度が高いアグレッシブスタイルで歩きます。
▲小峰さんの筋肉質な体がアグレッシブウォーキングの効果を物語っているよう!

腕をしっかりと前に出し、タイミングに合わせてポールを地面に突いて斜め後ろに押す推進力を生かしてぐんぐん前に進みます。さらに、手はグーとパーの動作(グリップを握ることと離すこと)を繰り返すことで、通常のウォーキングよりしっかりした腕の振りができるうえ、指先を使うので腕の血行もよくなるのだとか。

難しそうですが、やってみると自然な動きの中で取り入れられるので、案外スムーズにできます。

手つかずの自然が残る太古の森へ

しばらく車道を歩くと「原生林の小径」の入り口にたどり着きました。その名の通り、何千年もの間変わらずに森を形成してきた原生林の様子がよくわかるルートです。
▲この看板が入り口。針葉樹の森が広がる「原生林の小径」を進みます
▲ダケカンバやコメツガ、シラビソといった樹木が生い茂る森の中。歩くのにやさしいウッドチップが敷かれています
▲木の幹に番号札が掲示されている「原生林の小径」。1~40番の札を順番に探して歩けば迷うこともありません

「これを見てください」と小峰さん。見ると、根が浮き上がった木がありました。
▲「根上がり現象」の木

木は風雪などで倒れると地面でだんだんと腐敗し、それを栄養として新しい苗が成長します。そして、倒木の上に生えた木は、倒木が腐敗した後に根が地上に浮いた状態で残ります。「根上がり現象」とよばれるもので、「原生林の小径」ではこうした現象が至るところで見られます。
▲倒木から新しい木の芽が生まれる「倒木更新」が貴重な樹木の命になっています

このように自然が長い年月をかけてつくりあげ、循環のサイクルが完成した森は「クライマックスの森(極相林)」とよばれているのだそう。

歩き始めてほどなくして見つけたのが、白く透明感のあるギンリョウソウとよばれる植物です。6月下旬~7月上旬に咲く植物で、光合成に必要な葉緑素をもたないため自力では生存できず、菌類と共生しています。この不思議な植物の観賞を目当てに散策する人もいるのだとか。
▲ギンリョウソウは漢字で書くと銀竜草。確かに銀色の竜のようですし、別名「ユウレイタケ」の通り、幽霊のようにも。神秘的な雰囲気が森の妖精のようでもあります

ほかにも、ちょうど見頃を迎えていたゴゼンタチバナやイチヨウランなどの花々を見ることができました。
▲ゴゼンタチバナは葉が4枚では花がつかず、6枚になると花が咲くという不思議な高山植物
▲葉が根元に1枚だけつくことから名付けられたイチヨウラン。珍しい植物のようで、出合えて感激!

さて、小峰さんがふと立ち止まったのはシラビソの木。ニキビのようなポコっとした膨らみを「爪でつぶしてみて」と言われたのでやってみると…。
▲中から粘り気のある透明な液体が!

「これを鼻の下に塗ってみてください」という小峰さんの指示通りつけてみると、スッとするさわやかないい香り!天然アロマオイルです。
▲芳香の液体の正体は松脂(まつやに)。冬の寒さから守るために樹脂を貯めているのだとか。リラックス効果抜群!

「シラビソやオオシラビソなど、モミ属の若い樹皮にはこのようなヤニ袋(脂袋)があるんですよ」と小峰さん。木が生えている場所や環境、季節によって香りは少しずつ異なるそうで、メンソールや柑橘系の香りがするものもあるそうです。森が放つあの独特の香りはこれだったのか!と納得。鼻の下に付けたことで歩きながらリフレッシュでき、さらにトレッキングが楽しくなります。
▲「あー、いい香り!」という小峰さんの声が聞こえてきそう

ちなみに、小峰さんによると、お酒が好きならシラビソの松脂をウォッカに入れる「ウォッカシラビソ割り」がおすすめだとか。これも気になる!
▲ところどころに設置された、熊よけの鈴を鳴らしながら歩きます
▲時折、一列に穴の空いたササの葉を見つけますが、これはまだ葉が開く前、新芽が巻いている状態の時に蛾の幼虫に食べられた跡だそう
▲途中から道は木道に

乗鞍高原を代表する絶景が広がる牛留池

植物を観察しながらゆっくり歩いて約30分で到着したのが「牛留池(うしどめいけ)」。その先には剣ヶ峰をはじめとする乗鞍岳の絶景が広がっていました。思わず感嘆の声を上げてしまうほどの美しさ!
▲乗鞍岳の噴火の際にできた溶岩台地のくぼ地に水が溜まってできた牛留池。オオシラビソの原生林に囲まれた幻想的な雰囲気が漂います

ルリイロトンボやモリアオガエルなどさまざまな生物の生息地でもあり、この日も無数のルリイロトンボが飛び交っていました。天気がよい日には乗鞍岳が水面に映る、有名な「逆さ乗鞍」も見られます。ちなみに小峰さんによると、池の名前はかつてこの一帯で放牧がされていた頃、この池に牛がたまったことに由来しているのだそう。
▲東屋があるので、ゆっくりと休憩をしながら絶景を楽しめます

それにしても、乗鞍高原の静かなこと!すぐ近くにある山岳リゾートの「上高地」は年間120万人が訪れるほど多くの人、人、人!なのに、乗鞍高原では代表的な名所の牛留池でもすれ違う人がわずか。以前に上高地でバスを2時間待ちした経験がある身としては感動的な静けさです。都会の喧騒を忘れ、北アルプスの清涼を味わうには最高の場所だと心から実感しました。
▲牛留池の湖畔には不思議な形に成長した「根曲がり松」も
▲自然環境を大切にしている乗鞍高原では、地元の人たちが、ところどころに携帯トイレ専用ブースを設置。排泄物は花を育てる肥料に変えられているそう

乗鞍三大名瀑のひとつ「善五郎の滝」へ

続いて目指したのは、乗鞍高原にある3つの名瀑のひとつ「善五郎の滝」。シラカバやダケカンバ、ブナやミズナラなどの森が広がる「ふたりの径」とよばれるトレイルを通って向かいます。
▲日向でも育つシラカバと日陰でも育つミズナラが生長している「ふたりの径」
▲他の樹木の枝の上に生育するヤドリギも見られました

人々の暮らしが近い乗鞍高原では、かつてミズナラの木が薪として伐採されていました。その伐採跡地にある「ふたりの径」には強い日差しが注ぐため、シラカバのような先駆樹種(パイオニアプランツ)が生えているそうです。
「『原生林の小径』が『クライマックスの森』とよばれるのに対し、こうした森は『パイオニアの森』とよばれているんですよ」と小峰さん。
▲伐採により、いくつも株を分けた細いミズナラが見られます
▲森の中でしきりに聞こえる鳥の鳴き声も心地がいい。途中、キツツキによる穴や鳥の巣穴なども発見
▲リスがどんぐりをため込んだと思われる場所も
▲龍の横顔のように見える面白い木の根

「ふたりの径」を30分ほど歩き、丸太でできた階段を下っていくと、豪快な水音が聞こえてきました。「善五郎の滝」です!標高1,525mにあり、落差21.5m、幅8mで、約4万3000年前頃、乗鞍岳の火山によってできたと言われています。
▲乗鞍岳の豊富な雪解け水を集めて流れ落ち、遊歩道の先まで行くと水しぶきが感じられて迫力満点!清涼感も抜群で汗ばんだ体に心地いい!
▲その昔、この滝で釣りをしていた木こりの善五郎が大きなイワナに引き込まれて滝壺に落ちたことから名付けられました

ちなみに、遊歩道の木の橋を挟んで滝の下流に見える川の淵は昔の滝つぼの跡だそうで、「落水の浸食によって滝は今でも後退を続けているんですよ」と小峰さん。その距離、50mはあるでしょうか。びっくり!
▲遊歩道にかけられた木の橋の下流に見られる昔の滝つぼ。ここから年々後退を続けているなんて!

なお、氷河期に北極圏から海づたいに日本にやってきた魚であるイワナは、氷河期の終わりの水温の上昇によって海に帰れなくなり、水温の低い山奥の渓流に閉じ込められたと言われています。「善五郎の滝」の上流にもそんなイワナが生息しているのだとか。この滝を登れる魚はいないので、つまりそのイワナたちは氷河期からの生き残りと言える在来種だそうです。そんなエピソードからも「善五郎の滝」の悠久の歴史を感じました。
▲神秘的な雰囲気の昔の滝つぼには何匹ものイワナが泳いでいました。小峰さんによると渓流釣りも楽しいのだそう!

季節を問わず人気のある滝ですが、厳冬期には迫力ある氷瀑となり、スノーシューツアーで見に来るのも楽しいのだとか。夏場は歩けない道を通れたり、雪上で熱々のアウトドアランチをいただけたりするそうです。それも面白そう!

清流を越えてさらに森の奥へ

さて、ここから川沿いを通り、さらに森を下っていきます。
▲足元に咲いていたベニバナイチヤクソウ。これを煎じた汁は脚気(かっけ)に効くと言われ、葉液は傷薬としても使われるとか
▲乗鞍岳噴火の溶岩によって形成された小山もところどころに見られます。冬はスキーで滑ると楽しいそう
▲清流にかかる「オルガン橋」を越えて、さらに森の奥へ
▲橋の下には美しい清流が

それにしても、トレッキングや登山は山頂を目指しがちですが、今回のように高原エリアを自分のペースでトレッキングするのもとても心地がいいものです。それに、乗鞍の自然に関する知識が豊富で遊び心あふれる小峰さんの軽妙なトークが本当に興味深くて楽しい!最近は山菜採りやキノコ採りにはまっているそうで、話を聞いているだけですぐにでも再訪したい気持ちになりました。
▲乗鞍高原では30年ほど前まで牛が放牧されており、その名残があちこちに見られます。こちらは牛が逃げないように設けられたクランク状の柵

牛用の柵を越えた木の橋でひと休みを。小峰さんが用意してくれたコーヒーとお菓子で休憩します。
▲苔むした石が広がる鬱蒼とした風景がフォトジェニック。空気も気持ちがいい
▲甘いコーヒーのおいしいこと!

ちなみに、乗鞍高原はかつて銀山として栄え、戦国時代から江戸時代には2,000人もの住民がいたそうですが、今は600人ほどが暮らしているのだとか。人口が減りながらも地元に根ざした人々と自然が共存しているところも乗鞍高原の魅力だと小峰さんは話します。

その後、しばらく歩いて車道に出たらトレッキングは終了。車のお迎えが来て、乗鞍BASEに戻って解散です。
▲トレッキング終了後、ストックを使って整理体操をします。小峰さんに比べて、ヘタクソなストック使いの私…

さて、ツアーの最後に小峰さんが興味深い実験を!乗鞍高原のあちこちに生えている紫色のウツボグサ。この花を、カラマツの葉を集めてアリヅカの巣をつくるエゾアカヤマアリの群れに入れてみると…。
▲もとはこの紫色

なんと、みるみるうちにきれいなピンク色に変わるのです。
▲異物が入ってきたとアリたちが花に群がり、酸を腹から噴射することでこのような鮮やかなピンク色になるのだとか

夏休みに家族で訪れたなら、子どもたちの自由研究の題材にもおすすめです!
なお、今回は半日のトレッキングツアーでしたが、「リトルピークス」では半日では行けないよりディープな場所を楽しめる1日ツアーもあるほか、夏は人気のシャワークライミングのプランも「ファミリーコース」と「沢登りコース」の2種類用意しています。
また、乗鞍高原には今回訪ねた「善五郎の滝」のほかにも「番所大滝」や「三本滝」といった個性的な滝や、湿原地帯と絶景が広がる「一の瀬園地」などの見所もあり、7~9月は乗鞍岳のご来光が拝めるご来光バスも運行します。9月下旬~10月上旬の紅葉も見事です。
▲せっかくなのでツアー後に足を延ばした「番所大滝」。近くの駐車場から歩いて5分ほどでたどり着けます

家族旅行の思い出はいつまでも心に残るもの。だからこそ、この夏の旅行先の候補に乗鞍高原を加えてみてはいかがでしょうか。
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

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