肥薩線の観光列車を乗り継ぐ旅!/古谷あつみの鉄道旅Vol.30 

2018.08.28 更新

みなさん、こんにちは!古谷あつみです。日南線、指宿枕崎(いぶすきまくらざき)線と南九州を巡っている「古谷あつみの鉄道旅」。今回は、九州に来たら絶対に行っておきたい風光明媚な鉄道、肥薩(ひさつ)線の旅をお届けします。アドバイザーは土屋武之さん、カメラマンは米山真人さんです。

▲肥薩線の旅はD&S(デザイン&ストーリー)列車で

今回の見どころはここ!

1.D&S列車「はやとの風」で出発!
2.歴史ある嘉例川(かれいがわ)と大隅横川の駅舎
3.吉松で「しんぺい」に乗り継ぎ
4.スイッチバックの真幸駅

1.D&S列車「はやとの風」で出発!

古谷「指宿枕崎線の旅もここ、鹿児島中央駅からの出発でしたね。」
土屋「でも、今回はひと味違う旅になるよ。」
古谷「ひと味違う旅…?肥薩線ですよね?」
土屋「まぁ、行けばわかるさ。出発だ!」
▲旅のはじまりは鹿児島中央駅

肥薩線は、熊本県八代(やつしろ)市の八代駅と鹿児島県霧島市の隼人(はやと)駅を結ぶ路線です。
肥薩線のうち八代~吉松間には、吉松~都城間の吉都(きっと)線と合わせて、「えびの高原線」という愛称もついています。

まずは、鹿児島中央~吉松間を走る、JR九州自慢のD&S列車、特急「はやとの風」に乗り込みます。
▲真っ黒な「はやとの風」

これが「はやとの風」です!黒く光るボディが、なんとも勇ましいですね。風貌からも、旅への期待が高まります!

古谷「しかし、今日は雲行きが怪しいですね。」
土屋「天気予報では、大雨だからね。」
古谷「たぶん大丈夫です。私、晴れ女なので…」
土屋「本当かなあ?」
▲2人掛けのシートが並ぶ

座席はほとんどが指定席。ゆったりとした造りのシートは座り心地が良く、とてもくつろげます。
▲車窓が楽しめる展望スペース

こちらは、車内の展望スペース。まずはフリースペースで大人気の、この席に座ってみました。
埋まっていることも多いので、座れたらとてもラッキー!混み合っている場合は、譲り合って使いましょう。
▲眺望を考えて設計された車内。展望スペースは各車両にある

広々とした窓は、この列車のセールスポイント。明るい雰囲気の車内からは、ダイナミックな車窓風景が楽しめるのです。
▲最初のビューポイントは桜島

「はやとの風」は、鹿児島中央駅を出発すると、隼人までは日豊(にっぽう)本線を進みます。

最初に見えるビューポイントは、鹿児島の象徴、桜島です!
錦江湾(きんこうわん)の海岸線に沿って走る区間で、大きな姿が車窓いっぱいに広がります。

古谷「大迫力ですね!」
土屋「絵のような風景だね。」
古谷「こんなに迫力があるんですね。驚きました。」
▲晴れていれば桜島が間近に!

雨でも、雄大な桜島は眺めることができるのですが、今回は私が後日撮影した車窓の写真を公開しちゃいます!
どうですか?輝く水面に、桜島がこんなにも美しく映える、最高のビューポイントです。
▲車内に置かれた絵本

車内には、桜島について詳しく書かれた絵本がありました。

桜島は、かつてはその名の通り「島」でしたが、1914(大正3)年の噴火により、対岸の大隅半島と陸続きとなりました。今もなお頻繁に噴火を繰り返し、活発な活動を続けています。火山の存在を身近に感じたことのない私からすると、不思議に感じましたが、鹿児島の人々は桜島と共に生きているんですね。
まさに「鹿児島のシンボル」を名乗るのにふさわしい存在なのです。
▲私が撮影した桜島をもう1枚

桜島へは鹿児島市内から錦江湾を横断するフェリーで気軽に行くことができますが、離れた場所から見るのも本当にオススメです。まさに、列車だからこそ楽しめる絶景です。
▲アテンダントが車内販売に回る

桜島を見送ったあたりで、アテンダントさんが車内販売にやってきました。
▲「はやとの風」オリジナルグッズが充実

古谷「わぁ!可愛らしい、『はやとの風』車内限定グッズを販売しているんですね。どれにしようか迷っちゃいますね。」
土屋「ゆっくり選べばいいよ。車窓が見えにくいときは、列車そのものを楽しむという旅の仕方もある。」
▲芋焼酎で作った梅酒

古谷「じゃあ、さっそくということで、お酒を。」
土屋「まだお昼にもなっていないぞ…。」
古谷「まぁまぁ、土屋さんも甘いものでも飲みましょうよ。」

無理矢理?理由をつけて、私が朝から飲んだのは「薩摩スパークリング(250ml・260円)」。
鹿児島県の焼酎メーカー・山元酒造の銘柄「芋焼酎造り五代梅酒」に炭酸を加えた、さわやかで濃厚な果実感のあるお酒です。デザート感覚で飲めるので、朝からでも飲めちゃいます(笑)
▲鹿児島特産のサツマイモを使ったお菓子「いもっコロ」(360円)

土屋さんは、朝のコーヒーに加え「いもっコロ」という鹿児島県産のさつまいもを使用したお菓子を注文していました。サクサクとしていて甘塩っぱい味が、お酒にもコーヒーにも合うお菓子です。

2.歴史ある嘉例川と大隅横川の駅舎

▲趣のある嘉例川駅に到着

車内販売の品を楽しんでいると、「はやとの風」は日豊本線からいよいよ肥薩線に入り、嘉例川駅までやってきました。
嘉例川駅はレトロな駅舎が見どころ。ここでは約8分の停車時間があるので、ゆっくり楽しみましょう!
▲110年以上の歴史がある駅舎。「はやとの風」停車中には内外を自由に見学できる

嘉例川駅舎は鹿児島県内最古のもので、国の登録有形文化財に登録されています。完成はなんと1903(明治36)年。隼人~大隅横川間が開業した時に建てられました。

本当にタイムスリップしたかのような雰囲気の駅で、たった8分間なのに、時間がとても長く感じます。
▲嘉例川駅には何匹かネコが住みついている

この駅には、「にゃん太郎」と呼ばれる、2015年11月頃から駅に居着き、2016年5月に嘉例川観光大使に任命された有名な駅猫がいます。しかしどこへ行ってしまったのか、取材日は残念ながら会えませんでした。

がっかりしていると、そこに「にゃん太郎」ではない、別のネコが私たちを出迎えにやって来てくれました!ラッキーです。ニャンとも、フォトジェニックなネコですね。
▲霧島温泉郷の玄関口

嘉例川の次は霧島温泉駅に停車。県内有数の温泉街の名を冠した駅です。温泉街へ行くには、この駅でバスに乗り継ぎです。
▲霧島茶をはじめ特産品の販売がある

ここでは、地元の方が「はやとの風」の停車時刻に合わせて、ホームで地元産のしいたけやお菓子、お土産の販売をしています。
▲霧島茶の振る舞いもある

私たちに振舞ってくださっているのは、霧島産の霧島茶。とっても温かい心遣いで、嬉しくなりました。霧島茶は清々しい香りと、まろやかな味わいが特徴です。
▲お見送りを受けて霧島温泉駅を発車

ほっこりとした気分で、列車に乗り込みます。みなさん、手を振って見送ってくださいます。次回は、霧島温泉街まで足を延ばしたくなりました!
▲大隅横川も嘉例川に負けず劣らず歴史のある駅

そして霧島温泉駅の次は、ここもまた味わい深い大隅横川駅に停車します。車内から見ても、ひと目でとても大きい駅舎であることがわかります。

大隅横川駅舎は、嘉例川とまったく同じ時に建てられた県内最古のもの。こちらも、国の登録有形文化財に登録されています。その歴史はホームにも残されていました。
▲戦争中に機銃掃射を受けた跡

第二次世界大戦中に機銃掃射で撃ち抜かれた痕跡が、柱に残っているのです。弾は、この柱と屋根を貫通しました。美しいものばかりではなく、生々しい歴史もしっかりと刻まれています。
▲この駅も「はやとの風」停車中には自由に見学できる

駅舎は外側から見るとさらに大きく、存在感があります。天井も高く豪華な造りで、ノスタルジックな佇まいに魅了されます。今度は夜に来てみたいです。昼とは雰囲気が変わりそうですね。

古谷「『はやとの風』は、木造駅舎とも相性が良いデザインなのですね。」
土屋「そうだね。車体が黒いから、SLに似た雰囲気が出ているのかもしれない。」
▲「はやとの風」は終点・吉松へラストスパート

大隅横川から先、列車は次第に山間部へ進みます。
▲運転台越しに見える景色も美しい

目の前に見えるのは、緑のなかに切り開かれた、1本の線路だけです。どんな場所に繋がっているのかワクワクしますね。

3.吉松で「しんぺい」に乗り継ぎ

▲「はやとの風」の終点は鉄道の要衝、吉松

「はやとの風」は、鹿児島中央から1時間45分ほどで終点の吉松駅に到着しました。

吉松は、肥薩線と吉都線の分岐駅でもある大きな駅です。賑わっていた頃の名残が、あちこちに残されています。
▲吉松駅ホームにある貴重な売店

例えば、現在は列車の運行に合わせてしか営業しないという、ホームの売店もノスタルジックな雰囲気。昔の営業時間表記がそのまま残っていました。1日中、長距離列車が発着していた駅だったのですね。
▲駅前で保存されているC55形蒸気機関車

この駅では、駅前に出てみることをおすすめします。駅前広場には、きちんと整備されたC55形蒸気機関車の52号機が静態保存されています。かつて、肥薩線で活躍した機関車です。
▲鉄道の町らしく資料館も駅に隣接してある

旧吉松町と鉄道の関わりなどを紹介する鉄道資料館などもあり、ゆっくり見て回るのも面白いですよ。
▲人吉行きのD&S列車「しんぺい」(左)が吉松駅に入線

さて、肥薩線の旅はまだ続きます。そう、今回は「D&S列車を乗り継ぐ旅」なのです。次に乗る列車が入線してきました!
▲「いさぶろう・しんぺい」のマーク

じゃじゃーーーん!
次に乗るのは「しんぺい」です。これは人吉と吉松を結ぶD&S列車。下り吉松行きが「いさぶろう」、上り人吉行きが「しんぺい」と、肥薩線の建設に貢献した明治時代の人物(山縣伊三郎と後藤新平)にちなんだ名前が名付けられています。

人吉~吉松間で展開される、「日本三大車窓」とも呼ばれる霧島連山などを望む車窓を、大きな窓から楽しめるのが特徴です。
▲インテリアもシックな感じ

「はやとの風」とは車内の雰囲気が少し違います。あちらには、明るい色の木が使われていますが、「いさぶろう・しんぺい」にはシックな色の木が使用されているんです。
▲4人掛けボックスシートが中心

「いさぶろう・しんぺい」は普通列車。ボックスシートが中心ですが、やはり、ほとんどの座席が指定席になっています。

古谷「『はやとの風』も良かったですが、『いさぶろう・しんぺい』は、また趣が違いますね。D&S列車の乗り継ぎなんて、贅沢すぎます。」
土屋「上り下りとも『はやとの風』と『いさぶろう・しんぺい』が接続するダイヤになっているから、乗り継ぐ人も多いんだ。ぜひ、両方味わって欲しいね。ここから先は、熊本県に向かって走るよ。」
古谷「今回は雨のせいか、とっても静かな旅ですが、それがまたいい雰囲気です。」
▲発車するとすぐ、急な峠道に挑む

吉松駅を出発すると、「しんぺい」はさらに険しい山間部へと入っていきます。

土屋「鹿児島県から熊本県に向かって走っていることになるけれど、次の真幸(まさき)駅は肥薩線で唯一、宮崎県にある駅なんだ。」
古谷「え?ということは、この山の中で2回、県境をまたぐということですか。乗っているだけで、3県制覇できるんですね。」

4.スイッチバックの真幸駅

土屋「以前、熊本県側から肥薩線を矢岳駅まで旅したことがあったよね?」
古谷「もちろん覚えています。大畑駅のループ線とスイッチバックが思い出深いです。」
土屋「真幸は、肥薩線にあるもう一つのスイッチバック駅なんだ。」
▲スイッチバック式の真幸駅に到着

真幸駅までやってきました。人吉行き「しんぺい」は、まずそのまままっすぐ駅へ入ります。 

真幸は「真の幸せに入る」に通じるとして、入場券などが人気の駅です。
▲この駅舎も100年以上前のもの

こちらも歴史のある駅舎で、開業当時の1911(明治44)年から使われている駅舎です。
▲記念スタンプも設置

古谷「幸せになれそうなんで、駅スタンプは、しっかり押しておきます。」
土屋「いいなぁ。地元の方が管理しているんだね。縁起の良い駅スタンプを押せたね。幸福の鐘もしっかりと鳴らさないといけないよ。」
▲ホームにある「幸福の鐘」

真幸駅のホームには、列車や乗客の安全と幸福を祈り、乗務員や保線員が鳴らしたといわれている「幸福の鐘」があります。自分が幸せと感じている度合いに応じて鳴らすのが良いとされているそうです。私は、とりあえずたくさん(笑)鳴らしておきました。
▲ジグザグの線路を進む

出発時刻が来ると、古谷あつみの鉄道旅でも、お馴染みとなってきた「スイッチバック」が始まります。

まず、真幸に到着した時とは反対方向へ出発。
▲スイッチバックでは、折り返すたびに運転士が前後へ移動

スイッチバックでは、車両の前後が入れ替わるたびに運転士さんが行ったり来たりする光景は、やっぱりワクワクしますね。
▲この日は雨で車窓も冴えなかった…

もう一度折り返して、列車は山を登っていきます。気付けば、かなり高いところまでやってきました。
▲本当ならこの先には…

雨なので、とってもわかりにくいですが、ここからの眺めが「日本三大車窓」と呼ばれています。
「日本三大車窓」は、根室本線の狩勝峠(かりかちとうげ)越え、篠ノ井線の姨捨(おばすて)駅からの展望、そしてここ、肥薩線の矢岳越えといわれています。
▲「日本一の車窓」の案内版

晴れていると、霧島連山や桜島がバッチリ見えるスポットです。「いさぶろう・しんぺい」はここで一度停車するので、ゆっくりと眺めることができます。
▲真幸駅の入場券。吉松駅や人吉駅でも買える

古谷「ちょっと残念ですね。でも、スイッチバックやループ線は、雨の時でも変わりなく楽しめますし、こんなに高いところまで来たことに感動します。それに…ほら!じゃじゃーん!」
土屋「入場券かい?いつの間に…。」
古谷「さっき、真幸駅で買いました。駅を管理する地元の方がいる時は購入できるんです。財布に入れると良いらしいですよ。勝手に私がそう決めましたが。」
土屋「…。」
▲「はやとの風」と「いさぶろう・しんぺい」の記念乗車証

古谷「そうでした!他にも、私が集めているものがありまして…。」
土屋「記念乗車証かい?」
古谷「そうなんですよ。JR九州は、各列車ごとに記念乗車証をつくっているそうで、『海幸山幸』『指宿のたまて箱』のものを合わせると、今、手元に4枚も記念乗車証が集まりましたよ。」
土屋「これはいいね。全部欲しくなる。」
古谷「それに、裏側には各列車の記念スタンプが押せるようになってるんです!」
▲懐かしい矢岳に到着

記念スタンプを押し終えたところで、間もなく矢岳駅に到着です。
以前、熊本県内の肥薩線を旅した時にここまで来ましたから、これで肥薩線も完乗です!

前回の旅では夕方に矢岳駅を訪れましたが、明るいうちに来たのは初めてです。雨なので、以前と雰囲気がまるで違います。
▲列車はさらに人吉へ向かうが、今回の旅は矢岳でひと区切り

土屋「どうだった?今回の旅は。」
古谷「そうですね、雨で残念だった気持ちもありますが、『D&S列車を乗り継ぐこと』そのものに、楽しさを感じました。同じ水戸岡鋭治さんのデザインの列車ですが、それぞれに特徴や違いがあり、比べるのも楽しかったです。」
土屋「そうだね。『乗り比べ』という感じかな?」
古谷「そうですね、それぞれの沿線の良さを引き立たせるために、色々な工夫がされていて面白かったです。また、それに加えてこの静かな雰囲気もまた良かったですね。」

みなさんもぜひ、D&S列車の『乗り比べ』をしてみてはいかがでしょうか?
※記事内の価格表記は全て税込です。

土屋武之

鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道員になるには」(ぺりかん社)、「誰かに話したくなる大人の鉄道雑学」(SBクリエイティブ)、「新きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「ツウになる!鉄道の教本」(秀和システム)など。

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道旅行雑誌「旅と鉄道」等で執筆活動中。

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