リニューアルした「MOA美術館」で、日本美術と建築美を味わう

2018.10.01 更新

静岡県・熱海市にある「MOA(エムオーエー)美術館」は、日本美術を中心に美術品を所蔵し、日本文化の情報発信を行っています。1982(昭和57)年の開館から36年を経て、ロビーエリアと展示スペース、カフェやレストランを一新し、2017年2月にリニューアルオープン。日本の伝統的な素材を用いて現代的に生まれ変わった空間を、堪能してきました。

熱海の高台にある美術館

MOA美術館へは、JR熱海駅で電車を降り、バスターミナル8番乗り場よりMOA美術館行きに乗車し、約7分です。

美術館の入り口は、観光バスや路線バスで向かう人向けと、自家用車の人向けの2カ所があります。
自家用車でアクセスすると3階入り口が最寄り。駐車場に車を停めた先に見えるのは、ロビー棟の3階部分。こちらでチケットを購入します。
チケット売り場のすぐ先にある階段を降り、2階にあるメインエントランスへと向かいます。
▲階段の向こうに海が見える

熱海の高台に海を見下ろすように立つMOA美術館が開館したのは、1982(昭和57)年のこと。
外壁や階段には、割肌仕上げのインド産砂岩を使用し、格調の高さを考慮。この砂岩は、現在では輸入禁止になっている貴重なものです。

地下から長いエスカレーターに乗って美術館へ

一方、バスを利用してアクセスすると「エスカレーター入り口」が最寄りとなります。高台に建つMOA美術館の本館への長いエスカレーター通路を登ります。
総延長約200mもある長いエスカレーターに乗って、本館1階を目指します。刻一刻と照明の色が変わり、まるでSF映画の中に飛び込んだような感覚に陥ります。
7基ものエスカレーターを乗り継いだ先にある天井に、カラフルな光が見えました。ついに本館に着いたのかと思いきや、ここは地下1階にある「円形ホール」。
見上げると、ドーム型の天井に、美しい色とりどりの模様が映し出されていました。映し出されているのは、今まさに回転している万華鏡の中に見える光景。プロジェクションマッピングではなく、ライブカメラを通じて投影しています。万華鏡は、2度と同じ模様ができないもの。今ここで見ている景色は、一期一会なのです。

この万華鏡は、世界的な万華鏡作家、依田滿(みつる)・百合子夫妻の作品。夫妻は、世界最大の万華鏡フェスティバル「ブリュースター・カレイドスコープ・ソサイエティ」において、日本人で初めて2年連続でグランプリを獲得しています。作曲家でピアニストの中村由利子氏がこの万華鏡のために作曲した音楽が流れており、万華鏡が生み出す美しさを引き立てます。
円形ホールには、中2階に位置する「ムア スクエア」から、エスカレーターを利用して行くことができますよ。ムア スクエアには、20世紀を代表するイギリスの彫刻家ヘンリー・ムアの「王と王妃」という彫刻作品が展示されています。

ちなみに、MOA美術館の館内へは1~3階の各階から入ることができますが、筆者的には、2017年にリニューアルしたロビーエリアに最も近い、2階のメインエントランスから入ることをおすすめします!

高さ4mの自動ドアから館内へ

今回のリニューアルの基本設計とデザインを手がけたのは、世界を舞台に活躍する現代美術家・杉本博司氏と建築家・榊田倫之(さかきだとしゆき)氏による設計事務所「新素材研究所」。ロビーエリアと展示空間が、日本の伝統的な素材を用いて作られた現代的な空間に生まれ変わりました。
▲2階のメインエントランスは大きな自動ドアが目印

高さ4mもある大きな自動ドアが目印のメインエントランス。1枚目の自動ドアを抜けると…
2枚目の自動ドアがありました。同じく高さ4mの大きな扉をよく見ると、表面に凹凸があり、濡れたように輝きます。手でそっと触れると、しっとりとした質感。実はこの扉、漆を塗って仕上げてあるのです。


2枚目の自動ドアは、杉本氏のコンセプト提案を元に、重要無形文化財「蒔絵」保持者(人間国宝)に認定されている室瀬和美氏に制作を依頼したもの。ステンレスの板の上に麻の布を貼り、さらにその上から漆を塗って作られているそう。
入り口から見ると真っ黒なドアですが、館内へ入ってすぐに振り返ると、右のドアが朱、左のドアが黒い漆で塗られていました。黒漆で下塗りし、朱漆塗を施す“根来塗(ねごろぬ)り”の中でも、桃山時代に流行した「片身替(かたみがわ)り」という意匠をコンセプトにしたものです。
よく見ると、朱色の扉の右下には、室瀬氏の名前“和美”が刻まれていました。左の黒い扉には、杉本氏の名字“杉本”の二文字が刻まれていました。
漆の扉の先に目を向けると、メインロビーが広がっていました。正面には、幅32mものガラス窓が広がり、伊豆山と相模灘が見え、天気が良ければ、遠くに浮かぶ伊豆大島を眺めることもできます。
ロビーに置かれたベンチの脚も個性的。この脚は、カメラのレンズに使われるガラスでできているそう。写真家でもある杉本氏だからこそのアイデアで、目立たない足元まで美しく整えられています。

ロビーに見とれていると、2階には「能楽堂」「黄金の茶室」というこれまた美しい空間があると聞き、早速向かってみることに。
MOA美術館は、全国に数ヶ所しかない能楽堂がある美術館。優れた伝統芸能を紹介する目的で設置しているのだそう。こちらでは、定期的に演能会を開催しています。
▲能楽堂

屋根は檜皮葺(ひわだぶき)の入母屋造(いりもやつくり)。舞台は総檜造り。舞台後方の大きな松が描かれた板は鏡板(かがみいた)と呼ばれ、日本画家・松野秀世氏によって描かれています。
正面から見て左の目付柱と右のワキ柱は脱着が可能。そのため、音楽会や美術講座の講演会など、能に限らず、多目的に活用することができるのだそう。

秀吉の「黄金の茶室」をリアルに復元

能楽堂の正面には「黄金の茶室」があります。
1586(天正14)年1月16日、豊臣秀吉は、京都御所の中に組み立て式の黄金の茶室を持ち込み、時の天皇である正親町(おおぎまち)天皇に茶を献じたと伝えられています。その茶室を、現存する当時の資料を元に復元。数奇屋建築の大家である堀口捨己(ほりぐちすてみ)博士が監修しました。豪華絢爛さと閑寂さという対照的な様子を表現する桃山時代の高い美意識が感じられ、ため息が漏れます。
▲茶道具もほとんど全部が金!

京都にある千利休が営んだ茶室を再建した「不審庵(ふしんあん)」。黄金の茶室にある茶道具は、その不審庵にある黒塗台子(だいす)と唐金(からかね)道具を参考に復元したものです。

この道具のために、約50kgもの純金が使われているのだとか!映画やドラマで秀吉役を演じる俳優の多くが、役作りのため見学に訪れるそうですよ。

漆黒の展示室で国宝を愛でる

それではいよいよ展示室へ。能楽堂や黄金の茶室からメインロビーを経て向かいます。
展示室の入り口には、奈良にある東大寺の瓦も焼いているという現役の職人による瓦が四半敷に敷かれています。四半敷とは、瓦敷きや石敷きで、目地が縁に対し45度になるよう斜めに敷いたもの。また、展示室へと続く扉は、木曽檜で作られています。
低い温度で焼かれた瓦は、いい色味のものだけを選んで敷き詰めたそう。一枚ごとの色合いも、全体の調和も美しいです。
展示室は1から6まであり、2階では1から3までを見ることができます。
「美術品が見やすいな」と思っていたら、この展示場所にはガラスがはめ込まれていませんでした。肉眼で直接作品を眺められるとは、なんとも贅沢ですね!
この展示場所の端に渡されている横木は屋久杉、見切りには、奈良時代に建てられた古刹・當麻寺(たいまでら)の古材が使われています。
▲2018年7~8月の展覧会「吉田博木版画展」の展示作品の1つ「エル・キャピタン」

さらに先に進んで行くと、こちらの展示もクリアで見やすい!
同じようにガラスがないのかと思いきや、こちらは、アメリカ製の低反射高透過ガラスを使用しているのだそう。まるでガラスがないと感じるほど、クリアに、スッキリと美術品を見ることができるのです。

取材時には、明治から昭和にかけて、水彩画、油彩画、本版画の分野で活躍した吉田博の展覧会が行われていました。「エル・キャピタン」は、1925(大正14)年の木版画。大自然の美しい色彩がダイレクトに目に飛び込んできて、見応えがありました。

順路に沿って展示室2へ向かうと、真っ黒な箱に、ぽっかりと穴が空いている異質な空間がありました。
▲黒漆喰壁の小部屋へ

この部屋は、野々村仁清(にんせい)作の国宝「色絵藤花文茶壺(いろえふじはなもんちゃつぼ)」を常設展示するために作られた特別な場所。江戸黒と呼ばれる、深みがある艶やかな黒漆喰が使われています。
「色絵藤花文茶壺」は、低反射高透過ガラスで作られた四角いケースの中に収められており、360度どの角度からも美術品を眺めることができます。葉の一枚一枚が丁寧に描かれており、葉脈や色の濃淡までしっかりと見ることができます。また、最も美しく見えるよう考え尽くした照明がやさしく照らし出し、壺がまるで月に照らされているかのように風流でした。
2階の展示室から、1階へ。1階には展示室4から6があります。
1階へと続く階段に取り付けられたノンスリップは、金工作家に制作を依頼。古色仕上げの真鍮が、鈍く光ります。
階段の窓には和紙が貼られ、穏やかな光を導き入れます。縦方向に組まれた桟は、木曽檜の角材を45度ひねって並べたもの。目立たぬ場所にも美しさを追求する姿勢に、頭が下がります。
▲仏像が置かれている台は、およそ1000年前の屋久杉を使用

展示室4には、重要文化財「阿弥陀如来及両脇侍坐像(あみだにょらいおよびりょうわきじざぞう)が常設展示されています。

阿弥陀如来及両脇侍坐像は、12世紀の平安時代後期の作品。中央に阿弥陀如来、その左脇侍は蓮台を捧げ持つ観音菩薩蔵、右脇侍は合掌する勢至(せいし)菩薩像がいらっしゃいます。阿弥陀如来の後ろにある装飾は光背(こうはい)と呼ばれ、仏像が発する光明を視覚的に表現したもの。光背には、歌い舞う音声(おんじょう)菩薩が掘り出され、極楽浄土の様子を表しています。
▲一番手前の作品は重要文化財に指定されている「阿弥陀三尊像」

展示室4には、仏教美術作品が多く展示されています。この日は、高麗時代(13~14世紀)に朝鮮で描かれた作品「阿弥陀三尊像」が。阿弥陀如来の衣や、観音・勢至の両菩薩の天衣(てんえ)を見事な手法で描いており、質感が伝わってきます。

国宝3点、重要文化財66点を含む約3,500点もの収蔵品を誇るMOA美術館。展覧会の会期に合わせて展示作品が変わり、数多くの作品を鑑賞できるのも魅力です。
展示されている美術品の中に、漆塗りのドアを手がけた室瀬和美氏の作品の1つ、蒔絵螺鈿(まきえらでん)ハープ「西遊(さいゆう)」がありました。MOA美術館での定期演奏会で、このハープの音色を実際に聞ける機会もあるそうですよ。
展示室の最後は「創立者の部屋」。MOA美術館の創立者である岡田茂吉氏は、終生変わることなく、美術愛好家として日本美術の動向に注目。芸術家の活躍に深い関心を払い続けていました。ここには、岡田茂吉氏自身の作品のほか、創立者の遺志を継承し日本工芸の優れた作家に贈られる「MOA岡田茂吉賞」を受賞した作家の作品が展示されています。
▲岡田茂吉氏の筆による書などが展示されている
▲岡田茂吉賞受賞作家の作品が並ぶ

MOA美術館の“MOA”は、Mokichi Okada Associationの頭文字をとったものだそう。
現在、MOA岡田茂吉賞の受賞者は69名におよび、特に工芸部門大賞を受賞した作家からは22名が重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されています(2018年8月現在)。日本の美術界において、重要な芸術賞と位置付けられているのがよくわかります。
なお、創立者の部屋を出ると、ミュージアムショップがあります。新素材研究所がデザインしたテーブルや家具の上には、人間国宝などの工芸作家の限定商品が並びます。ぜひチェックしてみてくださいね!

カフェ・レストランも見逃せない!

2階のメインロビーから階下を見下ろすと、白いテーブル&チェアが見えました。一体あそこは何だろう?と思っていたら、リニューアルオープンと同時に誕生した「the café」(営業時間9:30~16:30、L.O.16:00)とのこと。
こちらでは、世界で流通するコーヒー豆のうち、わずか0.5%しか流通していない有機JAS認定豆を使ったスペシャルティコーヒー(税込300円~)を味わえます。
カフェのカウンターに使われているのは、小田原城の築城や補修、江戸城の石垣などに使われていた小松石。MOA美術館のある熱海からほど近い神奈川県真鶴産のものを使用しているそう。
目の前に海が広がり、2階のメインロビーとはまた違った風景が楽しめます。美術鑑賞で火照った頭と心のクールダウンに、ぜひ立ち寄りたい場所です。

同じフロアには、レストランもありました!
the caféのカウンター側にある出入り口の正面には「カフェ・レストラン オー・ミラドー」(営業時間10:00~16:00、L.O.15:30)が。
こちらを手がけるのは、箱根にある日本初のオーベルジュ「オー・ミラドー」のオーナーシェフである勝又登氏。ヨーロッパで修行した後、1973 (昭和48)年に東京・西麻布に「ビストロ・ド・ラ・シテ」を開店し、ビストロブームを巻き起こしました。以来、40年以上にわたり日本のフランス料理界を牽引し続けています。
入り口に近いスペースは、カフェスタイル。オー・ミラドースペシャルドリンク「自家製梅のサワー」(税込500円)をはじめとするドリンクや、デザートを味わうことができます。
窓辺のスペースはレストランスペースになっています。静岡県大仁(おおひと)町にある「MOA自然農法ファーム」の食材を使った、体にやさしく健康的な料理を提供。本物の美術作品とともに、本物のビストロの味を堪能できます。

緑豊かな「茶の庭」へ

▲神奈川県大磯町の三井家別邸にあったという唐門

美術館の敷地内には「茶の庭」と名付けられた日本庭園があります。オー・ミラドーのすぐそばにある扉から外へ出て1~2分歩くと、左手に小さな唐門が見えました。ここが茶の庭への入り口。風情ある石段を上り、門をくぐります。

創立者である岡田茂吉氏は、人間と自然が創り出すものの調和が大切だと考えていました。美術館の創立にあたり、絵画だけでなく、自然や食事、お茶を楽しめる場所にしたいと考え、その1つとして茶の庭が作られました。植栽が美しい庭では、四季折々の風情を楽しむことができます。
見上げると、もみじの葉。紅葉の季節には、色づいた美しい景色を眺めることができます。2017年11月後半には、試験的に3日間、ライトアップを実施。2018年にも予定しているそうですよ(日時は順次ホームページ等で発表)。
茶の庭には「光琳屋敷」があります。これは、江戸時代を代表する画家・尾形光琳が1712(元禄14)年に京都に新築した屋敷を復元したもの。
光琳が自ら描いた現存する図面と大工が描いた「仕様帖茶室起し図」を元に、黄金の茶室を監修した堀口捨己博士が監修して復元しました。
ちなみに、光琳屋敷の室内では、着付け体験、茶の湯体験、いけばな体験といった3つの日本文化の体験が可能(要予約、有料)。外国人旅行者にも人気があるそうです。
茶の庭には、創立者岡田茂吉氏の生誕百年を記念して建てられた茶室があります。百の文字を“一”と“白”の2文字に分けて、「一白庵」と命名されました。
設計は、茶道研究家の江守奈比古(なひこ)氏。書院造りの大広間、7畳の広間、3畳の小間、立礼(りゅうれい)席の4部屋があります。
▲書院造りの大広間。床の間には江戸時代の絵師・渡辺始興筆の「瀑布図」が
▲こちらは「細川三斎(忠興)書状」。掛け軸は、季節に合わせて変わる
▲立礼席の椅子やテーブルは黒漆塗

立礼席とは、椅子に腰掛けて行う茶道の点前の形式のこと。一白庵では、大広間などの畳の間へ上がることはできませんが、立礼席でお茶をいただくことができます(営業時間10:00~16:00)。
▲立礼席から外を眺める。緑が美しい
▲「和菓子と抹茶セット 竹(数量限定)」(税込700円)

抹茶は、京都産と掛川産の自然農法のものをブレンドしたもの。まろやかで甘みがあり、すうっと喉を通っていきます。和菓子「竹風」は、熱海市の和菓子屋「わかなや」が提供する年間通じて味わうことができる定番です。自然農法で育てられた小麦粉と小豆、ミネラルシュガーを使って作られており、穏やかな甘さと小麦粉の香ばしさが後を引きます。
MOA美術館を一巡した後、感想を話しながら頂く抹茶は、この旅のエンディングにピッタリでした。
古いものが新しいものとなり、時空を超えて日本美術の素晴らしさを教えてくれるMOA美術館。今までにない美術鑑賞の空間では、日本美術の新たな見方を体感できるはず。庭園は四季折々で表情が変わるので、何度でも訪れたくなる美術館です。
永井理恵子

永井理恵子

日大芸術学部写真学科卒のフリーライター。食いしん坊(飲んべえでもある)。東京の荒波に15年揉まれて気づいたのは、生まれ育った静岡県と御殿場市が思いのほか素敵な場所だったってこと!地元のいいところを発信すべく鋭意活動中。

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