“からかみ”のキラキラ光る風合いに魅せられて。京都で手摺り体験

2018.09.01 更新

京都では茶道や着付けといった伝統文化の体験が人気。なかでも都人たちに長く愛されてきた奥ゆかしい美にふれることができるのが、版木を使った手摺(てず)りでつくられる「京からかみ(唐紙)」です。紙のうえにキラキラと浮かび上がる金銀の文様は、不思議なほどに華美さがなく静寂な美しさをたたえています。受け継がれてきた伝統の技を体験してみませんか。

▲小ぶりの木版で京からかみならではの手摺りの風合いを手軽に楽しめる

手摺りから生まれる伝統美を身近に

地下鉄烏丸(からすま)線・四条駅と、そこに交差する阪急京都線・烏丸駅は、京都の玄関口の一つ。そこから約5分のところにある「唐丸(からまる)」は、伝統的な京からかみの技をいまに受け継いでいます。京からかみの魅力を広めることを目的に、オリジナルのステーショナリーやインテリアをそろえ、体験工房も併設しています。
▲モダンなデザインがセレクトショップのような唐丸のエントランス

京からかみ(唐紙)とは、その名の通り中国の唐から奈良時代に伝わり、京の都で受け継がれてきた紙細工のこと。版木に彫った文様をキラ(雲母)や胡粉(ごふん)と呼ばれる絵具で紙に摺ります。

古くは手紙や詩歌を書く紙として珍重され、平安時代に京の都で京からかみがつくられるようになると、貴族の屋敷や寺院の襖・障子などの建具にも使われるようになりました。
▲京からかみを使ったランプシェードやステーショナリーなどが並ぶ店内

京からかみは、貴族から武家、茶人から庶民へと広がり、近年では和風建築の建具だけでなく、洋間の壁紙などにも使いたいという人も増えているとか。とくにランプシェードやデザインパネルなどは、手軽に和モダンのテイストを取り入れられると、大人の女性たちに人気です。
▲体験を指導してくれる職人の工藤裕史さん(左)と塩谷真さん(右)

体験工房ではプロの職人さんが指導してくれるほか、コースによっては実際の京からかみづくりの様子を見学することも可能です。制作体験では簡単なキットを使ってポストカードをつくる「KARAKAMI KIT体験コース」と、本物の版木で唐紙をつくる「からかみ小判摺りコース」があります。

キットを使ってポストカードをつくる

京からかみは版画の一種のようなもので、版木には朴の木(ホオノキ)に伝統文様を手彫りしたものを使います。その版木を初心者でも扱いやすいよう、はがきサイズのミニチュア版にしたのがオリジナルの「KARAKAMI KIT」。気軽に体験したいという人におすすめで、取り扱いが簡単なキットを使いつつ、実際と同じ原料・工程で手摺りが楽しめます。

コースの説明と、京からかみの解説映像を見たあと、スタッフの方がKITでデモンストレーションをしてくれました。それを見本にさっそく挑戦してみます!
▲版木には9種類の伝統文様が用意されている

9種類の版木と10種類以上の用紙が用意されているので、そこから版木と紙の組み合わせを選びます。60分の時間内に平均して6枚ぐらいはつくることができるとのこと。版木ごとに紙の色を変えてもよし、同じ版木で異なる色の紙を試してみてもよし。
▲版木の文様と組み合わせを考えながらポストカードの色を選ぶ
▲作業台にセッティングされているのは、版木を固定する台とゴールドとキラの絵具、筆、濡れタオル、中央の黄色い2つの正方形のものは版木に色をのせるパット

KARAKAMI KITでは扱いやすいゴールドとキラの絵具と、筆、パットを使います。
選んだ版木の版面に濡れタオルを当てて、絵具を乗せやすいように湿らせます。
▲文様と紙の色の組み合わせを見ながら、ゴールドかキラかを選ぶ

パットの表面に筆で絵具を乗せていきます。できるだけムラができないよう、全面に塗る作業を4~5回繰り返します。最初はどれだけ塗れば十分なのかよくわからず…。スタッフの方に見ていただきながら絵具の量を調整。
▲最初の版木に選んだのは「牡丹唐草」。薄青色の紙に、絵具はゴールドで

パットに塗った絵具を、版面に付けていきます。ハンコを押すようにポンポンと軽いタッチで絵具を付けるのがコツ。軽く…とは言いつつも、手元が雑にならないように。文様は浮彫になっているので、ちょっと気を抜くと文様の谷の部分にあたる下地面に余計な絵具が付いてしまうから要注意です。
まんべんなく絵具が塗れたら、版面に紙を乗せます。斜めにならないよう注意して、まずは軽く版木の上に置きます。
紙の上から指先や手のひらで摺ります。一般的な版画のように、バレンなどの擦るための道具を使わないのが京からかみの特徴です。
「ずれないように!」と思うと、緊張していつのまにか指の先が白くなるほど押さえてしまっていました。我に返って深呼吸…。肩の力を抜いて、手の感触で版木の感触を確かめながら丁寧に摺っていきます。
全体を摺り終えたら、もう一度、絵具を足します。版木から紙がずれないように片手で押さえながら、もう一方でパットに絵具を足します。これがなかなか難しい!
中指から小指で紙を抑えつつ、親指などで半分だけ紙をめくります。版木が半分見えたら、そこに再び絵具をポンポンと置きます。紙がずれないよう、また紙にパットの絵具がつかないよう、慎重に。
片面に絵具を塗り終えたら、持ち上げていた紙を下ろして摺ります。次に残りの半分を摺るため、再度、紙を抑えたままパットに絵具をつけます。スタッフの方のデモンストレーションでは簡単そうに見えたけど、失敗しないように…と思うと緊張して押さえている指がつりそう…。
残りの半分に先ほどと同じ要領で絵具を付け、全体を摺れば完成です。
さあ、緊張の瞬間!ドキドキしながら紙をめくってみると…多少のブレはありますが、初めてにしては上出来!?
▲版木に付いた絵具は塗れタオルでふき取って次の人へ

一度やってみると、次こそもっと上手く!と、がぜんやる気が出てきました。
紙と版木を変えて、二枚目、三枚目に挑戦です。
▲指先の力の入れ具合も上手く摺るためのポイント

繰り返しているうちに、絵具の乗せ具合や摺り方、紙の押さえ方など、コツがつかめてきて、どんどん楽しくなってきます。
▲左手前から青い紙が「牡丹唐草」、緑の紙が「つぼつぼ」、柿色と藤色の紙が「鳳凰蝶唐草」など、時間内に合計6枚完成!

文様が複雑な牡丹唐草より、文様が少ないつぼつぼのほうが難しかったのは意外でした。つぼつぼは下地面が多いので、余計な絵具が付いてしまわないよう注意しなければならない分、緊張しました。仕上がったカードはちょっとしたお土産にもいいかも。

江戸時代の木版で小判摺り体験

お次は「小判摺り」のコースを体験。京からかみを制作する工房を見学でき、実際に職人さんが使う道具で摺りを体験します。版木は縦30m×横47cm。襖の上貼りなどに使う伝統的な和紙・鳥の子紙を使って、職人さんに手伝ってもらいながら3枚を製作します。

何と言っても驚くのが、古い版木を実際に使えること。なかには天保や文久といった江戸時代の年号が記されている貴重なものもあり、昔の職人さんの息づかいまで感じられそうです。
▲体験で使う版木には明治時代のものも多い

月替わりで3つの柄が用意され、ゴールドとキラの絵具、5色以上の紙を自由に組み合わせることができます。
▲工藤さんが手にしているのが、「篩(ふるい)」と呼ばれる道具

絵具を付ける道具は、篩と呼ばれ、料理などで粉をふるう篩によく似ています。丸くした木の枠に木綿の布が張ってあり、持ち手が付いています。
▲手前がキラ、奥がゴールドの絵具

篩に絵具を乗せるのは素人には難しいので、職人さんが用意してくれます。版木と絵具の色を選んで、版木に絵具を乗せていきます。
▲最初に選んだ版木は「葡萄(ぶどう)唐草」

版面に木綿の部分を当てて吸着させ、ゆっくり持ち上げると文様の部分だけに絵具が落ちます。ペタリ、ペタリと版木に木綿が吸い付いては離れる感触は、ちょっとクセになりそう。
版面に紙を乗せ、手のひらの感触を研ぎ澄ませて版面を確かめるように全体を摺り上げます。
全体を摺り終わったら、KITコースのときと同じく、片面ずつ再度絵具を乗せて二度摺りします。
やっぱりこの工程が一番緊張する!篩が大きいので紙に余計な絵具を付けてしまわないかハラハラしながらの作業です。
紙をそっと持ち上げたら完成。絵具が乾いてくると、文様がはっきり浮かび上がります。江戸時代の職人さんたちも、同じようにドキドキしながら出来栄えを確かめたのかと思うと、ちょっと感動…。
▲「遠州輪違(えんしゅうわちがい)」。文様の中心にある花びらの部分は、別名・花クルスとも呼ばれ、十字に見えることから隠れキリシタンが襖紙に用いたとか

出来上がった作品は持ち帰ることができ、別途オプションでミニ屏風やインテリアパネルなどに加工してもらうこともできます。
▲奥は小判摺りのインテリアパネル(税込9,720円)。ポストカードも額(アクリルフレーム税込1,404円)に入れて飾ると素敵

職人の技を間近に見学

▲壁紙に用いられる大判の京からかみを製作中の塩谷さん

こちらでは、小判摺り体験の合間にプロの工房を見学することができます。約2mもの長さがある紙を一気に摺り上げていく様子は息をのむような緊張感!
版木は左右に文様がつながるように彫られていて、継ぎ目がずれないように摺っていく様子は、まさに職人技です。
▲分様は左から「遠州輪違」「葡萄唐草」「氷梅(こおりうめ)」

見学の間に、乾かしていた作品も完成。持ち帰ってお気に入りの本のカバーにしました。

ウォールアートや御朱印帖も

ショップに並ぶ商品もバリエーションが豊富で、身近に置いて使えるものがたくさん並んでいました。
▲「KARAKAMI KIT」(右)は版木が1枚選べて23,760円(税込)
▲花入れと一体になったウォールアート。左は19,656円、右は23,112円(ともに税込)
▲京からかみが表紙になった御朱印帖3,132円(税込)
なかでも人気なのが、古典文様のスタンプ。さまざまな願掛けに使われてきた文様をカテゴリ分けした商品は、「叶文(かなえもん)」と呼ばれ、機械彫りなので値段も1つ1,350円(税込)と手ごろです。

体験した人は、これらの商品をすべて10%OFFで購入できます。

京都を散策していると、お寺や神社などの建具で見かけることの多い唐紙。その上品に輝く魅力が今も手仕事から生まれていることを知り、職人の技を身近に体験したことで、京の美意識の奥深さに少しだけ近づけたような気がしました。

唐紙にゴールドやキラで描かれた文様は蝋燭の灯りで見るとまたひと味違います。いにしえの人々に倣って、暮らしのなかで伝統工芸の美を楽しんでみるのはいかがでしょう。
若林扶美子

若林扶美子

フリーのライター&プランナー。京都をはじめ関西を中心に、雑誌、書籍、PR誌の企画・執筆を手掛け、伝統文化や地域情報などを発信している。6匹の猫とともに滋賀在住。

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